インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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第39話

 

 

 

 

「......は」

 

死を覚悟していた成政だが、その覚悟とか決意は杞憂に終わる。

突然現れた赤い機体、その腕のドリルが絶望を切り裂き、打ち砕いたのだ。

 

『ゲッターライガーのスピードをなめないで』

そう、成政の窮地を救ったのは、ゲッターロボ。何も告げずに、置き去りにしてきたはずの彼らだった。

 

「さっきまで一緒にいて置いてきたのに、こんなに早く......というか形変わってるような」

 

力が抜け、へなへなと座り込む成政。それに対して武蔵らはさも当然といったように返す。

 

『へっ、俺達のゲッターを甘く見んな。これくらいなんでもないぜ!』

『武蔵さんの言う通りだ。ゲッターロボは可変機なのでな。

先ほどの形態もあれば、このライガーのようなスピード型にもなれるしパワー型にもなれる。あらゆる事態を想定したからこその変形、というわけだ』

『そういう事。あのくらいの距離ならゲッターならあっという間。......ちょっとGがきつかったけど』

 

先程おいてきた気まずさと、申し訳なさに襲われ、それでも何かを言おうと口を開こうとした成政を、ゲッターに乗る箒が制した。

 

『それにだ、一人だけで何とかしようとするんじゃない。

今の私にこうして仲間がいて信頼しているように、あなたもその仲間を力を借りていいんじゃないのか?

それに、一人じゃないから仲間という言葉もあるからな』

『箒、それって長谷川千雨のでしょ?おととい私が貸した漫画の』

『......バレたか。まあそういう事だ』

 

簪のツッコミに照れ臭そうに応える箒。

だが、成政はその言葉に対し、雷に打たれたように固まっていた。

まさか平行世界の人物とはいえ、独りよがりな箒にそのような事を言われるとは思いもよらなかった。

 

『もっと、僕たちを頼っていいんだよ。

だから、1人だけで抱え込むな!』

 

かつて、自分が箒に告げた言葉だ。

「そっくりそのまま、よりによって箒に返されるとはなあ」

 

恥ずかしさ半分、照れ臭さ半分で頭を掻く成政。その姿を見て安心したか、ゲッターは振り向き、敵を見据える。

 

『かかってこいや機械獣』

『私たち、ゲッターチームが相手だ!』

『木っ端微塵にしてあげる』

 

両足を踏みしめ、胸を張り、堂々と敵に向かって名乗りをあげるゲッターロボ。

 

「そうだぜ、一人だけでどうにかしようとすんじゃねえよ。一人だけじゃどうやっても限界がある…だからこそ、こういう時は仲間に頼ったり協力し合うのさ!」

「そういう事、俺が鉄也さんに教わった事でもあるしな。

こっちは任せな、俺の実力と超合金のボディと光子力エネルギーで生まれ変わった白式の力、見せてやるよ」

「さあ、行くわよ! こっちは暴れたくてうずうずしてるんだから、やってやるわよ!」

 

背後からそう、三者三様に声がする。

成政が振り向いた時には、3機のISが空を舞っていた。

 

「白式に、甲龍......でも、シルエットが違う」

『あーあー、聞こえてるか』

「一夏?」

『俺は織斑一夏で合っているんだが、別の世界、といったほうが伝わるか?』

「つまり、一夏だけど一夏じゃない、と」

『そういうこった。さっきまで立て込んでてな』

「よくわからん」

『わからねえのかよ......』

『一夏、喋ってないでさっさと行くわよ!』

『すまん鈴、ちょっと待ってくれ。

そういうわけだ、もう俺は行く。

あとは俺たちに任せて、ゆっくり休んでくれ』

白式の翼が空を切り裂き、左腕にマウントされたガトリングを敵に浴びせかけ、怯んだ所を一閃。その剣筋の鋭さは、成政が普段見ていたそれと一味も二味も違う。その事が先の一夏の言葉を裏付けるものであった。

鈴の甲龍も、さらに攻撃的なフォルムになっていた。が、攻撃的なスタイルは相変わらず、双天牙月で敵を引き裂き、龍砲の見えない砲弾が敵を打ち、増設されているクローで装甲をえぐり砕く。

