インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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長らくお待たせしました、やめて石投げないで(・ω・`)

ともかくこれで36話。話もだんだんと終わりに近づいて参りましたよ!


第36話

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ......つ、着いた」

 

汗まみれ、埃まみれになりながら転がり込むように昇降口にたどり着いたマヒロ。

 

「み、みんなは、何処に......」

 

キョロキョロと辺りを見回して、見慣れた人影を見つけて助けを求めた。

 

「い、一夏!」

「なんだ、呼んだか?」

「とにかく成政がピンチで、でも俺じゃあISが無いから助けられなくて、だから、だから!」

「ちょっと待ってくれ!一体、そもそも君が......」

 

半ばパニックになってまくし立てるマヒロ、だが訳がわからないと一夏は手でどうどうと落ち着かせようとして、

 

「早くしないと、成政が、成政がぁ......」

 

ボロボロと涙を流すマヒロを見て、半ば口からでかけていた言葉を引っ込めた。

 

「わかった、よくわかんないけど俺に任せろ!」

 

 

 

 

 

「くそ、しくじった、か......」

 

ギリギリと首を締め上げてくる金属の鞭を引き剥がそうとするが、硬く、ビクともしない。

それどころか更にギリギリと箒の首を締め上げ、酸素欠乏でチラチラと視界に黒点が映り出す。

思えば、これも自業自得なのだ、と笑った。

これも全て、成政を見捨てた自分の因果応報、受けるべくして受ける罰なのだと。

『箒、しっかりしろ、今行くからな!』

『あんた、こんなところでくたばんじゃないわよ、ねえ!』

『箒、頑張って!』

『ホウキ、もう少しだけ、もう少しだけ耐えろ!』

 

一夏達の声が聞こえる、がノイズがかかったようにぼやけて、聞こえているはずなのに聴こえない。まるで、深海に沈み込んだようで、

 

(ここにいるのが私だけみたいだ......先輩も、同じだったのだろうか)

 

あの時の、成政のようだった。

 

2人を助ける為に訓練機で飛び出して、たった1人で強大な敵に立ち向かっていた彼は、墜ちるまでずっとこんな気持ちだったのだろうか。

 

とりとめの無い日常が、箒の脳裏に浮かび、そして消えていく。

 

 

 

私が小学校五年生の時、要人保護プログラムで家族から引き剥がされて、他人との関わりを避け自分の世界に閉じこもっていた。

自分の周囲全てを、憎んでいたあの頃。

そんな私に手を差し伸べ、救ってくれたのは、とある男子マネージャーだった。

 

 

 

 

『そこの仏頂面でポニテの君、剣道部に入らないかい!』

『......』

『無視はよく無いぞ無視はー』

 

中学入学式の次の日。

朝早くから校門で勧誘のビラ配りをしていた先輩とすれ違ったのが、最初の出会いだった。

 

『すみませーん、篠田さんいますかー!』

『......私はもう帰る』

『見学くらいしていってよ、素っ気ないなぁ』

『帰る』

 

『篠田さんいますかー』

『......なんだ』

『剣道部入ってよー』

『帰る』

 

『しーのーだーさーん!』

『なんだ』

『僕と契約して剣道部に入ってよ!』

『帰る』

 

『しいいいいのおおおおだあああさあああん!』

『......帰る』

 

4月の間ずっと教室に押しかけ、執拗に勧誘を重ねてきた先輩。

先に折れたのは、私だった。

 

『もう本入部の締め切りだからさ、剣道部って書くだけでいいからさ!』

『......辞めたくなればやめる、行きたくなったらいく。それでもいいか』

『それでもいーよ、かもん!』

 

クラスメイトの面倒ごとはやめてほしい、という雰囲気もありはしたが、私が入部届けに判子を押した理由は、

 

『剣道、楽しいよ、だからやってみようよ!』

そのキラキラと輝く純粋な瞳に、惹かれてしまったからだろう。

 

入ったはいいものの、宣言通り幽霊部員で、1ヶ月に1度くらいしか顔を出さなかったな。

1年生のため試合にも出ることはなく、練習試合もほとんど不参加。

ただ、時折やってきて武道場に端っこで、勘の鈍らない程度に素振りをしては帰っていくのを続けた。

 

『冬木一中剣道部、ファイトー!』

『『『おす!』』』

『......』

『箒ちゃん、頑張ろ!』

 

そして迎えた夏の大会。

 

『地区予選、敗退かぁ』

『......』

『次、頑張ろう!』

 

あっけない敗北。

あっけない終わり。

県大会に登ることもできないまま、最初の夏を終えた。そして、秋の新人戦に向け、新体制がスタートする。

 

『てな訳で、ご紹介に預かりました副部長の石狩です。皆さん、秋大会はとりあえず県大会出場目指して、皆さん頑張りましょー!』

 

新体制となっても相変わらず、私の出席率は悪いままだった。

 

『なあ、あの篠田っていうの、かんじわるいっつーか』

『わかるー、なんか空気読めない、って感じ?』

『......そもそもあいつ、なんで剣道部にいるんだよ』

『さあ?なんで入ったんだろ』

 

悪評が立つのも、そう遅くはなかった。

同じクラスの仲間たちや、先輩たちがそう話すのをたまたま陰で聞いてしまった私は、

『やはり、私は必要ないようだな......』

 

そして、要人保護プログラムの定期的な引っ越しも、目前に迫っていた。

 

(あと1週間で、転校になるのか......)

