インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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ありがとうございますっ!(五体投地


第7話

 

 

 

「やーやー、びっくりした?」

不可思議なコスプレをした女性を見て、また不審者か、と成政は失礼にもそう思った。

この前も自称ロマン妖怪が侵入してきたばっかりで、そう言ったことに慣れてきたのだ。

この場合の対処法が一つ、

「はいはいびっくりしましたねー」

適当にあしらってさっさと織斑先生を呼び出すに限る。元世界最強だ、そこらへんの人ならば簡単に叩き出せる。

部屋の真ん中にいた束を避けるようにして、内線電話で寮長室に電話をかけようとすると

「ざーんねーん。邪魔は入らせないよ?」

「なっ...!」

どういった理屈か、受話器がパーツごとにバラバラに分解された。

「へっへーん、天災に不可能はないのだよ」

自慢げに笑う束、裏表もなく、ただ楽しそうに笑っているが、成政には、それが異常者が笑っている様にしか見えない。

「僕に何か用ですか?」

こいつはヤバイ、何かわからないがとにかくヤバイ。

そう警鐘を鳴らす本能をできるだけ押し殺し、彼は話を続ける。その間に練習用の木刀が立て掛けられている方に少しづつは進んでいるが、どうせ狙いは把握されているだろう。

「いやいや、本当は箒ちゃんの顔を見に来ただけなんだけどね。いつまでも君が箒ちゃんの隣にいるからさ、気になっちゃってー」

「ただの選手とマネージャーの関係だけ、ですが」

「ええー、本当にそうなの?」

明らかに箒と成政の関係をそれ以上、と疑っている。確かに一切そう言った感情が無いとは彼は言い張れないが、箒に思い人がいる以上引くつもりではある。

「選手とマネージャーで恋愛なんかがあると、部活が上手く回らないので」

そう、自分に言い聞かせている。

「ところで、足の調子はどう?」

成政の体をジロジロと眺めていたかと思うと、突然別の話題を飛ばしてきた。

「......まあ、おかげさまで」

「またまたー、悪くなってるよ?」

「医者にはちゃんと良くなっていると言われています」

「じゃあそいつはヤブだね、まあ私は天災だから敵うはずも無いだろうけど」

どこからその情報を仕入れたかは知らないが、事実だ。実際に成政の足は悪化している。

無理はしていないが、歩くだけで痛むようになってきている上、もう2、3年すれば歩けないかもしれない、と言われている。

「こんなゴミに構ってる時間なんか無いと思ってたけど、有意義な時間だったよ」

待っててねいとしの箒ちゃーん、と言ったかと思うと、空気にでも溶けるように消えた束。「ただーいまー」

「......」

「んー?なりなりどうしたのー」

「......なんでもない」

「そっかー」

「そういや、名前名乗り忘れたな」

人間、規格外なことに遭遇すると、一周回って普通のことしか考えられなくなるらしい。

 

 

 

 

 

 

「最近勝てないんだ、なんでだろう」

「簡単にわかればマネージャーはいらないよ」

「「はぁ......」」

練習がオフの日の放課後。男子2人は、中庭のベンチで話しこんでいた。

「千冬姉は、カタログスペックでは勝ってるんだから、負けるのはおかしい、って言うし」

「あの人は感覚派だから、アドバイスの貰いようもないしなあ」

「はあ、俺は強くならなきゃいけないのに」

そううなだれる一夏。クラス代表決定戦からも、時々3人で模擬戦をしているが、一夏は未だに白星を挙げられていない。

それが悩みなのだろうが、成政の見立てではすぐに勝てる様になるはずだと踏んでいる。

センスは、一夏は十分に持ち合わせている。それこそ、世界一位を取れるほどに。しかしそれを生かせる経験値がない。単純に場数が足りていないだけで、もう2、3ヶ月もあれば勝てる様にもなる。

「男だからって気張る必要もないんだよ。もっとのんびり行こうぜ?」

「いや、そういう事じゃなくて、さ」

そういやお前には話してなかったか、と成政に向き直る一夏。

「物心ついた時から両親はいなくて、ずっと千冬姉が家計を支えてたんだ。高校の時もずっとバイトして家にいなくて、卒業しても家にいなくて、気がついたら世界一位だ。

だから、次は俺の番なんだよ。

俺が、千冬姉や、みんなを支えてやりたい。守ってやりたい。だから、強くなりたいんだ」

「お、おう......」

(これはまた重い過去だな、想定外なんですけど)

純粋に姉に勝ちたいだの、かっこいい姿をみんなに見せたいだの、という普通の理由を思ってたので、正直重すぎて辛い。過去には色々相談事に乗ったりしていたが、その時はもっと、日常的な悩みばかりだった。

