インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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はい、新年明けましておめでとうございます。
2018年も頑張ってまいりましょう!


第44話

 

 

 

 

『まあ、私は天災な訳なんだけど、人の感情というのはどうにも理解できなくてね。

でも凡人を観察するのは至極つまらない......。

その時、手元にあったのがISだったんだ』

 

束の話は、自分語りから始まった。

話を聞いている成政たちは知らないのだが、こっそりと回線を開いている並行世界のシャルロットのお陰で全員に声が届いている。

 

『幸い8割型完成していたはいいけど、空いたリソースの有効活用法が見つからなくてね。

ちょうどいいや、って自己進化プログラムをパパッと作ってポイーっと放り込んだのさ。

この子たちは人間と触れ合い、多くを学ぶ。だったら、それを観察すれば感情が理解できると思ったんだ』

「......つまり、自己進化する機械、という事か?」

『大正解だよ銀髪の、といっても機械なんて凡人の作る屑鉄と比較されちゃ困るねえ。

束さんが作ったのは、機械以上人未満......どっちつかずの名無しのなにか。人工的に生命を作った、とは違うけどね。そこまで束さんは落ちぶれちゃいない、それに興味もないしね。

 

まあそれはさておき、束さんはコア一つ一つにそれぞれプログラムを埋め込んで、それを観察した。

2、3年もすれば個々に違いも生まれて、10年も経てば自我を作る子も現れた......今のところ、2人だけ』

 

 

 

(もしかして......あの時の?)

「この子に自我、ねぇ......どうしたの一夏?」

「ん、ああいや、なんでもないよ鈴」

「ふーん、ま、敵が残ってる可能性もあるんだし、気は抜かないでよね」

「解ってるって」

 

因縁の臨海学校、白式のセカンドシフト時に現れた白い騎士、一夏はその姿を思い出していた。

(......もし自我があるんだったら、コイツは俺の事をどう思ってるんだろうか)

 

一夏はなんとなく、右腕......普段待機状態であるガントレッドのある場所に視線を落とす。

IS学園までは、もうすぐだ。

 

 

 

『1人目は言えないけど、2人目は石狩......君の打鉄さ。

といっても、宿ったのがつい最近......6月の終わりくらいだよ』

「つまり、彼......石狩君がこちらに来た原因がその子かしら?」

『当たり、詳しくはわからないけど、99パーセントその打鉄が原因だよ。

自分の操縦手の命を繋げる、助けようとする。

モニタリングしていて、気がついたんだよ。

これがヒトの感情......自己犠牲の精神、誰かを愛しく思う気持ち、なんてさ。

 

セカンドシフト、ワンオフアビリティ。今までの私はそれが個性......コアの自我の発現だって思ってたんだけど、こんなの予想外だったよ。

しかもよりにもよって凡人が操るのがこうなるとは、この天災が裏切られるなんて、久しぶりだよ。これだから世界は面白いんだ』

 

空を見上げ、太陽の光に隠れて見えない星々に想いを馳せる束。ISは元々は宇宙進出のために開発されたもの、特殊な思い入れでもあるのだろうかと推測するが、答えは本人のみぞ知る、というところだ。

『それはさておき、どうして空間跳躍なんて馬鹿げた能力になったか......こればかりはログから引っ張り出してもどうにも分かんなかったよ。仮説は無いことはないんだけど、馬鹿げてるからどうでもいいや』

「あの、姉さん」

『なーに箒ちゃん』

「先輩の場合馬鹿げてる方が当たるので話してください」

『うええ......別にいいんだけど、マジで馬鹿げてるよ、いいの?』

「別に構いやしませんよ、何がきたって驚くこともありませんし」

本人がこういうのなら仕方ない、と束はその仮説を話すと決めた。

 

