インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜 作:通りすがる傭兵
年明けまでは......ダメみたいですね。冬休み中には終わるとイイナー。
「これで形成逆転だよ、あしゅら男爵!」
ドヤ顔でそう言い放ち、銃口を突きつけるシャルロット。だがあしゅら男爵は往生際が悪かった。
「おのれ、だが、まだ終わった訳ではない!
いでよ機械獣、そして戦闘獣ビラニアスにオベリウスよ! IS学園を破壊するのだあ!」
杖を振りかざし、残りの機械獣を操るあしゅら男爵。
しかもそれだけではなく、海と空から機械獣と似て異なるもの......戦闘サイボーグ、戦闘獣が彼方から現れたのだ。
「なんか出たーっ!?」
「ミケーネの戦闘獣まで......不味いね」
「こここここの程度想定の範囲内だよっ!?」
「説得力皆無だなマヒロ」
「頭から煙出てるよ......無理もないけど」
「......一夏たちも、ここに着くまで時間がかかるそうだ。2、3分は、我々で凌がねば。
このレーゲンでどこまで凌げるのやら、ワイヤーも空、弾も少なく、エネルギーも僅か」
「ごめん、ビームバズーカが想定以上にエネルギー取っちゃって。弾なら幾らでもあるけど」
「ないよりはましか」
うろたえ出す一同を見て、形勢逆転、と高らかに笑う男爵。
「ほほほ、ISより少し大きい位のサイズになってはいるが、機械獣よりも性能は上なのは変わらんのだぞ!」
「わはは、そういう事だ!」
「しゃ、しゃべった?!」
「それにあそこに…人間の頭脳がある?戦闘獣とやらは、人間の頭脳を持っていて......厄介だな」
あくまで冷静に分析を重ねるラウラ。
ロボットであれば勝ち目はあったかもしれないが、柔軟な思考を持つ人間ともなれば、話は別だ。
「ふふふ…どうだ、これでも形勢逆転などと言えるのかね?」
「いいや、ここから形勢逆転だ!」
どこからともなく響く、凛とした声。
ふと空を見上げたマヒロの目に、ありえない光景が飛び込んできた。
「......これは、雪?」
手を翳せば、光の欠けら、としか言いようのないものが手に降り積もる。夏真っ盛り、雪が降るのはとても奇妙な事だ。
なんでだろう、と首をかしげるマヒロの疑問を解いたのは、赤い彗星。
「......私はもう、迷わない!
この剣は、私が捧げるあの人のために。行くぞ、赤椿。
絢爛舞踏、発動っ!」
迷いを振り切った赤い流星。
真の姿を見せる赤椿、篠ノ之箒の、登場だ。
「みんな、受け取れっ!」
「エネルギーが、回復する......?!」
「これなら、まだ戦える!」
『これが赤椿の真骨頂。ワンオフアビリティ、絢爛舞踏の正しい使い方さ。
無限に等しいエネルギー生成能力、それを周りに配る補給能力。
本当だったら馬鹿みたいに燃費の悪い白式の対になるように作ったんだけどなぁ〜』
『どうせ箒ちゃんといっくんをくっつけようと下世話なことが半分でしょうに。
並行世界とはいえ自分の考えることは一緒か』
(妹の心姉は知らず、ですか。姉様方に逢いたいですね......)
「かっこいいぞ箒ちゃーん!」
『君の打鉄の修理も終わったから早く行け!』
「戦うの嫌いなのに」
「今更それを言いますか?投げますよ」
「いや、担いでからそれを言うのは反則だぁぁぁああああああああああああああ!!!」
『哀れ星になったか......』
「撃って撃って撃ちまくれ!」
「弾幕を張るのは得意だよっ!」
ガンガンガン、と弾丸の雨あられ。武器庫と同等と言わんばかりのシャルロットの武器の量に、思わず怯む戦闘獣。
「......はぁ、僕のラファールがあればなあ」
「同じく、強羅で吹っ飛ばしたいのに」
ぼやくシャルとマヒロは蚊帳の外。IS用の武器は人間が扱える代物でもなく、物陰に隠れる他はないのだ。
『おやぁ、なにかお困りで?それなら、蔵王工業におまかせあれ!』
「わわっ!?なになに?」
「こ、この声は......主任!?」
『いやいや、ちょっとお手伝いをね!』
ほいーっと、と気の抜けた声で2人の前に降りてきたのは、5m大の人型の鉄の塊。
小脇に大型のコンテナを二つ抱え、さながら宅配業者か何か、と言わんばかりに帽子をかぶっている始末。その帽子に刻まれたエンブレムは......蔵王工業。
愛と正義とロマンを届ける、みんな大好き大艦巨砲主義の変態企業だ。
「いやいやいやいやいや、ここ並行世界ですよね!?そうホイホイ来れるもんなの!」
『そこはこう、助っ人がね!』
「助っ人......?」
『まあ守秘義務ってもんもあるし、名前は言えないなぁ!
