インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜 作:通りすがる傭兵
とりあえず福音戦までやりますので。
マヒロは思考の海に沈んでいた。
(まず、クラス代表決定戦、については情報なし。聞けば4人出たらしい。多分あいつが顔を突っ込んだから原作とずれた。
クラス対抗戦、一夏の最初の対戦相手が俺の時点で狂い始めてる。
幸い鈴戦で無人機は襲撃してくれたけど、危うくセシリアの援護が間に合わないところだったぞ。
それに今のタッグトーナメント。
初戦で勝っちゃってるし、もうおかしいよ)
一夏と暮桜もどきが鍔迫り合いをし、迫真の剣舞を繰り広げる光景から目を逸らしたマヒロは、どうにでもなーれ、と半ば諦めて空を見上げた。
マヒロは、実は前世の記憶がある。
生まれた時も、場所もほとんど同じ日本。
ただ、マヒロのもといた世界では、インフィニット・ストラトスみたいなロボットはいなかったし、もちろん男尊女卑も女尊男卑もない、ついでに言うなら蔵王工業もない。
しかし、マヒロは初めてISを見た時、説明もなしにそれを理解した、それは何故か。
知っていたから。
マヒロは『インフィニット・ストラトス』という物語をアニメで知っていたのだ。
その時はマヒロはまだアニメとゲームをこよなく愛する、ちょっと変わった青年だった。
ある日突然、車に跳ね飛ばされて彼は死んだ。
誰かを助けるためにという高尚な理由もなく、わき見運転をしていた大型トラックに跳ね飛ばされて、あっけなく最後を迎えた。
そして、記憶を残したままこの世界にやってきたのだ。
「お母さん、元気な女の子ですよ!」
「びゃあああああああ!(なんで女なんやねーん!)」
ただし、女だったのは彼の想定外だったが。
立派に社会人として暮らし、それなりに頭の良かった彼もといマヒロが小学校をアニメを布教しながら楽しく過ごしていたところに、災厄はきたのだった。
白騎士事件
ニュースでそう呼ばれるようになった一連の事件、それを見てからマヒロはこの世界がアニメだと知った。
「だからと言ってどうにもなる訳ないけど」
転生してすぐにこの事件に接していればマヒロは舞い上がって原作に絡みに言ったことだろうが、生を受けて7年。前世と同じようにサブカルを愛する楽しい少女は、
「まあ、百合は苦手じゃないけど、今じゃ男が好きだしなぁ」
普通に女子をやっていた。
恋愛感情はまだ湧いていないが、テレビなどで男性アイドルグループなどの特集を見れば自然と見てしまうし、気を使っていなかった服装や髪型にも神経をとがらせるようになってしまい、それだけ見ていれば立派な女子、身体が変われば心も変わる、ということだろう。
とはいえ男子だったことをすっぱり忘れてしまった訳でもなく、ベリーショートに一人称は俺、と少し変わった子供にはなってしまったが。
インフィニット・ストラトスの世界とわかったはいいが、友達にも原作に出てきた名前は見当たらず、かといってチート能力など持ち合わせていない。
だからといって指をくわえてただ見ているわけでもなかった。自由にロボが動かせると聞けばロマンな心が舞い上がるのも事実。
それがちょっと暴走して夏休みに一人旅しちゃったくらいだ。
中学校にあがった途端にIS製造に関わる会社を巡り、今では蔵王工業のテストパイロットという地位に登りつめ、専用機『強羅』を操つり毎日火薬をばらまくトリガーハッピーなJKだ。
彼女にはこれからの展開の記憶がある。実質未来が見える、というなんというデタラメな記憶であろうか。
しかし、マヒロはそれを変えようとは思わない、原作でさえ綱渡りであったはずなのに、自分が下手に突いて最悪な展開に転がり込んでしまっては目も当てられない大惨事になってしまう。
という建前のもと、めんどくさいしゲームを現実で再現するという夢を叶えたいのが本音だったりする。
音速で空を飛び、多数の武器を振り回す。
これが最高と言わずしてなにを最高といえばよいのか、とでも言うように原作が最低回るような手助け以外はせずに、硝煙の匂いが漂う学園生活を満喫している。
そんなマヒロにも悩みはある。
そう、原作にはいなかったはずの2人目、成政の事だ。
ネット小説でよくあるように自分と同じ転生者か、と疑って部屋の段ボールに隠れてみたり押しかけてみたりしたが、特に怪しい点もない。
逆にいえばよくあるような展開が通じず、行動が読めない。
マネージャーという変わった思考回路の持ち主である成政は時々行動も変わっており、代表決定戦では自分に盾を貸してくれと頼みに来たり、クラス対抗戦では箒を抱えて走っていたり、何故かラウラと組んでいたり、かといって戦うわけでもなかったり。
(あいつは一体なにがしたいのだ!)
