インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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自分の未熟さが歯がゆいです。


第35話

 

 

「今日の天気は晴れ、時々戦闘機、と」

「呑気なこと言ってないで、逃げるよ!」

 

呑気にそう呟く成政に対して、マヒロは必死だ。なんせ女子高生が男子高校生を抱えて全力疾走をしなければならないからである。

戦闘機が墜落してきたのならば非常事態ということは誰でも理解できる。かといって頼みの綱のISは手元にない。

ならば、無様に逃げるしか手は無い。

 

「ほら、背中乗って!」

「はい?」

「あんたは足が悪いから走れないの!」

「ああ、そうでしたっけ」

「軽、ちゃんとご飯食べてる?!」

「最近は食欲がなくてねぇ......」

「後で色々聞かせて貰いますから、ねっ!」

 

救いだったのが成政の体重が軽く、そしてマヒロが女子の割にガタイが良かったことだろう。

すぐさま成政をお姫様抱っこで抱え上げたマヒロは、どこか避難できる場所はないかと行くあてもなく走り出した。

 

「わーお、UFOとかメカみたいな動物が空飛んでら、アニメみたい」

「そんな訳、って機械獣だーっ?!」

 

空を見上げれば、ビルの谷間を縫うように機械の獣が駆け回り、辺りを炎が覆い始める。

そんな事よりアニメの敵が現実の空を飛び回っている方が、よっぽどマヒロ的にはヤバイのだが。

(どうする、東京にシェルターがあるなんて聞いてない、かといってISのない俺じゃあ何もできない。素直にIS学園を目指す?あそこなら安全......よし)

 

「IS学園どっちかわかる?!」

「この通りをまっすぐ、だったかな」

「わかった」

 

その前に休憩、と抱えていた成政を下ろす。

そして壁に手をついて、荒い息を整ようと深呼吸。

 

「お茶、飲みかけだけど」

「ありがとう」

 

渡されたペットボトルの茶を一気飲みして、空ボトルを地面に投げ捨てる。それを律儀に成政は拾いに行き、少し離れたゴミ箱に捨てにいっているのを視界の横で見ながら、マヒロは空を見上げた。

 

馬鹿でかい機械獣に倒して、その周りをくるくると小さい何かが飛び、時折閃光が走る。

きっと自衛隊の打鉄なのだろうが、ハイパーセンサーがない今、それを確認するすべはない。

 

裾で汗を拭い、休憩は終わりと成政を背負おうと歩み寄ろうとして、

 

「馬鹿野郎来るな!」

「っ!」

 

成政の怒号に、一瞬体が固まる。その一瞬がマヒロの命運を分けた。

 

ズガン、という衝撃音と同時に、何かが2人の間に突き立てられる。そして地面を覆っていたアスファルトが飛び散り、反射的に後ろに飛んでいたマヒロの体を打ち据える。

立ち込める砂埃で視界が取れない状況で、マヒロは最悪の状況を考えてしまった。

 

(もし、成政が瓦礫の下敷きに......)

「成政、無事?生きてる!」

「なんとかてところ。一応怪我はないよ」

 

よかった、と胸をなでおろす。だが全くもって状況は大丈夫ではない。

緊急事態なのにのほほんとした成政が指を折りながら状況を整理していく。

 

「神上ちゃんがいる方がIS学園側で、こっちは反対側。瓦礫がビルが丸っと落ちてきてるし、崩れそうだし通りたくはないね。

で、件のビルは燃えてるしダメ元でも通れない。ここ以外の道を探さないと」

 

絶望的だ、と全部を投げ出したくなるような状況だ。

空では謎の機械とISが戦闘を繰り広げ、いつ流れ弾が落ちて来てもおかしくない。そしてビルが立ち並ぶこの街、一つ倒れるだけでどうなるかは言わなくとも理解できる。

そして走れない上に地理も理解できていないであろう成政をここに置いて行くのは、

 

「......まるで、成政を見捨てるみたいじゃない」

 

もしここにISがあれば全部解決したのに、こんな瓦礫ひとっ飛びして、上空で暴れるあいつらも叩きのめして、主人公みたいに全部解決できたのに。

夏休みだからとオーバーホールに出すんじゃなかった。

ともかく、間が悪かったとしか言いようはない。だが、それでも自分自身を責めずにはいられない。

 

