インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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戦闘描写が戦闘描写じゃなくなる謎。

戦闘というより戦闘中の人の脳内を書いている気がします......ドウシテコウナッタ。


第20話

第20話

 

 

「なあ、とてつもなく否な予感がするんだ」

「たかが第2世代機、そう気にすることでもあるまい。決勝では織斑一夏が待っているのだ。有象無象など蹴散らしてくれる」

「じゃあ、頑張ってね!僕応援してるから」

「貴様は選手という自覚を持たんのか」

 

予選トーナメント2回戦、成政ペアに対するは、学年1の問題児として名高い神上と、カナダ代表候補生、ティナのコンビ。

成政がマークしていたペアのひとつなのだが、このペアだけ、もとい神上だけは対策が立てられていない。

その理由はたったひとつ、

 

「お ま た せ」

 

訳のわからない兵装ばかり持ち出してくる、マネージャー泣かせの存在だからである。

 

 

きゅらきゅらと金属が擦れる音を立てながら、重々しい音を立ててアリーナにそれは現れた。

正規のハンガーからではなく、整地用重機出入り口から入場した神上の専用機『強羅』。

それは、

 

「うわぁ......」

「......」

「これぞ、男の浪漫。『ガチタン』だ!」

(女の子よね......)

 

 

どうしようもなく、戦車だった。

 

背中に背負われた黒鉄色に輝く、開戦を今か今かと待ちわびる2門の大型キャノン。

肩部には成政も使っている蔵王特製大楯が取り付けてあり、企業のロゴがでかでかと描かれている。

特に目を引くのは、特徴的な脚部。

下半身を丸ごと覆い被さるような追加パッケージは、第二次世界大戦時の戦車を思い起こさせるような角張った装甲とキャタピラを備えている。

そして、載せれるだけ載せろという意思が溢れ出るように、所狭しと取り付けられた武装群。

腕には駄目押しのように大型シールドとガトリング砲2門を2丁。

しかも何時もは黒に赤とアニメ映えしそうなカラーリングなのだが、試合に合わせてわざわざサンドカラーベースの迷彩柄に塗り替えるという気合の入り様だ。

 

「そのせいで試合開始時間ぶっちぎった訳じゃないでしょうね」

「いやー、無茶言って持ってきてもらったもんだからね、5割ほどしかできてない試作品だし」

「あなたねぇ!」

 

ラファールに乗って真下の強羅に怒鳴り立てるティナ、問題児の世話は苦労が絶えない。

 

『えー、10分遅れですが、2回戦第1試合、開始します、準備はよろしいですか?』

 

山田先生の若干涙ぐんだアナウンスが会場に響くと、選手たちは気持ちを引き締め、各々の武器を構える。

 

「問題ない」

 

シュバルツィア・レーゲンに乗るラウラはプラズマブレードを構え、レールカノンに弾を込める。

 

「大丈夫です」

 

打鉄に乗る成政は手持ちシールドを左腕に取り付け、近接刀『葵』を正眼に構える。

 

「いつでもいけます」

 

ラファールに乗るティナはマシンガン2丁を呼び出し、くるくると回す。

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

強羅に乗るマヒロは兵器庫に火を入れ、装甲に覆われた頭部のツインアイが輝く。

 

『それでは、試合、開始!』

 

 

 

 

それから5分程経過する。

 

「ねえ、織斑先生から試合をしろって通信がきてるんだけど」

「奇遇だね、僕も」

 

仲良くシールドの陰に隠れている訓練機持ちの2人、SEにもまだ余裕も残っているし、弾もまだある。

ではなぜ、2人は戦わないのか。

 

「アレの中に飛び込んだら、死ぬよね?」

「絶対防御が信頼できなくなるなんて思わなかったけどね、あんなもの見せられちゃたまったもんじゃないわよ」

 

答えは簡単、2人の戦闘についていけないからである。

 

開始数分にしてアリーナの地表はめくれ上がり数々のクレーターが激しさを物語っている。

そして絶え間なく響く銃声と金属がこすれあう不快で甲高い音が戦闘をしていることを示す。

そう、ラウラとマヒロが互いにぶつかり合い、火花を散らす死闘を演じているからだ。

 

開始30秒で打鉄のSEを半分まで減らし、1回戦の焼き直しのように壁に衝突していた成政が、マヒロの追撃のガトリングを防ごうと盾をありったけ実体化させヤドカリよろしく引きこもり、その1分後には同じように吹き飛ばされたティナを流れ弾から守ろうと成政が盾の裏に引き込んだのだ。

 

