インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜 作:通りすがる傭兵
自分でも若干納得はいっていないです。
あ、活動報告のアンケート、参加お願いしますね!
話は少し過去にさかのぼる。
タッグマッチトーナメント、その2週間前。
全員のペアも出揃い、放課後のアリーナでも連携練習も見られ始めるようになった頃。
中庭を見渡せば、2人で相談事をする生徒も増え、学校全体が緊張感を帯びるようになってきた。その例に漏れず、成政とラウラも話し合いを重ねていた。
「ところでなぜ私を選んだのだ?実力順でならば納得はいくが、いつも練習を見る1人目や篠ノ之と組む方が自然なのではないのか」
「同じ部屋だったから話すのが楽なのと、他は先客がいたから、かな」
「ふん、つまり私は消去法か、くだらん」
「まあそれもあるけど、結果的にはいい感じだったかな」
「......と言うと」
小腹が空いたのでラウラが大量に運び込んでいた馬鹿みたいに甘いレーションのチョコを齧りながら、という少し締まらないような格好だったが、成政は少し間を置いて真剣な表情で話し始めた。
「正直、実力的にはボーデヴィッヒさんがずば抜けて高そうなのは事実。まだ1回しか見てないから何も言えないけど、ひとつひとつの動作に無駄がないし、綺麗だ。それに軍にいた、って言うことはそれこそ質の高い、実戦に近いような事もやってきたんでしょ」
「......」
「そして、1対他の経験があるとすれば、代表候補生か、軍人のボーデヴィッヒさん。他の代表候補はまだ未経験と聞いたけど、経験は?」
「勿論、ある。そもそも1対1の状況などそうそう作れるものではない」
「そうだよね。じゃあそれを前提として話すけど、2対2、今回のようなタッグ同士で戦う時のセオリーか何かって知ってる?」
「......1対1、もしくは2対1を作る。1人で多くの敵と戦うとなれば、全方位に気を配る必要がある。もし相手全員が自分と同じ技量の持ち主であれば、まず勝ち目はないだろう」
「成る程、剣道じゃこういうことは聞けないからね、メモメモ、っと」
時々挟まれる成政の腑抜けた発言にラウラが気を抜かれながら、ではあるものの話し合いは滞りなく進んでいった。
「で、話を戻すと。そこがボーデヴィッヒさんと組んだ理由な訳になるんだよ。
聞くけど、たった2週間程度、毎日2時間さわれたとして28時間。
それだけで完璧な連携なんて組める?」
「不可能だ、あり得ん」
即答、だった。
「連携、と言っても形は様々、簡単に前衛後衛合わせるとしてもアリーナの広さでは難しいだろう。それに、いちいち声を掛け合っていたのでは遊びのようなものだ。アイコンタクトで合図を取る、相手の意思を汲むと言った基本的な事も、この様な短期間ではままならんだろう」
(しかし、こいつと話していると調子が狂うな、話が止まらん)
「僕も素人だし、足手纏いは自覚してるつもり。だからいっそのこと1人でも大丈夫なボーデヴィッヒさんに戦闘は任せて、こう言った情報支援に徹する。僕のいつも通りの仕事だ。ボーデヴィッヒさんは表で戦う、僕は裏で戦う。
他の人だとこうも上手くハマるほど実力が高くないからねぇ」
「一応は理に適っている意見だな。もしくは弱者らしい、というべきか?」
「まあそうだねぇ。身の上は弁えてるつもりだし、自分のできることなんてたかが知れてるよ」
自分では何もしようとしない成政を皮肉ってか、辛辣な言葉を口にするラウラだが、成政はそれに噛みつくことも無く、飄々と受け流してみせた。
「自分では出来ない事、できる事。線を一本引いてみるだけでやれることは大きく変わってくるからね。広く浅く、より深く狭く、の方が効率がいいからね」
「貴様は1人目とは違うのだな。あいつは教官の偉業を阻んで置いて、教官を守るなどとほざく大馬鹿だが、貴様は自分の立場を弁えてるらしい」
「自分の立場を弁えているというかは、こっちの方が性に合ってる感じなんだけどね。
ISを使えば動けるとはいっても、普段は動けないんじゃイメージも湧かないよ。それにマネージャーの方が面白いから、あと」
「一夏は、弱者じゃない、強者だ。侮ってると足元すくわれるよ?」
まあそうならない対策を今から考えるんですけどねー、と気の抜けた発言を続けてしまうあたり、真面目な空気がどうしても作れない成政だった。
「じゃ、一夏の機体の細かい情報から......」
「......ぜですか教官!」
「ん、なんだなんだ?」
トレーニングがてら散歩を日課にしている成政。人工芝と並木を眺めながらのんびり歩いていると、ルームメイトのラウラの怒鳴り声が耳に入ったので、声につられるままにそこへ向かった。
物陰から様子を伺うと、ラウラと織斑先生が口論をしているらしい事くらいは解るのだが、肝心の内容は途切れ途切れ。
『......ですから、なぜ教官がこんな極東の1施設で教鞭を振るっているのですか。ISをファッションなどと勘違いしているような輩よりも、私達シュバルェア・ハーゼの......』
「のわっ?!」
なのだが、突然音声がクリアになる。それこそ眼前でも変わらない程の大きさで、思わず驚いて声を出してしまう成政。
『......そこに誰かいるのか?』
『話をそらさないでください教官。私は今大切な話をしているのです』
ラウラの意図しないファインプレーによって、なんとか存在がバレずに済んだ成政。
