インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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第11話

 

 

すったもんだがなんやかんやであれがこうなって一夏が鈴にグーパンされたりという事件があったりしたものの、それ以外は特に事件もなく平穏に時は過ぎ、クラス代表戦当日となっていた。

 

 

「やってきたことを思い出せ。お前なら勝てる」

「男の意地を見せろ、一夏!」

「一夏さんなら勝てますわ」

「おう、任せろ!」

 

試合前、ピットに最後に挨拶を、とやってきた3人に一夏は任せろと言わんばかりに胸を叩く。4月の代表決定戦の時とは違い、自信満々に勝負に挑む様子を見て成政は、

 

「まあ、あんだけやっても勝率なんて3対7、良くて4対6だぞ。いくら白式があるからって勝てるか分からんぞ」

「あんだけみんなが頑張ってくれたんだ、俺がその頑張りに答えなきゃな」

「いや、そういう意味じゃなくてだな......」

 

調子乗んな、と嗜めるつもりで成政は言ったのだが、一夏のスルースキルにかかれば立て板に水と言わんばかり。全くもって効果がない。これだから鈍感野郎は、と溜息をつく成政に変わってすかさずフォローを入れたのは箒だった。成政の持っていたバインダーをひったくると、つかつかと一夏に歩み寄り織斑先生よろしく縦に振り下ろす。

 

「あいた!何するんだよ箒」

「緊張するな、いつも通りにやれ。それに、いくらクラス代表だからといって気負わなくていいんだからな」

「お、おう......」

「そうですわよ。一夏さんは、まだ素人の域を出ませんわ。このクラス代表戦も学年初期のクラスの力を見るもの、であれば、他の方々の胸を借りるつもりで、挑んでくださいな」

「ああ、分かったよ。ありがとうセシリア」

「こ、こんな事貴族として人の上に立つものとして......」

 

惚れた一夏に褒められてなのか、照れ隠しにベラベラとよくわからないことを語り出し、それを真面目に聞いている2人を意識の隅に追いやって、箒と成政は問題の対戦相手に頭を抱えていた。

 

「「3組とか勝てる気がしない(ぞ)」」

 

そう、あのロマン馬鹿の神上がよりによっての対戦相手なのだ。唯一の代表候補生の鈴に対策を絞っていた一夏に対して、これは痛い。

神上の専用機、『強羅』は訓練機のラファールのようなオールラウンダータイプに近い。近接も遠距離もこなすが、打鉄の様に高いシールドの代わりに速度が遅い。シールドをサクサク切り裂く『零落白夜』を使う白式にとっては相性がまだマシな部類だが、問題なのは。

 

『ヒャッハー!汚物は消毒ダァ!』

 

成政の脳裏に蘇る。訓練時の、爆炎がアリーナを覆い尽くすあの光景だ。まだ未熟だったとはいえ、一夏が消し炭になった事はまだ記憶も新しい。

それに、噂によれば『強羅』、馬鹿みたいな武装を大量に積んでいるらしい。

外付けジェネレーターを備えたエネルギー砲、実用性皆無のパイルバンカー、チェーンソー、逆刃刀、そして極め付けは、

 

『解体現場からパチってきた様な柱』

 

と、まるで想像が付かない。

セシリアの時の様に武装の偏りで作戦も立てられず、トリッキーな武装とあればセオリーも無い、という事。3人にとっては、1番当たりたくない相手だったのだが、

 

「まあ何とかなるって、雪片さえ当てれば勝ちなんだからさ!」

「自信を持ってくれてるんなら、いっか」

 

本人が大丈夫と言ってる以上、何とかなるだろう。試合も始まるので、成政達は観客席に戻っていった、ピットに戻れるのは、全試合が終わった後になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、決勝か......」

「3組の時はヒヤヒヤしましたわ」

「あんなもんマグレとしか言いようがないというのに、マヒロに申し訳ないくらいではないか?」

「運も実力のうち、ってねー。何はともあれ勝ったんだったら、勝ちを喜ぶべきだよっ」

「まあ、本人が言うのならば、そうなのか」

敗北したマヒロも交えて、観客席で雑談をかわしながら決勝戦を待つ。決勝の組み合わせは1組対2組、一夏対鈴という事だ。みっちり対策を取ってきたが、実際はどう転ぶか分からない。

 

「頑張っておりむらくーん!」

「おりむー、がんばれー!」

 

1組の皆が応援する中、一夏の専用機、白式が姿を現した。が、

 

「なっ、アレは......」

「成る程、考えましたわね」

「それは悪手だろ一夏、何考えてんだあのバカ!」

 

いつもとは違い、左には見覚えのある近接ブレードが握られている。一夏なりの秘策として、二刀には二刀で対応する、と言うつもりだろうか。確かに、二刀流の手数に対抗するには理にかなった方法なのだろうが、

 

「付け焼き刃の二刀流で勝てるわけないだろうが。しかも葵といい、雪片といい両手で持つ様な太刀だぞ、マトモに振れる訳ないだろ!」

「一体誰が......おい、神上、何故笑っている」

「いやあ、二刀流はいいですねぇ。ベストは六刀流か三刀流なんですけど」

「元凶は貴様かぁぁぁ!」

 

ロマン馬鹿が色々吹き込んでいたらしい。すぐに影響されよって、と頭を抱える2人とは対照的に、セシリアは何が何だかサッパリ、とポカンとしている。

そう騒いでいると鈴も反対側のピットから出てきた。無骨な手足に、肩部に浮くスパイクアーマー、前情報通りの近接タイプのようだ。

一夏と鈴が何か言葉を交わした後、試合のカウントが始まる。一夏は雪片を右に握り、二刀を構える、本当に二刀流でいくらしい。

成政にとっては、まさに想定外。二刀流なんて衛宮の話を数度聞いただけで、当たり前だが教えてもいないし練習する姿も見ていない。

まさにぶっつけ本番、一発勝負。

かと言ってもうすでに自分は外野にいる、口出しはできない。成政は脱力して椅子にもたれかかる。それでも試合を見ることをやめないあたり、期待はしているのだろうが。

 