そうして、お互いのパートナーをガン無視したタイマン勝負と相成ったわけである。

かと言って、互いのパートナーの事を疎かにし

ているわけでもなく、様子を伺おうと成政が恐る恐る陰から顔を出せば、

 

「ひう!」

 

綺麗に照準をつけるの時間すら惜しいと言うように地面を弾丸で抉りながらガトリング砲2基が狙いを定め、成政は情けない声をあげながら引っ込む。

分間6000発、秒に直せば0.01秒に1発のペースで飛んでくる鉛玉は銃弾の間隙のないその様子は、雨どころではなく高圧洗浄機か何かを思わせる。

片手だけでこうなのだから、正面に立ったならばどうなるかは言うまでもないだろう。

背中の砲がこちらを向かないだけでも救いというものだ。

 

ではティナの方はどうだろうか。

 

 

先程の成政の様子で学習したのか、ハイパーセンサーを活用して視界に映る盾を透けるように設定、体を晒すことなく射撃を可能にする。

マシンガンを呼び出し、そのまま引き金を引こうとして、

 

「え」

 

どこからともなくワイヤーが飛び、生き物のように絡みつく。普段より力を込めていたせいもあって、手から搦め捕ろうとしたワイヤーの動きに合わせて体が引き摺り出される。

 

「ストップ!」

 

とっさに成政が襟首を掴んで抑えなければ、あの地獄に放り出されていただろう。

ティナのお礼に対する応対もそこそこに、考え事をする成政。

 

「......これ、制限時間あったよね」

 

試合要項を呼び出し、ティナにも見えるよう投影ディスプレイに映しながら、試合時間の項目を探す。程なくしてその一文は見つかった。

 

試合時間は1時間とする。それを超過した場合は、ペアの残りSEの合計の多い方を勝ちとする。

大会規約保存しといて良かった、と思いながら成政は試合開始からの時間を打鉄に問う。

 

『現在の経過時間 7:26』

 

あと、53分。現実は非情だった。

 

「無理じゃない?」

 

ハイライトの消えた目でそう呟くティナ、それに対して成政はとりあえず頑張れと自分の相方に祈りを捧げた。

 

 

 

 

 

 

「時代遅れの欠陥兵器が!」

「欠陥兵器で何が悪いんだこんちきしょう!」

 

訳がわからない、ラウラは目の前の相手をそう評した。

専用機持ちではあるが、たかが時代遅れの第2世代機。事前の戦闘データを見ても、わざわざ火力だけは高い取り回しの悪い兵器ばかりを使用する偏屈者で、ISをゲームか何かと間違えているような立ち回り、そう思っていた。

「全砲門、開け!」

「ちいっ」

 

戦ってもその印象は変わらない。その偏屈な装備に振り回され、一部余計な被弾を招いているのも事実だが、

 

(このままではジリ貧か、どうなっているんだ彼奴は)

 

「ふんぬ!」

 

ラウラの放ったレールカノンの一撃を拳でもって物理的に払いのける強羅、SEもそれに応じて減ったが微々たる量だ。それを気にする事もなくそのまま背中のキャノン砲をラウラに向けて撃ち放つ。

強羅の実弾キャノン砲は弾速も遅く、普段のラウラなら斬り放ってそのまま肉薄するところだが、

 

「全くもって、馬鹿げている......」

「馬鹿じゃない、ロマンだ!」

 

全弾グレネードの榴弾砲なのでそうはいかない。1回戦、うっかり双刀でこれを切り払ってしまった鈴が大ダメージを負って落ちていったのは記憶に新しい。

しかも近づくだけで起爆する近接信管内蔵と厄介極まりないもので、回避をいつもより一回り大きくしなければならない事も、ラウラを苛立たせていた。

そして、ワイヤーブレードの射程の一歩外側に陣取るように、なおかつ弱点である脚部を晒さぬように、正面をラウラに向け続ける。

時にラウラの攻撃や地表の凹凸すらも利用して、高速戦闘を繰り広げるマヒロ。

そしてラウラと同じアンカーガンを壁に打ち込み、映画さながらに壁を駆け上がって飛び上がり接近戦すらも仕掛けてくる。

 

たかが第2世代、そしてわざと空中への適性を捨てた足回り、ふざけた言動。

軍人としてのプライドを逆撫でするような、ISの事をゲームのロボか何かと勘違いしているような立ち振る舞い。

「どうして、貴様のような奴がこんなにも......」

「あ、なんだって?!」

 

