インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜 作:通りすがる傭兵
成(おい、受験はどうするんだよ
作(アッハイ
5月、世間では新しい環境にも慣れてきたりする事だろう。ここ、IS学園も例外ではなく、
「おはようみんな」
「おはよう」
「おはよー織斑くん、石狩くん」
「おりむーおはよー」
当初は浮いていた男子も、1ヶ月も経てばだいぶクラスに馴染み、挨拶くらいは返ってくるようになった。
「ねーねー、石狩くん、ちょっとした噂があるんだけど」
1組のムードメーカー、相川さんがちょいちょいと成政に手招きしていたので、素直についていく。クラスメイトと親睦を深めておいて悪いことはなく、パーティーに行けなかったこともあり、成政は積極的に絡みに行くようにしていた。
「して、噂とは?」
相川は周りを見回して、憚るように少し音量を下げて、
「2組のクラス代表、変わるんだって」
「なんと。どういうことだ」
クラス代表戦も近い今、少しでも他組の情報は拾っておきたい所だ。試合前にもう情報戦は始まっているのだ。
「えっと確か......何処かの国の代表候補生だとか何とか。しかも専用機持ち」
「これは、ちょっとキツイな。あの時はまぐれだし」
セシリア戦の時は、ブルーティアーズが試作ISで、かなり性能が偏っていたからこそ、その隙をついた戦略を立てることができた。しかし、毎回そうとは限らないし、何より学校の訓練機と専用機では差がありすぎる事を身をもって知っている。
「何話してるんだ、成政、相川さん」
「あ、織斑くん。2組のクラス代表、変わるらしいんだって。今はカナダの代表候補生で、専用機はなかったんだけど、噂によれば専用機持ってるらしいよ?」
「せっかくのアドバンテージがな」
「あ、そうか。専用機持ってるの1組と3組だけなんだっけ」
「正確には4組もなんだが、まだ調整段階だから出せないらしいから、実質1、3組だけだな」
ミサイル全てをマニュアルで飛ばす変態機体、とマヒロが言っていたようないなかったような、と言いかけた時、
「その情報、古いわよ!」
鶴の一声、とでも言うのだろうか。
その声に反応して、全員が振り向いた。
茶味がかったツインテールに、黄色いリボン。
戸口にもたれかかり、腕を組んで格好をつけている、女子生徒。
スタイルがよければかっこよく決まっていたのだろうが、
「......似合わないねえ」
「わかる」
「何よ、文句でもあるって言うの?」
「いや、別にないけど......ねぇ」
「まあ、人それぞれだし」
「だから何が言いたいのよ!」
どことは言わないが、その少女は平坦であった。それはさておき、
「鈴?鈴じゃないか!」
「久しぶりね、一夏っ?!」
「邪魔だ馬鹿者。クラスに戻らんか」
間がいいのか悪いのか、感動の再会(?)は織斑先生の出席簿によって遮られ、
「くっ、待ってなさいよ!」
どこかで聞いたような捨て台詞を吐いて退散することとなった。
それから時は流れて昼休み。
「ふふふ、逃げずにきたわね、一夏」
「券売機の前に立つなよ、みんなの邪魔になる」
「......そこのテーブル空いてるし、そっちで食べましょ」
なんだろうか、この地味にポンコツでやり辛い雰囲気は、と思いながらうどんを頼む成政。
(しっかし、レパートリーが豊富なことで)
日本にあるからこそ日本料理は多いが、世界各国の料理が取り揃えられているこの食堂。
それでいてちゃんと健康を気遣ったメニューや、ダイエット食まであるとなると、
「日本人は食に対しての意識、謎だよなあ」
なんで日本人は食事に対してこんなにも全力なのか、と思わずにはいられないのだ。
出てきたかき揚げうどんに七味をかけながら、噂の2組転校生の話を聞いていたのだが、
「私はね、中国の代表候補生なのよ!」
「凄いじゃないか!」
「中国、八極拳が有名か。何か武道でも嗜んでいるのか?」
「中華といえば三国志だな。あれは面白い」
「あら、これ美味しいですわね。一夏さん、これなんですの?」
「ああ、チキン南蛮、かな?セシリアがそうまで言うなら一口くれよ」
もれなく全員がスルー。
「ちょっと無視するってどう言うことよ!」
バン、と卓を叩いて怒りを露わにし、
「特に一夏、何で私を無視するのよ!」
「いやだってセシリアが......」