「どうするの?」

「さあ、救助を待つしか」

「絶望的じゃん......」

「死ななきゃいいけど」

「なんでそう気楽そうなのよ」

「死ぬ気で死なないように頑張るんで」

「理由になってないでしょ」

「なんか、これ以上のヤバいことにあった気がするんだよねぇ。なんとなくだけど、これくらいだったら多分いける、って思ってる。

根拠なんてないけど」

 

マヒロの方から顔は察することはできないが、先ほどと変わりもしない気楽そうな声、成政の言う通り余裕があると判断したマヒロは、体についた砂を払い、成政と反対方向を向く。

 

「すぐに戻る、だから......まってて」

「気楽に待つよ」

 

 

 

 

 

「さて、これからどうしたものか」

 

ふいー、と大きく息を吐いて空を見上げる。

そこではまだ機械の獣とISとがしのぎを削りあっているが、先ほどよりISは少なくなっている。

近場のビルにも亀裂が走っており、崩れるのも時間の問題か、と判断し、この場から動くこととした。

転がっていた鉄パイプを杖代わりに立ち上がり、比較的被害のなさそうなビルを探そうと、元来た道を戻る。

 

「ふーふー、ふふんふふんー」

 

どこかで聞いたような、うろ覚えの曲を鼻歌で歌いながら、ゆっくり散歩するように街を歩く成政。

時折降ってくる瓦礫に驚いたり、道が塞がれていることに悪態をつきながら歩くことしばし、気がつけが学園の見える、マヒロと出会ったあの公園に足を踏み入れていた。

 

そこはもはや公園ではなくなってはいた。

芝生はめくり上がり、遊具は半壊、自販機も下半分以外は見当たらない。

だが、ベンチが一脚だけ無傷で残っていたので、座って体を休める。

 

頭上ではいまだに戦いが繰り広げられ、メキメキと何かが崩れるような音がせわしなく響く。

工事現場より騒がしい騒音に顔をしかめながらだが、成政は断片だけの記憶を探る。

 

「......なにか、やり残したことがある気がする」

 

今の自分は記憶喪失で戸籍もない、だけどISだけは一丁前に動かせるらしい謎の人間、別に死んでも悲しむ人もいないだろうし、成政もそうだと諦めている。

たとえここにISがあって、もし乗りこなせたとしても、自分の実力では流れ弾すら避けられない事も思い出した。

 

ただ、何かを忘れている気がするのだ。

喉の奥に小骨が引っかかったような、パズルの最後のピースがどうしてもはまらないような、そんなもどかしい感触。

長く、腰の下まで下ろした髪を1つに束ねたあの後ろ姿は、いったい誰だっただろうか、と夢想する。

美しい剣さばきを見せてくれるあの姿は誰のものだったか。

4月の教室で、話をしたあの誰か。

一夏やシャルロット、鈴やセシリア、そしてラウラ、彼女らと笑う、もう1人いたはずの誰か。

 

そう、7月の臨海学校の時、

あんな赤い流れ星を操っていたのは誰かに、

 

伝えたい何かが、あったはずじゃないのか。

そんな言葉が、脳裏に浮かぶ。

 

その時だった。

 

「っ、流れ星?!」

 

IS学園から飛び立つ、何条もの流れ星。

白、黄、黒、と様々な色の隆盛が空に飛び立つ中で、赤く輝く流星が二条流れた。

 

「......行こう」

 

理由などないそもそもわざわざ危険地帯に足を運ぶ意図がわからない。

このような脚で、間に合うはずもない。

だが、自分にはあったはずだ。

こんな時に、空を翔ける事ができる、人類最高の翼が、あったはずじゃないか。

 

「......こい、打鉄」

 

がしゃり、と金属の擦れる音がベンチのすぐ隣で聞こえた。

そこにあったのは、ボロボロのまま、あの7月の臨海学校での、最後の姿。

打鉄の武者然とした意匠と合わさって、まるで落ち武者が古い主君への恩義を返すため、馳せ参じたような、そんなイメージを受け取った。

 

「無理させて、悪かったな。

 

 

 

だけど、もう一度だけ、頼むぞ。打鉄」

 

その言葉に答えるように、打鉄はグオンと駆動音を一際大きく唸らせる。

 

一瞬ののち、その廃材同然の打鉄を纏った成政は、ふらふらと、しかしはっきりとした意思で持ってして空をかける。

 

あの赤い流れ星、その駆り手に、

 

「君に、伝えたいことがあるんだ。ねえ、箒ちゃん」

 

篠ノ之 箒に、会うために。


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