インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜 作:通りすがる傭兵
番外編、行ってみますか、というわけで。
成政の里帰りともう一本、お送りいたしますよー。
fate/stay night の知識がないと訳がわからないかもです。
御免なさい。
番外編1 石狩君の里帰り。
5月、GWの連休を利用して成政は、
「冬木よ、私は帰って来たー!」
東京から飛行機とバスを乗り継ぐこと5時間ほど、成政は生まれ育ったT県冬木市に帰って来ていた。
日本政府から大量のお給金は貰っている上、石狩家はそれなりに裕福な方。気軽に、とはいかないが半年に一回ほどであれば、生活にも余裕が残る程度に成政の口座にお金がある。
「さて、と。みんな元気にしてるかなー」
剣道部の地区大会、県大会まではもう1ヶ月もない。自分がいなくて大丈夫だろうか、という親バカに似たような気持ちで、穂群原学園の校門をくぐった。
「お願いします」
「どちらさ、って成政じゃないか!」
「よう、久しぶり衛宮、みんな。積もる話もあるけど、休憩時間に、な?」
「ああ、面白い話聞かせてくれよ」
成政が剣道場の重い扉を開けば、元気に竹刀を振るう皆の姿があった。
練習を中断するわけにもいかないので、軽く言葉を交わしてから練習に戻らせる。
「次は、掛かり稽古」
「「「はい!」」」
「お久しぶりです、コーチ」
「......元気か?」
「ええ、おかげさまで」
「......そうか」
寡黙なコーチは成政に一言だけ声をかけて練習に戻っていく。
あの人らしいや、と昔を懐かしむが、まだ1ヶ月も経たないうちにそれはおかしいと思い直す。
慣れない生活の反動か、無意識に気が緩んでいたらしい、これはいかんと自分の頬を張ると、コーチに言伝を頼んで挨拶もそこそこに武道場を去った。
そして大きく伸びをして、
「さて、久し振りの我が家に帰りますかな」
今回の帰省、やることはたくさんあるのだ。
団地が立ち並ぶ一角の外れにある、植木に囲まれたこぢんまりとした二階建ての木造瓦葺きの一軒家、ここが石狩家だ。
庭先の植木鉢の底に隠した錆びた鍵を取り出し、鍵穴に差し込んで回す。
ガラガラと引き戸を開け、埃臭い空気に顔をしかめながら敷居をくぐる。
代わり映えしないごちゃごちゃした部屋の様子に、思わず成政は胸を撫で下ろした。
兄の趣味である歴史の雑誌、グッズ各種。
母が好きだった純文学の本の山。
父のものはここにはない、というより大好きすぎて文字通り肌身離さず持ち歩いているゆえここにはないのだ。
そして、自分の集めていた雑誌のスクラップ、その手の専門誌。
埃っぽい空気と一緒にだったが、そのインクと紙のカビ臭い匂いを肺いっぱいに吸い込み、
「うえっげっほげほ!」
まずは換気と掃除しよう、と涙目で咳き込みながら心に決めた成政だった。
「久し振りだな、ここに来るのは」
成政は制服を脱いで私服に着替え、自宅から歩く事しばらく。このご時世には不釣り合いな武家屋敷の門をくぐると、その家主から優しく声がかかった。
「来たな成政。茶を出すから座っててくれ。晩飯はまだかかる」
「ああ、わかった」
「今日のディナーはなんですか士郎!」
「秘密だ。せっかく成政が帰って来たんだし、ちょっと奮発してるけどな。お楽しみは......」
「やっぱり愛しています士郎っ!」
「ちょ、セイバーやめ、うわっ!」
ドタバタと繰り広げられる恋人同士の大騒ぎをBGMにのんびりと靴を脱ぎ、久し振りに訪れる衛宮家の構造を思い出しながら居間を目指した。
一際大きめな襖を開けると、見慣れたテーブルと、
「はあ、シロウはいつもああなんだから......見せつけられる身にもなって見なさいよ」
「全くもってその通りだ。自分ごとながら恥ずかしい事この上ない」
「それはブーメランという奴ではないでしょうか......」
「それを言ったらダメだろライダー。赤い悪魔がお怒りに」
「誰が赤い悪魔ですって?」
「そりゃもちろん遠坂のことだろ、なあ桜?」
「わかっているなら勝手に巻き込まないでください兄さん!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐいつも通りの友人達を眺めながら、自分の気持ちも切り替えるように大声で告げる。
「ただいま、みんな!」
