インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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わーい、UA10000わーい!





たけじんまんさん、毎回感想と誤字脱字指摘、ありがとうございます。


第15話

 

 

 

更衣室での一件から数日後、部屋で図書委員オススメらしい恋愛小説を読んで暇を潰していた成政。

 

「なんで武侠小説無いんだろ、はぁ」

 

功夫の参考になるかもしれないとそういった類の小説を探すも、あいにくIS学園はほとんど女子校だったせいか、一冊も見つからなかった。

腹いせにカウンター前の棚から適当に掴んだこの本を読んでいるのだが、

 

「.......さっぱり共感できん」

 

なぜ壁ドンされただけで顔が赤くなるのか、とかなぜあーんして貰うだけでこうも主人公は嬉しそうなのか、とか。

まだ恋愛経験のない成政にとっては、過ぎたものだったらしい。

それよりも、成政の集中力を奪うのは、

 

「あいつらどうしてるんだか」

 

一夏とシャルルの事だ。

成政が一夏にああまで言ったのには、ちゃんとした理由がある。

お人好しの究極形、正義の味方、その結末を。

とはいえ、直接彼と話したこともなく、聞いた話も、人柄も又聞き程度のもの。それでも伝わる 、結末の悲惨が、こびりついて頭から離れない。

そんな彼でも明確なグレーなスタンスの人物には敵意を持って接していたに違いない。だというのに、問題の一夏はのうのうと信じると言ってのけた。

「危うすぎるんだよねこれが」

 

自己犠牲、字面にすればかっこいいかもしれない、しかし成政は、

 

「自分が死んだら、誰がどうなるかわかって言ってんだか」

 

残されてしまった者の悲しみ、その一端とはいえそれを知ってしまっている。

だからこそやめておけと伝えたのだが、

「あいつは良くも悪くも真っ直ぐだからな」

 

真っ直ぐな一夏の性格。常人からすれば若干歪んでいるようにも見えるその在り方、しかし、成政にはそれが少しだけ眩しかった。

 

「あそこまでズバズバ言えるって、さぞ気持ちいんだろうなぁ......」

 

その後の後始末も考えたらプラマイ0なのだが、思った事を素直に言える一夏が、少しだけ羨ましく感じる成政だった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の消灯時間ギリギリ、一夏は成政の部屋の前にいた。

事故が元とはいえ、シャルルの秘密、シャルルが女性である事、その背景にあるデュノア社の事、シャルルの生い立ち、などなど。

ここまで聞いてしまった以上、一夏はもうシャルルを放って置けない。

 

「......虫のいいことは、分かってるけど」

 

だが、一夏は対策が考えられなかった。

このままではシャルルは本国フランスに強制送還され、犯罪者になってしまう。それだけは、許せない。

だからこそ、秘密を守れそうかつ案を持っていそうな成政のところに来たのだ。

 

「すまん、ちょっといい、か?」

 

はやる気持ちがそうさせたのか、ノックもせずに部屋の扉を開け、踏み込んでしまった一夏、彼が見てしまったのは、

 

「そうそう、そんな感じで......」

「なるほど、興味深い」

 

それなりに衣服の乱れたラウラが成政を押し倒し、今にも襲おうとしているように見える光景。

 

「シッー!」

「のわっ?!」

 

ラウラは一夏を認識した瞬間、跳ねるように踏み出し一夏を押しのけて部屋から走り去ってしまった。

 

「......なにがあったんだ?」

「いろいろ、だ。深くは聞かないでくれ」

 

ぱんぱんと乱れた衣服を整え、10秒後にはいつも通りに戻った成政が改めて問う。

 

「で、デュノアの事か。こんな夜遅くに、と言うことはそう言うことだろう」

「ああ、その通りだ。成政の言う通りだったけど......」

 

一夏は両膝を地面に付け、両手を両膝の前に置く、そして、

 

「頼む!シャルルを助けてやってくれ。調子のいい事を言ってるのは分かってる、無理を言ってるのも分かってる。だけど!

俺は、シャルルに何も出来ないんだ。頼む、俺に、力を貸してくれ!」

 

頭を地面に擦り付けた。その姿を見て、深くため息をついた後、成政は、

 

 

「任せろ」

「無理を言ってるのは......えっ?」

「どうせお前の事だ、背負い込むのは分かってる。突き放すんなら話は別だが、依頼されたとあっては断れない。

選手の希望を出来るだけ叶えるのも、マネージャーの仕事だし、頑張りますか」

 

 

 

 

 

 

「おかえり、一夏」

「ああ、助っ人を連れて来た」

「助っ人です」

 

シャルルの身の上話と事件の経緯を聞き、これからどうするか、と言う話題になる。

 

「一応、対策は考えたには考えたんだけど......不十分かな、って思う」

「ダメでも良いからいろいろ出そう。組み合わせたらいけるかもしれない」

「成政、学生証のここ見てくれ。特記事項21の所」

「なになに、『特記事項第21、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。』と」

「これを使えばいけるんじゃないか?」

「確かにこれはいいけど......問題が先送りになるだけだしなぁ」

 

特記事項21、これを使えば公的にはシャルルがフランスにちょっかいを出される事は無くなる。が、あくまでそれはIS学園生徒の時のみ、卒業するまでの時間稼ぎにしかならない。