それはそうとして、お届けものですよっとね!』
「わわ......リヴァイ......ヴ?」
「ヒャッハー強羅だ、とんでもねえ待ってたんだ!」
コンテナの中身はシャルとマヒロのIS、はるばる主任がツテをたどって持ってきたのだ。しかし、そこは蔵王工業クオリティ。
海をまたいでの輸送中は暇を持て余す、そして目の前にはメカ、となるとやることは一つだけ。
『ちょーっと改造しすぎちゃったかな?ヤハハハハ!』
「ふええ......なにこれ」
「わーい、新しいオモチャだ!」
シャルロットの目の前には、ゴテゴテと装甲と武装を盛りに盛ったリヴァイヴ。見る人が見れば武蔵坊弁慶のよう、とでも言うだろう。
そしてマヒロの強羅というと。
「無限軌道とか大型砲とか燃える!」
そこにあったのはISではなく戦車。
最近最終章の公開された戦車アニメ、それを見て燃えに燃えた暇人どもの魔改造により戦車と化した強羅だ。光を反射する超大型砲が目に眩しい。
「やってやーるやってやーるやってやーるぞー!いーやなあーいつをぼーっこぼこにぃ!」
「負けていられん......なっ!」
「き、機械獣が一撃で......」
蔵王謹製変態クオリティの大型砲、その威力は機械獣の腕を一撃で消しとばすほど。それに対抗心を燃やした箒がもう片方の腕を切り落とす。
「......なんでこんなに武装あるんだろう」
『たくさん積んでれば便利だろう?』
「それはそうですけど......こんなに入らないです」
「シャルロット......その腕太いのは?」
「主任さんが言うにはとっつきだって。何だろう?」
『敵に近づいて引き金を引いて見ろ!そうすりゃ分かる』
「援護するよ、ぶち込んできてよもう1人の僕!」
「うん。やあああっ!」
ラウラとシャルロットの援護を受け、機械獣の懐に潜り込んだシャル。そのまま右腕をおおきく振りかぶって、当てると同時に引き金を引く。
「ところでシャルちゃんのパイルってアレ?」
『5月の試作品の時より威力を強化したアレさ!』
「具体的に言うと、ゴーレム襲撃の時シャッターを吹っ飛ばしたアレ?」
『もうちょいで発売出来るんだけどさ、どうにも先方は不満げでね。そう言う時は威力を倍にするのが蔵王流サ、ハッハー!』
「......えっ」
「えっ?」
「......なんと」
凄まじい衝撃もなく、音もなく。
ただ、現象だけがそこにある。
具体的に言うと、跡形も無く消し飛んだ。
「ヒュウ、文字通り消し飛ばすとはねえ」
『まだまだ絶対防御を貫くには足りない、アレの10倍を目指さないとねぇ!』
「さっすが主任、俺たちにできないことを平然とやってのける、そっこに痺れる憧れるゥ!」
『ヤハハハハ!じゃ俺帰るから、後は頑張ってねぇ!』
内情を知る2名を除き、全員が絶句する。
ゲッターでも出来ないようなふざけた威力、それをたかがISと侮っていたそれが叩き出したのだ、とくにあしゅら男爵の驚きようは目を見張るものだったのだが、
「ァアアアアアアアアアア!!!」
「鳥だ、いや飛行機だ!」
「いやどう見たって人では......」
「スーパーマンだ!」
「そうなのか!?」
「そんな訳ないでしょっ!」
視界を横切って空を飛ぶ人影の方がシャルロットたちにとっては重要だったらしく、無かったこととなった。
空を横切る人影......経緯はさておきライダーの怪力により生身で空を飛ぶ貴重な体験をすることとなった成政の事なのだが、本人的にはそれよりも戦場のど真ん中に放り込まれる方が嫌らしい、そこが成政クオリティ。
「おーーーちーーーるーーー!」
「せ、先輩!?」
一足先にいた箒が気付いた時にはもう遅く、衝突事故間違いなし、となるところだったが、
「やばばばばばば、ヘルプ、ヘルプミー箒ちゃーん!!」
「う、受け止めますから落ち着いてください!」
箒の反射神経と赤椿の高性能さに助けられ、なんとか無傷ですんだ。ただし、戦場のど真ん中、危険地帯は相変わらずである。
「だだだ大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ、問題ない」
「よ、良かったです......」
とはいえ機械獣は残り1匹、それに時間的にも街の方で戦っていたゲッターロボや一夏たちも引き返して来る頃、あとは消化試合、と胸をなでおろしたのが悪かったのか、
「なりさんっ、後ろ後ろ!」
「後ろ?」
「何でしょう?」
2人が振り返った時には、もう遅く。
「......ウソ」
「見事にペロリと」
「どどどどうしよう、早く助けなきゃ!」
「せっかく生きてたのだ、また死なせてはたまったものではない!」
