インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜 作:通りすがる傭兵
話の大筋は大体変わっていませんが、ちょっと新キャラが出たりフラグを立てて見たりしました。
成政side
皆さん、海です。
ところでみなさんは海と言われると何を思いますか?
海といえば海水浴。海水浴といえばスイカ割りをしたり、砂で城を作ってみたり、マリンスポーツもいいでしょう。スポーツはいい。
ですが、
「ファッッッッッッッック!」
「なんだよ急に!」
「海なんてすべからく干からびてしまえばいいんだ!滅べ!」
「の割には着替えてるんだな」
「......」
誰がなんと言おうと僕は海が嫌いです。
ですが、TPOくらいはさすがに弁えます。
ちなみに今の服装はゆったりした海パンに防水パーカーです。
「......あつぅい」
皆が元気に海に飛び込む。
色とりどりの水着が綺麗で目に眩しいな。
それより砂浜の照り返しが目にキツイ、サングラス買ってくればよかった。
あーもう準備体操もしないで......あ、鈴が溺れた。一夏がすぐに助けたから大ごとにならなくてよかった、ふう。
暑さのせいでなーんもやる気が出ない。
足も動かなくなったから移動も面倒だし、車椅子は砂に沈むし、やってらんね。
「隣、いい?」
「んあ?簪ちゃんか。みんなの所に行かなくていいの?」
「海は......苦手......」
「わかる」
こんな所に海嫌い仲間がいたとは、嬉しいな。互いに背もたれにもたれかかってひたすら暑さに耐える。
話をする限り、今回の臨海学校をボイコットして開発に専念するつもりだったらしいが、慎二曰く『はあ?たまには休み取らないとダメでしょうが?!』との事で半ば無理やり来させられたらしい。
後であいつには簪ちゃんの水着の写真でも送ることにしよう。
話題も尽きたので、カバンの中に詰めていた文庫本を引っ張り出すと、見事に二つ折りになっていて非常に読みにくい。
しかも舞台は冬の雪山、情景が浮かばないことこの上ない。
人物像は浮かぶがなぜみんな水着なんだ。今いるのは冬山の山荘なはずだろう?!
ラストシーンで雪崩が迫ってくるシリアスなシーンも目の前の波打ち際で遊ぶみんなと化学反応を起こしてただサーフィンでもしてるようにしか見えない。
やめよう、これ以上読んでも不毛なだけだ。
「織斑くーん!ビーチバレーしようよ!」
「お、いいぜ!」
その時、僕のスポーツアンテナ(さっき命名)にとある言葉が引っかかった。
ビーチバレー、か。
バレーのルールは知っているがビーチバレーでは確かルールが少し違ったはず。人数が3対3、だったか。
日陰から出るのも億劫だけど、スポーツなら話は別だ。公式戦でもない遊びだったなら、
「審判は任せて貰おうか」
「いや、遊びだからそこまではいらないかな......」
神は死んだ。
まあ、試合くらいは見ることにしよう。
「よーし、頑張るぞ!」
「おう!」
「ふぁーいとー」
一夏のチームは相川さんと布仏さん、と。
そういや布仏さんの水着は着ぐるみみたいだが、それは水着なのか不思議でならない。
そういえばつい先日全身を覆うタイプの水着がトレンドとスポーツネットで話題になっていたが、その親戚か?後で聞いておくとしよう。
布仏さんの実力は未知数だが、相川さんはハンドボール部、足腰の強さは言うまでもない。長身の一夏がアタッカーならば攻撃に偏りがちだが良いチームになりそうだ。
対するは、ラウラにシャルル、いやシャルロットか、まだ慣れないな......。
最後はマヒロか。
ラウラは料理研究部に入ったと聞いたが、残り2人は何の部活なのだろうか。特にマヒロ。
ラウラの身体能力は高い、そしてシャルロットも悪くはないはずだ。マヒロは......まあ日頃からあの様な機体を使っているんだし、体幹は強いだろう。
身長的にはマヒロがアタッカーになるが、どうなる事やら。
ふむ、ラウラたちが先行か。
シャロットが前衛と、ふむ。
ラウラには荷が重いだろうから、初めはマヒロが手本を見せるらしいな。
さて、どんな試合を見せてくれるのか。
ボールを高く上げて、ってフローターサーブか、意外と本格てk
「ロケットスパーイク!」
「のわーっ!」
「マヒロ、ロケットパンチはどう見ても反則」
どんなスポーツにもISを使って良いスポーツはないからな。と言うかISの無断展開はいいのかよ。僕も時々やってるけど、資料を作るのに便利だし、ちゃんと許可はもらっている、事後で。
「ましてや人に向けて打つなこんなもの!もし当たったらどうするんだ」
「ボクシンググローブつけてるからヘーキヘーキ」
「............自重はしろよ」
「いやそれでいいの?!」
ボクシンググローブをつけてるなら、まあ、大丈夫だろう。加減はできるだろうし、多分、きっと、メイビー......。
「それは別として相手コートに選手が触れるのはネットタッチ扱いにする。流石にやりすぎだ。それにスパイクは手で持って相手コートに叩きつけるものではない。
よって、織斑チーム1点、サーブ権も織斑チームに」
「お、なんか知らないけどやったぜ!」
「では、試合再開します」
僕は、首から下げていたホイッスルに息を思い切り吹き込んだ。
「あの、審判は要らないって言ったんだけど」
「あ、つい癖が。でも続行させてもらう」
あのバカ放っておけるか。それに最近スポーツまともにさせてもらってないんだぞ!
