インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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続けてサクッと投稿しちゃいます。
これでも戦闘描写頑張ったんすよ!?


第26話 リメイク

 

 

 

 

「全く、無理をするからこうなるんだよ」

 

意識のない箒と一夏を抱え、福音と相対する成政。

福音は突然割り込んできた打鉄に戸惑っているのか動かないままだ。

 

『石狩さん、どうしてここに?』

『なりさん、早くそこから離れて下さい!』

 

そこにセシリア達から通信が入る。慌てた2人とは反対に安心しきった声で成政が気軽に答えた。

 

「ちょうどいいところに、ラウラ、頼みたいことが」

 

セシリアの背中から飛び降りたラウラが詰めよろうとスラスターを吹かした瞬間に、

 

「2人のこと、よろしく頼むよ」

 

手に抱えていた一夏と箒を放り出した。

 

「なんとっ?!」

 

慌てて2人の下に滑り込んで海中に沈むことを防いだラウラだが、福音からは遠く離れてしまった。

何をするんだといいかけたラウラの目に飛び込んできたのは、

 

「チェストおおおおお!」

「Laーーー」

 

無謀にも福音に斬りかかる打鉄の姿だった。

 

『な、何をしているんだなりさん。無謀にもほどがある!それに、なりさんは』

「知ってる知ってる。実力が足りない、でしょ?んなもん百も承知だよ。でもさ」

 

ーーここで僕がデータを取っておけば、後が楽になる、そうだろ?ーー

 

「そ、それはっ!」

 

成政の言いたいことをラウラは察した、いや、察してしまったという方が正しいだろう。

成政はここで捨て駒になるつもりなのだ。

 

「それでは、なりさんは!」

「平気平気、これでも逃げ足は早い方なんだ。裏技もあるしね」

 

背中を向けてひらひらと手を振ってみせる成政。見る分には余裕そうだが、内心はとにかく焦っていた。

「回線はずっと開いておく。カメラは回せるだけ回して送るから参考にして。

それと、スペックデータくらいあるでしょ?だったら次は勝てる、だろ?」

『......確かにそれは正論だ。ですが、なりさん自身の事は考えられていないではないですか!こんなもの、まるで、まるで!』

『ラウラさん、行きましょう』

『セシリア?!』

 

言い募るラウラを制したのはセシリアだった。

 

『石狩さんがおっしゃることは、ベストではないですが、この場における最適解に近いかもしれません。

それに、一夏さんと箒さんを、殺すわけには参りませんわ。ここは、一度引くべきです』

「そうそう、箒ちゃんと一夏、2人を置いて戻ってくるくらいは耐えてみせるよ」

 

冷静に判断を下すセシリア。

彼女もまた、成政に対して怒っているだろうが、貴族としての合理性が彼女に冷徹な判断を下させる。

 

大きく弧を描いて飛ぶセシリアがレーゲンの背中を掴み、離脱していく。

 

『石狩成政。

オルコット家当主、セシリア・オルコットが命じます。

死ぬのは、許しません。

皆を悲しませることも許しません。

無事に、帰ってきてください。

......私は、もう身近な人の死を見たくは、ありません』

「オーケイ、命じられました。

さあて、派手に粘るとしましょうかねぇ!

あとラウラ、さん付けはやめてくれ。ちょっと気恥ずかしいからな」

 

 

 

成政は水平線に消えていくレーゲンとティアーズの背から目線を外し、泡立つ海面に視線を落とす。

とりあえず使い物にならなくなったブースターを括り付けて海中に叩き落としてやったのだが、世の中上手くいかないらしい。

飛び蹴りをしなかったせいだろうか、それとも必殺技名を叫ばないからなのか、はたまた主人公ではないせいか、と現実逃避まじりにそう心の中で愚痴る。

一瞬海中で光を放ったかと思うと、衝突時の傷が嘘のように消え、新しく翼を生やし、装いまで新たとなった絶望が生まれた。

 

だからと言って成政のやる事は変わらない。

ブレード『葵』を鞘から抜きはなち、左手にはライフル『虎徹』を。

「じゃ、データ、バッチリ取らせてもらおうかな。これも、マネージャーの仕事だしね。

ああ、こんな時にこの言葉って言うんだっけか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別に、あれを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 

通信は打鉄に頼んで一方通行にしてある。邪魔は入らない。

ここから旅館までは約200キロ。セシリアのティアーズとIS1機が乗ったとして、時間を計算すると約40分ほどかかるだろう。

さらに、一夏と箒の負担を軽くするため遅く飛ぶとして倍の80分。

80たす40で120。約2時間。

成政は大雑把にそう弾き出し、改めてため息をついた。

 

「いやー、キツイねぇ。でもまあ試合時間にはちょうどいいくらい、かな!」

 

正面から襲いかかる光弾を盾で受け止める。

蔵王製の頼れる大盾は力量を余すところなく発揮し、主の身を守ってくれる。

そのまま腰を落として改めて衝撃に備えるが、

 

「Laー」

「っ?!があああああ!」

 

後ろに回り込まれてしまっては盾も意味をなさず、

身を焼かれるような衝撃が走る。

 

「こんにゃろっ!」

 

ライフルを向けるが、福音はもう射線の外に出てしまって撃てない。そのまま踊るように成政の周りをくるくると周り、光弾を浴びせてくる。

 

「よし、当たっ......てないかぁ」

 

時折がむしゃらに撃った弾が福音に向かうが、新しく生えた光の翼が弾丸を焼き焦がしてしまう。

 

そのままじりじりとSEは削られ、時間が過ぎていく。

(まだ、まだだ、まだデータは不十分なはずだ!)

