インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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あと少し、あと少し......


第37話

 

 

「......うん、僕弱すぎるね!」

 

張り切って飛び出したはいいものの流れ弾一つで成政がノックアウトされてしばらく。ビルの壁に突っ込み、フロアを丸ごとぶち抜き、ひときわ太い柱にぶつかってやっと止まり、逆さまになりながらそう自嘲していた。

一夏だったら躱せていただろう。

鈴だったら跳ね返せていただろう。

ラウラだったら止めていた。

セシリアは紙一重で躱して反撃した。

シャルロットだったら蜂の巣にしていた。

簪ならば棒立ちでもミサイルでなんとかできた。

マヒロだったら喰らっても問題なかった。

そう思うと、自分の不甲斐なさがよくわかる。

 

「けど、やらなくちゃいけないんだよね」

 

それでも、前に進む。

進まなくては、いけないのだ。

 

「みんなができて僕ができない道理がない。

専用機だって関係ない、お前でもできるはずだ、そうだろ?」

 

任せんしゃい、と言うようにボロボロの体を引き抜き、瓦礫を払って打鉄が浮き上がる。

とはいえ、彼に何かができるわけでもない。

 

「何か武器あったっけな......?」

 

成政の頭はまだ霞みがかったように記憶があやふや、そして武器の数など普段気にしないようなもの、覚えているわけもない。

 

「何かでろ!」

 

よく使っていたらしい刀を取り出す要領で、腕を前に出してそう唱える。

 

特に何も起きない。

 

「だよなぁ......そこまでISって気が利くわけでもないもんな」

 

無茶言ってすまんな、と謝ろうとして何か嫌な予感がし、その場から飛びのく。

 

その一瞬後、ビルのフロアを貫いて長い鉄骨が落ちて来た。ボロボロの打鉄が当たっていれば、と顔が青くなる成政。

同時、凄まじい風切り音がして、衝撃でビルのガラスを粉々に砕いて成政の上に降り注ぐ。

 

「なにしやがんだもー!」

 

文句の1つでも言おうとガラスがなくなった窓から身を乗り出すと、そこでは、アニメで見るような超巨大ロボ、としか言えないような何かが機械獣を振り回してぶん投げていたり、腹を抜き手で貫いたり、目からビームを出したりと縦横無尽な活躍。何故かそのうちの1機がどこかで見かけた柔道技をかけていたのを、成政はとりあえず見なかったことにした。

 

とはいえ、何もしないわけでもない。

こんなポンコツでも、人助けのひとつやふたつくらい出来るのだ、と成政は自分のほおを張った。

 

「さて、どうしたものかな、っと」

 

とりあえず変なのが少なそうなの、とふらふらと高度を上げて、キョロキョロと辺りを見渡す。

打鉄のハイパーセンサーは現在故障中で、あいにく成政の肉眼でしか見ることはできない。

そして目まぐるしく変わる戦況と、IS以上の速さで飛び回ったり吹き飛ばされたりする機械獣の成れの果てのせいで、何がどうなっているかがわからない。

 

「そういえば、マヒロは無事なのかなぁ......」

 

そう呟いて、意識を少し逸らした瞬間、

 

「あ」

 

気がつけば、影が全身を覆っていて、見上げた頭上には、物言わぬ瓦礫が今にも降り注がんとしていた。

重力というものは一定のはずなのに、瓦礫がゆっくりと落ちてくるのが見える。

これが走馬灯か、と頭の片隅で呑気に考えて始めた成政。ボロボロの打鉄に、この大量の瓦礫は耐えられないだろう。

そのまま、瓦礫に押し潰されそうになって......

 

『大丈夫か!』

 

赤い稲妻が、地面を掠め、瓦礫を殴り飛ばした。

 

「......はえ?」

 

バラバラと自分の周りに降り注ぐ瓦礫を気にする暇もなく、成政は先ほどの声を反芻していた。聞き間違えようのない、凛とした、少し低くて、よく通る声。

成政はその声の持ち主を知っている。のだが、

 

「どうにも、こんな風じゃなかったような、いやでも赤かったからこれであっているような」

 

機体が記憶と少し違う気がするのだ。

赤かったのは覚えている、だがこんなにがっしりどっしりとした機体だったかろうか、と首をかしげた。

 

『そこのIS、早くここから離れた方がいいぞ、残念だがISごときじゃコイツらには勝てない』

『......逃げ遅れた人に、助けを』

『そういう訳だ、早く行け!』

 

