幼女戦記~秋津洲皇国助太刀ス!(本編完結)   作:宗田りょう

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想定状況
分析


秋津島皇国。極東にある唯一の列強にして、いま最もノリに乗っている国である。

 

連合王国との同盟関係のなか、世界中に商品を売りまくり、手に入れた外貨で海外製品のライセンスを買い込んでまた売りさばく。あと南洋領から石油やゴムもそれなりに出たので、それも製品にして売りさばく。

 

かつての総理大臣素平野亜門(すへいや あもん)はこう考えた。

「この国には大目標がない…… 国民を一つにまとめる目標だ。しかし、戦争するにも、もう獲れる植民地はないし、大陸に介入するのも面倒だ…… そうだ、所得を上げよう! そして国民全員毎日麦酒を5合飲める国にしよう!」

 

かくして経済成長計画「五合計画」は「麦酒好きじゃないし、毎日5合とか死ぬよ」という財務卿の真っ当な意見により「所得倍増計画」としてスタートした。年率15パーセントを超える経済発展、それによって発生した中産階級は根底からこの国を、重工業国家にして立憲君主制国家に変えてしまったのだ。

 

現在メイド・イン・アキツの武器や薬、軽工業製品は世界中で大人気であり、各経済指標や生産高ではフランソワ共和国を抜き、世界第4位の経済大国となった。もっとも、これは大戦によって欧州市場が疲弊していること(軍事生産高の激増は、健全な経済ではない)と合衆国が未だに不況を抜け切れていないことのほうが大きいのだが……

 

そして、軍事的には、王制ルーシと痛み分けに終わった秋瑠戦争以来、連合王国の庇護下にある。 この「安保体制」のおかげで一大強国になったのだから、悪いことばかりではない。

 

今のところは、だ。

 

*** *** ***

 統一歴1925年 5月某日 皇国 国際問題研究所 

 

官庁街の一角の古ぼけたビルの一室

 

大勢の男たち――以上に痩せているか肥満体で、臭い――が、サイコロを振っては一喜一憂し、ザラ紙に何かを書きつけている。

 

「いや、どう考えても30分で混乱は終わる。引き抜いた戦力で反撃は可能だろう。」

「じゃあ夜間浸透突破は? 俺でもできたぜ」「深夜列乙」

「片翼包囲なら、南部方面を突破するしかない。あの要塞線をどうやって超える?」

「帝国軍の通信妨害を考えたらあり得る。共和国はまだ通信網の多重化を終えていない」「戦線全域へのジャミングなんざ… そうか!」

「前線戦力の7割が消滅するとはな……糞ッ、どんなマスターだ。おい2d6だぞそこ」

 

(なんとまあ…… 僕の一言で)

その中の一人、メガネをかけた小男がいた。名を福田圭一という。

彼は今、何気ない自分の一言で課員全員が不眠不休でダイスロールを繰り返している現状を興味深く眺めていた。

 

国際問題研究所は「国家戦略モデルを追求し、皇国百年の計を模索する」という原則のもと、総理直属の研究機関として活動していた。

主に毎月の情勢分析レポートと季節ごとの戦略情勢見積もりを提出している。

人員は各官庁や大企業といった場所から出向させる形をとるため、人材は極めて優秀だった。

 

だった。と過去形なのは、近年は新たなシンクタンクが乱立したことで老舗である研究所は活力を失い。あまり優秀な人材が来なくなってしまったからだ。おかげで最近は「優秀だが人間的に問題のあるやつ」のたまり場と化している。というより変人が変人を引き込んだ結果「まともなやつ」が居なくなった。と言った方が正しい。

 

具体的に述べるなら、現在の人員の半数は萬画かポルノか洋書しか読まず、また半数は少女歌劇に熱中し、ほぼ全員8月と12月の一時期一斉に休暇をとる。

尤も、そんな奇人変人の集まりだからこそ、福田が入れたのだから、これに関連して福田はあまり考えないようにしている。

 

閑話休題

 

約10日前、西部戦線において帝国軍主力が後退し、遅れて共和国軍が低地帯領に侵入した。これにより戦線北部で共和国軍が突出した形になった。

当然(タイムラグはあるが)この情報は研究所にも届いた。

 

連合王国との同盟関係上、この大戦への介入が「無きにしも非ず」だったので研究所は多くのリソースを戦争研究に注いでいた。そして研究所としてはその可能性は「けして低くはない」としていた。(人員の四分の一は実際に介入した際の予測を行っている)

 

さて、あらゆる状況を分析するにせよ、常識的には「帝国軍による戦略的撤退」であり、多くの新聞報道などのように「共和国の勝利」ではない。

 

戦線の引き直しか? それにしては引きすぎではないか? 連邦がついに動いたのだろうか? そして帝国が次に打つ手はなにか?

 

巨大な地図とサイコロを駆使して図上演習を繰り返すが、帝国の意図がいまいち読めない。

 

連日の演習の中で疲れからか、「どうせこの分析を出しても無駄」という諦めに似た感情も沸いてくる。個人としては高いモチベーションをもって取り組む軍事マニアもいたが、全体として倦み始めていた。

 

そんななか、しばらく別件で出張中であった福田が久々に帰ってきた。

 

彼は各国の戦力の書き込まれた巨大な地図を眺め、一言。

 

この一言が、彼と祖国の歴史を大きく狂わせた。

 

「これは……アレでしょ、釣り野伏」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




初投稿です。拙くてすみません
このお話の皇国はだいぶチートになっています。史実の日本があまりにも貧弱過ぎて、まとまった(かつ帝国に勝てそうな)戦車部隊を作れんのです(´・ω・`)

でも、帝国はもっとちーとですからご安心を

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