インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜 作:通りすがる傭兵
特に主人公とか、主人公とか、成政とか......
「大介さん、マリアさん。今日もありがとうございました」
IS学園の端、校舎群から少し距離を置いた場所ある馬術部施設。セシリアが日課にと毎日馬術部に足しげく通い、馬に乗っているのだ。
そして今日の部も終わりと、馬の管理を任されている男性職員とその妹に律儀に頭を下げたところだ。
「しかし上達したもんだなあ」
「いえ、アレックスさんの調子が良かったので」
アレックスとは、馬術部の栗毛の馬の事。なぜかその名前でメスである。
「そうか、だったら褒めてやらんとな。
おいアレックス、うちの妹の頭は食べ物じゃないぞ。それと、セシリアがお礼を言いたいと」
がじがじと大介の妹、マリアの頭を丸かじりしていたアレックスがセシリアの方に向く。その隙に脱出したマリアは大介の後ろに隠れて、プルプルと震えていた。
「お前なんか大っ嫌いだ!」
「落ち着けよ、アレックスもどうどう.......」
「ええ、優しくしていればアレックスも答えてくださります。日々の積み重ね、ですわ」
ブラシでたてがみを整えながら、スキンシップをしているセシリアを何か怖いものでも見るような目で見ていたマリアだが、ふいに真剣な表情になって大介の方を見た。
「兄さま」
「どうしたマリア、何かあったか」
「......はい、見えてしまいました」
「場所は」
「......大きなショッピングモール、IS学園が見える場所、です」
「そうなると、レゾナンスか」
「どうされました?」
空気が変わったのを感じ取ってか、真剣な顔でそう問うたセシリアに対して、大介は短く告げる。
「専用機持ち全員、それと甲児達にも声をかけといてくれ。
今回は、レゾナンス周辺、人も多い。
早めにけりをつけるぞ、ってな」
「分かりましたわ」
では、と軽く前置きしてから校舎に向かって走り出したセシリア。もちろん連絡を回すことも忘れず、抜かりなく行なっていた。
「......わかった、すぐに向かう」
「どうかしたのか?」
ゲームの手を止め、立ち上がる一夏。何があったのかと訓練帰りのもう1人の一夏が聞いたところで、事の真剣さに気がついたか表情が硬くなった。
「......敵だ」
「そうか、よく分からんが、俺も協力する。
みんなを、守りたい」
主人公2人、世界は違えど、その心は変わらない。皆を守るために、受け継いだ白刃を振るうのだ。
「わかった、すぐに準備する」
「何かあったようね」
机に向かっていた鈴が突然立ち上がる。それに合わせるように、ベットで寝ていたもう1人も立ち上がる。
言葉は不要、言わずとも理解できる。
「邪魔ものをぶっ飛ばしに行くわよ」
「そうこなくっちゃね」
「そう、分かった、頑張るよ」
「どうしたの?」
「どうかしたのか、シャルロット」
一緒に走り込みをこなしていたシャルロットが立ち止まる。釣られて別の世界の方のシャルロットとラウラも立ち止まる。
首をかしげる2人に対して、シャルロットは真剣な顔で問いかける。
「......本当は、君達を巻き込みたくはない。
こっちの世界の問題で、部外者の2人を巻き込むのは、正直卑怯なんだと思う。けど、僕の実力が足りないのも事実なんだ。
命をかける事になる、けど......」
「手伝うよ」
「当然のことだろう」
「いやいや、命をかける事になるんだよ!」
「構わない。なりさんは命懸けでライバルを守って、愛する人も守った。
ならば、負けてはいられない、だろうシャル?」
「うん、場所は違うけどここはIS学園。
僕たちの帰る場所だ」
何か言おうとしたシャルロットだが、2人の意思が硬いと見て諦めてため息をついた。
「はぁ......自分がこんなに頑固だなんて思わなかったよ」
「さっき言ったこともあるけど、きっと一夏も同じように言うだろうしね」
「うむ、ライバルが行くならば私も行かねばならん」
「よし、じゃあ行こうか、ついてきて!」
時間も惜しいとジャージ姿のまま走り出す3人、その後ろ姿を頼もしげに、体育教師剣鉄也は眺めていた。
「最近の子供は大人び過ぎてるんだ、こう言うのは大人に任せればいいのにな」
言葉とは裏腹に、彼は楽しげに口角を釣り上げて、笑っていた。
「俺も行くか」
「財布がない......」
ちょうど同じ頃、成政は海辺の公園に設置された自販機前で地面に両手をつき、うな垂れていた。ちっちゃい子があれなにー、と成政の方を指差して、その親がみちゃいけませんと言う定番のやり取りとも言うべき事もやっていたが、成政はへこたれない。
「下に100円でも落ちているかもしれない......!」
ここに、夏休み中の公園で自販機の下を覗く、病院着を羽織った上にパーカーでごまかす、長髪の変な男が誕生した。
