インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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結構変わってると思います。


プロローグ。

 

 

アメリカ、のどこか片田舎。

 

古き良き、といえば聞こえは良いが実際はボロボロなだけのバーでグラスを傾ける女性2人組。

 

時折白髪も目立つマスターにお代わりを頼みつつ、雑談を交えながらグラスを傾ける。

 

「エクスキュースミー、イズユアネーム、オータム?」

「ああん?」

 

机のすぐ下で、日本語丸出しの下手くそな英語で女性2人組に声がかけられた。

近くにいた方、茶髪のロングヘアーの着崩した服装の女性が応対すれば、横にちょこんと佇んでいたのは、まだ10歳程度の少年。

 

「ああ、日本語わかりますが、では話が早いです」

「なんだクソガキ、あたしに何か用か?」

「はい、

 

 

 

 

 

 

クソむかついているのでぶん殴らせてください」

 

そう言い放った少年は目線を合わせてしゃがみこんだ女性の顔面に全力で右ストレートを叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、数年が経過する。

 

「997、998、999、1000!休憩です」

素振り千本を終わらせ、竹刀を振るっていた生徒たちは思い思いに散っていく。

面を取って汗を拭いたり、水分補給をしたり、友人と話したりする中、武道場の隅でメモを取っている青年、

 

「次は、かかり稽古か、んー」

 

とんとんと手に持つバインダーをペン先で小突きながら思案に耽っていた。

バインダーに挟み込まれている紙には人影らしき落書きや、大量の雑多な書き込みがされている。

男女入り混じって練習する剣道場で、怪我をしているわけでもないのに1人制服姿で過ごす青年の姿はどこか異質だったが、さもそこにいるのが当然とでもいうように居座っていた。

「おーい、成政」

「どうした士郎、何かあったか?」

「いや、ちょっと相談が」

「はいはい今いくよ」

 

ボリボリと湿気でもっさりした頭を書いていた成政と呼ばれた青年は、奥で名を呼ぶ士郎と呼んだ赤毛の同年代の青年に呼ばれてかけていく。

 

「なんか素振りの時に違和感があってな、解るか?」

「んー、構えてみ?二刀流は多少齧った程度だが......」

 

短い竹刀を2本構える士郎の腕周りをベタベタと触っていく成政、しばらく悩んだあと、

 

「お前肘に疲れ溜まってんな。サポーター付けた方がいい、壊すかもしれん。ほい、これ」

「ありがとう、助かる、っていつも持ち歩いてんのかこれ」

「マネージャーですから」

 

むふー、と胸を張る成政。

 

「おい成政!僕のも見て欲しいんですけど」

「今いくから待ってろ慎二ー」

 

穂群原高校1年、石狩成政。

世にも珍しい、剣道部所属のマネージャーである。

 

 

 

 

 

 

「で、なんでお前ら俺の家に来るんだよ」

「「「だって飯(ごはん)美味しいもん」」」

「士郎、お代わりを」

「あーはいはい、ちょっと待ってろ」

 

練習を終わらせて家に帰る、と思いきや士郎の家に押しかけて飯をたかる成政ほか数名。

ため息をつきながらもしっかり食器を用意するあたり、どうにも士郎はお人好しなのだ。

 

「リン、その唐揚げは渡せません」

「私だって譲れないもの、渡さないわ」

「あの、でしたら私が......」

「「これは私の唐揚げくんよ(です)!」」

「はうう......」

 

「慎二、テレビつけてー」

「全く、ほれ」

 

女性陣がが最後一つの唐揚げを取り合っている中、お茶を啜りつつチャンネルを回す成政。

 

「どの番組もおんなじ事しかやってないなぁ......」

「そりゃそうだろ。世界で唯一の男性IS操縦者だぜ?世界の常識が狂う事になるんだ、当然だろ?」

「おいお前ら!ちょっとセイバー達を抑えるのを手伝ってくれよ!」

 

結局唐揚げの取り合いが大げんかに発展した女性陣が庭に出て殴り合いで決着をつける事になったから止めて欲しいと助けを求める士郎だが、

 

「三股野郎は黙ってろ」

「妹の恋心踏みにじる奴は地獄に落ちろ」

「なんでさ!」

 

リア充滅ぶべし、そしてシスコンに慈悲はなかったのである。

結局身体を張って止めに入って揉みくちゃにされる士郎を眺めながらテレビのチャンネルを回す2人。

 

「なあ、これからどうなると思う?」

「僕がそんな事知るわけないでしょうが。まあ世界中の男子総当たりでISの適正くらいは調べるだろうけど」

「僕らには関係ない話か。それより大会が心配になるな、あと3ヶ月もないんだし」

「それもそうか」

「束ねるは星の息吹......」

「「「それはまずい!」」」

 

