あの日見た夕焼けをともに   作:羽沢珈琲店

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今回は巴です。巴みたいな姉が欲しかったとせつに思います。


宇田川巴

 宇田川巴。巴には本当に助けてもらっている。俺たちのお姉さん的存在で、本音を言えばひまりよりリーダーに向いてるじゃないかと思っている。昔から人付き合い合いが良く、商店街のおじさんおばさん達と仲が良い。それに、何より人の悪口を言わない。それが巴のいいところだ。

 

 だから俺も巴みたいな社交的な人間になろうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

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 今日は革が破れた靴を新しい靴に変えるため、ショッピングモールにやって来た。中学の時は白い靴と指定されていたが、高校からは自由になり俺の好きな色の青と赤のラインが入った黒の靴を買って今から帰る時に、ある人物を見かけた。

 

「巴か?」

「ん?海か!珍しいな海がここにいるなんて」

「俺がショッピングモールにいて悪いか」

「悪い悪い。それでどうしてここに?」

「新しい靴を買いにな。そういう巴は?」

「私は新しい服とライブの衣装をな」

「そうか。それで、新しい服は見つかったのか?」

「私服は見つかったんだけど、ライブの衣装がな。どれもいいやつで決まらなくてな。今度のライブは激しいやつだからさ。カッコイイやつにしたいんだけど、難しくてさ」

「因みに蘭からセットリストは聞いてるのか?」

「聞いてないが……海は聞いてるのか?」

「あぁ今度の曲は……」

「お姉ちゃんー!」

 

 俺の口が開きかけたその時、店の奥から巴に向かって走って来る女の子がやってきた。

 

「あ、海先輩!海先輩もいたんですね」

 

 宇田川(うだがわ)あこ。巴の一つ下の妹で中学三年生。巴とは違う紫色の髪で小悪魔を彷彿とさせるツインテールが特徴なやつだ。巴と同じドラムやっていて、あこが言うには世界で二番目に上手いドラムは私らしい。因みに、世界で一番は巴だそうだ。

 

「あ、もしかしてお姉ちゃんとデートだったり?」

「そ、そんなわけあるか!」

「偶々通りかかっただけだ。というか、あこが今巴とデート中じゃないのか?」

「あ、そうとも言うかも!じゃなくて、そうとも言うな!」

 

 何故わざわざカッコよく言い直した。

 

「それに、先輩と呼ぶなっていつも言ってるだろ?昔みたいにさん付けで呼んでくれ」

「えぇー?先輩の方がカッコイイじゃないですか。あ、もしかして海殿!の方が良かったですか?」

「何だよその何とか殿って。しかも無駄にカッコよく言わなくていい」

 

 あこがこうなりだしたのはいつの頃だったかよく覚えていないが、原因は俺にあるのかもしれないとこの頃感じている。昔、俺はギターと同時にネットゲームにはまっていた。そんな時、偶然あこもネトゲに興味を持ったらしくそのまま他のネトゲなど貸してやった。そしたら、初めておもちゃを貰った子供のように目をキラキラと輝かせて、ゲームにハマるハマる。それ以来、アニメやゲームなどに出て来るカッコイイ言葉を使うようになっていた。あ、これ普通に俺が原因だな。

 

「すまんな、巴……」

「どうして急に謝るんだよ」

「いや、あこをこんな風にさせたの俺だからさ……」

「別に怒ってないさ。ずっと私の後ろに隠れてて引っ込み思案なところがあったから。今では見違えるほどに積極的になって。これでも海には感謝してるんだぜ」

 

 笑顔ではにかみながら話す巴を一瞬、カッコよく思ったのは俺だけではないはず。やっぱり巴はいい奴だわ。

 

「それに、あこが嫌がってたらあれだけどそんな素振りは見せてないし。な、あこ」

「うん!海先輩に教えてくれなかったら、毎日が楽しく感じることも出来なかったし、りんりんとも出会えなかったし、友希那さんやリサ姉、紗夜さん。Roseliaのみんなとバンド組むことも出来なかったから!」

 

 笑顔で本当に嬉しそうに語るあこを見て、俺がやってきたことは間違いじゃなかったんだな、と清々しい気持ちにさせてくれた。全く、姉妹二人していい奴らだよ。逆に将来が心配になってきたわ。

 

「そんな事よりも!」

「そんな事よりもかよ」

 

 さっきの俺の感動を返せこら。

 

「海先輩。次のライブで着る服、どっちがカッコイイですか?……あ、違う違う。海殿はどの服がカッコイイと思うか?」

「だからわざわざカッコよく言い直さんでいい」

 

 あこの頭に軽くチョップをお見舞いしつつ、あこが悩んでいる二つの服を見る。

 

 正直に言おう。どっちも大して変わらない。

 

 悪魔のような羽が付いていて、黒っぽい服とメタルロック風の黒っぽい服。どっちも黒いだけという共通点がない。

 

「あこが気になったやつを買えばいいだろ」

「どっちも気に入ってるんです!」

「なら、両方買えば……うん、普通に高いな」

「そうなんですよね。なので、どちらか一方しか買えなくて……どうしましょう先輩」

 

 いつも元気溌剌なあこがシュンとなっているのは珍しい。そしてそんな表情に俺は弱い。

 

「はぁ……。あこ、半分出してやるからどちらか一方選べ」

「えっ?いいんですか?」

「それで、次のライブ用に金を貯めてもう一方の服を買えばいい」

「ありがとうございます!先輩!」

 

 シュンとしていた表情が一転、パァと明るい表情になりいつもの元気溌剌なあこになる。あこはもう一度気に入ってる二つの服を見比べ真剣な表情でどちらを買うか検討し始める。

 

「ホント、甘いよな俺」

「海、本当にいいのか?無理してるなら私からあこに言うけど」

「別に無理してない。いや、ホントは無理してるが、あこのあんな表情を見せられるとな」

「海……。将来、尻に敷かれる……」

「もう何も言うな。分かってるから。だから何も言うな」

 

 自分でも分かってる。お節介過ぎるのも甘過ぎるのも。けど、妹みたいな存在のあこを悲しげな表情のままにさせたくなかった。

 

(全て自己満足な話だけど)

「それにしても、私達二人だけだとデートしてるみたいに思われるんだな」

「ん?あこが言ったことか?ま、巴が慌てるなんてちょっと驚きだったな」

「私だって女だぞ。揶揄われたとしても少しは慌てるさ。まぁ海は蘭一筋だから関係ないか」

「………そんな事はない」

「今の間は何だ?」

 

 巴が仕返しとばかりにニヤニヤとした表情で揶揄ってくる。

 

「別に俺は蘭が好きとかじゃない。ただ、ずっと側にいて守ってやりたいだけだ。あいつが苦しんでる時に悩みを打ち明けて欲しい存在になりたいだけなんだ」

「それを好きというと思うんだが……」

 

 世間一般ではそう言うかもしれんが、断じて違う。

 

「なら、いつか海がその気持ちに気付いた時は幼馴染として応援してやるよ。海の恋が叶いますようにってな」

「だから違うと言ってるだろ!」

(でもな、海。蘭は今でもずっと海のこと待ってるんだぞ。二人とも、変に素直じゃないところがあるから自覚するのは当分先かもしれないけどな)

 

 そんな事を思いながら、巴は服選びを再開した。

 

 そして、この一件以降。蘭に対しての海の様子が変わり始めたのはまた別の話。




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