壁際に寄りかかって胸を撫で下ろしていると、頭の近くに何かある事に気付く。
「これ、打鉄の頭?」
最近あまり展開はしていないものの、見慣れた視界に入る棘のような灰色のセンサー類、ご丁寧に目の前に製造ナンバーと打鉄の名前を出されては、信じずにはいられない。
「......ま、いっか」
なぜ展開したのかなどの理由はともかく、打鉄は今やっている出歯亀には最適だ。打鉄を閉じることもなく、成政はそのままこっそり覗き見を続けた。
『ですから、ドイツに......』
『私にできることはほとんど教えた。他は自身が修練の中で見つけるものだ、私には何も口出しできん』
『しかし......!』
『話は終わりだ。部屋に戻れ』
『っ......失礼します』
「なるほどわからん」
ラウラが逆方向に走り去っていったところで、
成政はそう呟く。
あまりにも断片的すぎて理解が追いつかない。わかったことといえば、せいぜい織斑先生がドイツにいたことくらいだ。
何がどうなっているのやら、と成政が腕を組みながらその場で考え事をしていると、
「盗み聞きは楽しかったか?」
「わひゃい?!」
やはりバレていたらしい、と察した成政は諦めてすごすごと織斑先生の前に姿を現した。
「そうだな、罰に私の話にでも付き合ってもらおうか。ISの無断展開は黙っておいてやろう」
「まじっすか......」
織斑先生に肩に手を置かれた時点で、成政に逃げ場はなかった。
「第2回 モンド・グロッソ決勝、私が決勝を棄権したのは知っているか?」
「知りませんよ。全国大会前で忙しかったですし」
「そうか」
実際、その頃は全国大会に出場する事となった現部長(当時は副部長)のためにデータ集めであったり、練習メニュー作成であったり、大会の日取りの確認であったりと忙しく、成政はテレビをつける程暇していなかったのだ。
「世間では、原因不明の途中棄権とされているが、実際は違う」
「というと?」
「......観戦に来ていた一夏が、テロリストに攫われたのだ。恐らく、目的は私の優勝を阻止する為だろう」
「それで一夏を助けるために、試合をすっぽかした、ですか」
「ああそうだ。全く、我ながら呆れるような事をしたものだ」
そう後悔の言葉を口にする割に、織斑先生は深刻そうな顔をせず、むしろ満足げにしていた。
「国の期待を裏切り、関係者の期待も裏切り、個人の都合で勝手に勝負を捨てる。最低な人ですね」
「ぐうの音も出ないほどその通りだが、私は後悔していない。たった1人の家族を守れたんだからな」
成政のような裏方からすれば、そんな勝手な行為は許されない事だ。
時間をかけ、金をかけ、期待をかけて送り込んだはずの選手が、決勝という最高の舞台を個人的な理由で無断で休むなど、しかも目の前でそんな事を誇らしげに語られては腑が煮えくりかえるような思いだろう。
だが、とても人間らしい事だった。
「私は最低な女だよ。だから選手をやめ、1年ほど教官としてドイツにいた。一夏を捜索の礼も兼ねて、だがな」
「へー、で、ラウラに出会ったと」
「ああ、教え子の1人だ」
成る程、だいたい全体像が見えて来た、と成政は呟いた。
「1年前、織斑先生はラウラの教官をしていた。
その過程でラウラは尊敬に値する師を見つけた、織斑先生だ。
ラウラは軍属、つまりは裏事情も全部知ってる訳ですよね。
尊敬する師、その偉業を下らない理由で阻んだ一夏をラウラは許せない、と」
「どうやらそうらしい。全く、何処で間違えたのだ......」
吸わないとやってられないと言わんばかりに、生徒の目の前で堂々とタバコを吸い出す教師。不真面目な教師なのは明らかだ。
そんなんだから教え子がひねくれ者ばかりなんじゃあ、という言葉が成政の口から出そうになるが、
「今何か変なこと考えなかったか?」
「イイエナニモ、カンガエテイナイデスハイ」
元世界最強は、他人の脳内を読める。
ロクでもないことを考えれば出席簿アタックをもらう羽目になるので、気をつけよう、と後でクラスに張り紙でもしておくか、と現実逃避する成政。
「ラウラは力の持ち方、振るい方を履き違えている様で、私が何を言っても聞きそうにない。
それに、私では上手く伝えられない」
「で、僕が代わりに、ですか」
「一夏では、上手く伝えられそうにないのでな」
「まあそうですよね」
織斑先生はタバコを携帯灰皿に押し付けて火を消すと、ベンチから立ち上がる。
この場から立ち去ろうとする織斑先生の後ろ姿に向かって、成政は笑って声をかけた。
「全力でお断りさせていただきます」
「何?」
「無理だって言ってるんですよ。やれない仕事は断ると決めていますので。
戦いの意味なんて16年だけしか生きていない若造に分かるわけないじゃないですかやだもー。それに、週刊マンガみたいに戦って理解した方が自分のためになりますし、僕はそっちの方が好きです」
それでは、とこの場を去る成政。
選手として同じ目線ではなく、マネージとして一歩引いた立ち位置から。
そして、より面白い方向へ。
それが、成政の考え方の根幹だ。
「ふっ、面白い奴だな」
「よく言われてたら良かったんですけど、あいにくまだ5人ほどにしか言われてないです」
「......そうか」
「それと、教師には敬語を使え馬鹿者が」
「あいだぁ!?」
書いてみて思っている事。
心理描写難しいね。あとどうにも一人称っぽくなる、三人称のつもりなんだけどなぁ。