インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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コラボストーリー導入編、ちょいちょい聞き覚えのありそうでないような名前がちらほらと。


第30話

 

 

 

 

「で、これからどうする」

 

最初に切り出したのは慎二。

こう言った非日常に短い間とはいえ浸かっていた上、頭の回転は早い。ついでにプライドも人一倍高いので当然のごとく仕切り役を始めた。

 

「......ここは、様子見」

「素人がどうこう言ってもね」

 

対するマヒロと簪の2人の意見は消極的。

客は人質に取られている以上、専門職に任せるべきだ。ISがあるとはいえ学生が口を出すべきではないとマヒロが告げるが、

 

「僕もそうしたい。が、問題は衛宮だ、あいつがこの状況を見れば動かないはずもない。

この近くに居るはずだし、巻き込まれた可能性も高いだろ」

 

ついさっき、衛宮家の居間での人物立ち位置を頭に思い浮かべる慎二。

慎二と簪、そして少し離れてマヒロ。

一夏たちIS学園組。

魔術を行っていた凛と士郎、そのそばにいたセシリア、そしておまけのイリヤ。

自分たちと同じように飛ばされているのならば、このような形で纏まっていることは容易に予測がつく。そして、慎二と凛との距離もそれなりに近かった。つまるところ、ここにいる可能性も高いのだ、と簡単に予測を立てた。

 

「十中八九、衛宮はこれを解決しようとしてくる。だったら、手伝って恩を売るのも悪くない。幸い、ここには世界最強の兵器が2つあるわけだしな」

「......ふふ、ラノベみたい」

「厄介ごとはアニメだけで十分なのに」

 

耳をすますと、慌ただしく駆け回るような足音が聞こえてくる。そして聞きなれた声も届く。

 

「始まったみたいだ、行くぞ!」

「がん、ばる」

「いっちょいきますか」

 

ISを展開し、ガシガシと拳を打ち合わせて準備万端とでも言いたげな簪と、モップを手に持ち鼻息を荒くするマヒロ。慎二はその2人ににニヤリと笑いかけると、女子トイレを飛び出した。

 

IS2機に魔術師3人。そこら辺の基地を襲っても無傷で帰れるこの面子にかかれば、テロリスト制圧なぞ5分とかからなかった。

 

「衛宮さぁ」

「何だよ慎二」

「金属バットは世紀末だからやめろ」

「世紀末?何のことだよ」

「お前サブカルネタ弱すぎぃ!」

「うるさーい!」

 

「騒がしいですわねぇ......」

「それがまたいいんだけどね」

 

士郎がボケて、慎二が騒ぎ、女子陣がまとめて物理で黙らせる。

その、どこか見慣れた気がするやり取りを煩わしげに眺めるセシリアをたしなめるマヒロ。たはは、と笑っていつものように場の雰囲気を和ませようとするその笑顔は、微妙に引き攣っていたが、見咎めるものはいなかった。

 

ISはないものの、モップ一本で果敢にテロリストに向けて立ち向かって居たマヒロ。

一歩引いた簪から見れば、いつものような勇気とか根性とか浪漫とは違う何かが突き動かしているように見えた。

「マヒロ、無理してる、よね」

「ないない。むしろアニメみたいな展開で燃えてるところだよ!」

 

簪が心配して声をかけるても、笑い飛ばして誤魔化してしまう。悪の組織でもでてこいやー、と己を奮い立たせるように天に向かって吠える彼女を、凛が何か言いたげな目で見つめていた。

 

「警察も来たことだし、後のことは任せましょ」

 

そう凛は皆に告げ、警察と反対方向、スタッフ用の非常口から退散していった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「織斑先生!兜さん!」

 

夏休みでも教師は忙しい。

今日も今日とて、山田先生は学園中を駆け回るのだ。

それはさておき、どこか慌てた顔で走って来た山田先生が声をかけたのは、かの織斑千冬と楽しげに談笑する。スーツを着こなしたここIS学園では珍しい男性職員。

 

「どうしたんだ山田先生、そんなに慌てて」

「とりあえず落ち着いて下さい、ほら深呼吸して」

「そそそそれどころじゃないんですよ!」

 

早く来て下さい、と2人の裾を引っ張って急がせるその姿はどう見ても子供だったのだが、只事ではないと察した2人は山田先生に従って廊下をかけた。

3人が向かった先はアリーナの管制室。

ここではIS学園全てのISが管理できるよう、設備が集中している。

何があったと千冬が問う暇もなく、山田先生はコンソールを叩きだした。

「少し前にレゾナンスで立てこもり事件があったのは知ってますよね」

「レゾナンス?」

「IS学園近くの大型商業施設だ。私や生徒たちもよく利用している。

そこで何かあったのか?」

「はい、これを見て下さい」

 

目的の物を探し出したのか、とある動画をスクリーンに投影する山田先生。そこに映っていたのは、

 

「ブルーティアーズに打鉄弐式。どれも専用機持ちの機体ではないか。巻き込まれたのか?」

「おかしいな、確かさっき廊下ですれ違ったはずなんだけど」

「はい、しかもこれを見て下さい!」

 

呼び出されたデータにあるのは、食堂で優雅に食事を楽しみながら談笑する、機体の持ち主であるはずのセシリアと簪。

 

「1時間前からログを遡ってみましたけど、2人はずっとここに居ました。それに、国元や企業に専用機返却をする時でも学園に手続きがあります。書類、受け取っていませんよね」

