インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜   作:通りすがる傭兵

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7が多いなぁ(気のせい。

原作持ってないからイベントわかんない、辛い。


第9話

 

 

 

「うおっ!なんだ鈴か、どうしたんだ?」

「へっへーん、引越しに来たのよ!」

肩に下げていたボストンバックを降ろし、部屋に上がり込もうとする鈴を箒が咎める。

「引越し、だと?ここは3人部屋では無いが」

「何言ってんのよ、あんたが出て行けば、って後ろの2人は何してるのよ」

「「何もしてないよ(ですわ)!」」

「あっそ。それで......」

さっきまで対策会議をしていた事を悟られては不味い、と証拠隠滅を図るセシリアと成政。

バレないかとヒヤヒヤしていたが、鈴の興味が別に移った為、胸をなでおろしていたのだが、

(......なんで同じ事してるんだろ)

(やっぱりこの男、気に入りませんわね)

まだ仲直りを済ませていない為、同じ事をされると少し苛立ってしまう。なのでこの後軽く軽口でもいうつもりだったのだが、

「そちらの意見には全くもって正当性がないでは無いか、そんな女に私の部屋は渡さん!」

「はあ?私と一夏が同じ部屋になるのは当然でしょうが!」

「2人とも頭を冷やせって、おい!」

それどころではなくなっていた。

 

 

 

 

「2人とも落ち着けって、なあ」

一夏は良くも悪くもみんなに優しい。

それ故に、どっちが悪いとははっきりと言えないし、強く出られない。

だからそんな一夏の言葉は2人に届かない。

「うるさいうるさいうるさい、いいからでてけって言ってんでしょ!」

「断る、理由がない」

正義は我にあり、と堂々とした態度で臨む箒。

セカンド幼馴染か何かは知らんが、どこの馬の骨とも知らない奴に一夏は渡さん、とでも言うように立ちはだかる。そんな彼女に対して、鈴は決定打がない。

「ぐぬぬ......」

だが、彼女は負けるのが嫌だった。折角1年も会えなかった思い人と同室になるチャンス。しかも彼とは別クラスなので、こうでもしなければ日常的に会うチャンスはなくなる。

だから、なりふり構ってはいられなかった。

「ふん、どうせもう1人の男子とつるんでるんでしょ、あんな意気地なしの!そっちの部屋にでも行けばいいじゃない!」

言ってはいけない事を、言ってしまった。

 

 

 

スタン、と軽い音が部屋に響く。

それと同時に、鈴の顔が青ざめる。なぜなら、

「事情も知らないくせに、よくもそんな事を言ってくれたな」

箒が木刀を投擲し、鈴の顔の真横スレスレに突き刺したからだ。

左は残心を取っているが、箒は右手にもう一本木刀を持っている。

何をしようとしているかは、言うまでもない。

「あの人の何も知らないくせに、そんな事を言うな!」

「ひっ」

怒りの為すままに、箒は木刀を振り下ろし、

「人に木刀を向けるなって習わなかったのか」

割って入った成政に止められた。

もちろん真剣白刃取りなどできるはずもなく、咄嗟に持っていた杖で木刀を受け止めた形になる。だが、半ば滑り込むような形で割って入った以上、姿勢は崩れたまま。力で抑え込まれ、

「おい成政、血、血が!」

「大丈夫だ、問題ない」

頭から血を流す結果となっていた。

「すまない、大丈夫か」

「は......はい、大丈夫、です」

折れ曲がってしまった杖を使わず、壁を支えにして立ち上がり、鈴に手を伸ばす成政。彼女を助け起こすと、一夏とセシリアには、この事を他言無用に、と口止めをした。

「なぜですの!あのままでは、鈴さんは死んでいたかもしれません、それを他言無用に、とはどう言う事ですの?!」

「箒のあれは......深くは聞かないでくれ」

「ですが!」

「......分かった。成政にとっては、その方が良いんだろう?」

「一夏さん?!」

「すまない、恩にきる」

憔悴した箒と鈴には、一夏と自分の部屋のどちらかで休むように、そう伝えてほしいと言って、自分は軽く頭にタオルを巻くと部屋を出ていった。

成政が壁伝いに歩き、向かった先は、

 

 

 

 

「成る程、この事件をなかったことにして欲しい、と」

「はい、こんな事があれば、2人は退学、ないしは経歴に傷が出来ます。箒は剣道の天才です。鍛えればいずれ、貴方を超える。それほどの才です。凰さんは、たった1年半で代表候補に登りつめた実績があります。

あんなに優秀な選手を、自分のせいでダメにはしたくありません。お願いします」

成政は、寮長である織斑先生に話を通すことにした。あれだけ大きな物音を立てれば、誰かが気づく、その前に先手を打っておく、という判断だ。

「しかし良いのか?かなり無理をかけただろう」

「まあ、マネージャーくらい使い潰しても結構ですし、大丈夫ですよ」

「まあ、そうは言うが、体が資本だろう、大切に扱え。それに、倒れれば、悲しむ人もいるだろう」

「あはは、同室の本音さんには迷惑をかけます。ちゃんと謝っておかないと」

「......そうか、SHRで話は通す。病院に送っていこう」

「ありがとうございます」

成政は深々と頭を下げると、そのまま椅子に大きくもたれかかった。

車を寮の前に回すから呼ぶまで待っていろ、と部屋を出て行く織斑先生。

それを見届けてから、大きく息を吐く成政、

「ああああああ怖かったあああああ!」

死の恐怖なんて、一般人であればそうそう味わえるものではない。諸事情により成政はその手の事に少し巻き込まれていた所為もあって経験済みだが、慣れるものではない。

「はぁ、また、やっちゃったか」

 