「マネージャーのアイデンティティとせっかくの仕事をとらないでください!」
「......なら、いいけど」
やったぜ!
思わず、僕は両手を天に掲げた。
「......ころんびあ」
「む、何か言ったか神上」
「いや別にー」
はー、遊んだ遊んだ。
あの後先生方も乱入してきて先生方対生徒で楽しい試合になってたけど、織斑先生がおかしかったなぁ。まあ反則だらけで結局引き分けになったけど。
踏み込みで地面がえぐれるなんて、セイバーさん以来だよ。
......つまり先生はサーヴァン、ないか。
きっと逸般人なだけだと信じたい。1000年に1人の天才とかそう言うのであって欲しい、じゃないと納得できない。日本人は時々NIHONJIN扱いされるが、同じホモ・サピエンスなのか疑わしい時もある。特に侍。
「ロケットォ、パァァァァンチ!」
「ふっ、甘いぞ神上!」
「マヒロのロケットを弾いた!?」
「さすが教官だな、やはり素晴らしい」
「アウト、生徒チームに一点」
「あの、織斑先生、ボールは相手コートに弾いてください、ね」
「すまん、なにぶん久しぶりでな」
「始めますよー」
あの時は一周回って冷静だったけど、よく考えたら常識はずれなんだよ。
......やめだやめだ。あれはただの幻、暑さが見せた幻覚だ、これだから海は嫌いなんだ。
文庫本を片付けて、と。
簪ちゃんは、まあ流石に帰ってるわな。
ただ、パラソルを畳むには少々骨が折れる。
適当なクラスメイトでも捕まえて、とあたりを見渡した瞬間、猛烈な風が身体中を叩いた。
「のわああああ?!」
わけもわからず、反射的に地面に伏せる。
ああパラソル飛んでった......借り物なのに。
とりあえずまず疑うとすれば、そう思って沖合を見れば、小型セスナが見事に墜落している。
みんな海から上がっていたからいいものの、下手を打てば大惨事だったんだぞ、まったく。
ざわざわとする周囲を横目に、携帯を取り出してあの番号にかける。
いつもは繋がらないけど、多分目の前にいるだろうし......
『あ、もしもし?』
すぐに電話は繋がった。いつもの皮肉っぽい軽薄な声が聞こえてくる。
「早く出てきて、いろいろ迷惑」
『はいはい、わかりました、よっと!』
金属が擦れるような衝撃音を立てて横倒しになっていたセスナのドアが吹き飛び、あんちくしょうが顔を出した。
「ようなり、元気にしてたか?」
「兄貴のせいで今腹が痛いんだよ......!」
相変わらず無傷な兄を見て、思わず僕は顔をしかめた。
これだから海は嫌いなんだ、高確率で兄貴が降ってくる。
「いやー、まさか出先で見かけなかった弟に会うとは、人生わかんないもんですなぁ、はっはっはー!」
「......あのう、この方は」
たまたま一番近くにいた山田先生がおずおずと尋ねる。先ほどの衝撃音を聞いてかやじ馬も結構集まってきちゃったな、はぁ。
金髪、手入れの入っていないボサボサのロングヘアー、胡散臭いアロハにジーンズ。いつも割れてる丸メガネ。
「この胡散臭い大人がウチの兄です、ご迷惑をおかけします......」
「はい、耕太・ハルフォーフです、よろしく!」
チャラ男そのもの、と言った様子で指をかっこよく振るバカ兄貴......ん、ハルフォーフ?
「そうそう、2ヶ月前に結婚したわ。はいこれ写真な」
あっけにとられる僕の手にボロくさいデジカメが渡された。画面に映るのは、濃緑色のぱっつん髪で、見覚えのある眼帯をつけ、恥ずかしそうにはにかみながら兄貴と肩を並べて映す謎の女性。
側から見れば微笑ましいツーショットなのだが、
「......これ、どっからどう見ても軍服だよな?」
「うん、ドイツの特殊部隊軍人だって」
背景が明らかに殺伐としすぎている......。
よく見たら何かが後ろで燃えている様子、また墜落したのか。
ん、よくよく見ると......
