インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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臨海学校編、スタート!
(ショッピングなどなかった)


第24話

 

 

「うーみだー死ね」

「いいじゃないか海、なんでそんなこと言うんだよ」

「飛行機落ちて4回くらい泳いだしサメに追っかけられたし魚に噛まれて病院送り。 ......ご感想は?」

「すまん」

 

青く輝く海、白い砂浜。

そして不釣り合いな死んだ魚のような目をした車椅子に座る男子、成政。

一応水着には着替えているものの、ジャケットに麦わら帽子を装備と泳ぐ気はさらさらない。

成政は海より山派なのだ、登れないが。

 

足はもう歩けないという主治医からのお墨付きで、もちろん泳ぐこともできない。

とは言ったものの本人は、

 

『これでマネージャー業に専念できる』

 

と案外前向きでクラスの皆がずっこけていた。

 

それはともかく、

 

「うーみーだー!」

「いぇぃ!!!」

「ちょっと待ったぁ!」

 

波打ち際に走り寄り、海に飛び込もうとするクラスメイトを呼び止める成政。

不思議そうな顔をして成政の方を見るクラスメイトに対して、成政は笛を取り出し、

 

「準備体操しないとダメでしょうが!」

 

総員整れーつ!と号令をかけた。

 

 

「ゔぁー、暑い、死にそう」

 

1人ビーチパラソルの下でだらける成政。

車椅子を降り、シートに寝転がってかき氷を食べていた。

視線の先では騒ぐクラスメイトや、ビーチバレーに興じるラウラや一夏、そして隣でのんびりと読書をしている簪がいる。

友人に頼まれているのでさりげなくカメラを回し、写真を撮りながら、

 

「ざしちゃんざしちゃん、にぱー」

「に、にぱー......」

 

成政の急な無茶振りに戸惑いながらも、成政のやっている通り笑顔でピースサインをする簪。

若干恥ずかしいのか控えめなものだったが、いつもの不愛想な顔とのギャップと相まって、

 

(この写真は、あいつにだけ送っておこう)

 

こっそり頼みにきた某生徒会長のお願い(強制)を蹴っ飛ばす程に、輝いて見えた。

 

「ざしちゃん、開発は順調かな?」

「......あとは、動かして、試すだけ」

「おお、良かったね。で、慎二はあいからわず?」

「......あいかわらず」

 

若干頬を染めながら答える簪。

4月あたりから連絡を取り合うようになった簪と成政の友人の慎二。2人の関係は意外とうまくいっているらしく、この様子から色々と順調だと察し、この後来るであろう惚気話を回避するため成政は、ビーチバレーでロケットパンチを持ち出したマヒロに注意を入れるべく車椅子を動かそうとして、

 

「ぐぬぬにににににに!」

「......大丈夫?」

「砂にはまったみたい、助けて」

 

砂にはまった車椅子を掘り出すべく、簪は読んでいた文庫本に栞を挟んだ。

 

 

 

 

 

 

「マヒロ、ロケットパンチは反則です」

「だったら人間じゃないちっふー先生はどうなんでしょうか!」

「............生物学上はホモサピエンスですので問題ありません」

「どうしてそこで悩んだ成政。そして神上はあとでマンツーマンで訓練してやる」

「結構です」

「釣れないこというなよ神上、ん?」

「そ、それでは試合開始!」

「師匠、見ていてください!」

「......し、師匠?僕が?」

「それはもちろん自分を導いてくれた存z」

「ラウラの顔面に織斑先生のスパイクがー!」

「メディーック、じゃなくて保健委員、怪我人が!」

 

 

 

 

 

 

 

 

時は過ぎて夕方、たまには夕日でもと気が向いた成政は旅館近くの崖に向かうと、先客がいた。

 

「や、箒ちゃん」

「......成政さんか」

 

最近物憂げな様子を見る事が多かった箒、個人的なことかと触れるのを避けてきたが、

 

「......地区大会、惜しかったね」

「そう、だな。私の実力不足だ」

 

