インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜 作:通りすがる傭兵
「くそっ、このままじゃ......」
「ああもう、何で当たらないのよっ!」
謎のISが侵入して5分ほど経つが、一夏と鈴は苦戦を強いられていた。
途中山田先生が通信で退避を促して来たが、ハッキングによりシールドが強化され、誰にも出入りできないデスマッチ状態に。
果敢にも接近戦を仕掛けようと近づけば高出力レーザーの雨あられ、離れていてもレーザーが休む間も無く襲いかかる。
時折鈴が衝撃砲で反撃するが、ありえないくらい人間離れした機動力でかわされる。
それが、2人の集中力を削り取り、苛立ちを募らせる。
それに、無意識下で死の恐怖を押し込めていると言うのもあるだろう。いくら絶対防御があるから、と説明されていても、アリーナの強力なバリアを貫くあの威力を見てしまえば、何も思わないわけがない。必然、回避機動も大ぶりになり、チャンスを失う。
ただ、虚しく時間だけが過ぎていく。
「こんの、大人しくしろってえの!」
「やめろ鈴、それはっ」
「きゃあああああああ!」
痺れを切らした鈴が双天牙月を振って突撃するが、謎のISはまるで機械の様に正確に、腕を振るい、鈴を撃ち落とす。
(は......え、鈴......?)
一夏が下を見下ろせば、鈴が倒れ伏している。まだ甲龍は展開しているものの、鈴は眼を閉じていて、動く様子はない。
一夏の頭は真っ白になった。
鈴が、倒れている。
やったのは、誰だ?
あいつだ、目の前のあのISがやった。
あいつを、あいつを......
『一夏ぁ!落ち着けぇ!あと3分、3分で教師陣が入れるようになる、それまで、今できる事を考えろ!』
頭から、冷水をかけられるようだった。
狭張っていた視界が広がり、視界がクリアになる。
俺は、今何を......?
『ああもうこんな所に、モッピーちゃん逃げるぞ!』
『逃げる?一体どういう』
『ココは他よりシールドが薄いんだから、危ないって言ってるのさ!』
『っ、そういう事は早く言わんか!』
『しっかり掴まれ、舌噛むなよ?』
『それくらい分かっている!』
聞き慣れたブースト音を聞いて、2人が無事逃げた事を察して、一夏は胸ををなで下ろした。
「今、できる事、か」
今の未熟な自分では何も出来ない。目の前のあいつは倒せない。であれば、どうする?
自分に何が出来て、何が出来ないかと問いかける。
今の自分にできる事は、足止め。
ただ、鈴を守るだけで、いい。
燃費の悪い零落白夜は使えない。かといって逃げるだけじゃ、あいつの注意が鈴に逸れるかもしれない。だから倒す気で、あいつに攻撃するしかない、そう自分に確かめる。
「踏ん張ってくれよ、白式!」
ブースターを吹かし、白式は謎のISに斬りかかろうとして、あることに気づいた。
「......あれ?」
なぜ、あいつは攻撃してこなかった?
考え事をしていたぶん、動きは単調どころか止まっていたはず、なのに、なぜレーザーが飛んでこない。
「まるでゲームのイベン......まさか」
あいつは、NPC......無人機?
確証はない、だけど、あんな滅茶苦茶な機動力にも説明がつくし、何より。
「遠慮しなくても、いいよなぁ!」
一夏はまだ知らない事だが、零落白夜は理論上絶対防御すら貫通する可能性があり、無意識にリミッターをかけられている。
だが、それは操縦者の意識一つで変えられる。
そして操縦者は遠慮はいらないと言った。
ならば、白式は主人の命に従うのみ。
この場に限り、零落白夜は文字通り、
必殺剣となる。
しかし、零落白夜、ひいては一夏の剣が相手に当たらないのは身をもってわかっている事、だからもう一つ、手札が欲しい。
「何か、他に手は......」
1番初めに鈴の双天牙月が思い浮かんだが、ちょうど謎のISの真下、取りに行くにも、何か利用するにも難しい。
頼りになりそうな鈴は現在意識がない、戦力外だ。
だが、この場にはもう一つ、手札がある。
「......あった!」
「これでは、アリーナに出られませんわ......」
成政と箒が実況席から飛び出したのとほぼ同時刻、セシリアはピットにいた。
しかし、セシリアの前には文字通り壁が立ちはだかり、道を阻む。
「一夏さんが、この向こうで戦っているというのに......私はっ!」
怒りと、自分の情けなさに両手を握りしめる。ISを展開したとしても、火力に劣るティアーズではこの壁は破れない。
自分の愛する人の窮地に、自分は何も出来ない。まるで、両親が自分をかばって死んだ、あの時のように。
その時、セシリアの背後に扉が音を立てて開く。そこに居たのは、
「神上さん?どうしてココに?」
「いやいや、ちょっとお手伝いをね?」
マヒロはISを纏うと、拡張領域からあるものを引っ張り出した。
