ロクでなし講師と魔眼保持者 作:斎藤
グレンとシスティーナの決闘はシスティーナの圧勝に終わった。三節詠唱でしか発動できないグレンが一節詠唱のできるシスティーナに勝つのは無理があった。見ていた生徒たちは呆れてものを言えなかったし、ラヴァルは笑いながら戻っていった。システィーナはこれで次からまともな授業が行われると思っていた。
だが、現実は違った。
決闘後のグレンは脱力状態で教卓に突っ伏している。そのことでシスティーナは怒りに震えるがそれをルミアが抑える。
やはりこうなったかと、嬉しそうにしている者が1人いた。もちろんそれはラヴァルであり、その様子に気づく者はいない。
「あの…」
眼鏡をかけた生徒がグレンに話しかけるがそれに対して面倒くさそうに応対する。それに見兼ねてシスティーナが口を開く。
「やめときなさい。どうせこの人は魔術のような崇高な物を毛ほども理解してないわ」
「崇高ってなんだ?」
システィーナの言葉がグレンの琴線に触れたのか明確な反発をする。ここまでの反発は初めてのことであり、システィーナだけでなく他の生徒も戸惑う。
「崇高って言うけどさ、どこら辺が崇高なんだ?」
グレンはシスティーナを追い詰める。ラヴァルですらこの空気に困惑している。早く終わって欲しいと思いながら耳を傾ける。
「魔術って言うのは何の役に立つんだ?世の中の術って付くのは大体人の役に立つものだよな。例えば医術、人を病から助けるよな。他にも建築術、馬術、農耕技術…どれも人に何かしらの恩恵があるけど、魔術って使う本人しか恩恵が無いんと俺は思うんだが?」
正論だ。だれもがそう思えてくるくらい理にかなっている。魔術で役に立つのは医療魔術くらいである。
「まっ、魔術はそんな低次元の事では無いわ…世の真理を追い求める…」
グレンの正論を聞いた後だとなんとも薄っぺらい言葉であるか。理論が立っていないだけでなく、抽象的である。
「あー、悪い悪い。少し言い過ぎたな。魔術はちゃんと役に立つぜ」
システィーナのフォローをしたことに生徒は少し安堵する。だがその後にグレンの目を見て身構えることになる。その目は濁っていた。今までに地獄を搔い潜った者の目をしていた。
「人殺しにな」
重みのある言葉にクラスは震える。
「剣術で人を10人殺してる間に魔術は100人は殺せる。こんな単純で簡単な方法は無いぜ?だってこれは世界中でやってることだ。なんでこの国が魔術国家として未だに他国から滅ぼされないと思う?魔術の力、いわゆる軍事力があるからだよ」
だれ1人として自習をする人はいなくなった。グレンの放つ空気にに呑まれてしまったのだ。システィーナに至っては悔しそうに震えている。
「まったく、どうかしてるぜ…お前らがこんな物に熱中してるなんてよ。これなら別の事に……」
パンッ
システィーナの平手がグレンの頰を捉えた。そのことでグレンの言葉は続かなかった。
「あんたなんか大っ嫌い!」
そう言って教室を出ていく。同時に授業終了のチャイムが鳴り、授業の終わりを告げるがしばらく暗い雰囲気が続いた。
突然だがラヴァルにはお昼寝スポットというものが存在する。校庭の木の上やその陰、日の当たるベンチなど様々な場所が存在する。午後が寝れていないため放課後そのお昼寝スポットへ行くのだが校庭は下校の生徒で騒がしいため必然的に屋内。そして静かな場所となるなら場所が決まっていた。
その名も実験室。放課後に来る生徒など絶対にいないと言い切れる場所だ。実験室へと無断で侵入し、床の隅の机の下に転がり、寝る。
「…あれ?どこが違うのかな?」
寝ていれば声が聞こえて目を覚ます。この実験室に足を運ぶとは珍しいなと思いながら隅から確認する。ラヴァルの目に映ったのは魔法陣とルミアだった。
少し驚いて頭を上げようとすれば机に打ち付けてしまい。ガタンと音を立ててしまった。
「誰?」
ルミアは音のした机へと目を向ける。するとその下に見知った顔であるラヴァルがいたため、驚きに目を見開いた。
「なんでティンジェルがここにいんの?」
あくびをしながら机の下から出てきて言う。それを聞きたいのはルミアの方であるが先に言われた。
「えっと、自習してたんだけど……そうだ!ラヴァル君はどうして発動しないかわかる?」
「うーん、魔力が循環してないことくらいしか俺には分からないかな」
そう言うとルミアは少し考える表情になる。そしてラヴァルは言ってしまったと口を防ぐ。
「どうしてそんなことが……」
ルミアが何か言おうとした後ガタンと扉が突然開いた。音の主はグレンであり、扉を乱暴に開けたようだ。
「実験室の個人使用は禁止だぞ?」
「すいません。すぐ片付けます」
「いいよ、最後までやっちまいな」
「でも上手くいかなくて…ラヴァル君は魔力が循環してないって言っていたんですが…」
「そりゃ水銀が足りてないだけだ。ところで、さっきまでいたラヴァルのやつはどこに行ったんだ?」
「え?」
辺りを見回せばラヴァルはいなくなっていた。グレンも初めは姿を確認したが次の瞬間にはいなくなっていた。代わりに開いた窓があったから逃げたと判断した。
「あいつとんでもない逃げ足だな」
「ラヴァル君はやる気ないだけですごい魔術士なんですよ」
ラヴァルについての話を少しした後、魔術の話に戻った。
次の日、ラヴァルは遅刻した。それ故に大事なグレンの謝罪、そして初めての授業を聞き逃した。だがラヴァルにとっては幸運だったかもしれない。グレンの教える魔術の基本などラヴァルにとっては既知のものであるからだ。凄いとも思わなかっただろうし、欠伸しながら受けるか寝るかだっただろう。
その日からのグレンは凄かった。毎日真面目な授業をし、生徒達に目新しい情報を教えていく。日に日に受講者が多くなるため、ラヴァルが寝辛くなっていった。一番後ろの席では人が多いため自然と人の少ない最前列の席に座るようになっていた。
「ラヴァル君、起きといたほうがいいよ」
「んぁ」
「ルミアもラヴァルなんかに構ってないで聞いたほうがいいわよ」
「うるさい銀髪。後ろの席から殺気を感じるから起きる」
前の席で堂々と寝られるのだ。後ろで立って授業を受ける人からすれば害悪以外の何物でもないというのは理解しているため、睡眠をすることをやめた。かわりに今の真面目に授業をするグレンを見ることにした。
「真面目にやろうと思えばできるんじゃない」
授業中に起きてるラヴァルを見た全員の思ったことを代弁した声であった。他にも明日は槍でも降るのではないかとクラスメイト全員から思われていた。
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この作品は最初ライナ・リュートを主人公に立てて2巻分書いたものを書き直したものですので設定はライナよりです。
ライナ主人公の作品は投稿する予定はありません。