インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

37 / 51
今回は短め


第32話

 

 

カーテンを開いて、窓から見える空を仰ぐ。

夏らしい大きく立ち昇る入道雲と、それを際立たせるように後ろから照らす夕焼け。 海面に反射して過剰なくらいに自己主張する太陽は、どこでも変わらないようだ。

頭を掻くと、どこか馴染みのないサラサラとした髪の毛が、指の隙間をするりと抜けていく。同じように、僕の周りは変わってしまったことばかりのような気がする。

織斑君はもっとフランクで、いつもみんなに頼られる存在で、もっと周りは騒がしい気がする。他のみんなも、言い表せないような、何かが違った気がする。

そして、武士のように凛とした、ポニーテールのあの子。名前を聞きそびれてしまったが、あの子を見ていると、同じ顔をした、でも少し違う誰かのことが思い浮かぶ。

一体、なんなのだろうか。

彼女を見て、何故か、『すまなかった』。

この言葉が浮かんだのは、如何してなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「記憶喪失、ですか」

「見つけた時にはもうすでに海中だったからな。脳に障害が出ているのかもしれない」

 

騒ぎすぎだと席を外され、誰もいない食堂の端で説明を受けるこちらに来た一夏たち。

彼らの向こう側に座るのは、アリーナでマジンガーを操縦していた兜甲児、成政を最初に見つけた人物だ。

 

「だけど、朧げなから記憶は残っているらしい。ふとした拍子に戻るかもしれない」

「だが、戻らないのかもしれない......ですよね」

 

ラウラの鋭い質問に、目をそらす甲児。

そもそも博士とはいえ医療は専門外な彼にそれを聞くのは間違っているのだが、一夏達が縋れるのもまた、甲児たち限られた人物だけなのだ。

 

「ところで、君たちのことなんだが」

「しょ、正真正銘本物の織斑一夏ですよ!疑うんだったら頬を引っ張るなりなんなりしても構いませんし」

「ISを使えるだけで十分証明になるわよ」

「それもそうか」

 

微妙に話が脱線しだすが、甲児はそれにいちいち目くじらをたてるほど子供でもない。

しばらくして落ち着くのも待って、口を開いた。

 

「多分君達は......平行世界の一夏たち、なんだろうと俺は考えている」

「「「「平行世界?」」」」

首を傾げる4人を見、知らないと感じた甲児は簡単な説明することにした。

 

「平行世界というのは、もしかしたらありえたかもしれない、つまるところifの世界線、なんだ。

例えば、IS自体が生まれなかったとしたら。

白騎士事件が起きなかったとしたら。

ちゃんと兵器としてではなく、空を目指すものとしてISが利用されていたら、とか。

そんなありえない事がありえた世界、そんなものが存在するんだ。

今回の場合は、君以外にもIS学園には彼、石狩君もいたんだろ」

「はい、2人目の男性操縦者です」

「ここでは俺を始め、あと2人ほどISを使える男がいる。まあ今はここにはいないからな、説明はできない」

「んーと、兜さん。つまりは、似たような世界がたくさんある、って事ですか」

「ああ、それがたまたまくっついたのが、今回のように君達がここに来た原因だろう。

戻るめどは立っていないが、こちらの束さんが俺の友達と協力して元の世界に戻す装置を開発している、心配はしなくていい」

「よかった、戻れるのだな......」

 

ほう、と胸をなでおろすラウラ。ラウラだけでなく、他の皆も安堵していた。

もし戻れなければ、そんな得体のしれないような不安が今の今まで胸を押さえていたのだ、重しが取れて軽くなったというところだろう。

「あの、セシリアとかマヒロとか、後更識さんや他のみんなはどこに行ったんだろう」

「心配ない。先ほど箒ともう1人とは会ったんだ、話を聞いてくれないからちょっとおとなしくはしてもらったが」

「なにすんのよ、って言いたいところだけど、感謝するわ。最近のあいつは、目も当てられないし」

「保健室に運んではおいたから、しばらくしたら話ができるくらいにはなるだろう。説明はそっちでしておいてくれ」

「わかりました、えっと、兜さん」

「むず痒いけど......まあ、いいか」

 

この場はここでお開きとなった。

ワイワイと雑談をしながらこの場を去る一夏達の後ろ姿に、甲児は声をかけた。

 

「いつもISは身につけておいてくれ。この世界は、少しだけ物騒だからな」

「は、はい?わかりました」

 

 

 