成政とその友人達は思い出話に花を咲かせ、虎が乱入して来て大騒ぎし、正義の味方が何故かプライドをかけての料理対決が始まり、それを肴にして贋作者と海藻が将来の夢を語り合い、そこに赤い悪魔が噛み付いたのを後輩と怪物が宥め、幸運Eのなせる技か流れ弾で狗が死んだり、と色々と事件はあったものの、夜遅くまで宴会は続いた。
そして皆が疲れて寝静まった深夜、
「はいよ、約束の物だ」
「悪いな衛宮、こんな夜遅くに」
「いいって、俺と成政の中じゃないか」
士郎は玄関で風呂敷に包まれた箱を手渡すと、眠たげにあくびをしながら自分と恋人の寝室に戻って行った。
それを見送ることもなく、成政はとある方向を目指す。
まだ春先なので夜は肌寒いが、歩くにはちょうどいいくらいだ。
丑三つ時の、皆がもう寝静まる頃。
家々の窓に光はなく、道を幻想的な満月が照らしていた。
かつん、かつんと杖の音を深夜の住宅街に響かせながら、成政は歩みを進める。
ちょうど1年まえ、ここで死闘が繰り広げられていたことは、成政の友人と若干数名以外は知らないのだ。それを思い出し、懐かしみながら、かつん、かつんと歩みを進めた。
森の中、石段の上に佇み、後ろに纏められた髪を揺らしながら刀を振るう人影。
それを見つけた成政は声をかけようとしたが、武人の鍛錬を中断するような無粋な真似はしたくない、と無言で残りの石段と向き合った。
成政は階段を登りきると、ひと段落ついたらしく空を見上げる無名の剣士に声をかけた。
「やっと戻った、アサシン」
「遅い帰参でござったな、マスター」
「今日は満月、僕はまだ未成年だけど、一杯やろう」
「このような月夜、蔑ろにするのは勿体無いと思っていた所、さすがは拙者のマスターでござる」
成政は石段の上に座り、隣を叩いて座るよう促した。
アサシンは従い、自分の主人の隣に腰を下ろすと、
「マスター、酒は?」
「ああ、今夜はゆっくりできる」
成政は袋にいれていた大きめの水筒を投げ渡す。アサシンはそれを受け取り、蓋を開けて中を改めると、ニヤリと笑った。それもそのはず中身は日本酒の熱燗、しかも上物だ。
「では、今宵の満月に」
「「乾杯」」
今はもうない、たった3日だけの主従関係であったが、この2人は、確かに絆をかわしあっていたのだ。
《もちろんいかがわしい意味ではありません。主人公はホモではないので》
「ええー、ほんとにござるかぁ?」
《おい、注意書きに突っ込むなよなぁ!》
「でさ、アサシン。僕、凄く面白い場所にいるんだ」
「ほう」
「全国、ひいては世界から優秀な、才能溢れる同年代の若者が集い、競い合う、そんな場所。しかも世界1位が教師やってるんだぜ?」
「はっはっは、変わった教師は女狐めの夫だけかと思えば、その上もあったか」
「その人毎回出席簿で弟の頭叩いててさあ、技術の無駄遣い、っていうの?綺麗な太刀筋、いや出席簿筋でさあ」
「ほう、マスターにそこまで言わせるとは、一度手合わせ願いたいものだな」
「強いよあの人、すごく強い。刀振らせたらセイバーくらい綺麗なんだもん。あればかりは才能だよ、すごい」
「楽しそうでござるな。先日は愚痴ばかりでござったろうに、随分変わったようだな」
「いやいや、ほんと面白いやつばかりでさ、巻き込まれて不幸かと思ってたけど、これはこれで面白いよ、アサシン」
「そうか、それは何より、でござるな」
かたん、と今まで日本茶を啜っていた湯呑みを置く成政。
会話が途切れたことを不自然に思ったアサシンが成政の方をむけば、
「アサシン、1勝負いいか?」
「面白いものを持っているでござるな。受けて立とう」
胸元に真剣を突きつけられても、楽しそうにからからと笑ってみせるアサシン。
全く、これだから侍、いやSAMURAIはと打鉄を纏った成政は大げさに頭を抱えてみせる。
そして、空気が切り替わる。
肌寒さは消え、刺すような痛みすら伴うような空気に。
薄暗い、頼りないような月明かりは、武人を引き立てる最高の照明に。
そして、2人は、
「今できる最高の勝負を」
「元より手加減はできるほどの腕ではない。全力で試合おうぞ」
成政は、上段、振り下ろす一撃に全てをかけた構えに。
アサシンは、自然体。身の丈もあろう、細くか弱そうに見える日本刀をさげて。
アサシンが自然体を取るのは、それが最適だからだ。素人の目には隙だらけでも、成政が見れば、かろうじて隙がないのがわかる程度。