唐揚げのために本気を出した居候を止めるべく、成政と慎二はテレビの電源を落とし、中庭に飛び込もうとして、

 

「ただいまー!シローごはーん!ん、唐揚げおいしそう、もーらい」

「「「「「あっ」」」」」

「えっ、私今何かした」

「「「いやグッドタイミング、タイガー」」」

「だから私はタイガーじゃなーい!」

 

突然入ってきた剣道部顧問、そして成政達1-2担任の藤村大河によって、唐揚げ戦争は終わりを告げたのだった。

 

「から......あげ......」

「おいセイバーが黒くなってるぞ誰か止めろォ!」

 

 

 

「「「「「ごちそうさまでした」」」」

 

皆で手を合わせ、しっかりと挨拶をする。

1人になるとさぼりがちになってしまうが、食事の大切さを忘れて欲しくない、と士郎は皆に毎回やらせている。

皆も美味しいご飯のお礼だから、と好意的に受け止めているし、慎二に至っては何故か菓子にまで手を合わせる様になっていた。

 

「じゃ、僕は帰るから」

 

荷物は家においてからきているので、手ぶらで家路につく。

慎二や桜、大河とは家が逆方向なのでいつも1人だ。

三月とはいえまだ少し寒い、制服の襟を立てながら、ゆっくりと歩く。

「こういう時、不便だよねぇ」

 

成政は自分の足を見ながらため息をついた。

成政が小学生の頃、交通事故にあった。全治2ヶ月とそれなりに重かったが、特に命に別状もなかった。

それの代償、とでも言うべきか、成政は走ることができなくなった。

足首に深刻な障害が生まれ、走ることはもちろん、足で踏ん張ることも制限されてしまい、スポーツなどはまともに出来ない。

本人はそれほど重く受け止めることはなく、出来ないなら仕方ないが、好きな剣道には触れてたかった、のでマネージャーに転職した。

これが、世にも稀な剣道部マネージャーの誕生の経緯である。

 

成政の足は日常生活に特に支障は無いが、最近立ちっぱなしが多いので足の負担をかけない様杖を買えと病院の先生から言われていた。

それを思い出したはいいものの、もう9時、あらかたの店は閉まっている。

 

「ま、明日でいっか」

 

こんな楽観的な思考回路だからこそ、成政はすぐに前を向き、人並みには悩むことはない。

「さて、朝ごはんは何かなー」

 

そして、明日も衛宮家に飯をたかりに行く気満々なのだ。

そして次の日、

 

「んあ、メール。学校から?こんな春休み中に一体......あっ」

 

成政は朝起きて携帯を覗き込むと、学校から男子はさっさと来いとの旨が届いた。

思い当たるのは、と考え事をしていたが昨日のニュースを思い出し、

 

「はあ、めんどくせえ」

 

ため息をつきながらのろのろと着替え始める。さぼってもいいのだが、そうなると担任である大河からの呼び出しを貰うことになる。うるさいのはごめんなのだ。

 

「じゃ、いってきます」

 

誰もいない玄関にそう声をかけてから、成政は家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

出席順に並び、順番を待つ。

成政は名字が石狩なのでそれなりに早い。

1組が終わり、一つ前の男子ががっくりと肩を落としたのを見送ってから、係員らしき女性に支持されるままに先へ進む。

 

「おお、すごいなこりゃあ」

 

カーテンをめくった先には、灰色の鎧武者が鎮座していた。

成政は特にロボットに詳しかったり、アニメを見るタイプではない、が男の子であればメカを見ると得てして興奮するものなのだ。

「じゃ、ちゃっちゃと終わらせちゃって。私だって朝からの呼び出しで眠いのよ......」

「あはは、後ろにもそう言っときますね」

 

鎧武者の隣で書類を持ち、気だるそうにしている係員の女性に愛想笑いをしながら、鎧武者、日本製のIS『打鉄』に触れる。

成政はぺたり、と手の平全体を押し付け、金属の冷たい感触を味わう。

 

 

特に何も起こらない。

 

「はい、次ね」

「期待してたんですけどねー」

 

あはは、と笑いながら手の平を打鉄から剥がそうとした所で、

 

『......待って』

 

そこから、成政の意識がふっつりと途絶える。

 

成政が次に目を覚ましたのは、

 

「うん?」

 

知らない病院だった。

 

 

 

 

 

 

 

「......というわけなのよ。つまり、えーと」

「石狩成政です」

「成政、あんたは貧乏くじ引いたわけ。よかったわね、女子校の中で男子2人よ」

「全然嬉しくないです......!て女子校?」

「そ、IS学園に転校よ。1年生として」

「さいですか......」

 