「リミッター外して!僕の生存は無視でいい、1秒でも長く動いてくれ、打鉄!」

 

届くかもわからないままにそう叫んで喰らいつく。白翼と刀が交錯し、光弾が雨を降らし、無骨なライフルが空を抉る。

だが、一次以降も済ませていない訓練機と軍用機体、性能差は歴然とし、操縦者の腕もそれをひっくり返せるほど高くはない。

 

「がああああさあ!」

 

光弾が身を焼き、操縦者の心を削る。

 

「ああああああああ!」

 

白翼が刀身を根元から蒸発させ、返す刀でライフルの重心を焼き切る。

 

「まだああああああああ!」

 

身を削ってまで迫った打鉄の拳を、福音自身の拳で打ちはらう。

 

「まだ、まだ、まだだあああああ!」

 

バキン

 

度重なる弾幕に悲鳴をあげる最後の頼みの綱、蔵王製大楯が、破れ、その破片が主を傷つける。

 

それでも、まだ足りない。

まだ足りないと、打鉄は己の四肢を使って福音に挑み続ける。

 

 

「なんか出せ、なにかあるだろ打鉄!」

『了解、VTシステム、限定起動』

 

掛け声と同時に四肢の先から黒い泥が染み出す、がラウラの時の焼き直しではなく、胴体部までは覆わない。

折れたはずの葵の剣先を泥が補い、かつての栄光をここに再現する。

 

が、それは子供騙しに過ぎず、成政が落ちるまでの時間を引き延ばしただけに過ぎない。

それはまるで、蟷螂が馬車に立ち向かうような、騎士が風車に立ち向かうような、そんな滑稽な姿を思わせた。

しかし、誰がその姿を笑えよう。

血を流し、目を潰され、肌を焼かれ、身を裂かれえるその姿を、いったい誰が笑えるというのだろう。

『っよし、繋がったよ箒ちゃん!』

『先輩、先輩!聞こえますか、先輩!』

「っう、その声は、箒ちゃんかぁ」

 

突然割り込んできた無線に対して、もっと時間がかかっていても良かったのにと漏らす成政。

 

『先輩、無事か?!無事なんだな!』

「ああ、生きて、るよ?」

『そうか、良かった......だったら、今すぐ私も』

「確かに一対多のデータも欲しいけど、ダメ。

これは、僕の仕事で、イマココは、僕のフィールドだ。誰にも渡さない。それと、

 

 

 

 

 

 

 

 

ここどこかわかんないや、いやあ方向音痴でごめんね?」

『そういう問題ではないだろう?!ISの機能を使えば現在地くらい把握できるはずだ!今すぐにでも!』

「だーめ、ところで一夏は元気?生きてる?」

『話をそらすな!あと生きてはいるが......まだ、目をさまさないままだ』

「そ、じゃあ伝言よろしく」

『だから話題を逸らしてくれるな!』

「本棚上から3段目、右から5冊目。

引き出し1番下の二重底。

それと、車椅子のカゴに2冊。

ちなみにベッドの下は絶対に覗かな」

 

ブツッ、と音を立てて無線が途切れる。

 

「ガッ、あああああああアアアアガアアア!」

 

VTシステムは操縦者の身体と心を殺す。

限定起動であっても例外では無い。

そして何より、機体エネルギーをバカ食いするのだ。

無線機能にすらエネルギーを回すこともできず、無敵を誇る絶対防御も今では障子紙程度の強度しか持たないだろう。

それでも、成政はカメラを回し、音声を余すところなく録音し、相手の傾向を分析してボイスメモに残す。

相手選手を研究するのもまた、マネージャーの仕事、ならば、やれる事を全力で。

 

 

 

(ああ、いつから、こんな仕事をするようになったんだっけか)

 

昔は真面目にやっていたわけでは無い。

ドリンクとかタオルを出すだけで、ふてくされて練習をまともに見ることもなかった。

基礎を学び出したのはいつだったか。

ルール講習を真面目に聞くようになったのはいつだったか。

 

「いかんいかん、集中集中」

 

視界を遮る血を乱暴に拭い、刺さっていた破片を抜いて捨てる。

痛む四肢に鞭を打ち、構えを取れと怒鳴るVTシステムの言うがままに体を動かし続ける。

 

正眼の構えを取り、せめて一太刀、と構えなおしたところで、

 

『主よ、申し訳ありません。打鉄、活動限界です......』

 

ふわり、と生ぬるい海風を身体中が受け止める。

それについで、今までになかった無重力感を体は訴えかけてくる。

成政が重くなった手に視線を落とすと、焼け爛れて裂けた制服だけが見える。

 

「ああ、そう......お疲れ様」

 

最後に、付き合いの良かった相棒に声をかけた。

もう、止めようにも、止まらない。

身に迫る光弾を、成政はスローモションのように感じていた。

 

(ははっ、走馬灯、かぁ。味わうのは、人生、2回目、だなぁ、あはは)

 

そして、

 

「そういえば、真面目にやり始めたの、箒ちゃん、転校してきてから、だっけなぁ......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「打鉄、反応、ロストしました」

「何という、事に......」

「先......ぱ、い?」




アレ、これどう考えても死んでね(焦




か、活動報告で質問受け付けてるってばよ!

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