『自分の力じゃどうにもならない、と判断したその子は、手っ取り早く操縦者、そいつの脳内を検索して何かないか、ってなったわけ。

そんで実用的かつ再現可能と判断したのが次元移動......というわけになる。

そこから考えるに、バカみたいな質問だけど......今まで並行世界に行った事は?』

「5回ほど」

『そうかそうか、そんなことあるわけないよねーってええええええ!』

「ありますあります」

『......こいつどうかしてるよ』

「さすが成政、略してさすなり!」

「略すな」

 

こういう時もボケに走るのを忘れないマヒロはさておき、話は続く。

 

『それだったら話は早いや。そいつの記憶を参考にして並行世界の存在、そしてその間を移動する方法を再現したんだと思う。

でも並行世界に繋いだとしても、もし誰もいなかったら助かるものも助からない。

そして成政を無事保護できるような力を持った人が近くにいる......って事でこの世界が選ばれたんじゃないかな?』

「あ、戦闘が終わってすぐに出てきたよ!」

「なるほど、助けてくれる人が居合わせたこの世界に、というわけですか」

『まあ分の悪い賭けだったとは思うよ』

『うんうん、みんなの力を合わせてやっとこさって感じ。半分死んでるようなもんだったし、足なんて綺麗に無くなってたからね、付けた』

「なにそれ知らないうっそおマジで?!」

「わーっ急に脱がないでしょ普通!」

「破廉恥だぞ先輩」

 

もう1人の束のトンデモ発言に焦って服を脱ぎ出す成政、女子オンリーの周りが慌てて引き止めているうちにも話は進む。

 

「実際血まみれで突然現れたもんだから、びっくりしたのよ?こっちの一夏君なんか慌てに慌てて大変だったんだから」

「どちら様で?」

「謎のおねーさん、とでも読んでくれるかしら?」

「は、はあ」

 

途中から変身を解いたハニーも合流、当事者として当時をを振り返る。

 

『こっちも銀の福音事件はあったんだよ。しかもそれに便乗してあしゅら男爵だったり恐竜帝国だったりその他大勢押しかけてきて、もうてんてこ舞いだったんだから』

「そして、事件を解決して一息ついていたところにISの反応が突然現れて。

すわ増援か?と思いきや沈みかけた成政君を見つけた、って聞いてるわ」

『顔を見ても誰も心当たりもなく、手がかりといえば学生手帳の名前だけ。調べても出てきたにはきたけど元気にしてるし......』

「ワケありなのはわかってたけど、みんなお節介でね。助けようってすぐに決まったの。

そこからIS学園に運んで、って所かしら」

『まあ、いろいろ身体は弄ったけどね。

そうそう君、なんか身体軽いでしょ?

走るのも早くなった事ないかな?』

「そもそも走るどころか歩くのもやっとな筈だったんですけど......」

「元気に、走ってましたよね先輩」

「見事なお姫様抱っこも披露してくれましたが?」

「ちょ、ライダーさん!」

「おっと失礼、口が滑ってしまいました」

 

ちゃっかり野次馬してたライダーが割り込んできたり、

 

「おーい、無事かー成政ぁ!」

「元気してるー!」

「おお、一夏に鈴!さっきぶり」

「俺もいるぞ!」

「なんか紛らわしいわね」

「これは一体、どういう事ですの?」

「かくかくしかじか」

「まるまるうまうま、って訳よ」

「成る程、理解しました」

 

ISで出ていた一夏と鈴音、そして並行世界の方の一夏、鈴音、セシリアが合流、さらに場は賑やかに。

 

