インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜 作:通りすがる傭兵
多めにみてください......。
だって早く臨海学校編やりたいんだもん!
「まあ反省会な訳ですが、2試合目のビデオは無いです。しょうがないので無しでやりますよ」
「......」
「というわけで1試合目から。
まあ客観的に見ても上手い事試合は回ってたし、細かく言うことはあるけど総評としてはよくやったという感じかな。
2試合目は、まあ敗北に関しては僕の情報収集不足です。こればかりは申し訳ない」
ぺこり、と頭を下げる成政。
「初見の相手に対して1人で放り出すという馬鹿なことを強制してしまったのはマネージャーとして失格です。
その後に関しては、んーと守秘義務?があるんですがね、当事者だし......」
「そうでは無いだろう」
「はい?」
「もっと、ほかにいうことがあるのでは無いか?」
ベッドに寝たまま、成政と反対方向を向いて顔を見せず話を聞いていたラウラがそう呟く。
「ああ、試合要項はちゃんと読んでね。反則は良く無いと思うよ?」
「そういう事では、無いっ!」
「じゃあなんなのさ?」
声を荒げるラウラ。それに対してなぜ怒っているのかわからない、と言わんばかりに首をかしげる成政。
「貴様が試合前、情報収集、トレーニングなどかなりの時間を要して試合準備をしていたのも、だ。
私はそれを台無しにしたんだぞ、何故罵声の1つも浴びせないのだ!」
「じゃあバーカ。ばーかばーか」
「ふざけているのか!」
「選手に罵声を浴びせるのは観客だけで充分です。マネージャーは選手と一緒に喜んだり悲しんだりして、気持ちを共有するもの。んでたまには選手を慰めるのも仕事な訳ですよ」
成政は車椅子を動かしてラウラの目の前につけると、バインダーでラウラの頭を軽く叩く。
「ボーデヴィッヒさんが試合を台無しにしたのも事実。だけど、選手としての素質は一流だったし、試合の取り組みも素晴らしかった。
だから自分を責めなさんな」
「だが、私は......」
「ボーデヴィッヒさん。選手に必要なものはなんだと思う?」
「......わからない」
力なく首を横に振るラウラ。
今までであれば即答できた筈なのだが、ラウラは力の在り方、というものが分からなくなっていた。
「簡単な事さ、勝ちたいと思う気持ち」
「勝ち、たい?」
「そ、実力もいるし、経験も必要。何より体づくりも大事だけど、大事なのは勝ちたいという信念。
ボーデヴィッヒさんは最後まで諦めなかった、だからああなったわけなんだけど、あれは偶然が重なって起きた事故みたいなもん。
だから、ボーデヴィッヒさんは間違ってない。自分を責める必要もないよ」
「......そう、なのか?」
「そうそう。そもそも力なんてとてもあやふやなものだし、20年も生きていない僕らが分かるはずもないもん。
正直、案外くだらないものの方がいいかもよ?例えば、正義の味方になりたいとか、義妹に誇れる兄貴になりたいとか、燕が斬りたいとか、あとは、カッコよくなりたいとか」
「......」
「とりあえず、肩の力を抜いていこうよ。
まだ時間はあるんだし、ゆっくり探せばいいんじゃない?」
ポンポン、と成政はラウラの肩を叩くと、保健室を後にしようと車椅子を動かす。
「......お前は、強いのだな」
「そお?全然強くないよ。
僕は今でも人に銃を向けるのがちょっとだけ怖いくらいだし、争いごとは得意じゃない。
高いところは苦手だから空高く飛ぶのも嫌だし、飛んでると酔いそうになるし。
だからさ、戦ってるみんなの方が強いと思うし、羨ましいよ」
「そのような意味ではない。心の在り方が強い、のだ。
私は、昔は落ちこぼれで、教官に教わったことで、今の地位に立っている。
だからこそ、教官に憧れていた。
だが、今では、何を目標にすればいいか分からないのだ。信念も、何もない。
そんな空っぽな私と違って、何かを貴様らは持っている。だから、強いと言ったのだ」
「じゃ、その何かを見つけようか。少しなら手伝うよ?」
「......ありがとう」
「まずはクラスに馴染めるよう頑張ってみ」
「せーんーぱーい?」
「ぎっくぅ!」
成政が保健室を去ろうとドアを開けると、修羅が立っていた。
「聞きましたよ?思いっきり走ってたみたいですね、生身で」
「ぎく」
「生身でISを殴りつけたとも」
「ぎく」
「本当ですか?」
「......ソンナコトナイヨ」
先ほどとはうって変わって錆びついたロボットのようにカクカクとした動かない成政。
心なしか汗をかき、ちょっとずつ箒から距離を取る。
「嘘ですね。一夏を蹴飛ばしたのはともかく、
......なんでそんなに無理してたんですか!」
「いやー、あの時は頭に血が上ってまして」
成政にタックルを仕掛ける箒。車椅子の成政が避けられるはずもなく、ガタンガタン、と車椅子が倒れる音が響く。
「いつもそうだ、成政さんは無理をして、どんなに疲れていても笑っていて......
私が、気がつかないと思ってたんですか!」
箒に押し倒されるような形になっている成政は、その箒の言葉を無言で聞いていた。
「先輩は、いつもそうだ。
選手のため、みんなのためと言って、自分は無理をしてもいいと思ってる。
みんな先輩のことを心配してないわけ無いじゃないですか!
