インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜 作:通りすがる傭兵
クラス代表決定戦からしばらく。
成政を取り巻く環境は少しだけ変わっていた。
まず、話しかける人が大きく増えたことだ。
あの大騒ぎと、セシリアの謝罪の影響か、1組では女尊男卑は鳴りを潜めた。
一夏がセシリアに対して勝ちに等しい試合をし、実力を示したというのがあるだろう。
その影響もあってか、剣道部入部の時も、成政がとやかく言われることもなく好意的に受け入れられた。
そしてもう一つは、
「一夏さん。わたくしも、練習に参加してもよろしくて?」
「大丈夫だろ。な、みんなっ?!」
「べ、別に構わんが顔が近い!」
「それなら、放課後にミーティングだな」
セシリアが練習に混ざるようになってきたこと。
成政としては、近接格闘の弱点である遠距離攻撃。その専門家を招くことができ、セシリアとしては、近距離戦闘の強化が出来る。
まさにwin-winの関係、なのだが、
「と、ところで成政さん?」
「はい、どうしました?」
「い、一夏さんの好きな料理とか好みのタイプとか好きな色とか服装とか教えて下さいませんか?一緒に練習する仲になったわけですし練習相手のことを知るのは当然ですわよねそうですわね!」
「恋ってなんなんだろうなー」
「あー、なりなりが難しいこと言ってる」
「本音ちゃんは...相談できそうにないか」
「んー?」
乙女心とは如何なるものであろうか。
そう、考える成政だった。
「そのうち石狩相談事務所とでも看板をかけたら面白そうだね。もちろん顧問は俺で」
「マヒロさんはいい加減に勝手に部屋にあがりこまないで下さい。後、相談事務所開設は考えておきます」
「いや考えるのかよ?!」
「選手のメンタルケアは大事ですし」
「まっひーお菓子たべる?」
「たべりゅー!」
前とは違う、女子らしい騒がしさ。
なんか毒されて来たなー、と溜息をつかずにはいられなかった。
「第8回 ミーティングを開始します」
「成政は真面目だな」
「真面目よりかは性分のようなものだけどね」
セシリアを混ぜての初ミーティング。
今回のお題は、
「射撃について、だ」
セシリアという専門家を招いた以上、今まで突っ込めなかったこの議題をとりあげることが出来る。そのチャンスを逃すわけにはいかない。
「と言っても今回はあまり詰めるようなことは無し、触りだけでも、って感じ。実物もある訳だし」
「成る程、だから射撃訓練場集合だったのか」
「大正解、今日は空いてたしね」
「成る程、百聞は一見に如かず、ということだな」
「どう言う事ですの?」
「実物を見るのは、話を聞くのよりいい、って事、日本のことわざだ」
学園からの貸し出し、という名目で半ば成政の専用機となっている打鉄を纏う。念じてから装着するのに数秒とかからない。超一流、とまでは行かないものの、ISに触れて1ヶ月の素人としてならば、頭一つ抜けている。
「スムーズですわね」
「いいよなぁ、俺はまだまだ時間かかるし」
「イメージ的には剣道の防具をつける感じなんだが、一夏にはちょっと無理か」
大事なのは想像力、らしい。と今日の講義を思い出しながら、装備カタログを呼び出す。
「ジャンルとしては、特に有名な物ばかり拾ってきた。アサルト、スナイパー、ショットガン、「グレラン」ミサイル...ん?」
「あと大口径キャノンとかガトリングも忘れて貰っちゃあ困りますよ?」
「神上さん?どうしてここに」
「いやいや、ちょっとお手伝いをね」
確かに、今マヒロがあげたものはマイナーな物ばかり、しかし、
(不測の事態に備える点であれば、いいか)
クラス代表決定戦でトンデモ兵器を持ち出している以上、誰かが同じ事をしないとは限らない。そのためにも、と
「...じゃあお願いします」
「かしこまっ!」
マヒロの参加を許可した。専用機を持ち、多彩な兵器を扱う彼女が見本になると信じての決断だったのだが、この後、彼女を参加させた事を後悔する羽目になる。
「じゃあ、追加で色々持ってくるから!」
「...了解しました。カタログデータは下さいね」
「まずはアサルト。銃の中じゃ一番使われてると思う。山田先生曰く、
『打鉄に装備されている焔火や、ラファールに装備されてるヴェントなんかが扱いやすいですね、アサルトは癖が少ない事が特徴ですけど、特のこの二つはいいですよ』
との事。
まあ、撃てばわかると思うので」
じゃあまずは焔火から、と打鉄のスロットからそれを取り出すと、同じく白式を展開していた一夏に渡す。
「構え方に関しては、セシリアさんに聞いてくれ、僕は説明を聞いてもサッパリだから」
「そうか、じゃあ頼むよ、セシリア」
「はい、かしこまりましたわ」
嬉しさが隠せないのか、軽やかな足取りで一夏を伴って射撃場に向かうセシリア。
恨めしげにそちらを睨む箒に気づいた成政は、
「羨ましいか?」
「別に、そういう、訳では...無いのだが」
「素直に言えばいいのに」
「言えるわけがなかろう!」
珍しくラファール装備の箒にど突かれてよろけそうになり、
「成政さん!」
「あ、ああ、すまん」
箒が背中に回した手で受け止めた事で事無きを得た。別に倒れてもISがあるので怪我をする事も無いのだが、半ば反射的なものだ、仕方がない、のだが、
「すすすすすまん!すまんがか、顔が」
「そ、それは申し訳ない事を、した..」
うっかり力加減を間違えて持ち上げ過ぎて顔が目の前まで迫ってくるという、こんなラブコメは、想定外なのだった。
(やばい滅茶苦茶綺麗やべーかわいいいやいや待て待て箒は一夏に恋してるんだから出しゃばって拗らせるわけには行かないしそう気のせいだから気のせいということにしようでも照れた顔が...ってそうじゃなくてそうだったレポート書かなきゃいけないんだった他ごとなんか考えられないなはははは)
(なななななんということを私はいや成政さんの顔を近くで見られてむしろって何を考えているのだ一夏が好きなのだろうそもそも一般的に見れば成政さんよりも一夏の方がずっとイケメンというかでも意外と悪くってあああああ!)