三者三様に退避を促す声がその赤いロボットから響いてくるのだが、成政はそれを右から左へ受け流して、

 

「箒......ちゃんだよね?」

『私の名前は箒で合っているが、それが』

「いき、てるよね?」

『なんだ貴様、馴れ馴れしいな。この通り生きているのだが!』

「はあああああ、よかった、よかった......」

『あ、おい、なぜ泣き出すのだ、貴様、おい!いま立て込んでいるのだが!』

 

 

 

 

「つまりここは並行世界で、君は別の世界の箒ちゃん、簪さん、と言うわけでいいんだよね?」

『多分そんなんじゃねえかな。しかし良く俺の雑な説明で理解できたな』

「並行世界は行ったことあるので」

『そんな旅行に行ったみたいな口調で言う事じゃねえだろ』

「慣れですから」

『よくわからんが苦労してるんだな』

 

どうにも食い違う話をまとめて、自分の置かれた現状を理解した成政。

打鉄を守るようにそばにいる赤いロボットことゲッターロボと一緒に、IS学園に向けて街を歩きながら他愛もない会話を交わしていた。

「しかし、よく見たら顔つき違うねぇ。こう、そっちの箒ちゃんは顔が硬いし、雰囲気も刺々しいと言うかなんというか」

『まあ確かに刺々しいのは分かるな。お前の方の箒はどんななんだ?』

「もうちょっと柔らかくて、優しいかな。でも試合の時は一振の刀みたいに鋭い剣気を出しててさ、ギャップ?みたいな感じでかっこいいんだよね」

『この戦いが終わったら、改めて手合わせを願いたいものだな』

「え、改めて?」

『口だけじゃなくて、手も動かして』

『わかってる、ぜっ!』

 

ボロボロの打鉄に無理はさせまいと、自ら護衛を買って出た武蔵。残り2人も異存はないと言い、成政は時々降って来る瓦礫をかわすだけで済んでいる。

 

「ところで箒ちゃん無事かなぁ......無理してないといいんだけど」

『無理はしているな。さっきまでベッドの上だったし、酷い顔だった』

「その話詳しく」

『たまたま鉢合わせして、戦った』

『まー酷いもんだったな。疲れも酷かったし、動きも鈍い。日頃から紅椿は見てたが、もっと動けるだろうな』

「無茶してるな、はぁ。帰ったらお説教しないと」

『愛されてるんだな、そっちの箒は』

「剣の才能もあるし、なんだかんだで長い付き合いになるしね。それなりに愛着も湧くよ」

『そういう意味じゃないんだがなー』

『......にぶちん』

「え、僕何かした?」

『そういう意味の愛されているでは、ないのだ』

 

質問の意味を察した瞬間、みるみる顔を赤くしてブンブンと両手をふる成政。そういうのじゃないから、違うから、と弁明するのを見て、3人は砂糖を吐きそうな甘い気配を感じ取っていた。

 

『で、話を戻そう。この世界の敵、まあ今武蔵さんがぶん投げたああいうのだが、ISごときでは太刀打ちできない、というのはIS学園では常識になっている』

『要するに、黒子役かかませ』

『簪の言い方は酷いが、実際かなり近い。その為のスーパーロボットであり、私達だ。

もう1人の私、はおそらく一夏達と一緒に避難誘導や火の粉を払うくらいはしているとは思うが、自衛以外の戦闘はしていないだろう』

 

戦闘に集中している武蔵を置いて、2人がそう説明する。それにうんうんと頷いている成政だったのだが、ふと疑問が浮かんだ。

 

(あれ、常識とかなんとか言ってるけど、

 

 

 

 

......僕らの世界の出身者はこれ知らなくない?)

「ごめん、用事ができた」

『おい、ちょっと!』

 

そこからの行動は早かった。

無意識のうちにスラスターを吹かし、サクッと瞬時加速を発動させ、止めようとするゲッターを振り切って空に舞い上がる。そして目立つIS学園の中央タワーに向かって、駆け出した。

 

「まずいまずいまずいまずい」

 

疲れは人を鈍らせる。体は言わずもがな、特に鈍るのは頭、思考回路だ。

武蔵らの話ぶりを見る限り箒の疲れが相当に酷いのは明らか、その状態では相手の実力もわからない。箒があの強敵に立ち向かって蟻のように潰される最悪の未来を、成政は幻視していた。

 

そしてそれは、現実のものとなっていた。

 

「箒ぃぃぃぃぃい!」

 


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