先月行われていた剣道部地区大会。

団体戦は2回戦敗退、個人戦は、

 

「ベスト8、もうちょっとだったね」

「ああ、次は勝つ、必ず勝ってみせる」

 

惜しくも県大会を逃す事となってしまった。それを悔やんでなのか、と心配して声をかけたのだが、拳を握りしめ決意を新たにする箒、この様子なら心配はいらないかと成政はこの場を去った。

 

「そうそう、水着似合ってるね」

「お世辞か?」

「本当のこと言っただけだよ、じゃあまた後で」

 

 

 

 

「やはり、力が、欲しいな......成政さんの期待に、応えられるような力が」

 

根本的な箒の悩みを、察することも出来ずに。

 

 

 

 

 

 

「この刺身、うまい、美味すぎる!」

「しかもこれ、本わさだぞ成政。やっぱり風味が段違いだぜ」

 

夕食、海沿いの旅館らしく立派な刺身が添えられた立派なもので、皆は騒ぎながら美味しい料理に舌鼓をうっていた。

 

「へぇ、そうなんだ......あむ」

「あっ」

「っ〜!」

 

海外組は刺身自体が珍しく、シャルロットがワサビを丸ごと食べて悶絶していたり、

 

「大丈夫かセシリア、無理して正座しなくてもいいんだぞ」

「ご、郷に入れば郷に従え、です、わ」

 

慣れない正座に足を痛めていたりと、日本文化の洗礼を受けていた。

 

 

 

 

 

夕食後、ラウラと今後の練習計画について話しながら自分の部屋に向かっていると、何故か部屋の前にいつものメンバーが群がり、聞き耳を立てていた。

 

「師匠、あれは?」

「おーい、何してるんだ?」

「しー、今いいところなんだから」

 

鈴がそういうので、成政達も何も聞かず扉の前まで来た。

ちょっと聞いてみろとジェスチャーされたので、大人しく耳を当て

 

「自分の部屋の前でこそこそする必要などない、というわけではいどーん」

 

るわけもなく襖をスパーンと開け放つ。

決して海が近くて苛立っているわけではない。そんな訳ない、ないったらないのである。

 

「ん、なんだ貴様ら」

 

襖の奥では織斑姉弟が倫理的にやばい事、ではなく普通にマッサージをしていた。

 

「貴様は私と一夏が情事でもしていたというのか、全く。教師がそんなことするはずもないだろう」

「なんだみんな、マッサージされたいのなら言えばよかったのに」

「言える訳なかろうて......」

 

聞き耳を立てていた皆を正座させて説教タイムに入った千冬。いつでも持ち歩くらしい出席簿で全員叩かれるおまけ付きだ。

 

《男子が女子にマッサージをするなど、下手をすれば事案になります。気をつけましょう》

 

「一夏、そろそろ女子の使用時間も終わるはずだ。石狩も行ってこい」

「もうそんな時間か、行こうぜ成政」

「一夏、僕の着替えとってくれ。動くのが面倒でね」

 

暗に出て行けと言われているので、素直に出て行くことにする成政。学園ではあまりできなかった男子同士の込み入った話でもするかとのんびり風呂に入ろうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

「ああー、いきかえるぅー」

「おっさんくさいんじゃないか、一夏」

「いいじゃねえか、2人きりなんだし。ふふふーん」

 

露天風呂で星空を眺める成政。隣の一夏は手ぬぐいを頭に乗せて鼻歌を歌っていた。

風呂の中で思い切り手足を伸ばすが、成政の膝から下はうんともすんとも動かない。

 

「ま、当然か」

「......なんか、ごめんな。その足」

「どうかしたか?」

「いや、俺がもっと早く行ければ、守れたかもしれないんだろ、だからさ」

 

申し訳なさそうに下を向いてしまう一夏。成政は暗い雰囲気は嫌いなので、

 