「これ以上さ、千冬姉に無理させたくないんだよ。あんなんじゃ貰い手もいないだろうし、そろそろ花嫁修行の一つや二つ」

「そっちが本音か」

「だってさ、千冬姉今「放送禁止」歳だぜ」

「マジかよ、アレで「放送禁止」歳」

《織斑先生が今幾つなのかは、プライバシーの保護のため放送禁止とさせていただきます》

「そんでさ、なんでマネージャーやってるんだ?」

「前に話さなかったか?怪我で辞めたって」

「そうなんだけど、だったら辞めればよかったじゃないか」

「そりゃあ、剣道が好きだからな」

「辛くなかったか?」

「辛い?どうしてまた」

「だってさ、自分にできないことを、他人が楽しそうに目の前でやってるんだぞ。俺は、辛くて見てられないよ」

不器用なりに自分のことを心配してるのか、それとも純粋な興味なのか、とも取れるような一夏の言葉。少し悩んでから、成政は、

「出来ないから辛いとか、一夏は自分の価値観を人に押し付ける気があるな」

「そうか?そんなつもりはないけど」

「1回目のミーティングの時もそうだったじゃないか、あの時も戦えだのどうの」

「あ、あれは多少勘違いもあったし......」

歪んでる、とそう言外に告げた。

言い訳をしようと他所を向く彼に詰め寄ると、真っ直ぐに目を見て話す。

「一夏は、優しい。お前は人が困ってたら放って置けないし、他人が馬鹿にされたら憤る、そういう男だ。だがな」

脳内に、歪んだ生き方を貫くと決めた、あの赤い髪が思い浮かぶ。

「それに、自分の価値観を押し付けて、不幸そうに見えるから、とか、自分から見て可哀想だから、そんな感情が相手を逆に不幸にしてしまう、という場合も無いわけじゃない」

 

『所で衛宮、お前将来どうするんだ?』

『俺か?俺は、正義の味方になるんだ』

『......お前まじで言ってるの?』

『ああ、歪んでいて、捻くれて、修羅の道だってわかってる、だけど』

『だけど?』

『......親父と、俺との約束だからな』

『そうか、頑張れ』

 

「それを今すぐ変えられるとは思わないし、変えろというつもりもないけど、せめて自分がわがままを言っている、とか、これは俺の考えを押し付けてるだけだ、とか前置きする様に心掛けろ」

無自覚と自覚してるじゃ差もあるからな、と付け足す。どこか見当違いと言われてしまうかもしれないが、仲間の精神を正すのも、マネージャーの役目である、と思っている成政。

実際は、相談事という名のただのお節介だが。

「わかった、成政がそう言うんだし、これから少し心がける様にするよ」

「ま、僕が正しいこと言ってるとも限らないし、心の片隅にでも置いておくことをオススメするよ」

悩みが少しでも晴れればいいんだがな、と成政は空を見上げた。

「でさ、話を戻すけど、なんで剣道を続けてるんだ」

「人がうまいこと有耶無耶にしようとした話をなんで覚えてるかな」

「あ、言いたくないなら」

「相手に散々言わせて自分が言わないのは無しですよっと」

成政は椅子から立ち上がると、立て掛けていた杖を肩に担いで、一夏に向き直る。

「他人であれ、自分であれ、何かに真剣に向き合う姿は、かっこいいじゃんか」

 

 

 

翌日

「「なんじゃこりゃああああああ?!」」

週に一回程クラスに張り出される、新聞部の書いている新聞。いつもはくだらないゴシップだったり、アリーナの使用状況だったりと言った内容なのだが、

《男子2人の密会 秘密の放課後》

明らかに見出しに悪意しかない。

あからさまにBLなのだ、アイエエエ!

写真のアングルも、ちょうど成政が一夏に詰め寄った所であり、よく見ると手が重なっている様に見えなくもない(もちろんそんなことはない)。

成政は一夏に頼み、掲示板からあるだけ新聞を剥がしてもらい、

「......よし。織斑先生に報告しよう」

「そうだな。千冬姉はこう言うの嫌いだし」

面倒ごとは織斑先生、最近成立した1年1組のルールだ。その結果事態の解決は速やかに進み、この記事は闇に葬られる事となった。

「ちゃんと撮影許可は取らんか、馬鹿者。写真は没収、罰として『新聞部全員』アリーナ10周だ」

こんな一幕があったとか無かったとか。

 

 

 

「織斑×石狩ね」

「いいや、石狩×織斑ね」

「薄い本が厚くなるわね。今年の夏は忙しいわよ!締め切りちゃんと守りなさいよ?」

「「「おう!」」」

「あの、大学受験は......」

「「「物事に犠牲はつきものよ!」」」

「それは犠牲にしちゃいけないものだと思うんですけど」

 


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