ロクでなし講師と魔眼保持者   作:斎藤

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お久しぶりです。


日常9

 

 

 

「やっっっっっっと解放されたぁぁぁ!」

 

解析から解放され、馬車に揺られて数時間。フェジテに着き、馬車から降りると同時に叫んだ。街の真ん中でだ。市民達は急に叫び出したラヴァルに冷ややかな目で見るがラヴァルは気にしない。冷ややかな目など昔から慣れているし、この解放感がたまらなく幸せであるため気にすることもなかった。

 

「1週間くらい惰眠を貪ってやるかー。いや、冬眠だ。冬眠をしよう。ん?まだ夏前だから夏眠か?ま、寝られるならなんでもいいか!」

 

ラヴァルのテンションは最高潮だった。これからどれくらいまで寝ようかと悩む。今までの『複写眼』で解析して解除するという人の為に思考を使うのではなく、自分の為に思考を使うという行為に嬉しさで舞い上がる。

 

だから気づくことができなかった。普段のラヴァルであれば気づいたであろう。だが、舞い上がって油断しているラヴァルは背後に近づいている人影に気づくことはなかった。

 

「学院を休んで何をしていたのかな?ラヴァル君?」

 

背後から肩に手を置かれた。かけられた声は最近聞き慣れた声。ゆっくりと背後を見てみるとそこには怖いくらいに笑顔なルミアがいた。

 

「どうしたのでせうかルミアさん。笑顔が怖いですよ」

 

冷や汗を垂らしながらルミアと向き合う。学院の制服ではなく、私服で立つルミアを見て今日休日なのかと認識すると同時に一番見つかってはいけない人物に見つかったことを理解した。

 

これは、長期間何も言わずに休んだ不良生徒に対して学校に出るよう言いに来たお節介な委員長とは決して違う。不良生徒をシメにきた委員長だ間違いない。

上記のような馬鹿な思考をしていると早速頭に手を向けてきた。

 

「ひっ」

 

ラヴァルはルミアの怖さに体が動かず、なされるがままだ。ルミアの手のひらがラヴァルの額に添えられた。

 

「うーん。熱じゃないみたいだね。つ・ま・り、サボりなんだねラヴァル君?」

 

終わった。短い人生だったが……いや、『魔眼』持ちにしては長い人生か。などとラヴァルは何も言わずに考えていた。そして気づいた。あれ、サボりじゃなくね?と。王宮からの招集ってサボりではなく義務だから受けないといけないんじゃね。と気づくことができた。

 

「待った!待つんだルミア!俺はサボったんじゃない!王宮から招集されたから行って仕事してきただけだ!だから俺は悪くない!」

 

しっかりとした理由であるのに誤魔化すかのような言い方になったのはラヴァルが焦っていたからである。

 

「うん。知ってたよ」

 

「はぁ!?」

 

ルミアのカミングアウトにラヴァルは驚く。今の今まで理由を知らないからサボりだと思ってシメにきたと思っていた。しかし、理由を知っていてこんな意地悪をしてきた。ラヴァルの反応に笑うルミア。間の抜けた顔をするラヴァル。完全に掌の上で踊らされていた。

 

「あの頃のルミアはどこにいったんだ」

 

遠い目をして天使のように優しかったルミアを思い出す。思い…思い…出せなかった。そしてラヴァルは思う。ルミアは最初から悪魔であったと。そして自分は悪魔を助けてしまったのだと認識してしまった。

 

「この悪魔!」

 

「悪魔だなんて失礼だなラヴァル君。ちょっと傷ついたかも」

 

「いや、事実でしょ。それよりなんで呼ばれたこと知ってんの?」

 

「どうして知っていると思う?」

 

「ま、普通に考えたらグレン先生だな」

 

「不正解。正解はリィエルだよ」

 

「は?どうしてその名前がでてくるんだ?」

 

「ラヴァル君がいない間にリィエルがクラスに転入してきたの。それで昼ごはんの時に少し聞いてみたら招集って言うからびっくりしちゃった」

 

「クラスに転入……。そういうことか!アルベルトの野郎!迷惑料ってリィエルの面倒を俺が見ろってか!ふざけんじゃねぇ!」

 

「街中でそんなに叫んだら不審者に思われちゃうよ」

 

「誰のせいだよ!まぁ、なんだ…久しぶりルミア。不在の間に攫われてないみたいで良かったよ」

 

「うん。久しぶり。攫われたとしても助けに来てくれたんでしょ?」

 

「それはなんとも言えないかな…リィエルが来るならリィエルが助けに行ってると思うんだよなぁ」

 