「後ろに見覚えのある銀髪が」
「おや、こーにいではないか」
「うっすラウラちゃん久しぶりー。にゃんぱすー!」
「にゃんぱすー」
「知り合いかよ」
いぇーい、と謎の掛け声と一緒にハイタッチを交わすラウラとバカ兄貴。
ショックのあまり地面を殴りつけたくなる。
それをやるのも兄貴に負けた気がするのでやらない。
「そーらーを自由にとーびたいなー」
「はい、たーけこーぷたー!」
「「あははははは!」」
ラウラの手を持って振り回し出した兄貴。
ボロボロの男が中学生くらいの女児を連れ去ろうとしている......ように見える、かもしれない。きっとそうだ、そうに決まっている。
「110番したら捕まらないかな」
「面倒ごとを増やすな馬鹿者」
通報しようと携帯を取り出したら没収され、ついでのように頭を叩かれた。
そのまま兄貴に近づくと、ラウラを引っぺがした後、何か話している様子の織斑先生。
そう言えば兄貴と先生は面識があるのだろうか、それとも友達の友達のような実質他人の......
「千冬ちゃんまだ結婚できないのー?うぷぷー!NDK?NDK?年下に先越されるなんでどんな気持ち?」
「殺す」
どうやら面識があるらしい。
兄貴は常識が欠けているとはいえ初対面を煽ることはしない。兄貴の煽りは若干デレ?のようなもので親しい人にしかやらない。一種の愛情表現のようなものなのだが、
「やーいやーいアラサー独身教師ー!」
「その発言取り消せぇ!」
語彙力が小学生並みなので見ているこっちが恥ずかしいのだ。
あ、なぐられてやんの。ざまあ。
結局事故は事故らしく、兄貴は無傷なのに病院送りとなった。砂浜には大きなクレーン車が来て鉄クズを釣りあげて運んでいるし、警察も来ているらしく、ドラマで見るような黄色いテープも貼られている。
暫くこの辺りの砂浜は使えないらしいので、ISの授業は別の場所で行われることとなった。
『また来るぜい、野郎ども』
『2度と来るな!そしてここにいる野郎は2人だけだー!』
『はっはー!3人の間違いだろう?そこの世界最強はどう見てもおとk』
『その口を閉じろ、2度と利くな』
オプションで兄貴に素晴らしいアッパーカットをかます織斑先生が見られたので、まあ良しとしよう。
しかし、元気そうでよかった。まあインディジョーンズばりの冒険をしている兄貴が不死身なのは知っているが、うっかり死ねば死体も見つからないかもしれないし、一応は肉親な訳だしな。
しかし、別れ際に不思議なものを渡された。
古文書は兄貴の専門外なはずなんだが、しかも『やばい時以外開けるな。いいか、本当に開けるなよ?絶対にだぞ、絶対に緊急時にしか開けるなよ』という胡散臭いメモ書きまで付いている。
しかしオカルト関係では兄貴のほうが僕より遥かに詳しい、とりあえず素直に従って置く事としよう。守らないとろくな目に合わないことくらい、学習済みだ。
さて、次は夕食と、一体どんな料理が出るんだろうな、実に楽しみだ。
「うーまーいーぞー!」
「しかし、一夏がマッサージうまいなんて意外だな、勉強したのか?」
「ああ、千冬姉はいつものヘロヘロで帰って来てたからな。何かできないかと思って勉強してたんだ」
「へぇ、参考になるな。ストレッチの役に立つかもしれない」
夕食後、みんなとの雑談を切り上げて部屋に戻ると、変な声が部屋から聞こえて来たのですぐに飛び込んで見ると、一夏が織斑先生に馬乗りになっていた。
すわ事案かと思ったが、聞けばマッサージらしい。
「次いいか?足腰を使わないから最近強張ってきてな、それと腕がパンパンになってしまって」
「ん、ああ、いいぜ」
「んんっ......」
しっかし、いい笑顔でして。いつもの硬い雰囲気とは違って普通の女性にし見えないな。
こんな顔を普段の生活で見せれば恋人の1人や2人できそうなのに。あ、なんか戻った。
立ち上がって部屋の襖を思いっきり引いて、
「貴様ら覗きか?いい趣味をしているな」
「......どうしてみんながここにいるのやら」
「なんだみんなか。して欲しいなら素直に言えばよかったのに」
いつものメンバーが聞き耳を立てていたらしく、部屋の前で折り重なって倒れている。
どうせ織斑先生の変な声でも聞いて事案かと思ったんだろう、男子高校生かよ。
