インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜 作:通りすがる傭兵
「What is this?」
いつもの様に窓を開ける成政。慣れない障子に手間取ったが、すぐ開いた、のだが。
何がどうしてそうなったのか、目の前の地面にメカメカしい棒状のものが2つ。隣には『抜いてください』と書かれた木製の看板が。
寝起きだったので思わず英語で反応してしまったが、
「......行くか、どうせ旅館のものを勝手に触るのはどうかと思うし」
馬鹿正直に指示に従うほど寝ぼけてはいない。
不思議には思ったが、特に看板の指示に従うこともなく、成政は朝食を食べに大広間に向かった。
「ん、何だこれ?」
「今日は長距離飛行訓練ですよ。海の上を飛びます!」
「......おえっ」
「なりなりの顔がまっさおだー」
「やまやん、なり君が青い顔して吐きそうになっておりますがいかがいたしましょう?」
「ふええええええ?!」
山田先生が得意げに海上飛行と言った瞬間に青い顔をする成政。詳しくは語らないが、それ程までにトラウマなのだ。
本人の頑なな拒否もあり、物陰で皆の飛行の様子を山田先生と見学することとなった。
専用機持ちとは違って、ぎこちなくたどたどしい、拙い機動。
IS適正Dランクの成政でもまだましな飛行ができる位だ。
だが、
「いいよなぁ、ああ言うの」
成政は、そう言った下手くそさが大好きだ。
練習に手を抜いて周りが悪いだの用具が悪いだのほざく馬鹿とはもちろん違う。
下手くそだが、楽しそうにプレーをする選手がたまらなく好きなのだ。
もし篠ノ之束が人類が自由に空を舞う為の翼としてISを開発したことを知っていれば感慨もひとしおだったのだろうが、残念なことに勉強不足なのだ。
先程とうってかわって楽しそうにする成政の様子を見てか、山田先生は成政の隣に腰を下ろした。
「石狩君、楽しそうですね」
「ああ、山田先生。これはお見苦しい所を」
「そんな事ないですよ。ただ、楽しそうだから気になって」
「......僕、人のああいう姿、好きなんですよ。
必死に頑張って、下手くそなりにできていて、やった、できた。とか、まだまだ足りない、って感情が伝わってきます。
嬉しさと悔しさがないまぜになった様なモヤっとした感じ、っていうんですかね。
正直無い物ねだりで、スポーツができる皆が羨ましいだけかもしれませんけど、いつ見ても、いいものです」
「ふふっ、実は私も、なんです。だから教師になったんですよ」
「えっ、本当なんですか?!確か元代表候補、なんでしたよね」
「ええ、後輩を導くのも、先輩の役目ですから。それに......織斑先生の後は、ちょっと」
「偉大な先人を持つと苦労する、ですか」
「はい、正直、気弱な私にはできる気がしなくて......」
「まあ、諦めも肝心、ですし」
「でも、教師としては織斑先生より先輩ですから!びしばし指導してますから!」
「頼りない先輩ですね」
「ひどい!」
軽く雑談を交わした後、山田先生は今戻ってきた生徒にアドバイスでもあるのか、駆け出していった。
その背中から視線を外すと、成政はここから1つ向こうの岬で飛んでいる赤いISを見つけた。
「あれ、誰が乗っているんだろうな?」
訓練機とは違って綺麗な挙動を描くIS。その航跡は赤いレーザーを帯び、どこかの前衛芸術の様な美しいが無茶苦茶な幾何学模様を描いていた。
(なんか見え覚えあるクセだなぁ)
一瞬誰が乗っているか心当たりがあったが、そんなわけないか、と呟くと同時に山田先生が石狩君もアドバイスを、と声をかけた。
マネージャーとしての仕事を放り出すわけにもいかない、と成政は快く引き受け、皆の待つ砂浜へと向かう。
「石狩くーん」
「はいはい、今行きますよ!」
「えっ、あっ、はい。本当ですか?!」
訓練中に突然連絡でも入ったのか、無線で誰かと連絡を取り合う山田先生。
訓練していた生徒と、補助のために青い顔をしながらも打鉄で同じく空を飛んでいた成政は首をかしげる。
「やまやんなにがあったんだろ?」
「さあ、何だろうな?ところでやまやんて」
「かわいいじゃん」
「......」
「かわいいじゃん」
「2回は言わなくていいからな」
女子らしいノリに目頭を揉む成政、やはり女子高生はわからんと愚痴をこぼしていると、
「すみません、急いで旅館に戻ってください!」
切羽詰まるようにそう言い残すと、山田先生はラファールを駆って2人をそっちのけで旅館へ飛んで行ってしまった。
「はい?どうしてですか」
「詳しくは言えないですけど、とにかく緊急事態なんです!」
「えー、せっかくの臨海学校なのに」
「そういう事なら早く戻りましょうか。
......僕もそろそろ限界ですし。うっぷ」
「あ、やっぱり。肩貸そうか?」
「助かる......すまん吐きそう」
「BD版だとキラキラがつくから吐いても大丈夫よ」
「メタいアドバイスをありがとう......じゃあ遠慮なく、おろろろろろろ」
《そもそも2時創作なのでBDは出ません》
「まるで意味がわからんぞ」
「......わけがわからないよ」
「なんかイベントと問題がワンセットで起きるよね、ウチの学年。それダウト」
「ええ〜、そんな〜。ちょっとたんま〜」
「ゆるく言っても通用しないわよ布仏さん」
その後、旅館に戻ってきた成政たちを出迎えたのは、旅館の外に出るなというありがたい千冬の言葉。
とうぜん反発はあったものの、緊急事態の一言で黙らされた。専用機持ちが抜けていたのも、それに拍車をかけていた。
