インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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暫くはやりたいことに向けて前準備を詰め込んでいく感じ。

暫くは説明とか多めですので、ご勘弁を


第28話

 

 

 

あれから、もう一ヶ月が経ちますね。

先輩に届くかどうかもわからないこの手紙を、私は風に乗せて送ります。

先輩に、届くと信じて。

 

福音は、先輩が身をもって送ってくれたデータのおかげで倒しました。

先輩の死体も上がらず、打鉄のコアも場所がわからない。絶望的な状況ですが、私はそれが、先輩がどこかで生きている。そう信じるに足る理由になります。

 

ですが、皆はそうは思わないようです。

一夏、セシリア、鈴、ラウラ、シャルロット、マヒロ、織斑先生、山田先生。

皆表面では繕っていても、どこか今までと違うような気がします。

 

一夏はずっと笑って、私たちに心配かけまいと気丈に振る舞っていますが、時折追い詰められたような顔をして1人でいるのを見かけます。

練習も今までとは違って余裕もなく、どこか焦りを感じています。剣先も、鈍くなってしまいました。

 

セシリアはさすが貴族とでも言うのでしょうか、本当にいつもと変わらないです。

ですが、ここではないどこかを見つめ、そして涙を流しているのを一度見かけてしまいました。

 

鈴は、落胆を怒りを隠さず、もうずっとピリピリしたままです。

声をかけても、話をしようと誘っても、何秒か私を睨みつけて、去ってしまいます。

 

ラウラは、まるで転校直後に戻ってしまったようです。あの抜き身のナイフのようなつめたい態度を纏い、いつも窓の外を眺めています。

毎日深夜まで練習して、足や腕にベタベタと湿布を貼っているのを見かねて声をかけても、何も答えずに行ってしまいました。

 

シャルロットは、いつもの柔らかく、それでいて芯の通ったような性格は、変わってしまっていました。

いつものように振る舞ってはいるものの、どこか疲れているように、ため息ばかりつくようになりました。

 

マヒロは、もう別人といっていいほどに萎れてしまっています。

トラブルメーカーも鳴りを潜め、いつものようなからかい半分でも元気になるような言葉を、ここ1ヶ月聞いていません。

 

織斑先生は、どこか無理をしているように感じます。

最近では化粧も雑で、目の下の隈を隠すこともなく授業に臨み、いつもの日本刀のような澄んだ立ち振る舞いが、まるで嘘のようです。

山田先生は、やはり優しい人だったのでしょう。

責任を感じてか、暫く休職すると告げて学校にすら顔を出していないようです。

 

やっぱり、皆にとって、先輩は大切な人だったのでしょうか。

いつもの日常に先輩がいないだけで、どこか景色が色褪せて見えます。

 

 

 

剣道部の練習中に、どう言うわけか部長からしばらくは来なくていいとも告げられてしまいました。

クラスメイトには、体調管理はできているのか、と声をかけられるようになりました。

私は、どこかおかしいのでしょうか。

つい昨日には竹刀と木刀まで取り上げられ、玄関からランニングシューズが消えていました。新手のイジメでしょうか。

今度織斑先生にでも相談しようと思っています。

 

 

 

 

なんだか、少しだけ、心に穴の空いたような、そんな空虚さを感じます。

この気持ちを、なんと表現すれば良いのでしょうか。

私には、わかりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会いたい、会いたいです、先輩。

あのノートの言葉の答えを、言わせて下さい。

どうか、あの言葉の続きを、私に教えてください。

 

「私の返事を、聞いてください......」

 

出すあてもない封筒が、涙で湿っていく。

鉛筆の文字が滲み、宛名の文字が消えていく。

それは、まるで、先輩が去っていった1ヶ月前を思い出させるようだった。

 

「どうして、どうして、いなくなったんですか......」

 

コンコン、と扉を叩く音がする。

同室の相川は実家に帰っているはずだ、織斑先生だろうか。

そう不審に思いながらも、扉は開いていると返事をした。

 

思えば、相手が名乗らなかったのを不審に思うべきだったのだろう。

 

カランカラン、と空き缶が転がるような音が後ろからする。後ろを振り向くと、何か英語で書かれた青い缶が転がっていた。

次の瞬間、

 

「な、に?!」

 

視界が白一色に染まる。

頭はキンキンと金切り音を立て、考えるなと訴えて来る。

平衡感覚を失い、椅子から転げ落ちる。

朧げな意識の中、最後に見たのは、

 

「......突撃、隣の更識さん......」

 

その言葉と、見覚えのあるような気がする空色の髪と、口元を隠すように扇子を広げた誰かの姿だった。

 

 

 

 

 

 

「......やっぱり、似合わない......」

 

 

 

 

 

 

「いや、連れて来いと言いはしたけどさ」

 