「部屋は、自分の部屋と」

「男子部屋は他には教師寮だけだし、あっちは1人部屋だからな、順当なところだろ」

「おう、しばらくよろしく頼むぜ」

 

何か初めてのものを見るようにキョロキョロと辺りを見回す一夏を見て、部屋の持ち主である一夏は思わず苦笑いする。

 

「自分の部屋だろ、そう警戒するもんでもねえよ」

「いや、結構違いがあるから。それにほら、竹刀とかあまり使い込んでないみたいだしな」

「あー、別に蹴り技とか教えて貰ってるからな、最近時間が取れねえんだ」

「じゃ、勝負でもしようぜ。俺と戦えるなんてこんな事でもない限り出来ないしな」

「そこはISでの勝負を頼むよ、剣道は自信がないかな」

「決まりだな、時間があったらしようぜ。負けたらアイスぐらい奢ってやる」

 

やはり固い制服では疲れるのか、それを脱いで椅子にかけると、勝手知ったる自分の部屋だと言わんばかりにベッドに倒れこむ一夏。

 

「おい、俺のベッドだぞ」

「お前は俺で俺はお前、つまりお前のものは俺のもんだ!疲れてるんだしさ」

 

文句をドヤ顔で跳ね返すと、枕を抱えてゴロゴロと転がり始めた。しばらく不満げにしていた部屋の主人だが、諦めてか奥に引っ込んでしまった。

それを視界の横で眺めて居た一夏は、全身の力を抜いて両腕を広げる。

「生きてた、んだよな」

 

1ヶ月前に消えた、自分の力不足のせいで守れなかった友人。死んだと思われて居たはずの彼が、目の前にいて、言葉を交わすことができた。

あの時差し伸べられなかった手が、届く。

 

「けど、あいつは俺たちを恨んでないのかな。原因は俺なんだし」

 

今は覚えてないからいいとして、成政が堕ちる直接の原因は箒と一夏の攻撃が失敗したせい、それはもちろん自分が1番よくわかっているからだ。もし成政の記憶が戻れば、と隅に押し込めて居た罪悪感が顔を出す。

眉間にしわを寄せる様子を見ていたのか、エプロン姿になっていた部屋の主の一夏が見かねて声をかけた。

 

「なんか困り事か」

「っ、ああ。ちょっとな」

「困ってるんなら周りにでも相談しろよ。大人に頼ることは悪いことじゃない、ちっぽけなプライドなんて捨てちまえ、ってな。でなきゃ勝てないしな」

「そう、だな。まあ些細なことだし、心配してたんなら大丈夫だ」

「そうか、それならいい」

「ところで、何作ってるんだ」

 

部屋にうっすらと漂う甘い香りを察知し、キッチンの方を覗き込もうと体を起こす一夏。

 

「んあ?セシリアのお茶会に誘われてるし、茶菓子の一つや二つな」

「......よし、俺も一品任せてもらおうか」

「不味いもん作ったら承知しねえからな」

「当然、俺を誰だと思っていやがる」

「俺だろ」

「......紛らわしいな」

 

反応に困るような返しをされ思わずほおを掻きながら立ち上がると、袖を捲り上げて厨房に向かう。

 

「で、手伝う事はあるか」

「そこの小麦粉をふるいにかけてくれるか」

「任せろ、もう1人の俺」

「アニメじゃねえんだから。デュエルでもするか?」

「冗談、でも嗜む程度にはしてるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「兄貴、これからどーすんの」
「っは!もちろんスカイダイビングですけど」
「ヤダモー、だから兄貴とは飛行機乗らないって言ったのに」
「俺が飛行機を落とすんじゃない、乗った飛行機が落ちるだけなんだ」
「はいはいわかったわかった」
「じゃ、準備よろしく。俺はこいつを東京湾に安全に墜落させにゃならんのだ」
「あー、またお金が賠償金で飛んでいく......」

ぷすぷすと焦げ臭い匂いが漂うプロペラ機の機内。そこで諦めたように緊急用のパラシュートを引っ張り出す精悍な男性が2人。

「よしオッケー、準備できた」
「パラシュート取ってくれ」
「はいよ、先いってら」

そのまま青年は扉を開けると、消えようとする西日が照らす港湾に飛び込んだ。

「ぬわああああああ風強いいいいい!」
「あー、それは逸れるわ。ん、今のいい感じのダジャレじゃね?」
「知るかよバカああああああああああ!」

石狩成政、17歳。
職業、冒険家である。
《本編の出番はありません》

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。