急拵えらしい外装に、本体から突き出る杭らしき何か。普通のISではまともに扱えないような馬鹿でかいそれを扱えるのは、ひとえにマヒロのパワーに特化した専用機のお陰だ。
マヒロは引っ張り出したそれを、固く閉じた壁の前に設置し、工具を使って手際よく固定していく。暫くして作業が終わると距離を取る。
「はーい、セシリアちゃん、チョイと下がってね。あと安全の為にISを纏うように」
「一体なんですの?これは」
「ん、これ?」
手慣れた様子でISを纏ったセシリアがマヒロに問いかければ、セシリアの方に顔を向け、笑いかけるように首をかしげるマヒロ。
全身を装甲で覆っているマヒロの専用機だからこそ表情は窺えないが、きっと、
「ウチが開発した、建物解体用、
火薬、それとレールガンの要領で杭を撃ち出す試作品の超強力パイルバンカーだよ?」
イタズラが成功したような悪ガキのような、無邪気な笑顔を浮かべていた事だろう。
かくして立ちはだかっていた壁は木っ端微塵に粉砕され、闘技場に蒼の騎士とヒーローが舞う。
「遅くなりましたわ、一夏さん!」
「ヒーローは遅れてやってくるってね!」
「はあああああああ!」
まるで先程の焼き直しだ、もしISに意識があれば、侵入者はそう思っただろう。
小細工も何もない、ただの突撃。
零落白夜の特性はこの機体にダウンロードされており、自身のSEを喰らって発動する諸刃の剣なのはもちろん理解している。
自身にインプットされたコマンドから最適解を割り出す。回避し、至近距離でレーザーを発射する。そうすれば白式の少ないSEはなくなり、戦闘不能となるだろう。
そう判断して、全身に取り付けられたブースターに火を入れようとして、
《警告 ロックオン反応アリ》
「私を.....
忘れてもらっちゃ困るのよ!」
「そこですわっ!」
「消し飛べ」
戦場、特に接近戦の間合いでは、
「ぜやあああああああああ!」
一瞬が、勝敗を分ける。
一夏は右手で大きく振りかぶり、雪片で袈裟がけに斬りつけるが、謎のISは左腕を剣の側面に叩きつける事で剃らす。
が、それはあくまでも囮。
零落白夜のメリット、デメリットは織斑先生や成政に散々言われていた。名前も知れ渡っているから、対策はしやすい、と。
だったらそれを逆手に利用する。
左に持つのは、試合開始時に持っていた近接ブレード、葵。
「本命は、こっちだ!」
葵の切っ先が謎のISの装甲を貫き通し、白式はブーストの余勢を駆って自分ごと壁に叩きつけ、
「はあああああああ!」
そのまま唐竹割りの要領で刀を振り下ろし、返す刀で胴を真っ二つに叩き斬る。
「鈴、無事か?」
「ええ、なんとか、ね」
地面に倒れた鈴を助け起こす一夏。
謎のISは鉄屑となり、起き上がってくる気配はない。という訳で、鈴のところに向かったのだ。
「本当に大丈夫なんだな?怪我してないんだな!」
「大丈夫ったら大丈夫よ」
「心配だし、保健室に......」
『一夏さん、後ろですわ!』
セシリアの声とほぼ同時に、何かを感じて一夏が振り向くと謎のISの右腕が光を放つ。
「まさか、自爆?!伏せろ!」
「心配には及びません!」
直後、スラスターを吹かして飛んできた強羅がサッカーよろしく右腕をけ蹴っ飛ばし、被害もなく事件は終幕となった。
「必殺、ファイ......なんでもない」
「や、やっと終わった......」
「足が、足がぁぁぁ」
「外国人のセシリアに正座はキツかったか」
「なんで俺まで......」
乱入事件の日から2日後、問題児4人は呼び出しをくらい、織斑先生にみっちり説教を食らっていた。
教師陣をなぜ待たなかった、一歩間違えれば死んでいた、ピットを粉微塵に破壊した、などなど。
特に箒とマヒロがみっちり絞られたのはいうまでも無い。箒は自分の命を省みず実況席に立ち入り、マヒロはピットに1ヶ月ほど使用禁止になる程のダメージを与えたのだ。
全員反省文30枚、自室謹慎3日と相成った。
「これでレビューが書けます、ふう。威力はバッチリだし、実用化出来そうだね」
「......それ、本気で言ってますの。ピットを1ヶ月使用禁止にするようなアレを、実用化?」
「蔵王工業基準で言えばまだ軽い方」
「頭おかしいですわ......」
「......暇だ。やる事がない」
謹慎1日目、成政は暇を持て余していた。
毎日部活に入り浸り、部員とあーでもないこーでもないと議論を交わし、練習を管轄し、自主トレに付き合い、と忙しい毎日を送っていたが、剣道部との関わりを切るだけでこうもやる事がないのか、と思わず笑う成政。
「趣味を持て、と常々言ってたけど自分が趣味を持ってないんじゃね」
中学時代、副部長兼マネージャーとしての立場にあった成政は、そう部員たちに言ってきた。
