インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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なんやかんやゴタゴタしてる話ですがご容赦を。
作者もラストはなんとなしに決めてるんですがどこをどうして着地すかは謎のままでして。



第40話

 

 

 

「これ、パルクールの応用で受け身でき」

「たらパラシュートの存在価値がありませんよ」

「だよねー」

 

  死ぬかもしれないというこの状況でものほほんとしている成政に毒されてか、やたら落ち着いている箒。現在2人が居るのは地上から約20メートルほど、このままではもしかしなくとも死ぬ事は明らかだ。

 

「まあ、どうにでもなーるでしょ」

「いや死ぬかもしれないんですが!なんでそんなに落ち着いて居られるんですか?」

「いやー、なに。慣れ」

「慣れ」

「なんだかんだでウチの家族は死なないし大丈夫かなーって。根拠はないけど」

「それは希望的観測と言うのではって地面が地面ががががが!!!!!」

「まーそうかもしれないけどさ」

 

何かを見つけて、ほら、と横を指差す成政。

 

「だいたいだれか駆けつけてくれんだよね」

「いつもなぜあなたはこんなことばかり!」

 

その指先にはスポーツカーばりの速度で自転車を駆る謎の美人OLの姿が。

 

「イシカリ、手を!」

「ありがとライダーさん、たよりになるぅ!」

「ま、ママチャリ!?」

 

瓦礫を使ってジャンプ、そのまま2人をひっ摑んだと思うと、そのまま自転車を横に傾け、ビルの壁面を走り始めた。

 

「しっかり捕まってくださいっ!」

「お、おち、落ちるっ!」

「落ちません、私の騎乗スキルはA+ですので」

「なんだそれは」

 

後ろを見れば何故か鳥型の機械獣がママチャリをロックオン、それを噛み砕こうと翼をはためかせてビルの隙間に飛び込んでくる。

 

「うし、後ろっ、どうするんですかこんなもの、ISもないのにい、ママチャリなのに!」

「あはははは、もうどうにでもなーれ」

「先輩!?」

「飛ばしていきますよ」

 

 ライダースーツを着込んだライダーが腰を浮かし、さらにペダルを踏み込む。チェーンが限界を超えて唸りを上げ、フレームはギシギシと悲鳴を上げても、漕ぎ続ける。

 

「貴方に足りないものは、それはっ!

情熱思想理念頭脳気品優雅さ、勤勉さ!そしてなによりも、

 

 

......速さが足りない!」

 

 衝撃波がビルの窓ガラスを叩き割り、巻き込まれるようにたまたま進行上のルートに近かった機械獣もその巻き添えを喰らい、轢き潰された。

 この日、ママチャリはマッハで走ることができることは証明された。

 

 

「全く、ビルの屋上から落ちてくるのを見たときはヒヤヒヤしましたよ」

「無茶言ってごめんね、たはは」

「桜も心配して居ましたよ」

「やー、申し訳ない」

「まったく、あなたと言う人は」

 

仲良く会話する傍ら、目を疑うような光景(空中を飛ぶママチャリ)や機械獣と三人乗り自転車でのカー(?)チェイスなど信じがたい目にあった箒は放心状態でただただ空を見ていた。

 

「世の中、壊れているのは姉さんだけではなかったか」

「私はこれでも常識人です」

「はいっ!?」

 

独り言にも目ざとくツッコんでくるライダー、よっぽど気にしているらしく眉間にしわを寄せていた。

 

「これくらい私達にはできて当然、という事です。むしろ私は軽い方ですよ」

「だって人間じゃないしね。セイバーさんもアーチャーも、もちろんライダーさんも」

「あの、神秘の秘匿はいいんですか?」

「こーでもしないと説明できないじゃん。箒ちゃんは頭固いしこれでも説得できるかどうか」

「冗談もほどほどにしてくださいよ先輩。どこからどう見たって人間そのものですよ。先ほどのライダーさんがISを使っているとすれば簡単に説明できます」

「まあそうなんだけど、さあ」

 

どうしたら説明できるもんかな、とうんうん悩みだした成政。戦場で考え事とは随分余裕があるものだ、とそれを間近で見ているライダーは1人感心していた。

 

「ま、細かいことは後でするなりなんなりと。箒ちゃん、さっさと持ってた赤いIS使って逃げようよ、ライダーさんも忙しい中きてるんだし。さっき忘れてたのは水に流すとして」

「そう、ですね。わかりました」

 

 若干無理矢理な話の切り上げ方に渋々、と納得がいかないままではあるが、言われるままに紅椿を展開しようと紅の鎧をイメージしてようとして、

 

『紅椿 展開不能 現在アップデート中、完了までの残り時間は未定だよ。ゆっくりしていってね箒ちゃん!』

「ええっ!?」

「うそん」

「これは、面白いですね」

 

ブザー音と眼前にフヨフヨと浮かぶ謎のテロップと束の声をベースにしたような人工音声、それに驚く箒とその他2名だった。

 

