インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜 作:通りすがる傭兵
IS学園上空。
成政が駆け付けた先にいたのは、一際大きな機械獣の繰り出す触手のようなものに巻きつかれ、力なく垂れ下がる箒だった。
「箒っ!?」
「成政っ、無事か!」
「んな事はどうでもいい、箒を助けないと」
「そんなボロボロの打鉄で攻撃するつもりかよ、いくら絶対防御があるからって過信できるもんでもないんだぞ」
すぐさま飛びかかろうとする成政の肩を掴んで引き止める一夏。
「止めるなよ」
「すまん成政、俺の力が足りなかったばかりに」
「じゃあ足りるようなんとかする」
「っと、危ねえ!」
一夏との再会の言葉もそこそこに、成政は箒を助けるための手段を考える。
敵の目の前だというのに体を動かすことも忘れて、思考だけに全神経を集中させる。
今できる事は何か。
持ち札はどんなものなのか。
切れるカードは何なのか。
この場における最善策は。
「ダメだ、ダメだ、ダメだ......!」
このような状況にあっても、成政は冷静なままだった。
正確に敵の力量をはかり、自軍戦力を叩き出し、能力値を当てはめて脳内でシュミレートする。
何回も、何回も、何回も、何回も。
だが、勝てない。
1パーセント以下の薄い希望を見出せたとしても、そこから先は袋小路、敗北一直線。時間稼ぎもいいところだ。
援軍なんてハナから期待などして居ない。そんな御都合主義はありえないと切り捨てた。
「成政、まだか!」
「まだだ!」
「なるべく早く頼むぞ、こっちだって戦いっぱなしなんだ!」
成政には、勝てる未来が見えなかった。
◇◇◇
「なんだ、簡単な事じゃないか」
「誰かが犠牲になればいい」
「マネージャーなんていても居なくても変わらない」
「臨海学校の時もできたじゃないか」
「お前ならできる」
「お膳立ては裏方の仕事だろう」
すとん、と湧いた言葉が心に響く。
そうだ、誰かが犠牲になればいい。
1番この場から居なくなっても、困らない奴が。
......いや、そうじゃないだろう。
僕は死ねば、きっと誰かが悲しむ。多分。
それに、箒ちゃんには言いたいことは山ほどあるし、伝えてない事だって沢山ある。
それに、1発殴るまでは死んでも死に切れない。
誰も死なずに、全員が笑顔で居られるような結末を。
ご都合主義でも構わない、ハッピーエンドが一番に決まってる。誰も死なないで、またあの生活に戻りたい。
だったら、僕に何ができる。
このボロボロの打鉄と、へっぽこ三流操縦者に、何ができる。
石狩成政に、出来ることは......
◇◇◇
「......一夏、箒のこと、よろしく頼む」
「なんだよ急に」
「なに、ちょっと主人公を気取ってみるだけさ」
右手に銃を、左手に剣を。
弾はマガジン1つ分と、装填されていた1発の6発きり。刀は半ばでへし折れ、ナイフ程度の刀身が残るのみ。
全力には程遠く、もし万全であっても勝てる相手ではない、そのことは成政とて理解できている。
「......ほんと、貧乏くじばっかだよなぁ」
それでも、彼は行く。
「なんせ、好きになっちゃったんだもんなぁ!」
愛する彼女を、救うために。
視界がモノクロに切り替わり、流れる景色が平静のそれよりもゆっくり見える。だが、それは成政の体も同じ。
手負いのISを舐めたのか、機械獣が差し向けた触手はたった数本。
その慢心、その油断の隙間を、針に糸を通すかのような細い道を、成政は選びぬかなければならない。だが不思議と、緊張はしていなかった。
身体の中心を貫通するように伸ばされたソレはバレルロールで軸をずらしてかわす。
横薙ぎの一閃を、剣の腹で弾いて逸らす。
斜め上の袈裟懸けに落ち潰そうとするソレを、銃撃で弾き、駄目押しに銃で殴って無理やりどかす。
「届け」
足に巻きつこうと後ろから迫るものを撃つ。
「届け」
絞め殺そうと迫るものを斬りとばす。
「届け」
引き金を引いても何もおきなくなった銃を逆さに持ち、投げ飛ばして邪魔なものを払う。
「届け、届け、届け」
かいくぐって身体に巻きつかれた、だが問題ない。
ISを解除、勢いをそのままに空中に飛び出し、機体を再構成してかわす。
「邪魔だあああああああああ!」
彼女に巻きついていた触手を一刀両断する。
代償として、刀は根元から木っ端微塵に砕け散る。
だが、問題はない。
「届ええええええええええええ!」
手を伸ばす。
意識を失い、落ちる彼女へ手を伸ばす。
目をとじ、傷だらけになった彼女に手を伸ばす。
そして、
「届、いたっ!」
訓練機で、鈍足であるはずの打鉄。
しかし、搭乗者の気迫がそうさせたのか、機体は全力以上を以て応える。
「飛べ、打鉄えええええええぇ!」
数多の剣士が目指し、折れていった。
天才と言わしめた剣士、その一握りのみがたどり着くことのできた究極奥義、縮地。
機械の鎧の助けはあれど、石狩成政、そして打鉄の全力は、
「消え、たっ?!」
ISのハイパーセンサーがとらえきれない程の神速で、空を駆けた。
だが、その代償は。
「これまで、か。ありがとう、打鉄」
『シスーー......活動、限ーー......。本機は、役にーー、立て......』
「ああ、お疲れさま。いい、試合だった」
『活動、停............』
気がつけば立っていたビルの屋上、そこに抱え込んでいた箒を下ろしたところで、打鉄は光と消えた。
しかし、まだ機械獣は健在。
せっかくの獲物は逃がさないと、成政達に触手を差し向ける。
だが、ソレを防ぐすべはもう成政にはない。
「......最後に告白くらいはしときたかったな」
「だったら、さっさと告白しちまえよ、こんのヘタレ野郎め!」