 

 

『試合 開始!』

 

 

 

 

 

序盤はほぼ互角の展開で進んだ。一夏の付け焼き刃な二刀流では到底敵うはずもなく、試合開始早々に葵を手放し、雪片だけで戦っていた。

しかし、互いに被弾はしていない。鈴の二刀流に対して、一夏は雪片の長い刀身を利用して受け流す。ワザと零落白夜を発動させない事で白式のシールドもまだ余裕を持たせている。

対策の成果がしっかり出てるな、としたり顔で成政が1人うなづいていると、

 

『のわっ!な、なんだ?』

 

『へっへーん、どうよ。私の龍砲の味は!』

 

不自然に一夏が吹き飛ぶ。鈴のISに注目すると、肩のあたりについていたスパイクアーマーが少し変形している。

さっき鈴が言った龍砲が第三世代の特長であるトンデモ兵装なのだろう、と成政はアタリをつけた。

 

(まあ、なにがどうなるわけでも無いけど)

 

考察は試合後にビデオを見ながら、答えは本人に聞けばいいし、とバインダーに思いついたことを書き留めていると、凄まじい衝撃音があたりに響き渡った。

 

「な、なんだ?」

「成政さん、あそこ!」

「あ、あのISは一体なんですの?」

 

見上げれば、アリーナのシールドを破って悠々と黒のISらしきものが侵入していた。

一拍おいて、悲鳴が観客席を覆う。こうなれば観戦もへったくれもない。

火事場には慣れている身の成政がすぐに頭を切り替え、近くにいた皆に大声で声をかける。

 

「みんな、避難誘導を頼む。声を大声で張るだけでいいから。いざとなったらISを使っても構わない!」

「任されましたわ!」

「分かった!」

 

あるはずの返事はひとつない、そう気づいた箒は隣の席に目を落とすと、そこにいるはずのショートカットのロマンを愛する少女はいなかった。

 

 

 

 

 

 

「一体全体なにがどーなってんだ!みんなは、無事か?」

「私に聞かれても知るわけないでしょ!とりあえずなんとか、一夏、避けて!」

「へ、のわっ?!」

 

試合中に突然の乱入者。謎のISは、アリーナのシールドを突き破って、2人の前に立ちふさがる。

最初は一夏の方を見定めるようジロジロと見ていたが、長い腕を振って、手の平についた発射口からビームを撃ち出す。アリーナの客席の方に意識を向けていた一夏が鈴の一言でギリギリ攻撃を躱す。

チリチリとした殺意が背中を覆い、死の危険を感じさせる、がしかし、一夏は怯まない。

 

「とりあえずこいつを倒すぞ、鈴!」

 

何故なら、皆を守ると決めたのだ。それに、ここで逃げれば、男がすたる。

 

「奇遇ね、私も同じ事考えてたの、よっ!」

 

牽制のつもりか、肩の龍砲を撃ち出す鈴。それを全身のスラスターを吹かして躱す謎のIS。

その隙を見て、本命の双刀、双天牙月を連結して投げつけるが、あちらもお見通しだったらしく、その長い腕を振るい弾いてしまう。

 

「それなら.....って不味いか」

「一夏、SEはどれだけ残ってる?」

「零落白夜が2回、それで無くなるくらい」

「......だったら私が前に出る、隙を見て、頼むわよ」

「ああ、すまん!」

 

戦闘時に私情を挟むな、と成政と箒に散々叩き込まれた一夏、本当なら鈴を前に立たせたくはないが、今の自分では足手纏いになる、ということくらいは分かる。それが、悔しい。

 

「やっぱり、俺が弱いから......くそっ」

「なに考え事してんのよ、来てるわよ!」

 

考え事する暇もなく、連続して赤いレーザーが一夏を襲う。悪態をつきながらスラスターを吹かし、白式は空を舞う。

 

「もっと、もっと強く、なりたい!」

 

 

 

 

 

 

「よし、誰もいないな」

 

先程までごった返していた観客席も、今では人はすっかりいなくなっている。残っているのは避難誘導のためにいた成政たちだけだ。

安全のためにもう一度声をかけ、辺りを見回すが、返事はない。

 

 

「そっちはどうだ、誰もいないか?」

「こちらも終わりましたわ!」

「よし。箒は......ってあれ?箒は?」

「あら、神上さんもいらっしゃらないですわね」

変に胸騒ぎがする、もしかして、と成政はアリーナ、その一角に目を向け、直感的に走り出す。

 

「ちょっと、成政さん?」

「セシリアはピットに!いざとなったら一夏と鈴の援護に回ってくれ」

「わかりましたわ、でも成政さんは?」

「ちょっと箒を探してくる!」

 

そう怒鳴りながら、観客席を飛び出し、避難場所の反対、放送席に向けて走り出す。ISの無断使用は、この際無理を言って見過ごしてもらえないかなぁ、とどうでもいいことを頭の片隅におきながら。

 

「あいつのことだから、どうせ一夏の応援とかなんとか言って、一夏の方に行くはず。アリーナに声を通すとすれば、実況用のあそこに向かう筈だ」

 

慣れないISのスラスター移動に戸惑いながら、走りとは比べ物にならないスピードで、灰色の武士が廊下を駆ける。

 

 

 

 




最近書き方変えてみたんですけど、どうですかね?

行間を多めに開けてみたんですけど、どうでしょう?

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