「だってもへったくれもないわよ!」
ギャーギャーと騒ぐ2人に挟まれるセシリアだったが、
「あら、日本食って美味しいのですわね」
「厳密には違うとは思うが、まあいいだろう」
「味噌汁の作り方ぐらいは教えられるよ?」
「あら、では今度の週末にでも」
貴族社会で高いスルー技術でも身につけていたのか、他の2人とさも当然のように会話していた。
「と言うか一夏よ、その女は誰なのだ?とても馴れ馴れしいが、何か接点でもあったのか」
「ああ、鈴とは」
「幼馴染なのよ!」
とにかく自己主張が激しいタイプらしい鈴。
正直こう言ったタイプとはソリが合わないのだが、と思いながら七味をかける成政。
「一夏とは小5からの付き合いで、......ってあんたいつまで七味かけてんのよ!」
「えっ?」
皆が成政のうどんを見ると、
「いやだって、これくらいかけるでしょ」
「中国人だってかけないわよ!」
「えっ、それは......」
「何がおかしいんですの?」
こんもりと山になるほどに盛られた七味の山が。それをさも当然のように混ぜている成政。
周囲を気にせず真っ赤になったかき揚げを齧り、
「んで、話の続きはいいの?」
「そうでしたわね。えっと......鳳 鈴々でしたっけ」
「あんまりその呼び方は好きじゃないし、スズでいいわ」
「わたくしはセシリア オルコット。イギリスの代表候補生ですわ」
「あら、そうなの、よろしくね」
「こちらこそ、よろしく頼みますわ」
和やかな雰囲気で握手を交わしているように見えるが、
(ああ言うのって大体腹の中では黒いこと考えてるんだよな、遠坂さんとかまさにそれだし)
おほほほほ、と笑うあかいあくまを脳内に浮かべながら、そんなやりとりを眺めている成政であった。
「おい、一夏」
ガタリ、と席を立つ箒。一夏の方へ歩み寄ると、
「幼馴染とはどう言うことだ、1から10まできっちり説明しろ!」
一夏の胸ぐらを掴んでガックンガックン揺すり出した。
「箒落ち、落ち着け!今そこを持たれると」
「ストップモッピーちゃん、ステイ!」
「いいから話せええええええ!」
「やばい、吐きそう......おえっ」
「「「一夏(さん)?!」」
結局青い顔になっただけで済みました。
「なるほど、私が転校した後か」
「そうなんだよ。結局中二の夏にあっちに帰っちまったけどな。こうなるとは思ってなかったよ.....」
「IS操縦者、しかも代表ともなれば給料はいいからねっ。家族が今大変だし、私が頑張らなきゃ」
「家族か......」
「少し、羨ましいですわね」
(その薄い)胸を張りながら誇らしげに語る鈴の笑顔が眩しいのか、その他2人はどこか遠くを見ていた。
箒の両親は音信不通、セシリアに至ってはこの世にはいない。だからこそ、親孝行をする鈴が眩しく見えたのだろう。
「「「「ご馳走様でした」」」」
日本式に両手を合わせて挨拶をする。
食器を片付けながら、一夏が成政に話しかけてきた。
「なあ、成政。お前の家族ってどうしてるんだろうな」
「どうした藪から棒に?」
「いや、こうなった訳だし。箒みたいに、要人保護プログラム、が適用される訳だろ」
なんか申し訳なくってさ、と暗くなる一夏を知ってか知らずか、
「さあ、兄貴は考古学者だから世界中飛び回ってるし、両親は......今多分アラスカで自給自足してるし」
暗さを吹き飛ばすように、この前手紙が来たぞ、と笑う成政を見て、
「家族、かぁ......」
朧げな、今はいなくなってしまった両親の記憶を思い出す一夏だった。
「さて、クラス代表の噂も本当だった事だし」
「15日のクラス対抗戦、だな」
「ああ、それを見据えての作戦会議だ」
そして放課後。いつも通り一夏の部屋でミーティングとなる。
「使う専用機だが、公開された情報をかき集めてみた」
部分展開したISをプロジェクター代わりにして画像を投射する。
「近接タイプで、メインは青龍刀が二本。しかも白式のようなふざけた機構もついてるようには見えない、だから」
「隠された機能がある、と言う事ですわね」
「第三世代、と明記されてるしな」
「......あの、第三世代ってなに?」
ISにおける第三世代とは、イメージインターフェイスを使用した特殊な機構を搭載するISを指す。例を挙げるとティアーズのビットなどだが、
「座学が疎かな一夏のために説明すると.......なんだろう、超能力?」