照れ隠しにひたすらレポートを打ち込む成政とめちゃめちゃな素振りをして気を紛らわそうとする二人は、
((どうしてあんな奴になんか...))
なったばかりの恋人みたいだったと、3組のM.Kさんは語った。
「見てるこっちがハラハラするんですよ。素直に告ってくっつけばいいのに。
それが世界崩壊の危機とかのタイミングだったらなお良しなんだけど、さすがに上手くは行かないか」
「ふぃー、終わったー」
「一夏さんは筋がいいですわね。このまま教えてあげれば、かなりのものになりますが、白式は剣だけなのでしょう?」
「ああ、なんでも零落白夜の再現でスロットが埋まってるんだって」
「それが惜しくてなりませんね...って」
「「何してるんだ(ますの?)」
射撃場から戻った2人を出迎えたのは、
「いや違うからそんな訳ないしそもそも似合わないっていうかちゃんと最初なんだしそもそもあんな言葉があるくらいだし...」
音声認識ソフトをオンにしてるせいで独り言をレポートに書き込み、それに気付かない成政と、
「そんな邪念があるから剣が鈍るのだ今日明日が主将にみっちりしごいてもらわねばついでに一夏と成政さんに見てもらってってなんか今日はいつもより調子が悪いな...」
トチ狂ったのか何故かアサルトライフルで素振りをしている箒。
どう見ても、何かあったに違いない。
「なあ、2人とも顔が真っ赤だぞ、何があったんだ?」
「「何でもない」」
「いや、でも」
「「な ん で も な い !」」
「あっ、はい...」
2人の鬼気迫る表情に鈍い一夏でもこれ以上踏み込むのはまずい、と気が付い
「箒、さっきよりも顔が赤いぞ、風邪か?」
「な、ななななな...」
「んー、熱は無いみたいだが」
この男は、どうしようもなくニブかった。
互いのおでこをくっつけて熱を測るという光景を目にして、
「神上さん」
「はいはい、何でしょう?」
「大火力兵器のデモンストレーションを見てみたいんですけど。対戦相手はセットするので」
「いいんですか!いやー、最近シュミレーターが処理落ちするからって出禁喰らったので、ありがたいですねー」
「ところで一夏、聞けばお前の武器剣だけなんだってな」
「ああ、雪片だけだぞ」
「神上と戦ってみろ。多分いい経験になる」
「...?何だ突然、別にいいけど」
「最後に一つだけ」
「何だ?」
「いっぺん死んでこい」
「......は?」
「...あの、成政さんがとても言い表せないような鬼の表情をしているのですが」
「あれは、ストレスが限界突破寸前の時の顔だな。だが突然、何でだろうな」
「さあ、何故でしょうね」
「おい、セシリアは何故笑っているんだ」
「さあ、何故でしょうね?」
訳知り顔でニマニマしているセシリアは、何かを察しているようだが、
「おい、教えろ!」
「それは自分で気づくべきことですわー」
「いいから教えろ!何が言いたいのだ」
「さあて、何故でしょうね」
箒にはそれがさっぱりわからなかった。
「汚ねえ花火だー!」
「ぎゃああああああああああ!」
「たーまやー」
「じゃあ、また呼んで下さいね!」
妙にキラキラしたマヒロを見送り、
「じゃあ、私は一夏を保健室に連れて行くから」
「わ、わたくしも同行いたしますわ!」
「...やだもう、ぐれねーどこわい」
あまりの恐怖に幼児退行した一夏を連れて行く箒とセシリアのために保健室に連絡をし、
「訓練場使用終わりました」
「はい、お疲れ様」
訓練場の掃除、そして使用証明書を書いて、
「んー、今日も疲れたー」
成政の一日が終わる。
本当ならシャワーを浴びたり、予習復習や宿題をやったりするのだが、今日は珍しく宿題もなく、予習も終わっている。
今日の反省は、明日、セシリアと頭をつきあわせながら問題を洗い出すことになっている。
つまり、消灯時間まで暇をもてあますことになった。
ルームメイトの本音は大浴場の使用時間のため部屋を出払っている為、しばらくは1人。
汗でベタベタだし、とインナーの間に風を入れながら部屋に入る。奥の冷蔵庫からスポドリを取り出し、ニュースでも、と振り返ると、
「やあやあ、みんな大好き、大天災の束さんだよー?」
「...はい?」
疫病神が、そこにいた。