場馴れしてるような手際の良さ、動きの鮮やかさ。だがそれを差し置いて、目立つのは、見覚えがあるようでない、全身装甲のIS。

黒と赤をベースにした太く、逞しい身体。

背中に付けられたコウモリの様な赤い大翼。

悪魔、と言われればそう見えるような、一種悪趣味に見える様な姿だ。

 

『オオオオオオオオオ!!!』

 

白式と同様に剣を一本だけ背負っているが、一夏とは違い技術はお粗末、ただ力任せに振り回しているだけの荒削りなもの。

しかし雄叫びをあげ、恐れずに戦うその姿。見てくれと違い、まさに勇者とでもいうべき様なその戦い様を、成政は時間も忘れて、ずっと眺めていた。

 

 

 

 

 

「......っ、ん......」

「ほ、箒っ!えとどうすればいいんだっけ打撲だったら冷やさないとだし血が出てたら止血しなきゃだし頭打ってたら動かしたらいけないしあわわわわ......」

マネージャーのいらない知識のせいで素直に心配もできない成政。そもそも紅椿はまだ稼働しているので、絶対防御は発動中、自然箒は無傷なのだが、よりにもよって現在傷だらけの成政にそれを理解しろと言うのも無理な話なのだ。

あわあわと周りを見回したり服のポケットをひっくり返したり、かと思えばジャケットを脱いでバッサバッサと振って何かないかと探しだす、落ち着きのない成政。そんな彼の膝に箒はそっと手を乗せた。

 

「......私は、大丈夫だ、先輩」

「箒ちゃん、でも」

「大丈夫だ」

「......大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

「本当に?」

「本当に、大丈夫だ。心配性だな、実に先輩らしい」

聞き分けの悪い子供に言い聞かせるようにゆっくりと語りかける箒、自然と成政も落ち着きを取り戻していた。

無言で、紅椿の無骨な手を伸ばし、確かめるように成政の肌に触れる。それを彼は包み込むように抱きしめた。

 

「本当に、先輩か?」

「うん」

「本当に、あなたは石狩先輩か?」

「そうだよ、箒ちゃん」

「生きて、いるのか?」

「生きてるよ。五体満足で無傷って訳じゃないけど、僕は、生きて、ここにいる」

「......よかった。本当に......本当に、良かった」「そっか」

 

いつものように快活に、とはいかないが、静かに、そう静かに笑う。

それに答えるように成政は立ち上がり、手を貸す。いつのまにか箒は紅椿を消していて、二人同じ目線になって、向き合う。

「......先輩」

「箒ちゃん」

 

一瞬の空白、その後、

 

「「歯ァ食いしばれこのバカ箒(先輩)!」」

 

見事なクロスカウンターが決まった。

 

「馬鹿なの、まじ馬鹿なの箒ちゃん?!練習する時は練習して、休む時は休む、最初に教えたよねぇ!」

「先輩こそかってに出しゃばってヒーロー気取りですか、そんな柄じゃないでしょう!それで死にかけるなんて冗談もいいとこです!」

「うるせぇ!」

「そっちが黙ってください!」

 

かたや疲労で倒れたばかりの病人、かたや満身創痍のけが人、絶対安静のはずなのにいつもの如く殴り合う馬鹿2人。

初手で顔面を張り倒した瞬間から尊敬だとか遠慮などは遠く彼方、機械獣と一緒に木っ端微塵に粉砕されている。

殴る蹴るは当たり前、関節技、プロレス技、噛みつき、金的、篠ノ之流組手術その他色々。

ルール無用のつかみ合いに殴り合い、お互い言いたい事をぶちまけながら拳をぶつけ合い。

 

「こんの馬鹿先輩めっ!」

「こんのアホ後輩がっ!」

 

始まりと同じく、2人はクロスカウンターで地に沈む。だが、地力は箒に軍配があがる。

しばらく息を整えたかと思えば、立ち上がって、叫ぶ。

 

「バーカバーカ、先輩のバーカ!」

「んだとぉ!?」

 

馬鹿にされて立ち上がらない男は根性なしで、成政はヘタレではあるが根性なしではない。

 