「というかアップデート中とはなんぞやという質問」

「私にもさっぱりだ、むしろ姉さんの考えてることがわかっていたらそれこそノーベル賞ものだろう」

『ひっどいなぁ、姉妹なのに』

『そもそもゴミに私の高尚な思想を理解しろという方が、ってあいたあ!』

『その言葉遣いは自分としてもどーかと思うってば』

『ぬぎぎ......』

「姉さんの事を考えていたら空耳が、いや気のせいだろう」

『気のせいじゃないよ、私のいとしの箒ちゃーーーん!まあ厳密には違うんだけど』

「はわっ!?」

 

ISのハイパーセンサー同様に空中にディスプレイを展開、そして大声で愛を叫ぶ天災が画面いっぱいに映し出された。

 興味深そうに実体のないテロップをつついていたりしていたライダーが一番割りを食ったのは確かだろうが、一番驚いていたのは成政だった。

 

「い、いつぞやの不法侵入者!しかも2人!?」

『天災に対してその言い方はないだろおい、解体するぞ盗っ人。それに臨海学校でも声聞いてるだろうがっ!』

「あっ、そういえば。どっか聞き覚えのあるような声だなーって」

『印象が薄い!』

 

 顰めっ面でいちいちオーバーリアクションを取る天災こと束、それを自分の黒歴史でも見ているように若干頬を引きつらせて笑う、これも束。

 

「姉さんが2人......?まさかクローンでも」

『いくら束さんでもそこらへんの倫理はわきまえてるよっ。まあ作れるけどねーん』

『せっかくはるばる並行世界にまで会いに来たって言うのに、気づいてくれないなんて妹失格じゃないの箒ちゃん』

「いや、そもそも滅多に家族に会おうともしない姉さんの方が姉失格といいますか」

『ゴッフゥ!?』

『自爆!まさかのブーメランが刺さっちゃったの、阿呆らしー平行世界の私、ぷぷぷ。

そんなことより、本題に入りまーすっ!』

 

 心に深刻な傷を負って倒れた束を放置して、もう1人の束が話し始めた。しかし視線は箒たちではなく、どこか別のところをあっちこっち見ているように定まらない。

 

『箒ちゃんの紅椿なんだけど、実際はいくつかリミッターが仕掛けてあるの。

 安全機構というか、展開装甲も絢爛舞踏もいかんせん不安定でね、フル出力で動かしたら壊れちゃうかもしれなかったから。でもでもリミッターかけた状態でも最高のISなのは保証するよっ。なにせ私の作品だしね』

『私の作品だ。勝手にパクらないでくれるかな』

『ごめんごめーん、私だったらこんな未完成品渡さないか、いやーうっかり!』

 

場所変わるねーん、と言い残して画面からフェードアウトしていく束。残ったのは復活したらしいしかめっ面をした方の束、そのまま画面中央に位置取って、先程と同じようにせわしなく視線を向け始める。

 

 

『ちっ、後で締める。

ともかく、紅椿は不安定な未完成品、今2人がかりで調整と改良、それをひっくるめてアップデートをしてる。本当だったらこんな状態で渡して箒ちゃんを危険に晒すような事はしなかった。本当だったら、ね』

「つまり、何か原因があったと言うことですか」

『その通りだよピンク髪。

 どいつもこいつも箒ちゃんの周りに纏わり付いたゴミのせいで』

 

言っているだけで怒りが湧いてきたのか、そのイライラをキーボードにぶつけ出す束。もちろん画面の外での出来事なので成政たちには分からない。

 

『あんの野郎経歴は黒塗りだらけだしやたら外国行ってるせいで調べる範囲も多いしアナログ情報ばかりで現地に行く羽目にもなるし、おまけにイギリスでは頭のイカれたマジシャンと戦う羽目にはなるし、散々だったんだよああ今思い出しただけでもイライラしてきた!馬鹿!ファック!○×#$€□%=£......』

 

 そんな悪態をつきながらも仕事を止めることはしないあたり一流なのだが、その女性らしからぬ様々な言語での悪態の数々が台無しにしているのを本人だけが知らない。

 

『あの子の了承も得て仕掛けたウイルスも時限式で融通は効かないし、時間もないから途中で切り上げたけど、紅椿の調整には遅すぎた、。10徹して間に合わなかったのはアレが初めてだよ。

 それでそのまま7月7日のXデイ。そのあとの顛末は知っての通り、無事にいっくんの白式もセカンドシフト、紅椿も実戦データはバッチリ確保して、華々しいデビューを飾った訳。

 

私の完璧な計画では、こうなるはずだった。だけど計画は狂いに狂った。

 いっくんと箒ちゃんは死にかけるわ、あの子はなんでかセカンドシフトするわ、他の国の代表候補は出張ってくるわ。華々しい箒ちゃんデビュー作戦はこれにして失敗となった訳。