「たらればを言っても仕方ないさ。それに可哀想だなんて思われるとこっちが迷惑だ」

「あた!何すんだよ」

「抱え込みすぎんなよ。周りに相談することも覚えろよ」

「......ああ」

 

無言で拳をぶつける男子2人。

男子は単純だから楽だ、成政は常々そう思っている。

 

 

「ところでさ、お前さ、本物の戦争に行けって言われたらどうする」

「んあ?なんでそう突然に」

「いや、素朴な疑問さ。

ISなんてアラスカ条約で兵器扱いが禁止されてるとは言え、どう見ても兵器だろ。

もし戦争なんて起きれば、条約がなんだの言ってる場合じゃない。専用機持ちなんて最前線に放り出されるに決まってる。

ISを使えば簡単に人なんて殺せる。

白式の零落白夜なんてISごと操縦者を真っ二つにできるんだぞ?

それこそ今が1940年代だったらセシリアたちとドンパチやってるだろうさ。

全く、平和な世の中だねぇ」

「......よく考えれば、使ってるのは武器、だもんなぁ」

「刀だぞ刀。銃刀法違反じゃないか、犯罪者だな」

「......レーザーブレードは刃物に入るのか?」

「さあ?物が切れれば刃物だろ」

 

2人はしばらく黙り込み、思考の海に沈む。

成政の言葉に思うところでもあったのか、一夏は眉間にしわを寄せてうんうん唸る始末だ。

 

「まあ、3年もあるんだし、ゆっくり考えればいいさ。

 

 

 

 

 

ところでお前好きな人はいるわけ?」

「は?」

 

先程の真面目な様子とはうって変わってニヤニヤしながら一夏の脇腹を突く成政。

 

「いつも女子に囲まれてるわけだし、気になる子とか1人や2人」

「恋愛とかよくわかんないんだよなぁ」

「......what?」

「正直いつも忙しいし、まだ女子だらけの状況に慣れてるわけでもないし、恋人作ってる様な余裕もないし何よりさっぱり」

「馬に蹴られて死ね」

「ストレートだなおい!」

 

この朴念仁に恋愛を聞いたのが悪かった、と成政は罵声を浴びせた後思った。

体を洗うために風呂から出ようと、手すりに手を伸ばす。

気を利かせたらしい一夏が手を掴み、風呂から引き上げようとするが、一向に持ち上がらない。

 

「一夏、お前力無さすぎやしないか?」

「なんの話だよ一体?」

 

声が聞こえてきたのは、頭上ではなくその隣。

急に声をかけられてキョトンとしている以外は、先程と変わりない。

 

「じゃあ、誰が引っ張ってるんだ?」

 

成政が頭上を見上げると、

 

「ぐぬぬぬぬ!」

「ラウラ、何してんの」

「師匠の助けをするは弟子の務め、なり!」

「いや全然上がってないから」

 

ラウラは小柄であるため、力を発揮しづらいし、格闘系競技やバスケなど体のリーチを活かすスポーツ全般では不利なのだ。

時々小柄にもかかわらず訳のわからない成績を叩き出す天才もいるが、ラウラにそう言った才能はない。

ただ、戦闘センスはずば抜けて高いのだが、

 

「一夏、ここは男子風呂だな?」

「逆に入った時に女子が着替えてたから男子風呂......だと思う」

「なるほど。頬が赤いのはそのせいか。で、なぜラウラはここに?」

「日本では裸の付き合いというものがあるのだろう?クラリッサがそう言っていた」

 

一般常識が致命的に足りない。

 

「......とりあえず、下は隠そうか」

 

成政は頭の上に乗せていた手ぬぐいを無言で差し出した。

ラウラが言われるままに腰に手ぬぐいを巻いているうちに一夏に引き上げてもらい、3人で仲良く背中を流したりした。

その後すぐに2人がかりでラウラを風呂から叩き出し、無駄に洗練された軍隊格闘術で痛めつけられた体を労わる様に風呂に浸かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......臨海学校終わったら告白でもするかなぁ」

「なんか言ったか成政?」

「いや、なんでもないさ」

 


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