とある地方都市の、住宅地の外れ。

ひときわ目を惹く広い洋館の広間で、目頭を揉むワカメのような頭をした青年はそういった。

 

「......誘拐しろとは言ってないよね!常識的にあり得ないよね!」

「......自分、不器用ですから」

「色々とおかしいよね!」

「......ブイ」

「だあああっ、もういいよ!」

 

誇らしげにピースサインをする目の前の少女から視線を逸らし、ぐしゃぐしゃと頭を掻きながらそう叫ぶと、青年こと間桐慎二は深々とため息をついた。

 

「で、今どこにいるの?」

「......ハイエースで、ダンケダンケ」

「車に積んでるんだな、わかった」

 

慎二はどこかに電話をかけ、二、三言告げるとすぐに切ってしまった。

「ほら、いくぞ。衛宮も待ってる」

「......うん」

 

若干足を早め、並んでぴったりと寄り添う。

間桐慎二と、更識簪。

簪が告白してから、初めてのデートである。

 

「......ふふふ」

「なんだよ」

「......なんでも、ない」

 

 

 

 

 

 

「......さっぱりわけがわからない」

 

目をさましてから、一夏はそうポツリと漏らした。

部屋で素振りをしていたら扉が蹴破られて、気がつけば簀巻きにされて転がされていた。

非常識にも程がある。が、それが逆に一夏の頭を冷やしていた。気絶していたせいでここ暫くないぐらいぐっすり寝ていたのもあるが、これは蛇足だろう。

無言のままごろごろと転がる。

目隠しをされ、簀巻きにされて転がっている以上、頼りになるのは聴覚と嗅覚だけだ。

すんすんと鼻を動かすと、乾いてはいるが、ふんわりを香る青臭いが嫌ではない匂いが鼻を通る。

 

「畳、か」

 

畳に使われるい草の特徴的な匂い。

彼の友人の五反田弾の家で散々嗅いでいたのもありすぐに思い至ったのだが、なんの解決にもならない。

そのままごろごろと転がっていると、何かとぶつかった。

 

「そこに、誰かいるのか?」

 

ぶつかった何かから声が聞こえる。学園で散々聞いてきた声だ、声の主はすぐに思い当たった。

 

「その声はラウラか?!」

「あたしもいるわよー」

「ぼ、僕も、一夏は大丈夫?」

「......俺もいるぞー」

 

一言叫べば、打てば響くように皆の声も聞こえて来る。皆が無事のようで、一夏は内心胸を撫でおろすが、

 

「あれ、セシリアはどこだ?」

「そういえば箒もいないじゃない。ねーえ」

 

鈴が声を張るが、返事は返ってこない。

その時、ペタペタと足音が聞こえて来た。全員が身を硬くして備える。

スーッと襖が開く音がして、ハキハキとした青年の声が通る。

 

「だれだ、大声なんか出して......ってなんだこれ!?」

「そ、その声は!」

「おまえ一夏か?!遊びに来るとは聞いてたけどそりゃねえだろ!」

「えっ、なんの話だ」

「と、とにかく縄といてやるからな。じっとしてろよ」

 

 

 

 

 

 

 

「で、何がどうなってるんだ」

「俺にもさっぱりわからん」

 

とりあえず縄を解いた士郎は、一夏と頭を付き合わせて互いの情報をやりとりしていた。

「ただ、慎二からみんなが遊びに来るからよろしくとは聞いてる。ちゃんと食材も買い込んだし」

「それを俺たちは聞いてないんだ。誰も外出するなんて言ってない。

そうだ、その、シンジとか言う奴に電話すれば」

「デート中だからかけて来るな、だってさ。

遠坂は家にいないから連絡もつかないし、セイバーも武道場から出てこないし」

 

やれやれと首を振る士郎。

その後ろでは、鈴たちが同じく頭を付き合わせて考え事をしていた。

 

「ピンチよ。私の甲龍がない。きっと誘拐された間にパクられたに違いないわ、どうしよう」

「俺の強羅はもともとオーバーホール中でない」

「私のレーゲンも今ドイツだが......」

「僕のラファールもなくなってるよう......」

 

専用機は、国家の技術力の結晶だ。

おいそれと他人に渡せるものでもないし、一部データが漏れるだけで国際問題になりかねない。

マヒロの強羅とシャルロットのリヴァイブカスタムは例外だが、大切なものに変わりはないのだ。

 

「おそらく、下手人が取ったのには間違いはない。ISなど乗られてしまえば一巻の終わり 、1番優先される事柄だ。どこかで売りさばかれていなければ良いのだが」

「ちょ、そうなったら国にどうやって説明すればいいのよ!」

 

不穏なことを呟くラウラ、そして冷や汗を垂らす鈴。純粋な国家代表はこの場では鈴だけで、それだけ国との繋がりも深いのだろう。慌てぶりも群を抜いて高い。

 