もちろん硬貨などそう見つかるわけもなく、埃だらけになって肩を落とすだけに終わる。
「お金、貸そうか......?」
「いや、あ、すみません」
キラキラした目で成政が振り向けば、そこには快活そうな見た目をした、ちょうど成政と同年代であろう女の子がいた。
「お茶でいいですか?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ペットボトルの麦茶を買って、その女の子も自分の分の飲み物を買い、近場にあったベンチに座った。
「ふう、美味しいなぁ」
「......そうですね」
青空を見上げ、そうしみじみと呟く成政とは対照的に、どこか元気のない女の子。
不審に思った成政は、力になれるかもしれないとこう持ちかけた。
「なにか、悩み事でもある、よかったら聞かせてよ」
「......いえ、他人を巻き込むのはどうかと思いますし」
「まあまあそう言わずに、ここで会ったのも何かの縁、でしょ」
不審者に話しかけられて戸惑うのが普通ではあるが、彼女は相当参っていたのか、しばらくして口を開いた。
「......俺、いや私は、神上マヒロって言います。IS学園の生徒です。
そこで、友人関係で少しトラブルがあって......」
「何か友達と喧嘩でもしたわけ?」
「いえ、そうではないのですけど......」
一つ間を置いて、彼女、神上マヒロは話し始めた。
「実は、私、友人を殺してしまったんです」
「ねえ慎二、マヒロがいない」
「......誰だそれ」
「短髪で、一人称が俺、身長の高い私と一緒にいた人ですわ」
「そういえばいないわね」
「さっきトイレに行くって言ってたし、すぐ戻るだろ」
「それもそうね。いざとなれば携帯なりなんなり使えばいいし、大丈夫よね?」
「そうですわね。どこかをふらついているのでしょう、連絡すればすぐにきますわ」
「......というわけなんです」
「成る程、頼まれたは良いけど素直に受けっとったせいで友人が死に、自分が殺したのではないのか、と」
うーん、と成政が考えこむ中、マヒロは俯いたままだった。
「うかれていたんです。
企業のテストパイロットになって、IS学園に入って、専用機を貰って。
これでヒーローになれる、カッコ良くなれるって。そのツケが、まわりまわって来たんです。
どうせなら、私が死ねばよかったんです」
その直後、成政は鋭い口調で怒鳴った。
「それは言ったらいけない」
その剣幕に思わず身を小さくし、距離をとるが、成政はそれを許さない。むしろ距離を詰め、顔がくっつくくらいまで近づいて続ける。
「それを言えば死んだ、その友人に迷惑だ。
君はその友人の覚悟を土足で踏み躙った事になる。むしろ胸を張って送り出した事を誇るべきだ」
「誇れ、何を誇るんですか?!殺人をですか!」
「最悪な状況を回避した事を、だよ。まあ確かにその判断はベストじゃない。
他にやり方もあっただろうし、誰も死なない大円団もあった。だけど、もしを追いかけてもどうにもならない」
他に言いたい事があるであろうマヒロを手で制して、成政は続ける。
「その彼女?はきっと自分が死ぬかもしれないくらい理解できてたさ。
それこそ状況くらいは理解できてたんだろう。そして訓練機で飛び出すこともわかってた。それで死を覚悟してないとか、ナイナイ」
ISだって万能じゃないし、と苦笑いしながら答える成政に安心したのか、ふう、と溜息を吐いた。
「ありがとうございます、少しだけ、肩の荷がおりました」
「いいって、こんな僕の言葉が参考になったら御の字だよ。
こっちこそお茶奢ってくれてありがとう」
よし、とマヒロは自分の頬を張って気を引き締めると立ち上がり、気持ちを切り替えるように拳を天高く突き上げる。
「もう、悩むのはやめた、私は悪くない。悪いのは石狩成政というマネージャーバカだけ!」
「初対面の人にバカはないでしょ......」
「えっ?」
思わず振り返れば、気まずそうに頬を掻く成政がそこにいるだけだ。
辺りをキョロキョロと見渡しても、もちろん誰もいない。
「お兄さん、名前は」
「だから、石狩成政、だけど?」
しばし見つめ合う両者。
何を思いついたか、マヒロはヘアゴムを取り出して成政の伸びた挑発を後ろに流して纏めると、
「あ、ああああああああああ!!!」
「わひゃい!?」
突然大声を張り上げたかと思えば、携帯を慌てて取り出そうとして四苦八苦した挙句地面に落っことし、拾い上げようとして蹴飛ばし、と漫画のような寸劇を披露し始めた。
それを大声で痛む頭で微笑ましげには見ているが、もちろん成政は目の前の彼女の顔を知らない。
「......ん、どっかで見たような、でも誰だったか」
欠けた記憶と必死にマヒロの顔をつなぎあわせようと頭を捻る成政。
「ダメだ、さっぱりわからん......」
そういえば自分の記憶喪失のことを話していなかったな、と顔を上げたところで。
「......えっ?!」
空から戦闘機が降って来た。