これを活用して時間を稼ぎ、3年以内に問題を解決できるような素晴らしいアイデアが浮かぶのを待つか、今ここで後門の憂いを断つべきか、

 

「......この問題は先送りすべきじゃない。学園かデュノア社が許可を通せば、3年じゃなくても連れ戻される可能性だって無いわけじゃない」

「やっぱり駄目か......」

「一夏、ごめん。やっぱり僕」

「いや、でもこれは最終手段として使える。いざとなれば教師をどうにかして抱え込んで説得してもらえばいい。セーフティとしては上出来だ」

「でも、最終手段、なんだろ」

「ああ、別の手を考えよう」

 

下手な鉄砲もなんとやら、と言わんばかりにさまざまな案を考える2人。

その間、シャルルはずっと布団にくるまって黙り込んでいる。当事者を放置しての話し合いは、朝まで続いた。

 

 

 

 

 

 

「ゔぁー......」

「あびゃー......」

「酷い顔だな2人とも、おはよう」

 

((結局何も出来なかったな......))

一夏の出した特記事項21を利用しての時間稼ぎ、以上の案は出ず、そのまま次の日になってしまった。夜通し話し合いをしていたせいで2人ともFXで有り金溶かしたような酷い顔になっていた。

結局問題は持ち越しのまま、次の日の朝を迎えてしまった。

 

 

 

 

「......くかー」

「起きろ織斑、授業中だ」

バシン

「にゅああああ?!」

(寝たらしぬ寝たら死ぬ寝たら死ぬ寝たら......)

 

睡魔と戦いながらも1日を終え、放課後。

特に何もいい考えが浮かばないまま、話し合い2回目を迎え、

 

「ゔぁー」

「まだだ、まだ何か......」

 

3回目を迎え、

 

「......眠い」

「.....しんどい」

 

4回目、

 

「これもう無理じゃないかなー」

 

目の下にくっきり隈を作り、虚ろな目でそう切り出した成政。

ここ3日、ろくに寝ないでシャルルをどうにかする案を考えたのだが、全く浮かばない。

同じような顔の一夏も、はっきりとはいかないが、自分たちの限界を薄々は感じていた。

 

「はぁ、まじでシャルルが男だったら万事解決なのに」

「あはは、それは、無理かな......」

 

寝不足で口が軽いのも手伝い、愚痴を漏らす一夏。ぼーっとした頭でそれを聞いていた成政は、深夜テンションのなせる技なのか、とんでもないことを言い出した。

 

「いっその事、シャルルを男で通すか」

「それは、無理じゃないかな。こんな短い期間で2人に分かっちゃったんだし、これ以上隠し通せる訳ないよ」

「いや、世の中には体と中身の性別違う人も居るわけだし、シャルルの男って自称も筋が通るし」

「......僕、そんなんじゃないんだけど」

「デスヨネー」

 

ちゃんと寝ているシャルルに呆気なく却下される成政の案、正気だったらこんな事考えない。

はあ、と揃ってため息をつく3人。

まさしく八方塞がり、袋小路にはまってしまったようなもの。

最初に一夏の言った案通り、問題を先送りにしよう、そう諦めの言葉が出そうになってしまうが、それだけはしたくない、と弱気な考えを押し込める。

 

「要するにシャルルを、フランスが手出しできない様にすればいいんだよな」

「......うん。でも、僕がデュノアなのもついて回るし、どうしようもないよ」

 

閉じそうになる重いまぶたと格闘しながらも話すことは辞めない。言葉さえ出れば対策が出るかもしれないと、気合いで持ちこたえながら言葉を話す一夏。

申し訳なさそうに頭を下げるシャルルが、フラフラしてもう限界に見える2人を止めようと口を開いた瞬間、

 

「......いけるかもしれない」

「なにが?」

「いけるかもしれない。シャルルをフランスが手出しできない様にする」

 

寝不足で酷い顔のまま、2人に笑いかける成政。

 

「要するにフランスと仲の悪そうな国の、重要な場所に置けばいいんだよな?」

「ど、どうやって?!」

「まあ色々と問題はあるが......まあなんとかするさ。それはだな」

「それは?」

「それは......」

 

 

 

 

「その前に寝させて」

「もう、無、くかー」

「今は大事なところでしょー!」

 

 

 

 

 

 

寝落ちしてぐっすりと眠る2人をベットに運び、布団をかけるシャルル。

一夏の寝顔を眺めながら、ポツリと呟く。

 

「恋、しちゃったのかなぁ」

 

自分の酷い身の上話を聞いてまで、助けようとしてくれる優しさ。

自分に対して色眼鏡をかけず接してくれた真っ直ぐさ。

暫く前から一夏を見るたびの溜まる、胸のモヤモヤは一体なんなんだろうか。

 

「恋じゃねえの?」

「うわっ!」

 

一夏と同じく寝ていた様に見えた成政が声をかけ、思わず飛び上がるシャルル。

 

「ま、ライバルは多いが頑張れ。応援はしないぞ、他人の恋路にちょっかいを出せば馬に蹴られるって言うし、恋の相談は受け付けていないんでな」

 

自分の部屋で寝る、と言って立ち上がり、フラフラしながら出て行く。

「......ありがとう」

 

シャルルは、去っていく後ろ姿にそう告げた。

 

「あ、そうそう。ライバルは具体的に言うと......今で3人」

「多くない?!」

 

 


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