『で......なんの話だっけ?』

「先輩の足の話です」

『そうそう、だってそりゃあ私のわからないとんでも技術の詰め合わせだもん。

ついでにISの技術も入れたからちょっと浮ける』

「あ、ほんとだおもしろーい」

「か、壁に立ってるってどういう事だよ!」

「決まっている、僕にもわからん」

「開き直っていい訳ないでしょ!」

「もうなんでもありですね......」

『それにかこつけてマッド共が嬉々として楽しそうに』

「博士も人の事言えないでしょうに」

『そこはオフレコで頼むよ如月さーん』

「よお、無事に記憶も戻ったみたいだし良かったな」

「あ、甲児君お疲れ様、どうだった」

「ダメだ。またあしゅら男爵は捨てゼリフ吐いて逃げちまったよ。懲りないやつなんだから」

特徴的な前髪が特徴の兜甲児が手を振っている、その奥にはゲッターチームやスーパーロボットたちのパイロット、そして協力者たち。

当事者そっちのけでやいのやいの、と騒ぎ出した一同から少しだけ距離を置いた2人は、この不思議な体験をかみしめていた。

 

「色々あったねえ」

「まさか、並行世界とは......まだ私には理解できていません」

「そりゃそうだよ。こんな馬鹿げたことありえないさ。

しかし、箒ちゃんが2人とは奇妙な事で」

「あいつは......もう1人の私は、剣に迷いがなかった。

きっと、信念たりうるなにかを、持っているんだと思います。

私には足りなかった、何かを」

「でも、今の箒ちゃんの剣は迷いはある?」

「......あります、でも、その剣を振るうための誰かは、見つけました」

「そっか、良かったね。誰?」

「先輩です」

「一夏じゃなくて?」

「確かに一夏は、私にとってのヒーローです。

幼い頃の一夏は、私を守ってくれた、支えてくれた、好敵手であってくれた、でも」

「でも?」

「先輩はそれ以上に、カッコよかったんです」

 

くるり、と長い髪を翻らせて、こちらを振り返る箒。特にわけもなく、成政の心臓が跳ねる。

「先輩が助けに来てくれた時、嬉しかったんです。記憶をなくして、ボロボロになって、それでも手を伸ばす先輩に、惚れちゃいました」

「ほ、惚れっ?!」

 

 

 

「好きです、先輩」

たった一言。

夕日を背に立つ彼女は、そう言った。

 

「ずっとそばにいてください」

「......僕も、箒ちゃんが大好きです!」

 

恥ずかしくて思わず顔を伏せた。

成政はそれでも、言葉を止められなかった。

 

「剣を振るう凛とした姿とか、

休憩の時に見せるホッとした顔とか、

打ち上げで嬉しそうに笑う顔とか、

......君の全部が、大好きです!

僕と、お付き合いしてくれますか!」

「......はいっ!」

 

どちらともなく、手を繋ぐ。

時は夕暮れ、オレンジの夕日が、2人を優しく包み込む。

向かい合った2人の顔と顔の距離が縮まる。

そして......

 

 

 

◇◇◇

 

「一夏、少しいいか?」

「はい、えっと、誰ですか?」

「鉄也、剣鉄也だ。ちょっと話があってな」

「話......?」

「お前の戦い方を見ていてな、少し思うところがあってな、伝えにきたんだ。コッチも似たようなもんだったし、こんな機会滅多にない」

 

突然声をかけて来た見知らぬジャージの男性......剣鉄也と向き合う一夏。

暫く無言で見つめあったのち、鉄也が重い口を開く。

 

「自分の在り方を見失うな。

何のために戦うか、それをもう一度胸に刻め。

1回の失敗くらいで、折れるなよ」

「どういう事ですか?」

「......それくらい自分で考えろ、大いに悩め。

誰だって悩む時はあるが、本当の男なら自力で立ち直れるはずだ。俺はそう信じている」

 

 

「一体、何だったんだ......?」

「よう、もう1人の俺、もう帰るのか?」

「っと、まーな。千冬姉も心配してるだろうし、宿題も溜まってるしな」

「私達はこれから夏休みを満喫すんのよ!」

「しばらくはゆっくり休みたいですわね」

「そうか、そっちも頑張れよ!」

 

W束と並行世界のトンデモ技術により、元の世界に帰ることの決まった一行。今はこの奇跡のような出会い、そして別れを惜しんでいるところだ。

 