だが、マヒロは強い。

取り回しの悪さを補ってありあまる火力の高さ、それを存分に活かすための立ち回り、そして弾丸を当たるための先読み技能はずば抜けて高い。さらに、第2世代機の長所である高いパワーと耐久を活かしてのパワープレイも一役買っている。

ラウラの預かり知らぬところだが、マヒロはISと似たロボを動かすゲームの対人戦を軽く4000戦ほどやり込み、プレイ時間も廃人ゲーマーとそう変わりない。ゲーム内でも相変わらず重装甲高火力低機動の強羅と似たような機体ばかりを扱うため、この立ち回りは無意識でやっているのだが、やり方がおかしくとも多くの経験に裏打ちされたものだ、弱いはずがない。

 

純粋な暴力、それを力として見ているラウラには、マヒロの強さが分からない。

 

見てくればかりの旧式機体に己を預け、わざわざ取り回しの悪い武器を好んで用い、避けられる攻撃をワザと受けて弾く。ラウラからすれば、非効率そのものだ。

 

先程の言葉は爆音に掻き消されマヒロに届くことはなかったが、もし聞いていればこう答えただろう。

 

『それが、ロマンだから』

 

 

 

だが、ラウラとて負ける理由もない。

邪魔が入り、消化不良に終わった織斑一夏との再戦。今度こそ一夏の心ごとその紛い物の雪片をへし折る、そのためには、こんな物に負けるなどあってはならないのだ。

 

「沈め、アンティーク風情があああああ!!」

 

苛立ちで冷静さを失ったラウラは、弾丸の雨の間に体をねじ込み、強引に強羅に接近戦を仕掛ける。

それが、マヒロの罠だとも知らずに。

 

「この瞬間を待っていたんだ!」

 

それを罠だと気付いた瞬間にはもう遅い。

マヒロは武装群をパージして身軽になり、盾に隠していた蔵王謹製の3連装パイルバンカーが露わになる。それを振りかぶるように身体を捻り、力を溜めるような仕草を見せる。

 

ラウラはその攻撃を見切り、カウンターを叩き込むつもりでいた。

マヒロは射撃戦とは違い、素人とそう変わらない近接能力であることを開始数分で交えた接近戦でラウラは既に見抜いていた。

おそらく、あの攻撃もISの出力に物を言わせた直線的な攻撃なはず、見切るには容易い、そう判断していた。

集中を妨害する弾幕も消えた以上、接近戦でかなりのアドバンテージを誇るAICも必然的に使用可能となる。

負ける要素など、微塵もなかった。

 

「そんな物で、私が倒せると思うか!」

「必殺......!」

 

ラウラ唯一の誤算は、

 

「一歩音超え、二歩無間、三歩絶刀……!」

「な、瞬時加速、だと?!」

 

「『無明 三段突き』!」

 

必殺技は相手を 必ず殺す からこそ必殺技こそ足り得る、それを知らなかった事だろう。

 

 

3回連続の瞬時加速で今までの鈍重さが嘘のような速度に達した強羅は、かの幕末の剣豪が用いたという縮地さながらに一瞬で距離を詰め、ラウラの視界から一瞬消える程までに加速する。

そのまま腕のパイルバンカーを押し付け、唯でさえ強力なパイル、しかもそれを3連装にした改造版を解き放った。

ISの絶対防御すら貫通しラウラの体を揺さぶり、レーゲンのSEを8割も削る馬鹿げた程の

威力。

 

「ふはははは、どうだ、まいったか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

朦朧とする意識の中でも、マヒロの言葉はラウラに正確に届いていた。

 

 

(私が、負ける......)

 

『そうだ、今のままでは負けてしまうな』

 

 

突然どこからか響く、暗く冷たい、それでいて心地よい声。

その言葉は、敗北の危機に揺れるラウラの心の隙間に容易く入り込む。

 

『負けるのは嫌か?』

 

(私に、力が無いと、言うのか......)

 

『負ければ、そうなってしまうな』

 

(嫌だ、嫌だ、いやだ.......)

 

『ならば、勝たなければならない。勝利こそ、我が主には相応しいはずだ』

 

(だったら、私に、

 

ラウラは、悪魔に魂を売った。

 

「力を、寄越せぇぇぇぇぇぇええええ!!!」

 

『承認した。であれば、期待に応えよう。』

 

ダメージレベル......D、クリア

操縦者の感情......規定値に到達、クリア

操縦者の承認、クリア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《Valkyrie Trace System》起動。

 

 

 

 




しんどい。

しばらく投稿話の改稿作業に入るので、更新遅れますね。
ちょっとだけ雰囲気を甘くしたり、貼り忘れの伏線を張ったりするので、乞うご期待!

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