それだけ、この男は武に全てを捧げてきたのだ。
「「......いざ」」
勝負は一撃。
どちらが勝ったかは、言うまでもないだろう。
「あのさ、アサシン。僕好きな人が出来たんだ」
「ぼーいみーつがーる、というやつでござるか?」
「ちょっと違うと思うけど」
「そうでござるかぁ」
石段の上に腰掛け、空になった湯呑みを弄びながら話を進める2人。
満月を見上げながら、成政は吐き出すように言葉を紡ぐ。
「で、そいつ、片思いらしい幼馴染の初恋相手がいてさ。学園で5年ぶりの再会だってさ。あと、アサシンみたいにポニーテールに刀下げてるんだよ」
「それは何ともろまんちっくでござるなぁ」
「でも、きっとまだ初恋相手のこと好きだろうし、僕みたいなのが横槍さしてもいいのかなあ、って聞いてるのか?」
深く息を吐く成政に対して、アサシンは思わず目頭あたりを押さえて悩み出す。
「恋愛相談は女狐めか騎士王に頼めばよかろうに......」
「部長はうっかり口を滑らせるし、キャスさんは恋愛面じゃ少女漫画の主人公ばりに純粋だから役に立たないし」
「拙者は武一筋に生きてきた農民、そういった色恋沙汰と関わりがあるわけがなかろう」
「いいんだよ別に。吐き出して気持ちの整理をしたかっただけ」
ぱんぱんと衣服についた汚れを払い、持ち込んだ荷物をまとめ始める成政。
「まあ、初恋は叶わないって言うし、女子がたくさんいれば他に好きな人も見つかるよ。
邪魔したね、アサシン。聞いてくれてありがとう」
「そうか、ではまた」
石段を下る主の背中を、無名の剣士は特に何も言うことなく、視界から消えるまで見つめていた。
「全くもって、儘ならぬものであるなぁ。
所で正義の味方やワカメ殿などはこの事を知らないと見えた。
相談事は大所帯の方がよかろうて。あやつらは一時期大人数に恋心を抱かせていたと聞く。さぞいい助言が貰えるであろう」
時々だが、善意は人を傷つけるものになる。
番外編2 髪飾りと海藻は。
もしかしたらあるかもしれない、ちょっとだけ未来の話。
『おい!そこ回りくどい事になってるぞ、真っ直ぐに組んだ方がいい』
「そこは、ここと干渉するから、仕方ない......」
『っかー、ダメだなお前。干渉する方はサブ的な役割だから、メインを潰してまですることじゃないだろ?』
「うる......さい!」
IS学園、整備室。
作業灯の灯りがともり、機材が散乱し油の匂いが立ち込めるここの片隅で1人騒ぐ少女がいた。
「そこ......違う」
『はあ?この僕が間違えるわけないじゃん』
「3行目......真ん中」
『うっ、たまたまだ』
「ふふっ」
端に設置された大型PCに向かい合い、カタカタとキーボードに文字を打ち込んでいく。
その傍に置かれたスマホの画面にも同じようにPCと向き合う、紫で特徴的な癖毛をした青年が映っていて、
「慎二、そのコードはおかしい......」
『はあ?何言ってんですか。お前のやり口がくどいだけであって、こっちの方が効率いいんです!』
口論を重ねながらも、作業の手は止めない。
少女の名前は、更識 簪。
日本代表候補生の1人にして、打鉄弐式の持ち主。
が、乗機であるこの弐式、諸事情あって企業が放置したものをむきになった簪が貰い受け、完成に向け日々1人で作業に励んでいた。
ハード面の問題はないが、問題はソフト。主武装の48連装ミサイル『山嵐』のプログラムが未完成、機体の機動プログラムも未完成と、たとえ乗っても歩くだけで精一杯という有様。
しかも、打鉄弐式の強みは、主武装の山嵐、そのマルチロックシステム。たとえ本職であろうとも難しいとされる48発のミサイル全てが別々の軌道を描くようなプログラミングを目標とするそれは、簪にとっては高い壁だった。
数日前までは。
『だーかーらー!そんなヌルい追尾じゃ避けられるぞ!』
「だったら、これっ!」
『はっはー、世界ランカーを舐めてもらっちゃあ困るね!』
シュミレーターの中で火花を散らす、画面の向こうで楽しげに笑うワカメみたいな髪の青年、間桐慎二。その彼との出会いが、簪と打鉄弐式を少しだけ変えた。
時は4月、クラス代表決定戦の試合前日、
「なあ慎二、機体を見てくれないか?」
『この僕にかかれば、クソnoobだって勝てるような機体を組んでやるさ!500時間程度簡単に覆してやるよ』