暇を持て余す羽目になった成政たちは、専用機が未完成ということで弾かれた簪も交えて部屋で静かにダウトをしていた。
「......箒もいないし、ツマンネ」
結局飽きて手札を放り出し、畳に寝転ぶ。
一緒にトランプで遊んでいた面々は文句を言ってくるが、どこ吹く風と無視して天井を見上げる。
「やっはろー、元気?」
「ん、まあ元気かな」
それを塞ぐように見慣れたショートカットが視界を塞いでくる。
元気もないので適当にマヒロをあしらい、横になる成政。
「うんうん、それは良かった。
じゃあ、
『ひとっ走り付き合えよ』」
「マヒロさんIS展開は良くない、廊下を走るのも良くなああああああああああああ!」
石狩成政、拉致される。
「海は嫌ああああああああ!」
『耳元で叫ばないでよー』
マヒロは海岸近くの無人島まで飛ぶと、抱えていた荷物を投げ捨て、拡張領域から何かを引っ張り出し始めた。
『早くIS出して』
「ちょっと待った。部屋から出るなって僕らは言われてるんだが、それは一体どういう」
『早く!』
フルフェイスに隠れて表情は窺えないが、声色だけでも真剣味が伝わってくる。
前にも同じような事を経験し、痛い目を見ているので素直に従うことにした成政は言われるままに打鉄を展開すると、
『後ろ失礼』
「......あの、何つけてるの?」
強羅は背中に回り込み、工具を使って何かを取り付けている様子。
ハイパーセンサーを起動してその何かを見るものの、専門知識がない成政では何かはさっぱりわからず、打鉄もデータがありませんとテロップを出すという始末。
マヒロがそれに答えたのは、取り付けが終わってからだった。
『ブースター』
「ブースター?」
『うちの試作ブースター。とにかくISをかっ飛ばす機能しかない』
「方向転換とか止まるとかそういう機能は?」
『Nothing 』
「ないの?!」
『錨はあるからそれで頑張って』
「何故に錨を選んだし」
暫くの間キーボードを弄っていたマヒロだが、キーをひ叩くと、ISを解除して正面に回り込む。
「端折って説明すると、暴走した軍用ISが暴走して、日本に迫ってる。自衛隊の出動にも時間がかかるから、専用機のあるIS学園生で撃破、できなくても足止めしろとの命令」
「軍用?!アラスカ条約違反じゃないか」
「国防用なら例外になる。条約の穴をすり抜けてるから違反じゃない」
「んな滅茶苦茶な......」
「で、マッハ2で飛ぶISを落とすには、一夏と高速パッケージを装備した誰か、まあセシリアが行くはずだったんだけど」
「......零落白夜で一撃、で終わりと。ってだった?」
「束博士が割り込んで来て、ダウンロードの終わってない紅茶バカの機体より箒ちゃんの紅椿のほうが速い、って押し切って今向かってる」
「すまん、全然わからん」
「要約すると慣れない専用機に乗った浮かれてる後輩が軍用ISと接触しようとしてんの!」
「よし行こう」
「即答?!」
即座に決断した成政を見て、半ば諦めたように言葉を漏らしたマヒロ。
「言っとくけど、本当だったら専用機持ちか先生に頼みたいところなんだ。
だけど、明確なデータがあるのはキミの打鉄だけ。このブースターはデリケートだから、他の機体で使おうと思うと変な方向に飛んでしまう。だから専用機じゃダメ。
先生たちは最終防衛ラインがあるから戦えないし、1組の2人はオペレートで動けない。
俺が行ければよかったんだけど、強羅じゃ遅すぎて間に合わない。
......だけど、一次移行もしてない訓練機じゃ絶対に勝てないし、キミもそこまでの実力者じゃない。
死ぬかもしれないけど、本当にいいの?今ならまだ俺が乗れば」
「いい、平気。選手が困ってるなら、助けるのはマネージャーの仕事だ。ついでにガツンと言わなきゃいけないしね」
「ブレないねぇ......」
「それはお互い様だろ?こんな欠陥兵器持ち出して。錨ってなんだよ錨って」
諦めたように笑うマヒロの頭を軽く叩きながら笑う成政。お互い、自分のやりたい事に忠実に生きているのだ、意外と通じるところもあるのだろう。
ひとしきり笑った後、マヒロは死地に赴く友人に言葉を送る。
「人はいつか死ぬ。俺だって死ぬし、キミだって死ぬ。みんないつか死ぬ。......だが今日じゃない。この言葉、覚えといてくれ」
「バーサーカーと鬼ごっこするより簡単だろ?いけるいける」
「......聞かなかった事にするよ」
(fateも混ざってんのかこの世界ぃ?!確かに10年前に大火災があったが、偶然じゃなかったのかよ!)
成政の軽い一言でまたマヒロの胃が荒れるが、そんな事おかまいなしに時間は過ぎていく。
「......交戦予定地は送っておいた。
そろそろ出発しないと間に合わない」
「じゃ、よろしく」
「......死なない、よな」
「多分」
「多分て、お前さぁ」
「99パーセント死なないよ。僕の多分は大体当たるからさ」
ブースターの最終確認にチェックを入れながら、心配げなマヒロとは逆に何時ものように緊張感のない軽い雰囲気で笑う成政。
「システムオールグリーン。
......じゃ、行ってくる」
「任せたよ」
「任された」
安全のためにマヒロは強羅を展開し、物陰に隠れる。
同時にカウントダウンが目の前に表示され、示された数字はどんどん0に近付いてくる。
そして、
『カウント0。
強襲ブーストシステム《スターダスト》
高速下戦闘補助システム《シューティングスター》
起動します』
「......はっや。使わなくてよかったー」
アァァァァァクセルシィンクロォォォォ!
嘘です。