 その原因はたった1つ。邪魔なイレギュラーが全部元凶。小石程度の凡人が、私を崩して壊した。それがお前だよ、石狩成政』

 

 

腕を組んで聞き入っていた3人、少し間をおいて成政が顔を上げ、指を鳴らした。

 

「ところでお腹空かない?そろそろ12時だよね」

『知るか!』

「というか話が長い、途中から飽きた」

『聞けよ!天災が話してんだぞ興味持てよ、というかさっきのはなんだ、マッハで生身で移動するなんて正気ですか、シールド張るのが遅れてたら2人とも摩擦熱でこんがり焼けたミンチになってたんだよ!』

「よし、ハンバーグにしよう」

『 聞 け よ !』

「まあ冗談です、ちゃんと1から8位までは聞いてますが全部は無理です、長いので」

 

 冗談を適度に織り交ぜつつ事の要旨はしっかり捉える、成政も調子が戻ってきたらしくいつものような話し方になっていた。それは相手が天災であろうと変わりはない。

 

「要するにあかつばき?って言う箒ちゃんのISは使用不能、と言うこと」

『暫くはね。オンラインだけでの作業だから30分もかかるけど、そこは仕方ないから文句言うな』

「だったら僕のISは使えませんか?他からエネルギーを受け取るとかすれば動かせるって授業で習いましたし」

『エネルギーバイパス?紅椿ならそれくらいお茶の子さいさいへのかっぱ、アップデートの済んだリソースでできる。多分5分もかからないしね。ま、紅椿が起動するまでの繋ぎにはちょうどいいかな』

 

ちょいちょいーっと、と鼻歌を歌いながら文字通り片手間にエネルギーバイパスのための作業を並行して行う束だったが、

 

『へわ、ちょ、ちょっと待った!』

 

 素人目から見ても明らかに緊急事態、が起きた。レッドアラートらしく警告音と、顔に反射している赤い光。元々の作業を放り出して慌ただしく手を動かす束に、これまた慌てた声で突っ込む束。

 

『どーなってんの?!アップデートが中断されたんだけど、何かした?!』

『わかんない、ただ打鉄1機を繋いだ程度でこんなにエネルギーが奪われるはずないのに。このままじゃ紅椿まで動かなくなっちゃう、えと、ええと』

「打鉄パワーダウンで装甲消えちゃいましたし、そのせいじゃないですかね?」

『そんなはずない、ありえない、その程度紅椿だったら10秒もかからないはずなのに。

こんなのISを1から作るレベルのエネルギー量に匹敵するレベル......』

『ああもうこういう時に波動エンジンがあったら万事解決オールオッケーで楽なのになーって、作業の手止めないでよっ!』

『ああもう考え事してるんだから黙ってよ!』

 

画面の向こうはてんやわんやなのだが、状況をさっぱり飲み込めない画面の外の傍観者3人。

 

「何が起きてるんでしょうか?」

「何かが起きたのはわかる、何かあるんでしょ」

「いや、その何かを知りたいんだと思いますが」

『ISを1から、いやでも、ISを作るようなプログラムはできないようにしてあるはず。

 だったらエネルギー切れ?いやある程度来ればセーフティがかかるはずだし、何よりそこまで消費するような事態はセカンドシフトでもありえないはず、ああもうもう少しなのに、なんだ、何が足りないの?!』

 

正解にたどり着きそうでたどり着けない、そのもどかしさにイライラと頭をかきむしる。

 それでも片手で作業を続け、目は言葉と数字の羅列を追いかけ続ける。

 

「時間もかかるようですし、ここでは危険でしょう。とりあえず乗ってください。IS学園であれば安全と呼びかけをしていました。恐らく避難先に指定されているのでしょう。ならば、そこへ向かうべきでしょう」

「えっと、また自転車で、です、か?」

「そこの車のキーの持ち合わせはあるのなら、そちらにしますが」

「瓦礫で道がふさがれてるかもしれないじゃないかな、だったら歩く、歩いた方が確実だろう!」

「箒ちゃん、こっから学園まで10キロはあるけどどうするの」

「ぬぐぐ......」

「文句言ってないで乗った乗った。

 僕はまだ死にたくないし、箒ちゃんは死にたい訳?」

「そんなはずはない、せっかく先輩に会えたのにくたばるなんてもってのほかだ!」

「じゃー乗ろっか」

「......はい、わかりました」

 

先程のことがよっぽどトラウマなのか、明らかに肩を落とす箒。

 それを元気付けようと、成政は肩に手を置いて自分なりに励まそうと言葉をかけた。

 

「ほら、遺跡の隣の採掘現場で行き先のわからない真っ暗な穴の底行きのトロッコよりマシだから!」

「先輩はどこで何をしてるんですか?!」

「考古学だよ......多分」

「多分てなんなんですか!」




なぜか束さんのCVを小林ゆうさんにするとあら不思議、某ツチノコに。
わざとじゃないんです、なんか混ざったんですご容赦ください。

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