「それで負けたら僕の所為だろ慎二、ハードル上げてくれるなよ......」
『はん!真面目にやれば絶対に勝てるくせに。この僕を倒しておいて何を今更』
「あれはまぐれだから」
そう愚痴りながらアリーナに併設されているピットに向かう成政。
側から見れば独り言のように聞こえるが、スマホのビデオ通話を使っているので独り言のように見えるだけだ。
「さて、スペックデータは」
「......どいて」
使う予定のIS、打鉄のデータを呼び出そうとピットに設置されている大型PCの前に座ると、後ろからそう声をかけられた。
「......どいて」
「あー、はいはーい。退きますよ」
声をかけてきたのは水色の髪で、眼鏡の少女。しばらく前にロマン馬鹿と一緒に部屋に押しかけてきた簪だった。
席を退くように告げられ、素直に場所を譲る。
『おい、なんでどいたんだよ』
「いや、僕らの用事ってあんまり急ぎでもなくない?」
『急ぎなんですけど!ていうかスマホの振るなよな酔うだろ。スペックデータはやくよこせ......うん?』
怒鳴り立てる慎二を避けるように画面を適当な方向に向けた慎二が止まる。
その方向を確認してみると、
「......」
簪が向き合う大型PCの画面がバッチリ映るポジションだった。
『おい、スピーカーモードにしろ』
成政には特に断る理由もないので、イヤホンを外し、スピーカーモードに切り替える。
すると、
『おいそこの根暗眼鏡!上から5行目間違えてるぞ』
「ひう!」
聞いたこともない男の声が背後からすれば誰だって驚くだろう。椅子から飛び上がりそうになるくらいにびっくりしていた簪だが、すぐに元凶と睨んだ成政の方を向いた。
「......」
「いや、僕じゃなくてさ、こいつこいつ」
成政が慌ててスマホを指し示す。
簪は画面越しに慎二を睨み付けると、
「貴方には関係ない」
『ん、何の話だ?僕はその貧弱なプログラミングを指摘しただけであって、君がどこで何をどうしているかなんて全く興味がないんだ。早く直せよ』
「......」
慎二は負けず嫌いで口が上手い。
負けるのが嫌だから、あの手この手で話を引き延ばし、論点をずらし、自分の得意分野に引きずり込んで殴る。
そして、受験を決めている日本のトップクラスの工科大学、そのA判定は伊達ではないのだ。
要するに、話が長い。
それを長い付き合いから知っている成政は、スマホに充電器を差し込んで、他にいる先輩に声をかけ、色々と役立ちそうな情報を集める事とした。
そして、約半日後。
「そろそろピット閉めるわよ?」
「......ありがとう、ございます」
日も暮れ、寮の消灯時間も差し迫ってきた頃、簪は荷物をまとめてピットを出た。
全体の見直しやシュミレートはあの大型PCを通すか、ISを通すかしないと出来ないが、プログラミング自体は普通のノートパソコンでも可能だ。
シャワーもそこそこに着替えを済ませると、PCを立ち上げ、仮想ホログラムでできたキーボードを呼び出し、
『......なんだよ』
「作業、見せる」
言葉は不要、行動で示すと言わんばかりに、両手を使ってプログラムを書き上げて行く。
両手が別々に動き、生き物のように文字列が踊る。普通の人から見れば、達人芸と思うだろう。
素人如きが出しゃばるな、そう簪は告げたのだ。
が、慎二とてプログラマーを目指すものの端くれ、馬鹿にされて黙っているわけにはいかないのだ。
『はっはっはー、僕の方が早いじゃないか、フハハハハ!』
「っ、負け、ない!」
同じくプログラムを書き出した慎二。
両手で1つのキーボード、だが速度は簪のそれと遜色ない。
さらに対抗心を燃やして簪が速度を上げ、それに追いつき追い越せと慎二が粘る。
そして、朝日は登る。
結局勝負は引き分けとなり、お互いの連絡先を交換し再戦の約束を取り付けて戦いを重ねる事しばし
互いは互いを認め合い、冒頭のように、慎二も専用機の開発に絡むようになった。
自分の使えない魔術を使える、気の弱かった妹が気に入らない優秀な兄。
完璧超人、ハイスペックの姉の背中を追いかける気弱な妹。
彼らはコンプレックスを抱く似た者同士。
意外と、気が合うのかもしれない。
番外編3 大和撫子の誕生日。
今から2年前、2人がまだ中学生の頃の話。
「気を付け、礼」
「「「ありがとうございました!」
箒ちゃん誕生日おめでとうー!
記念になんか書こうかと思ったけど無理だったー!ごめん!