幼女戦記~秋津洲皇国助太刀ス!(本編完結)   作:宗田りょう

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申し訳ない。今回も話は進まない


帝国万歳

皇都 某所

 

官庁街から少し離れたところのビルディングに入居している「国際問題研究所」

本来、このような諮問機関は官庁街の側にあるものだ。

例えば合衆国では首都フィラデルフィアの大統領府から歩いて行ける距離に、合衆国商工諮問会から国立自然史博物館まで揃っている。

 

(なお、ここで自然史博物館が諮問機関扱いなのは、例えば災害が発生した場合などに大統領が博物館でレクチャーを受けたり、開発事業などで政策提言を行うという運用がされているためだ。多くの人は博物館が研究機関であることを忘れているが、そこには大学レベル以上の専門家がいる)

 

それは皇国においても変わらない。

 

東亜政策研究所、現代戦研究所、光菱政策総研、皇国ソサエティ、南方開発総合研究所etc……名のある諮問機関は皆一等地にある。

 

この数十年の未曾有の発展によって社会は複雑化し「官僚のアタマだけでは足りなくなった」と判断した人々(と手は動かしたくないが口は達者な人々)がありとあらゆる「〇〇研究所」「〇〇総研」を大量に作ったからだ。

諮問機関=シンクタンクとは訳せば「頭脳の集積」である。頭脳である以上、ましてそれが天下国家を論じるものならば、誰よりも賢くなければならない。

精緻な分析と緻密な予想の世界に莫迦の居場所はない。

よって、現在は「莫迦の集まり」と見られてしまった国際問題研究所は、かつて皇都を襲った震災以降、官庁街区画の再開発によって哀れ場末に追いやられてしまったのだ。

 

そんな「国際問題研究所」に向かう男が1人

莫迦が、リアカーを引いている。

 

*** *** ***

 

(糞ォ、なんで僕がこんな目に……いや、運が悪かったのか?)

背広を着て出前の黄色いリアカーを引いているメガネという絵面は、なかなか強烈なものがある。福田は大田蔵に余計な報告をした自分と現状を呪いつつ、なんとか通行人や脇を進む車(バスやらタクシーやら、自家用車の数はそこそこだ)からの視線に耐えていた。

 

「官庁」というのか政治中枢から見れば国問研の所在地は陸の孤島だが、実際はビルディングと(怪しげな)雑貨屋・書店が混在する。(如何わしさが先立つが)そこそこ栄えた場所なのだ。

なので、時折自転車に乗った蕎麦屋やら、店先の兄ちゃん、特殊な写真館の姉さんがこの異形の出前を物珍しげ眺め、冷やかす。

 

「ヤァ、精が出ますな。サブちゃんとこの?」

「フラフラしちゃんなヨ、新人君」

「……新しい……プレイ?」

 

最後の一言が現実に近いのだろう。近隣でイエロゥ・サブマリンと店主は有名なのだろうか、福田のことはわからずとも「あの店のオヤジがなんかやったな」という共通理解はあるらしい。

 

(畜生、いっそのことみんな纏めて轢いてやろうか……)

 

 恥ずかしいやら情けないやら、こんな危険思想に陥りつつあった本人には関係ないことだが。いや、本来はかなり温厚な人物なのだが、今回はどうだろう。あえて金言を述べるなら「人の感情とは生来のものより、置かれた状況とその解釈で作られている」というではないか。

 

 それでも莫迦なのに違いはないが。

 

*** *** ***

 

 おかしな感情を払うために、福田はもう一度、今回の「ゲーム」について考えた。

 

問い「帝国が引いた、なぜ?」

背景「アレーヌ市蜂起とその制圧、後方線の破たん。歪な戦線」

現状「低地帯放棄、事実上の本土最終防衛線に後退」

予測「戦線整理による余剰戦力確保と出血の強要。名誉ある講和のため」

 

 少なくとも資源(これにはヒトも含まれる)では帝国が優越しており、ダキア・協商連合の資源が--特に鉄鉱石と石油がほぼそのまま手に入るのは大きい。上手くすれば協商がため込んでいたゴムや稀少金属を手に入れることが出来るかもしれない。彼らの貴重な商品だから、生き残りたい企業は取引の材料にするはずだ。

 

 ルーシ連邦介入の可能性も無くはないが、粛清と内乱じみた派閥抗争でそれどころではない。それに後ろから刺すとすれば、同じく遥か極東には皇国がいる。

 

 負けない戦はできる。少なくとも、すぐに帝国は敗北しまい。

 

 現代の我々からすれば、些か帝国の国力を過剰に見積もり過ぎている――この時点で特にゴムやタングステンは協商連合残党が持ち去り、合衆国による「中立貿易」によっても不足しがちだったし、半島からの鋼鉄は輸送の問題を抱えていた――きらいはあるが、概ね正確な予想ではあった。

 

 鮮やかな戦争芸術、無慈悲な殲滅戦、そして偉大な勝利。すべてほど遠い。

 

 ……何のための勝利だ。

 福田は思った。まずもって自分たちの戦争ではない。であるのに、自分は「勝利」といったのだ。そもそもみんなを焚きつけたのは自分ではないか。

 

 いや、理由をつけることはできる。

 

 それは一方的な帝国への偏愛に他ならない。

 40数年前に拡張政策の仕上げにかかっていた大ルーシ帝国――革命直前の立憲君主制期だった老大国と皇国は激突し、最後の最後に第二次蓬天決戦(バトル・オブ・ムスダン)で敗れた。一度拾いながら、二度目の大勝利はなかった。そして、海での圧倒的勝利。

 

 初の現代戦によって皇国が得た結果は様々であるが、その一つは連合王国への盲信であり、裏を返せば帝国への深刻な不信だった。ロイヤルネイビーの弟子たちは偉大な勝利をおさめ、プローシャ参謀本部の弟子たる陸軍は、無意味な決戦によって敗れさったのだから。

 

 であるならば、あるならば。帝国には勝ってもらわねば困る。偉大な兄なのだから。プローシャの栄光を帝国以外で唯一受け継いだ国が皇国なのだ。クラウゼヴィッツ以来の栄光が間違っていなかったと、証明してくれなければ困る。

 

 すべてはハイマートの為に。明日は世界を。ウラヌ山脈から大西洋まで。極東からお祈り申し上げます。

 

 ……実際のところは、「ゲーム」にかこつけて戦争ごっこをしたいだけなのかもしれない。うん、実際そうだな。

 

 気が付くと福田は、帝国の軍歌を歌っていた。「帝国戦車行進曲」一番

 

「……戦場に我は立つ、鋼鉄の獣と一人立つ。すべては御国の為にーー」

「暴虐の中、そは天上への道なり」

 

「「進め進め、我が戦車」」

 

 なんか一人、増えていた。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やあ、すまない。
今回も話が進まないんだ。

あと、前回の戦車ね
重すぎるね(´・ω・`)
実はモデルがパーシングとタイガー2でごちゃごちゃしたのを見切り発車で書いたんだ。あのまま考え始めると永久に完成しそうにないからね。

88ミリで150ミリ装甲で、よろしく。

次回、魔導士がやっと出るよ。ヒロインその2.お楽しみに

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