「つまり、もしかしたらティアーズと打鉄弍式が2つある、って事か」

「その通りです!」

「なん、だと?!」

「......」

 

ISのコアは467。増えもしないし減りもしない。ある意味絶対不変の真理として存在する常識、それが打ち破られた。

 

「見間違いではない、のか」

「昨日は10時に寝ました、間違えるはずがないんです!」

「だとすれば、また束の仕業か」

 

もしコアを増やせるとすれば、親友の束しか居ない。そう考えた千冬は電話をかけ、張本人であろう束を問いただそうとして、

 

「ちーちゃんちーちゃん!よくわかんないけど白式が増えたんだけど、他にもフランスのボクっ娘とか中国の、それに紅椿、倉持の失敗作の子まで2人になってるんだけど!」

「お前ではないんだな!」

「そう、同じコアなんて作れない。それぞれ毎回違うコアができるはずなのに、わかんないけど同じコアがあるんだよ!」

「わかった、お前ではないんだな!」

 

乱暴に電話を切った千冬は、もう1人の頼りのなりそうな人物。

後ろに逆立った髪に、太いもみあげが特徴的な青年、兜甲児に声をかける。

 

「甲児、何か心当たりはあるか」

「いや、わからない。

あいつらにはISコアを作るよりも、機械獣なんかを作る方が早く済む。

それに、同じコアを用意する理由がわからない」

「そうか......」

 

 

頼りにしていたぶん、答えが出ず落胆する千冬。そこにすかさず束が無理やり学園のセキュリティに割り込み、3人に大声を張り上げる。

 

「ちょっと、話聞いて」

「うお、驚かさないでくれよ」

「な、ん、だ?」

「ひう!?また軽々と......」

 

 

「箒ちゃんアリーナにいるよね。

 

 

 

 

 

 

目の前にそのもうひとつの紅椿があるんだよ!もうこれわけわかんないよ!」

 

あまりの事態の複雑さに訳がわからないと涙目になって泣き言を漏らす束を山田先生がたしなめる横で、千冬は教師として行動する。

 

「甲児、今すぐアリーナに行け。もし抵抗するならばマジンガーで応戦しても構わない、私も今すぐ向かう!」

「わかった!」

 

あまりの余裕のなさにドアが開く時間も惜しいと物理的に吹き飛ばしながら、甲児はアリーナへの廊下を突っ走った。

 

「今すぐ行けと言ったがドアを壊してもいいとは言っていないぞ!」

「すまん、後で直しておく!」

「全く、あいつは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「下がってくださいホウキ、今の貴方では荷が重すぎる!」

「私は強くならねばならないのだ、これくらい......!」

 

砂埃が上がり、一瞬相手が自分たちを見失う隙間を見つけて会話を交わす箒とセイバー。

凛がうっかりを発動させた瞬間に、武道場での稽古が終わり、声をかけようと居間の障子を開けてしまったせいで巻きこまれてしまったのだ。

コンマ1秒もない時間に間に合ってしまったのは、ひとえに凛のうっかりスキルが天元突破していたからである。

そして気がつけば何故かIS学園のアリーナにおり、見たことのない機体がラウラと闘っていたから、このように割り込んでいるのだ。

 

「伏せてください!」

 

砂煙を切り裂いてぶおんと赤い斧が箒の頭上を掠める。その隙を見てセイバーが聖剣で砂煙を払い、相手の姿があらわになる。

 

赤いマントを身に纏い全身を装甲で覆う謎のIS。その手には大ぶりの片手斧がそれぞれ握られており、油断なく箒たち2人に向けられている。

「貴様は何者だ、何が目的だ!」

 

侵入者らしい赤い機体に問えば、くぐもった声で答えが返ってくる。

 

『それはこちらのセリフだ、天下のIS学園にこうやすやすと侵入するなど、只者ではないだろう』

「1年1組、剣道部所属、篠ノ之箒だ!」

 

姉のせいでそれなりに有名人な箒。自分の名前を振りかざすのは嫌だが仕方ないとそう叫ぶが 、

 

『馬鹿を抜かせ、私が篠ノ之箒だ。冗談も大概にしろ!』

「嘘を、つくな!」

 

叫ぶと同時に剣を振り抜き、斬撃を飛ばす。

それは相手にあたりはすれども、傷ひとつつかない。それならばと箒はワンオフアビリティ、『絢爛舞踏』を起動させた。

本来ならば白式と対になるようエネルギー供給機構が備わっているが、どういうわけかその機構は排されてしまい、自分にひたすらエネルギーを回す仕様となっている。それを使えば、手に持つ実体剣ふた振りにエネルギーをまとわせて擬似的なエネルギーソードを作ることも可能だ。その威力は、零落白夜には劣るものの、実体剣とは比べ物にならない。

「止まれ篠ノ之もどき!」

「くっ、邪魔立てするな!」

 

もちろん当たれば、の話である。

赤い機体裏から回り込んでいたレーゲンが斬りかかろうとした紅椿を空間に固定する。

振りほどこうにも、IS自体を止められてしまってはひとりではどうにもならない。

 

『これで終わりだっ!』

 

箒は、頭上から斧が振り下ろされるのを黙って見るしかなかった。

 

だが、この場にはもう1人、いる。

 

『約束されし......勝利の、剣っ!』

 

アリーナの空を、星の奔流が切り裂いた。

その斬撃はやすやすとシールドを貫き、空へと放たれる。その様子は、校舎からでも一望できた。

 

 

 

「......とても見覚えがあるような、ないような」

 


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