私が、無理してる事くらい分からないわけ無いじゃないですか......」
「......なあ、篠ノ之」
涙目で訴える箒に対して、気まずそうな顔をしたラウラが声をかけた。
「石狩が息をしていないと思うのだが」
箒が無言で体を起こすと、青い顔になっていた成政がぜーはーぜーはーと肩で息をして、一言。
「役得でした」
「っ、馬鹿ぁ!」
箒は成政をグーで殴った後、顔を真っ赤にして保健室から出て行った。
「誰か助けてー」
「自業自得だろう」
「ボーデヴィッヒさん意外と日本語知ってるんだね」
「これくらい今の世の中では一般常識だぞ」
「あ、ボーデヴィッヒさんにお願いが」
「......貴様、いや貴方は命の恩人だ。私にできることならば、協力しよう」
「実は......」
うちあげられた魚のように、床に横たわって動かない成政。
自力で起き上がれなくなった彼が救助されるのは、シャルルがラウラの見舞いに来る30分後となる。
次の日、
「転校生を紹介しますー。と言ってもみなさん知ってると思いますが、ははは」
「まやちゃんが壊れてる......!」
髪はボサボサ、スーツはシワだらけで目の下に大きな隈を作って悲しそうに笑う山田先生。
その様子に1組が戦慄していると、
「失礼します」
扉をあけて誰かが入ってきた。
中性的な顔立ちに、ショートカットの金髪。
どこかでみたような顔だが、最大の違いは制服の下がスカート、という事だろう。
その誰かは教卓前まで来ると、輝くような笑顔で、
「本日転校してきました。
シャルロット・D・ボーデヴィッヒと言います。よろしくお願いします!」
「「「「「ええええええええ!!!」」」」」
ざわざわと教室がざわめく中、新しく頰にガーゼを貼った成政はシャルロットの方を向くと、無言でサムズアップしていた。
だが、このままで終わらないのが1組クオリティ。
「あれ、そういえば昨日の大浴場は男子使ってたよね」
誰かがそうポツリと漏らした事で、騒がしかった教室が一気に静まり返る。
無言で立ち上がるセシリアと箒。
「一夏さん?昨日何があったんですの?」
「一夏、どういう事か説明してもらおうか」
「えっと、それは、その......」
冷や汗をダラダラと垂らして、助けを求めるようにして辺りを見回す一夏。
怪我のせいで風呂に入れず、何があったかは知らない成政だが、ふと彼に魔が差した。
「一夏」
「成政?」
「ゆうべは お た の し み でしたね」
「ちょっとおおおおおおおおおお!?」
たまにはこの朴念仁に天誅を。
「とはいえISを展開するのは無しで。
セシリアはステイ、校則違反というか法律違反だから、落ち着いて。
箒は.......竹刀なら許す。木刀は死んじゃうからダメ」
「わかった」
「......仕方がありませんわね」
「ありがたいけどちゃんと止めて!」
「止めたいのは山々だけど怪我人だからー」
「棒読みがすぎるぞ!」
「一夏ぁ!」
突如、教室のドアが吹き飛ぶ。幸運にも誰も当たることはなかったが、戸口に立つ人物が問題だった。
「り、鈴?!」
「死ねえええええええええ!」
甲龍を部分展開し、龍砲を一夏に突きつける鈴。
いくら威力が低いとはいえこの距離で人間相手に撃ったとなれば、シャレにならない。
しかし、
「私の妹に手を出すのは、やめてもらおうか」
不可視の砲弾を空間ごと固定する。
そのような事を出来るISはシュバルツェア・レーゲンただ1機、そしてその機体を駆るのは、
「色々と吹っ切れたみたいだね、ボーデヴィッヒさん」
「ラウラで構わない」
昨日とはうって変わってどこか吹っ切れた様子のラウラ。窓を開け、ISを解除して悠々と教室に入り、一夏の前に立つ。
誰も何も言わないのは、緊急事態が重なりすぎてあっけにとられているせいだろう。
そして、ラウラは思い切り息を吸い込むと、
「本当にすまなかった!」
一夏の机に思い切り頭を振り下ろした。
「数々の非礼を詫びる。自分が軍属だからと言って、貴方たちを下に見ていた。
自分が未熟であるのにそう言ってしまった事、心より申し訳なく思う。
そして織斑一夏、貴方には勝手な逆恨みを抱いた上、酷い事を言ってしまった。
本当に、すまない!」
その日の午後、食堂まで車椅子で向かっていたところ、ちょうど見かけた一夏に声をかけた成政。
車椅子を押す事を頼み、特に急ぎでもない一夏はのんびりと2人で話していた。
「なあ、あのラウラの変わりよう、お前のせいだな」
「もっちろーん。一夏は納得いかないだろうけど、仲良くしてやってくれないか?」
「......無理だ、と言いたいところだが。成政が言うんならしょうがない。あいつも吹っ切れたみたいだしな」
とりあえずは一件落着、かと胸を撫で下ろす成政、
「でもあいつは1発殴る」
「ご勝手にー」
拳を握り締める一夏を、成政は止めるつもりもない。自分も殴り合いをしているのだし、時には言葉だけでは解決しない事もある。
「ま、クラスには案外馴染めそうだし、ね」
「だな」
食堂でクラスメイト'sに弄られるラウラを見ながら、男子2人は年寄りみたくほっこりしていた。
「織斑一夏、お前を私のライバルにしてやる!明日、第3アリーナで勝負だ!」
「ラウラ、髪の毛に芋けんぴついてるよ」
「む、すまぬ妹よ、あむ」
((髪に芋けんぴってどう言う事だよ?!))
問題だが、案外さっさと解決しそうだ。
「ところでこの車椅子、妙にゴテゴテしてるな」
「蔵王製」
「ん?」
「最高時速200キロ、1tの荷重に耐え、空も飛べる、らしい」
「なんだよそのオーバースペックは?!」
「ちなみに機銃も積んでる」ガシャ
「下ろせそんな危険物!」
「今なら198000円」
「早く返品してこい!あと誰が買うんだよ」