「......だとしたら、セッシーとモッピーはどうしてるんだろうね」

「うん、僕不安だよ......」

 

ポツリとマヒロが漏らした言葉に、シャルロットも同調する。

 

イギリスだけが開発に成功した遠隔射撃ビット、通称BTシステムを搭載した第三世代、ブルーティアーズ。

篠ノ之博士謹製の唯一の、まだ謎の多い第四世代IS、赤椿。

もし売りさばかれるとすれば、きっと高い値がつくに違いない。

 

「私にわかるはずもないだろう......」

 

なぜ2人が選ばれたのだろうかはわからないが、悪い事態になっていませんように。

そう、ラウラは自分の無力さを噛み締めた。

 

「ただいまー」

「おかえり遠坂、っとそっちの人は」

「御機嫌よう。セシリア・オルコットと申します。凛さんの友人ですわ」

「シロー!ただーいまー!」

「イリヤまで来たのか、今日は楽しくなるな」

 

玄関先で家主である士郎と誰かが話す声が届く。さらっと重大なセリフが紛れ込んでいるが、最近神経をすり減らしていた一堂は誰も気づかないまま、この状況をどうするべきかという話し合いは続く。

壁を一枚挟んで、こちらも話し合いが始まっていた。

 

「で、あいつがいなくなったらしいわね。あいつの兄弟から話が回って来たわ」

「ああ、慎二が成政のクラスメイトを引っ張って来たのもそのせいだと思う。遠坂」

「探せるか、でしょう?できるわよ。

準備に時間かかるから、その前にご飯にしましょ」

「さんせいさんせーい!」

「......あの、リンさん。これは一体......?」

 

2人だけで話を進めているので、ついていけずそうそうに白旗を上げるセシリア。

それに気づいたリンはうっかりしたとこめかみに手を当て、

 

「ああ、それについては皆で話をした方がいいわ。もうすぐお昼だし、全員がそろってからにしましょ?」

「奥の部屋にみんな揃ってるし、休みの間に積もる話もあるだろ?イギリスからの長旅だろうし、ゆっくり休めよ」

「では、お言葉に甘えて......」

 

言われるままに奥の部屋で疲れを癒そうと襖を開けて、

 

「あら、みなさん。どうしてここに?」

「「「「セシリア?!」」」」

「な、なんですの、幽霊でも見たような眼で私を......ちゃんといきてますわよ!」

「......うぅ、ひっぐ、よ、よがったあああ!」

「ら、ラウラさんはなんで抱きつくのです?

だ、誰か状況を説明してくださいまし!」

 

 

 

「......という訳なのよ」

「......なるほど、理解しましたわ。確かにそれは一大事ですが......別段慌てることもないでしょう」

 

これまでの顛末を聞いて、ふむふむと頷いてから、セシリアは普段通りのままでそう言った。

 

「はぁ?!他の国だからってテキトーなこと言ってるんじゃないでしょうね!」

「理詰めとけばすぐにわかるでしょうに」

 

荒ぶる鈴に対してセシリアはやれやれと首を振る。

 

「簡単な事ですわ。

まず、この出来事の顛末は慎二という方が計画したと聞きました。

士郎さんやMs遠坂が親しげに話す以上、同年代の方。必然的に、鈴さんが心配するような盗難があったとしても、それを売買出来るコネの持ち合わせなどないでしょう。恐らく一時的に預かっているだけ、そう考えるのが自然ですわ」

「慌てる必要もないね」

 

客間らしいその部屋に積まれていた座布団を重ね枕がわりにしてふて寝するマヒロがそう答える。鈴が何か言いたげにするが、諦めて腰を下ろし、黙り込んでしまった。

 

「お前ら、飯にしようぜ」

 

奥から士郎が声をかけるまで、沈黙は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は人数が来るって聞いてたし、みんなに手伝って貰ったんだ」

「最近してないから腕が鈍ってないか心配だったわ。口に合えばいいけど」

「わ、私も頑張りました!」

 

そんなに広くもないテーブルにぎゅうぎゅうに詰め、思い思いの料理に箸を伸ばすIS学園組。

感想を言うまでもなく黙り込んで黙々と食べている様は、ただただ必要であるから食事をとっている、そんな無機質さを感じさせた。

 

「おい、なんだよ。感想の1つや2つくれたっていいじゃないか」

「......ご馳走様。美味かった」

「そうじゃなくてさぁ......」

 

唐揚げ自信作だったのに、と項垂れる士郎。そこに割り込むように玄関から声が届く。

 

「おい衛宮、いるんだろ、飯くわせろ!」

「お、お邪魔します......」

「慎二じゃないか、おかえり」

 

今回の下手人、間桐慎二である。


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