「そこは嘘でも『愛するルミアのためなら何処にでも助けに行くよ』って言うところだよ」

 

「………はぁ。自分で言ってて恥ずかしくない?」

 

「少し恥ずかしいかも。でもそれくらい言って欲しかったな」

 

「愛してるわけじゃないからそんなことは言えないなー」

 

「す、少しくらい認めてくれたって良いんだよ?」

 

「……興味ない」

 

「ら」

 

「ら?」

 

「ラヴァル君のバカァァァァァ!!!」

 

ルミアはそう言って涙を流しながら走り出した。軍にいたラヴァルにはそれが嘘泣きであることを看破できた。だが、周囲の住民や通行人は違った。

 

「兄ちゃん!何やってんだよ!追いかけろ!」

「あんな別嬪さんを泣かせやがって許さねぇ。殺す」

「屑」

「ゲス」

「ホモ」

 

ラヴァルに対する罵倒が巻き起こる。周囲はラヴァルのことをクソ野郎と認識していた。

 

「誰だ!今俺のことをホモとか言ったやつ!ぶっころすぞ!」

 

ラヴァルにとって罵倒など対して効果はない。だが、流石にホモだけは我慢することはできなかった。裁判を起こしても良いレベルの罵倒だとラヴァルは思っている。

 

「あーもう!分かったよ!追いかけるよ!だからホモだけはやめろ!名誉毀損だ!」

 

言葉を残してルミアを追った。ラヴァル追った後に、残った人々はホモと言ったおじさんを称え、酒を奢るという話になり、この辺り一帯を巻き込んだ大飲み会が始まるのだがそれはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

「ルミア!」

 

「ラヴァル君?」

 

自分のことを追いかけてきたラヴァルを不思議そうな目で見る。ルミアにとってラヴァルが追いかけてくるのは予想外。想定外であった。ルミアは嘘泣きがバレているなんて百も承知。ラヴァルが帰って寝やすいようにその場から自然に去っただけだ。

 

「たく。ルミアの嘘泣きのせいでホモ認定されちまったじゃねぇか」

 

「うーん。それは女の私に興味を示さなかったから自業自得じゃないかな?」

 

「確かに女にあまり興味ない。興味ない。だけど男なんてもっと興味ない。天と地ほど差がある」

 

「ははは、ラヴァル君はしばらく会わなくても変わらないなぁ」

 

「まあ、変わる必要性も感じないからな」

 

「あ!ラヴァル君。今度遠征学習があることは知ってる?」

 

突如思い出したかのようにルミアが聞く。遠征学習とは2日くらい別の場所で研究所などを見学する学校行事である。そんな学校行事をラヴァルが知っているわけがない。

 

「何それ。今初めて知った。遠征ってことはあれか。どっか行って学習するのか」

 

「うん。場所はサイネリア島の白金魔導研究所ってところだよ」

 

ルミアの言葉にラヴァルは固まった。サイネリア島…そこはエレノアが脱獄した際に解析をした転移先。ラヴァルは思う。絶対に一波乱あると。確実にルミアに危険が及ぶと。

 

「どうしたの?そんな真剣な顔して」

 

「学習先をサイネリア島から別の場所にすることはできないのか?」

 

「それはできないんじゃないかな。どうしてそんなことを?」

 

「いや、これは多分他言無用な情報になると思うから言えない。なら仕方ないな。別の場所なら行く気は無かったけどサイネリア島なら仕方ない。行くか」

 

「他言無用…ラヴァル君が積極的に行こうとするということは…もしかして危険な場所?」

 

「それはなんとも言えない。だけど何があっても守るよ。大切な日常だけは壊されたくないから」

 

ルミアはラヴァルの真剣な表情に見惚れていた。そして自分はこの人を好きになって良かった。きっと何事もなく過ごすことができると思った。

 

「で、いつからだ?」

 

「え、遠征学習なら明後日からだよ」

 

衝撃の事実に絶句するラヴァル。展開が早すぎる。これは陰謀だと思えて仕方がなかった。

 

「……じゃ、俺はそろそろ限界だから帰る。絶対に明日は休むからよろしく」

 

「疲れてるなら仕方ないね。じゃあラヴァル君。また明後日」

 

「おう。また明後日」

 

お互いに手を振りながら別れた。ラヴァルは明後日から戦闘になると予想しながら帰っていった。ルミアはラヴァルの後ろ姿が見えなくなったのを確認して少し残念そうな表情で帰っていった。

 

 

 

 




急展開過ぎましたが、どうやって話繋ぐか考えた末にこの結論が出ました。
次回からはサイネリア島に行きます。いつになるかはわかりませんがね。

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