 

小学校から何回も繰り返してきた転校。

偽名で自分を偽り、転校後の住所もデタラメで手紙も届かない。

そんな毎日を繰り返すうち、私の心は擦り切れ、何も感じなくなっていた。

別れは告げない、そのつもりだったはずなのに。なぜか武道場に足を運んでいたのは、

 

『剣道、楽しいよ、だからやってみようよ!』

 

脳裏に浮かんだ、しつこく自分を勧誘してきた男の姿を頭から追い出した。

そうだ、こんなものただの気まぐれ、どうせ必要とされていないならば、別れもいらない。

そう言い訳をして、きびすを返す。

 

もう、会うことはないだろう、そう思っていたのだが、

 

『何か悩み事でもあるの?』

 

いつのまにか、にこにこと笑うあいつが立っていた。

 

『......あなたには関係のないことだ』

『まあまあ、そう言わずに。先輩に任せなさいな』

 

長い付き合いでもないのに馴れ馴れしく肩に手を置き、自信たっぷりに胸を張るこの男。その心遣いは、逆にひび割れた私の心には毒でしかなかった。

『あなたには関係のないことだっ!』

『それを言われると余計気になるな。何があったの?』

 

そいつを突き飛ばそうと手を伸ばすが、ひょい、とかわされる。しかもにこにこと笑顔を崩さないままだった。私は、それが自分をバカにしているようで、

 

『......っ、ふざけるな!』

 

気がつけば、背中に背負っていた木刀を振り抜いていた。

 

 

 

 

『それで、言いたいことはそれだけか?篠田 箒』

 

ぴちゃり、ぴちゃりと水の滴る音が聞こえる。

我に帰って木刀を手からとり落すが、それに構わずそいつは私の肩を掴んだ。

 

『お前には関係ない、自分の問題だから自分で解決できる。だから構わないでくれ。

 

僕は、そういう言葉が大っ嫌いだ!』

 

女子だから、と手加減することもなく、私の顔を殴りつけた。痛みで地面にへたり込む私を見下ろし、額から滴る血を制服の裾で乱雑に拭って、続けた。

 

『なんでも自分で解決できるなんて思うなよ。そんな事が出来るのは神様だけだ、そしてお前はただの人間だ!

たしかに心無い人は笑うかもしれない、無視するかもしれない、でもさ、お前の隣に立っている人は、全員そうじゃないだろ。

 

いつも笑わない篠田の事を相談しにきた、お前のクラスメイト。

たまにでいいから、と笑顔で毎回出迎えた顧問の先生方、そして担任の先生。

みんなお前のことを心配してるんだ。

それに、お前を誘った、僕が、1番心配してるんだよ!』

 

呆気にとられる私の胸ぐらを掴んで無理やり立たせて、そいつは心の限り叫んだ。

 

『もっと、僕たちを頼っていいんだよ。

だから、1人だけで抱え込むな!』

 

それから何があったか、あまり覚えていない。

ただ、たくさん泣いたことだけは、はっきりと覚えている。

声の限りに、ずっと。

 

 

それから私とそいつ、いや先輩との、長いようで短かった付き合いが始まったのだろう。

『要人保護プログラムねぇ......

なんとか出来るツテがあるよ!』

『いや、法律をどうこう出来るものなのか?!』

『出来るんじゃなくてするんだよ!』

 

黒い服を着た怖いおじさんが沢山いる家にお邪魔したり、

 

『雷同さん、なんとかできませんか?』

『やーだこの子かわいいー!』

『......なんとかしよう』

 

どこか見覚えのあるエプロンを着た、虎のような新任教師がやってきたり、

 

『この秋からこの学校に勤めることになりました、藤村大河です。よろしくお願いしま…...誰がタイガーじゃおらぁん!?』

『ひっ』

 

部活に毎日顔を出し始めたのもこの頃だった。

最初は他の部員にも距離を置かれていたものの、だんだんと話すことも増えて、4月には溶け込むことができた。

 

『はっはっは、やっと来たかこの不良部員めー!』

『美綴さんやめてあげてくださいなー』

『ず、随分、活動的なのだな......』

 

そして練習漬けの毎日は、瞬く間に過ぎていって、

 

『卒業式かぁ』

『おめでとうございます、先輩。

そして、ありがとうございました』

『......あー、こっちこそありがとう。

また、どこかで』

『はい!』

 

卒業式の日、校門前の満開の桜の下で、別れを告げた。

また、会えると信じて。

 

 

「せん......ぱい、また、会える......かな......」


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