「しかし、IS学園でこんな物がなあ」

「前から気がついてたけど、嬉しいもんだな」

「マヒロは嬉しいよ......それに比べて」

「「「「一夏(さん)といえば......」」」」

「な、なんだよ!」

 

2人の一夏の視線の先には、微妙によそよそしい成政と箒が、甲児に別れを告げていた。

 

「あんまり覚えていないんですけど、ご迷惑をおかけしました」

「いいっていいって、困った時はお互い様さ」

「あの時はつい、申し訳ない事を」

「頭をあげなよ2人とも、クヨクヨしてても始まらねえって。せっかくあんな風に」

「「それについては恥ずかしいので言わないでください!」」

「初々しいねえ、ははは」

「武蔵さん、それに2人とも......」

「うむ、いい告白っぷりだったな」

「うああああ、い、言うな!」

「ずっとそばにいてください......ふふふ」

「簪までやめろぉ!」

 

いじり始めた2人を追いかけ回す箒。だがゲッターチームの運動神経は凄まじく、逃走中もかくやの鬼ごっこが始まった。

 

「......ったく、無理しないでよ、疲れてるのに」

「カノジョの事が心配か?」

「そそそそそう言うわけではなくマネージャーとしてですね!?純粋に選手としての箒ちゃんを心配してると言うかなんと言うか」

「もっと堂々とすればいいのに、告白したんだろお前ら」

「いや、そのう......恥ずかしいんですよ」

 

まだ先は長いか、とため息をつく武蔵。

「まあ、とりあえず頑張りな」

「......うっす」

『出発するよー!』

「わかりましたー!」

 

武蔵に一礼してから、呼びかけた束の方へ歩く。

己の道を歩み出した男の背中を、武蔵は眺めていた。

 

「ってお前らいつまで追いかけっこしてんだ!特に箒、もうすぐ帰るんだろうが!」

 

 

 

 

 

『はいIS学園にとうちゃーく、長旅お疲れ様でした。

じゃねー』

「ありがとうございました、姉さん」

『お前のことなんか認めないからな!箒ちゃんと結婚したければ束さんをこえてゆけ!』

「魔王か何かですかアンタは」

『絶対認めないからなー!』

 

負け犬の遠吠え、とも取れるような発言を叩きつけて通信を切った束。成政的には倒せそうなのは千冬さん位なので呼べばいいか、とどうでもいいことを考えていたのだが、

 

「せーんぱい」

「ん?どうした」

 

箒の呼びかけに振り向けば、他の皆が並んでいた。そして何故か箒の指は下を指していて、

 

「......正座」

「はい?」

「正座」

「ど、どうしてでしょう?」

「ふふふふふ......」

「もしもーし、箒さーん?」

 

意味深な笑みを浮かべるだけで、答えようとしない箒。代わりに答えたのは、清々しい笑みをたたえた慎二だった。

 

「説教の時間に決まってるだろ馬鹿野郎!」

「ほう、私も混ぜてもらおうか」

「三十六計逃げるに如か......ず?!」

 

即打鉄を展開、逃げようとした成政の首元によく見かけた黒い板状の物体......出席簿が刀のごとく添えられていた。

 

「一ヶ月に及ぶ無断欠席、その理由指導室で聴かせてもらおう」

「えと、手加減とかは」

「足の怪我も治ったそうじゃないか、今までは病人と手加減していたが......これからはしなくてもいいな」

 

この短時間、誰も連絡したそぶりは見せなかった、となると犯人は1人。

 

「あ、あんのクソウサギぃーーー!!!!」

 

虚しい叫びが、学園にこだまする。

よく晴れた、暑い夏の日のことだった。




一応、たけじんまんさんのスパロボコラボはこれにて完結。
先方に多大なご迷惑をかけたこと、この場を借りて謝罪します。
良くも悪くも、良い経験となりました。

本編も学園祭が終わったら完結させるつもりです。
......まあ、最近ISのソシャゲ出たんで、そっちルートでリメイクする予定、ですけど。
今回は本当ですからね!消しませんよ!

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