そこ後来た係員の女性に大雑把に説明を受けている成政。

 

曰く、自分はISを動かした。

曰く、政府に保護されなければいけない。

曰く、と言うわけだから転校する。

 

「......まあそうなりますよねー」

「えらく淡白ね。こう、暴れたり暴言のひとつやふたつ覚悟してたんだけど」

「それをぶつけるとすればIS作った人に投げつけます」

「あっそう。変わってるのね」

「あんまり言われないですね......残念ながら」

「ふん、で、家族と連絡とってもらえるかしら?要人保護プログラムで家族とは離れ離れになっちゃうから、最後に声の一つくらいは聞かせてやりなさいな」

 

気を利かせてなのか、係員は成政にそう告げた、のだが、

 

「いやー、それはやまやまなんですけど、

兄貴は世界中で遺跡探してるんで何処にいるかなんてさっぱりですし、両親は3年前にちょっと世界征服して来るって言ったっきり帰って来ませんよ。お金は振り込んでくれるので多分生きてますけど」

「ず、随分個性的な家族ね......」

「それはよく言われます」

 

これには、女性も苦笑いするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

で、

 

「と言うわけで僕東京行って来るから」

「「軽い!」」

「おかわりください、シロウ」

「あーはいはい」

「「そして士郎はいつも通りすぎ!」」

「先輩、口元にご飯が」

「すまん、ありがとう桜」

「いえいえ」

「そして僕の妹は可愛い!」

「私の妹でもあるんですけど」

 

色々とごたついたせいでもう昼になったので、いつも通りの面子は衛宮家に押しかけて飯を食べていた。

 

 

「んでさー、僕転校するんだってさ」

「急な話だな、で、何処行くんだ?」

「IS学園、どんなのかはよく分からん」

「成政はスポーツ系の部活さえあれば大丈夫なんだろ?」

「もちろん、マネージャーですから。ああそうそういなくなるから色々と渡すもんがあったんだった」

 

成政は家から持って来ていた通学用にカバンからノートを取り出した。

その数、約50。

 

「これ練習メニューね。あとこれはアドバイスブック、でこれが新入生の注意108カ条に、マネージャーのハウツーをまとめたノート。これ渡しとくな。あとこれとこれが......」

「お、おう......」

 

成政の説明を受けながら、カバンにぎっしりと詰められていたノートを渡されて思わずよろける士郎。

その中から慎二が適当に拾い上げて開くと、

 

「......」

 

慎二は無言でノートを閉じた。そしてため息をつく。

 

(文字が細かすぎて読めないんですけど!)

 

ある意味、成政の愛の現れなのかもしれない。

 

しばらく世間話をしたり、6月の大会の話などをしたりしていると、

 

「ごっそうさん。じゃあもう僕行かなきゃだから」

成政は慌ただしくご飯をかきこむと茶碗を片付けて席を立つ。

 

「おい、もう行くのか?」

「無理して待ってもらってるし、待たせるのはダメでしょ?」

「突然すぎるだろ、もっと伸ばせないのか?クラスのみんなにも話通してもいないし」

「死ぬわけじゃないから」

「そうだぞ衛宮、たかが東京だ、すぐに行ける」

「そうね、夏休みにでも会いに行くわ」

「遠坂がそう言うと心配なんだが。お前電車乗れる?」

「あったりまえじゃない!って何よその微妙な顔は」

「いや、うん。そのー」

 

同席していた赤い外套を着込んでいる少女こと遠坂は、成績優秀、頭脳明晰、しかも美少女と完璧に見えるのだが......

 

「お前機械使える?」

「当たり前でしょ?慎二にできるなら私にももできて当然じゃない」

「嘘だっ!」

 

機械音痴、それも重度の奴なのである。

電話すら扱う手つきが覚束ない遠坂が電車に乗れるはずがない。

 

「いや、うん、それは......無理だ」

「は、お前何言ってんの」

「姉さんは、ちょっと......」

「おかわり」

「話してる時ぐらいは自重しようなセイバー」

 

良くも悪くもいつも通りすぎて、まだ当たり前の日常が続くような気がする。

 

「じゃ、またな」

 

別れ言葉は、簡潔に。

別れに涙を見せるのはかっこ悪いから、と皆に背中を向けて、成政は去っていった。

 

 

 

 

 

 

「すまん、携帯忘れた」

「お前いつも何処か抜けてるよな」

「ほんとそれ。サンキュー慎二、じゃ、気を取り直して。see you!」





「女子校かー、どうしたら上手く溶け込めるものか......」











「よし、女装しよ」

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