そのまま女子会でもするらしく、織斑先生に適当な理由をつけられて部屋から追い出されてしまった。
「ちょうどいいタイミングだし、風呂行こうぜ成政」
「ああ、頼むよ」
「はふう、生き返る、くゎー」
思わず変な声が出てしまった。しかし、温泉付きとは、さすがIS学園、お金持ちは違うな。
コレで学費がタダというんだから、倍率が高くなるのも頷ける。最初はIS学園なんて、とは思っていたが悪くはないな。
「ああ、いい湯だな〜、ふふふん」
「おっさんくさいな、一夏」
「いいじゃねえか、シャワーだけじゃ満足できねえよ。最近は大浴場も使えるようになったけど、週に2回で、たった1時間だしな」
「それは言えてるが、仕草がなぁ」
古臭い鼻歌を歌ったり、手ぬぐいを頭に乗っけていたりと、絵に描いたような日本人そのものだし、入った直後から一歩も動かないのは流石にじじむさいと言われてもしょうがないだろうに。
暇だな。
「そうだ、男子2人きりなんだし恋バナでもしよう」
「......恋バナ、かぁ」
「なんだ一夏、そんな複雑そうな顔をして」
「成政ってさ、好きな人は」
「いる。けど......やっぱなんでもない」
「はあ、そうか、そうだよなぁ。高校生ともなれば好きな人くらいできるよなぁ」
深ーくため息を吐く一夏。
相当の唐変木な一夏だが、もしかして。
「もしかしてだが、一夏は恋愛感情がわからない、とか」
「まさにその通りなんだ。
ライクはわかるがラブの方はさっぱり。
やっぱ男子に相談すると話がわかりやすくていい」
それを考える余裕もないし、と苦笑いしながら付け足す一夏。
成る程、つまるところ一夏は恋愛感情そのものを理解していない、と。これは唐変木と言われても仕方ない。なんせ恋愛自体を理解してないんだからそれ以前の問題か。
これは箒たちは結構頑張らないといけないか?
「......まあ、気長に待てばいいさ」
「そうそう、そんな事よりなりの好きな方が気になるよね一夏くん!」
「......まあそうで、ん?」
どうした一夏、僕の後ろに誰かいるのか。
そう思い後ろを振り返ると、
「やあ」
「帰れよ」
「弟が辛辣で辛い......」
なぜか兄貴がいる。バカな、先ほどまで影も形もなかったはず、まさか、
「不法侵入してきちゃった」
てへぺろと言っていいのは女子だけだ。
早い所織斑先生につまみ出して欲しいところだが、あいにくここは男子風呂、まさか、
「そう、男子風呂なら先生は入ってこられない、邪魔もなく腹を割って話ができるという訳だ!」
「くそう、こんな手があったなんて!」
「......ほう、次からは気をつける事としよう」
ん?
「そ、その声は?!」
「千冬姉?!ここ男子風呂なのにどうしているんだよ」
男子のプライバシーはどこへ消えたのか、浴衣を着たままISを纏う織斑先生が男子風呂に舞い降りた。
「安心しろ、ハイパーセンサーを使って人影を捉えているだけだ、別に覗いているわけではない。目も閉じているしな」
「あ、ほんとだ。本当に目瞑ってる」
「というわけで、この不届き者は回収していく。後でゆっくり話そうじゃないか」
「嫌だなぁ千冬ちゃん冗談もわからないとか、いやん堅物すぎー、こんなんだから男も寄ってこないんだゾ?」
「死ね」
あ、また兄貴が空飛んでる。
さすがIS、2桁メートルは飛んだな。でもあれで死なないんだからうちの兄貴も人間じゃないよな。
「一夏、体洗いたいから上げてくれ」
「いいぞ?どうすればいい」
「そこに自前の台車があるからここまで運んで乗っけてくれないか?」
「おっけー、任された」
にしても、恋愛、かぁ。
目の前の核地雷をなんとかしないと僕まで巻き添えをくらいそうだし、
「さっさと告白済ませちゃおうかなぁ」
箒が後腐れなく一夏に片思いできるようにな。それに、片想いしてるこっちももやもやして最近考え事ばっかりしてるし、
まあ頭が整理できる時間見つけるとして、
「となると、臨海学校終わったあたりか」
夏休みを挟めば、悩みなんかも解消できてるだろうし、これくらいでいいかな。
「そう言えば今日箒ちゃん見てねぇ!」
「夕食の時にはいたぞ、端っこだったけど」
「箒ちゃん見てないと、なんかこう、不安になってきた......部屋知ってる?」
「......知らない」