 

 

翌日、

「朝のショートを始める、日直」

「起立、礼!」

いつも通り、の毎日になるはずだったが、

「ちふ......織斑先生!」

「なんだ織斑?」

「成政は、今日は休みですか?」

窓際最後列、もう1人の男子の姿は、そこに無かった。

「ああ、そうだ」

織斑先生は出席簿からメモを取り出すと、

「今日は石狩、篠ノ之は欠席だ。石狩が階段から落ちて頭を負傷、それを見てしまった篠ノ之が心労で倒れてしまった。石狩は今日1日は病院で検査だ。すぐに戻ってくるだろう、篠ノ之も同じだ。他に何かあるか?」

誰も何も言ってこないのを確認した後、

「では、織斑、オルコットはこの後職員室に来るように。では、SHRを終わる」

つかつかと教室をを出て行ってしまった。

一拍おいて何の事か理解したセシリアが一夏の手をそれとなく掴んで、教室を飛び出した。

織斑先生を追いかけた2人は職員室、ではなくその奥にある応接室に通される。そこには先客がいた。

「あんたらもか、成る程ね」

「そう言うことですの」

「やっぱりか」

今日は休みの2人を除けば、昨日の事件の目撃者。そうなれば、大体の想像はつく。3者とも似たような反応を見せたところで、織斑先生が入って来る。3人に座るよう促し、彼女は反対側に座った。

彼女は3人の顔を見てから、大きく息を吸い込んで、話し始める。

「1組の2人は知っているだろうが、もう一度話す。

昨晩、階段を降りていた石狩が階段から落ち、頭部に怪我を負ってしまった。それを見てしまった篠ノ之は、強いショックを受け、その両名は今日は休みだ」

「そう言う事になっている、の間違いじゃありませんこと?」

「ああ、その通りだ」

織斑先生が暗に言っているのは、昨夜の事件をなかった事にする、だから話を合わせろ、という事。

「納得いかないでしょ」

異論を挟んできたのは、今回の被害者の筈の鈴だった。

「おかしいでしょ!確かに私は中国の代表候補生で、怪我でもしたら外交問題になる。けど、そんな面子の為にこんなみみっちい工作をしたって言うの、おかしいじゃない!」

「しかし、鈴さん」

「でももだっても無いわよ!

私が事件を起こした元凶だって事ぐらいわかるわよ、だから、自分のケジメくらい自分で」

「そう言うよう伝えたのは、石狩だ」

ヒートアップしていた鈴が、固まる。

「優秀な選手を、ここで終らせるのは惜しい、だそうだ」

「は、ふざけてんじゃないわよ!おかしいんじゃないの?あんな怪我までして、あいつも庇いだてするって訳?」

「成政は、そう言う奴なんだよ」

先程から俯いたままの一夏が、口を開く。

「まだ会って1ヶ月も経ってないけど、あいつはそう言う奴なんだ。

鈴は意気地なしって言ったけど、あいつは、選手を怪我でやめてしまったんだ。

それでも、あいつは剣道が好きで、マネージャーをやってる。剣道でみんなが頑張る姿が好きだからって、言っていたんだ。でもさ、

 

あいつが悔しくない訳ないじゃないか、俺には笑って言ったけどさ、悔しくない訳ないんだよ。

 

選手をやめる、その悔しさを知ってる、だからこそ、あいつは他の奴にやめて欲しく無い、道を閉ざされてはいけない、って」

そう、思ってるんじゃないかな。

妄想まみれで、ただの想像かもしれないけど、とそう付け加えたが、一夏の言葉は、まさに成政が思っている事そのままだった。

「あと、成政から伝言だ。

『箒が帰ってきたら、変わらず接してやって欲しい』、だそうだ」

授業までには戻れよ、と言って出て行く織斑先生を誰も見ることはなく、3人は、思考の海の中に沈んでいた。

結局、3人は授業に遅れ、一夏とセシリアは仲良く出席簿を貰うこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私は、またやってしまった、のか。

部屋の隅に放った木刀を取れば、あの時の光景が蘇る。

切っ先に、拭いても取れなかった、うっすらと残る血の跡が、現実を私に突きつける。

お前は、人を殺しかけたんだぞ、と。

あの時はとにかく頭が真っ白で、気がついたら、あんな事に......

「やめ、やめろぉ!こっちに来ないでくれ!そんな目で私を見ないでくれ!」

あの時の皆の目まで、蘇る。

鈴の怯えた目。

セシリアの困惑した目。

一夏の責めるような目。

そして、成政さんの、いつも通りの、目。

モッピーちゃんは悪くないから、さ。そんな声まで、聞こえてくる。

「どうして、どうしてわたしを責めてくれないんだ、どうして、楽にしてくれない」

鈴のように、ずっと怯えてくれれば自分の過ちを見つめ直したのに。

セシリアのように、困惑しながらもしっかりと理詰めで責めてくれれば良かったのに。

一夏のように、真っ直ぐ立ち向かってくれれば気が楽だったのに、なのに、

「どうして、あんなに怒らないの......」

どうしてあんなに期待した目を向ける、どうしてわたしの奥を見つめてくる、どうして、どうして、どうして、

 

わたしをせめてくれないの?

 

 

「私は、バカだよ。今も昔も、変わらないのに、何で、なんで、なんで......」

 

わたしの独白は、誰にも届かない。

ただ、闇に溶けていく......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰か、助けてよ。

 

 

 


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