「撤回しろこんちくしょう!」

「私は撤回しませんから!」

 

成政は立ち上がるや否や、助走付きドロップキックを箒の顔狙いでぶちかます。

小休止を挟んでのラウンド2、開始である。

 

『......何してんだあいつら』

『そりゃあ、痴話喧嘩だろ』

「すっげえ身に覚えがあるんだけど」

「だって一夏朴念仁だし」

『......激しく同意』

「えっ?」

『というか、ここにいる男は全員そうではないのか?......特に武蔵さんとか』

『ん、なんか言ったか箒、というか顔が赤いが』

『なななななんにもいってないですよ!目の前の敵に集中しないとですよね』

『あ、ああ。そうだな』

「みんな大変ね......」

 

敵と戦う片手間に、サボってちょっとだけほんわかしていた一同であった。

それは、それだけ余裕のある事の裏返しでもある。現に、機械獣は8割以上が駆逐され、残るは取りこぼしと、先ほどまで箒を捕まえていたボス格らしい一際大きな機体のみ。

 

『よし、みんな気合い入れてくぞっ!』

『おう!』

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ......」

 

肌の見えるところには青あざを至る所に作って、鼻からは血を流し、目元は大きく腫れ上がっている。

両者膝に手をつき、息を整える。体はふらつき、意識は朦朧。体の方はもう限界だと激痛でメッセージを送り、頭の方はやってられるかと正常に働くことを放棄した。

しかし目線は相手を睨みつけ、眼光は互いを射抜く。

満身創痍であっても、気持ちは変わらず、始まったときと同じように闘志に燃え上がっている。

 

「......これで、ラス、と」

「臨む、とこ、ろ、です!」

 

己を奮い立たせるように雄叫びをあげ、軸足を半歩下げ、姿勢を落とし、拳を握りしめる。

両者の間は4メートル。長いようで短い、その距離。決着をつけるには、十分だ。

 

「だああああああああああ!!!」

「はぁあああああああああ!!!」

 

一歩目で距離を詰め、二歩目で歯を食いしばり、三歩目で準備を整える。

そして、

 

「先輩のっ、馬鹿ぁ!」

「ご、ふっ!?」

 

箒渾身の、下からドリルのように抉りこむコークスクリューブローが炸裂し、

 

「僕の、負け、か、な」

 

成政を、地に打ち倒した。

 

「け、けが人に遠慮ないねぇ......人の事言えないけど」

「つ、つい、熱くなってしまって」

「まあ、大丈夫......」

 

箒の手を借りて立ち上がろうとし、ふと視線をその後ろに向けた成政から血の気が失せる。

「......じゃない」

「どうしました?」

 

手を差し出したまま首をかしげる箒の手を取って立ち上がり、そのまま流れるように手を引っ張って体勢を崩して足を払い、華麗にお姫様抱っこ。この間約0コンマ5秒。

 

「あの、先輩、そういう事はもっとこう」

「にいいげええええるううううのおお!」

 

今の今までは落ち着いてはいたが、ここは戦場ど真ん中、流れ弾の1つや2つ飛んでくる。

無茶を言うなと軋む身体に鞭打ち、ビルのヘリに躊躇なく脚をかけ、自分の体を空中に押し出す。その直後、飛んできた何かの残骸がビルを押しつぶした。

 

「きゃああああああああああ!!」

「カモン、打鉄ぇ!」

 

聞いたことのない後輩の女子らしい声を背後に、いつものようにそう叫ぶ。プロならば1秒もかからないが、成政はへっぽこ。数秒はかかる、のだが、

 

「......あっ」

「えっ」

 

風が頬を撫で、長い髪がたなびく中、箒が恐る恐る顔を上げて、冷や汗をダラダラと垂らす成政を見上げる。

 

「なんで目をそらすんです?」

「いやぁ......そのぉ」

 

てへぺろ。とさしてかわいくもない仕草をして、成政は答えた。

 

「打鉄が壊れてるの忘れてた、ゴメンね?」

「謝って済む問題じゃないでしょ!?」

 

成政達が地面に着くまでは、残り数秒と少し。

 

 




成政「やっちまったZE!」

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