剣道以外にも、心に余裕を持て。自分の心に余裕があれば、それは剣道にも現れるから、と。剣道だけで気が詰まるような生活を送って欲しくない、という成政の気持ちもあったが、実際に趣味を持つ人が大会を勝ち上がってくるという経験則があった。
そう言った自分に趣味がないとは、まさになんの説得力もない言葉だった、なのに、
「なんで、みんな従ってくれたんだろうな」
剣道もできない、口だけは達者な自分になぜ付き合ってくれたのだろうか。不平不満をぶつける事はあっても、何故か自分に辞めろとは言ってこなかった中学時代の仲間に想いを馳せる。
この女尊男卑の風の中、なぜ男の自分がマネージャーに徹する事ができたのだろうか。
「......一体、なんでだろうね」
とりあえず暇潰しにルームメイトの本音にでも本でも借りるか、と部屋の本棚に向かい、一冊の文庫本を手に取ろうとした時、部屋のチャイムが鳴る。
「失礼するわよ」
「お邪魔しますわ」
「どうぞ」
セシリアと鈴、珍しい組み合わせだなと思いつつも、成政は茶を淹れに備え付けのキッチンに向かった。
「どうも、粗茶ですが」
「......ありがとう」
「いただきますわ」
本音が常備している菓子類からお茶請けの羊羹を引っ張り出し、日本茶に添えて出す。2人はそれを摘みながら、成政の淹れる日本茶を啜る。暫く無言だったが、耐えられなくなったのか鈴が口を開いた。
「あのさ、石狩、さん」
「成政でいいよ。固いのは性に合わない」
「じゃあ、成政。私は、あんたに謝らなきゃいけない」
「散々言ってたねぇ、軟弱者とか、ヘタレだとかなんとか」
「そっ、そこまでは言ってないわよ!」
「ジョークジョーク、ただの冗談だよ」
いつも通りというべきか、鈴の纏う暗い雰囲気を吹き飛ばすように笑ってみせる成政、
「ああもう、自分が悩んでるのがバカらしくなってきたわ......」
「おや、今日はお悩み相談で?」
「私が一夏の部屋に押しかけた時の事よ、わかってるくせに」
「はいはい、そうですか」
「なんか、えらく適当ね」
思い詰めたような表情をする鈴に対して、対象的にサバサバとしている成政。
「だって、事実を言われても何も傷つく事はないし、そっちも気に止む事はないってコト」
「......やはり、間違いでしたわね。見損ないましたわ」
「おや、セシリアちゃん帰っちゃうの?」
「ええ、無駄な話は聞かない主義でして」
「そうか、夜道には気をつけて」
「では、御機嫌よう石狩
縁を切るようにそう言って部屋を出ていくセシリアを見送って、残った鈴と2人きりになる。
一息つこうとお茶をすする成政に対して、鈴が何を言っているんだ、と驚きを顔に貼り付けていた。
「ちょ、どういう事よ、説明して!」
「言った通り。自分で言っちゃあアレだけど、僕は怪我をしても、無様に剣道にすがりつく愚か者、って事。足もリハビリを真面目にすれば治ったかもしれないのに、それをしないで、早々に見切りをつけて裏方に移ったしね」
「それは理想が高すぎるわよ!あんな事故があっても剣道を辞めなかった自分を、もっと褒めなさいよ」
「という事は、箒か誰かが話したの?」
「......一夏が、全部話してくれたわよ」
「成る程、だったら話が早い。石狩成政は選手を辞め、マネージャーとしてまだ剣道にすがりつく、理想に溺れる軟弱者、そう覚えておいて結構」
「そうじゃなくて、そうじゃないけどっ。あんたは、もっと自分に、自信を持ちなさいよ!」
感情も露わに、卓に拳を叩きつけ、詰め寄る鈴に対して、成政は首を横に振る。
「いいや、足りない。まだ足りないよ」
「......足りないって、何がよ」
「アイツの隣に立つには、足りないんだよ。アイツの隣には、選手が相応しいんだ、マネージャーじゃない。とは言っても、もう叶わない理想だし、心の底にでも、押し込めておくことにするよ。雑念があると集中できないし」
この事は他言無用で、と付け足し、湯呑みを片付けにいく成政。
その背中を見送ると、鈴は一言、こう呟いた。
「一夏も、あんたも、揃いも揃ってどうして男は馬鹿ばっかりなのよ!」
「にしても、これはなんなんだろうな」
深夜、箒も寝静まった頃にテレビをつけて動画を眺める。
こっそりと録画していたクラス代表試合、そのラスト。一夏が二刀流で謎のISを切り捨てたシーンを何回も何回もリピートし、ある一点で止める。
「光の反射でもないしなぁ......なんなんだか」
そろそろ寝よ、と成政はテレビの電気を消して布団に潜り込んだ。
謎は、まだ解けないままだ。
なんだかんだで不器用な成政。
感想で「セシリアと鈴とはどうするんです?」とありましたが、ss読んでる限りセシリアと主人公は気が合わなさそうですし、こんな感じで決着となります。後で(忘れなければ)ちゃんと仲直りはさせますので心配は無用です!
......これ、アンチじゃないですよね?大丈夫ですよね?