「そんな胡散臭いものと一緒にしないで貰えます?」
まだ男子2人は勉強が足りない様子だった。
「要するになんか凄そうな能力だが、その対策だけはどうにもならない」
だから対二刀流のトレーニングをする、と言ってプロジェクターの電源を落とす。
「と言うわけで、衛宮、聞こえてるか?」
「ああ、バッチリだ」
突然聞こえてきた男の声に思わず辺りを見回す一夏とセシリアだが、
「そこの2人、コッチだ」
手に持ったスマホを指差して示す。そこには、
「なあ、本当に俺でいいのか?」
「はあ?二刀流使いなんて偏屈のお前だけなんだよ。専門外だ」
「はい。シロウの刀さばきは眼を見張るものがあります、自信を持ってください」
「が、頑張ってください!」
「アルトリアがそう言うんなら......」
「おい、ラブコメはいいから始めてくれ」
画面外で誰かと話していた人影が座る。
「あー、衛宮士郎だ。成政と同じ高校で剣道をしていた、先輩だからってかしこまらなくていいし、どんどん質問をしていってほしい」
赤い髪に、青と白のTシャツをきた精悍な青年がそこにいる。
「二刀流、対策だったな。俺流でいいなら、いいぞ」
「大太刀は篠ノ之流があるが、二刀流なんて殆どいないからな、頼む」
「ああ、任せろ、まず......」
メモはしっかり取れよ、と事前に手渡していたメモ帳とペンを手に取る3人。
だいぶ勤勉になってきたな、と一歩引いた立ち位置で成長に涙するおっさんくさい成政だった。
「二刀流は、性質上パワーが無い。その代わりに手数で補うんだ、意見としては、いっそのこと力押しがいいかもしれない」
「成る程......あ、俺が使っているのは太刀ぐらいの刃渡りなんだが、お前ならどうする?」
「太刀か......防御するときは刃を目一杯使い、攻撃するときはリーチと遠心力を生かして相手の一歩外からされるとこっちは少し嫌だな」
「成る程、ありがとう」
「突きを戦術のメインとして組み立てるのはどうだ?二刀流とはいえ防御は難しいだろう?」
「逆、かな。片方で逸らして、片方で切りつける。むしろやり易いかな。槍よりも交戦距離は短いんだし、手痛い反撃をくらうと思う」
「ふむ、ダメか」
「では、二刀流、その弱点を補うとしたらどうですの?」
「実践、でだよな。うーん、おーい慎二!」
セシリアの質問に詰まり、外野に助けを求める士郎。呼ばれてきたのは、濃い紫色の、海藻みたいな髪をした士郎と同じくらいの背格好の男だ。
「僕忙しいんですけど......」
「二刀流の弱点を補うとすれば、だって。ロボットゲームやってる慎二だったら何か言えるだろ?」
「はあ、全くしょうがないなぁ」
士郎を押しのけてカメラの前に座り、心底嫌そうな顔をしながらも話し出した。
「データを見る限り、接近戦よりだろ?僕だったら、格闘戦を余儀なくさせるような装備を積む」
「......どう言うことですの?」
「簡単なのにどうしてわかんないかなぁ」
これだから凡人は、と呆れてため息をつく慎二の態度に、少し苛立つセシリアだったが、一夏の前ではみっともない姿は見せられないとその態度を抑え込む。
「ショートレンジメインの機体でやられると嫌なのは、とにかく射程に入らせないようにチマチマ攻撃される事。嫌なことをされれば勝てないんだから、その対策を考える。
だったら、一発デカいキャノンを積むなり、ミサイルガン積みするなり、それこそその白式?みたいに紙装甲高機動にして弾幕をくぐり抜けるしか無いけど、見た目は重装甲、その線はどう見てもない」
これだからnoobは嫌いなんだ、という慎二。
「成る程、ありがとうございますわ」
「ふん、当然のことだろ」
さっさと代われよ、と士郎を無理やり座らせ、画面から消えていった慎二を見送りながら、
「彼、どういった人なんですの。随分ゲームに詳しいですが......」
「ゲームの世界トップランカー、だってさ」
将来はプログラマーになる気らしいけど、と語る成政。
「......ゲームも意外と侮れないのですわね」
これをきっかけに、セシリアがFPSにはまることとなるのだが、それはまた別のお話。
「時間も時間だし。続きは次回だな」
「ああ、おやす......」
「邪魔するわよー!」
消灯時間も近いというのに、一夏の部屋を訪れた鈴。これが、少しの波乱を呼ぶこととなる。
成政のヒロインが増えるかもしれない、という悩み。
意見あればどーぞ。