話題の成政がそれを聞いていたならば、
『マネージャーですから!』
としか答えない。
成政本人は常識人を自称しているが、周りから見ると彼は十分に変人なのだ。
(あいつ変人すぎる......思考回路ワカラナイ)
そうツッコむマヒロも人のことは言えないのだが。
さて、今の状況を整理する。
一夏とシャルルが暮桜もどきと戦闘中。
箒は倒れた成政のそばに膝をついて動かない。
四楓院はティナの救助に。
マヒロは絶賛放置プレイの真っ最中。
(まあ、原作通り一夏が切り飛ばしてラウラを助けて終わり、でしょ)
一番状況を把握しているのは、この中で楽観的なマヒロだ。
成政がちゃんと生きてるのも知ってるし、何より戦場から離れてのんびり考え事に耽るくらいには大人でもある。
それにISも不要な装甲をパージすれば動けるようになる、と斜に構えていた、のだが。
「消えろ」
マヒロの知る由も無い理由で何故か原作よりも殺意増しましな一夏が暮桜もどきを叩き伏せ、殺す気で刀を振っているのは想定外だった。
しかも、
「まだ話しちょう途中じゃろうが!」
白式に飛び蹴りを喰らわせる程成政が意外と元気だったのも想定外だった。
『なんかもう、疲れた』
「私は、まだ......」
箒は倒れ臥す成政のそばに座り込み、自分の不甲斐なさに拳を握りしめていた。
もしあの時のただならぬ一夏の雰囲気を察して、早くアリーナに飛び込んでいればこんな成政の姿は見なかったかもしれない。
もし、私が試合を見ていたら、早く助けに行けたかもしれない。
ifが積み重なって箒自身を責め立てる。
「まだ、先輩に何もできていないのに......」
ひたすらに、懺悔の言葉が口から溢れてくる。
5月に怪我を負わせてしまったことをまだ謝っていない。
日頃からの感謝を告げていない。
そして、
「私を、真っ当な剣士に戻してくれた、礼を、まだっ、言ってないのに!」
「それは、まあ気恥ずかしいから後にして」
「.......え」
聞き慣れた、声がした。
箒が顔を上げると、
「マネージャーが心配されるなんて、本末転倒だねぇ。
じゃ、まだ試合あるから」
逆光で顔は見せずとも、誰かなんて決まっている。
打鉄を纏いかける、その男は、
「先輩っ!」
「まだ話ちょう途中じゃろうが!」
一夏に飛び蹴りをかました成政は、そのまま白式をひっぺがし、暮桜もどきの襟元を持って立ち上がらせる。
「おうおうおう、さっきはようやってくれたのお、なあ」
いつの間にか展開した葵を持ち、それで肩をトントンと叩いてみせる。
「人ん話ちゅうのは最後まで聞くもんやと習わんかったか?なあ」
「......」
VTシステムに発声機能など無い。
全てはヴァルキリーを再現するためのもの、不要なものは全て削ぎ落とした。
故に答えない、答えられない、のだが
「なんか喋れや、ああん?」
それが逆に成政の気に障った。
「何も喋れへん木偶人形か、おんしは。じゃったら、
続きは病院、じゃな」
力の抜けている暮桜もどきを持ち上げ、握っていた手を離す。
地面に着くまでのその一瞬、空中に浮く時を見計らって、
刀は不要、信じるものは己の拳のみ。
姿勢は下げ、利き足と逆の足を前に出す。
左は敵の方に平を向ける。
そして、右手を脇に寄せてーーーーー
あとは、右足を踏み込むのみ。
放たれた正拳突きは、暮桜もどきを貫いた。
「っし、久々じゃったがうまくいくもんよのう」
「ぅ、あ......」
「気がついたか、ラウラ」
「っ、教か、ぐぅっ!」
「起き上がらなくてもいい、全身打撲で暫くは動けないそうだ」
ラウラが目を覚ますと、まず白い天井が目に入った。
ラウラが目を覚ましたのに気がついたのか、そばにいた千冬が声をかけ、反射的に起き上がろうとして傷の痛みに呻くラウラを制した。
「教官、私は......」
「ここは保健室だ。表向きはタッグマッチ中の事故として処理された」
「......」
「本来なら話すべきではないが、当事者として話くらいはしておこう。
だが、私の独り言ということにしておいてくれ。
シュバルツェア・レーゲンにはVTシステムが搭載されていた。発動条件はまだわからないが、おそらく一定以上のダメージと、操縦者の強い思いだろうと推測されている。
これは操縦者の意向を無視し、ドイツ軍部の一部が勝手に取り付けたものという見方が強い。
以上、長い独り言だ。理解したか?」
「......はい」
「貴様には言いたいことが山ほどあるが、一つだけに留めておく。後も詰まっているようだしな」
千冬はドアを一瞥し、立ち上がる。
そして、
「ラウラ・ボーデヴィッヒ、貴様は何者だ」
「わ、私ですか?私は......」
黒兎隊、隊長。
IS学園生徒。
試験管ベイビーの出来損ない。
肩書きは沢山あるのに、ラウラは即答することができなかった。
そもそもラウラは自分の名前など記号程度にしか認識していない。
記号に意味を問われても、返答には困るだけだ。
答えが浮かばす考え込んでしまったラウラに対し、千冬は、
「ふえっ?きょ、教官?!」
「今はそれでいい。この場所で、自分が何かを見つけるのだ、ラウラ」
頭に手を置き、不器用ながらもその銀髪をぐしゃぐしゃと撫でた後、そう告げて保健室を後にした。
そして千冬と入れ違いにして入ってきたのは、
「ボーデヴィッヒさん、怪我の調子はどうですかな」
両足首をギプスで固定し、頭に包帯を巻いた痛々しい姿で車椅子を駆る成政だった。
「それじゃ、反省会を始めようか」
いつもの調子で笑いながら、成政はクルクルとペンを回した。
カラン
「あ、ごめんボーデヴィッヒさん拾ってくれる?」
「見ての通り起き上がれないのだが」
「「......」」
「調子に乗ってやった事もないペン回しをした結果がこれだよ!」
「大声は傷に響くのでやめて欲しいのだが」
成政君は意外とハイスペックです。
まあ、全力でも箒と一夏とどっこいどっこいくらいの実力ですが。