むっしゃむっしゃと魚の様な機械獣が口の中の物を噛み砕く、ISと言えど、あの中では無事では済まない筈だ。そう焦ったラウラが飛び立とうとして、
「いやー、危ないところだった。あれ、何焦ってんの?もっとリラックスリラックスー」
「......その抱え方は恥ずかしいので降ろしてくださいっ!」
なぜか、打鉄装備の成政が箒を抱きかかえて目の前にいた。もちろん担ぐというような無粋な真似はしていない。
音もなく前触れもなく現れた2人に混乱するのも訳はなく。
「なななななんん、なりさん?!」
「真面目に死ぬかと思った」
「いや明らかに喰われてたよね?喰われてたよね!?」
「体内から反撃するのはお約束なのに」
「いやそれは画面の中だけだろう」
ここから成政までの距離はざっと直線距離で1km、ハイパーセンサーがあればISだろうと接近を感知できた筈なのに何故か警報も鳴らず、声を出すまで気付かなかった、普通ならばありえない。
だが、その普通ならばありえないがまかり通るこの並行世界、その洗礼にさらされたシャルロットは直ぐに手品のタネに気がついた。
「もしかして、テレポーテーション?」
「ご明察、おそらく正解......かな?」
「かな?」
『詳しくはこの天災パーフェクツな何でもありのスーパー科学者たる篠ノ之タバーネが』
『前置きが長い』
『ひっどい!?』
『馬鹿でもわかるように説明するとこのISは3次元に強力な斥力をかけて次元を歪ませているんだよ。その圧力で次元を歪ませ孔を開ける。発生させたエネルギーの反作用でもう一つ穴が開く、それを繋ぐようにトンネルができ、短時間だけど自由にその中を行動できる。その現象の結果が観測者から見れば、地点AからBに過程を省略して移動したように見える。俗に言われる瞬間移動......線じゃ無くて点と点で移動してる様な現象を引き起こしてるわけ』
「なるほどわからん」
「何が何だかさっぱりだ、もっとわかりやすく説明してくれ姉さん」
『こ、れ、だ、か、ら、凡人はーっ!』
『よーするに瞬間移動ができるの、スッゴーイ!』
「わーい、たーのしー!」
「マヒロ、ナニとは言わんがそれ以上はまずい」
長ったらしい説明を纏めると、瞬間移動が出来るようになったのだ。ただし、成政の打鉄は訓練機、鈍い灰色が輝く初期仕様のまま。最適化もされてない打鉄が過程をすっ飛ばしてワンオフアビリティを覚えたのか。
『それには、深いわけがあるんだ』
深刻な顔をした束......成政たちの世界の方の......が口を開く。
ほとんど時は同じく、学園から少し離れた海の上にて。
『オラオラー!やっちまえー!』
『あの話......気になるのに......』
『後一体吹き飛ばせば、聞ける、さっ!』
羨ましい......と呟く簪を置いて、ゲッターのパンチが残り一体の機械獣を叩きのめしていた。
『......言ってはなんだが、今回ばかりは裏方に回っているような気がするな。
問題に首を突っ込まないのは久し振りじゃないか?』
『ん?まあ、言われてみればそうだな』
いつも先陣を切って敵に突っ込んでいるゲッターチーム一同、それ故黒幕だったりラスボスだったりと会うことも多くなるのだが、今回ばかりは蚊帳の外。
メタい事を言えば主人公じゃないので、当然のこととも言える。
『ぶつくさ言うなよムサシ。
敵を叩きのめす、それだけでいいじゃねえか』
『しかしなぁ、同じ人間が2人だぞ?気にならないわけないだろ』
『並行世界なんて言われても、私には実感が湧かんのでな』
『フリードさんまで......残党は良いのか?』
『ああ、一夏と鈴が出てるし、いざとなればアイツもいる、なんとかなるだろう』
甲児の乗るマジンガーを筆頭に、ゲッターチームのゲッターロボ、そしてデュークの乗るグレンダイザー。
単騎で100倍の戦力が相手だろうと勝てるような彼らにすれば、正直な話、機械獣一匹相手には過剰戦力以外の何物でもない。
「あの、慈悲とか......」
「「「無い(な)」」」
それが鉄屑になるまで、数分とかからなかったとか。
「こっち、こっちですわ!」
「メディーック......なんちゃって」
「ふざけてないで手伝ってくださいまし!」
「僕に力仕事とか......ヌググ」
「つべこべいってないで働いてくださいな!」
「おい、こっちだ!」
一方その頃、誰からも存在を忘れかけられていた慎二に簪、そしてセシリア。
彼らは現在、自衛隊員に混じって救助活動を頑張っているのであった。
「あーもう出番がなさすぎるのですわー!」
セシリアの心の叫びが届いたかどうかは、神のみぞ知る。