Side乖離
「あの~乖離様、これは一体……」
「お前の言いたい事は分かってるさ紫、しかし俺にもどうしてこうなったか理解できないんだよ……」
そう、今俺と紫の前には、三万円を握りしめ失神して倒れている紅白巫女さんがいるのだから………
ことの発端は約数十分前に遡る
※※※
「へ~、ここが幻想郷、忘れられた者達の行きつく果ての世界か!」
「どうですか?気に入って頂けましたか?」
「景色は最高だ!ここでランチなんてしたら最高に贅沢だろうよ~」
俺は幻想入りして、ほぼ幻想郷全土を一望出来る丘に案内され来ていた。
驚いた事に、その丘は本当に幻想郷全土を一望出来そうな程に標高が高く、綺麗な場所だった。
「なあ紫、あの集落みたいな所は何だ?」
「あこは人里ですわ」
紫曰く、幻想郷の中でも最も多く人間が集まっている場所らしい。あそこには里の守護者と呼ばれる者と自警団なる者達が里の警備を担当しているらしい。
今度行ってみようか。
「ん?なあ、じゃああのデカイ寺みたいなのは何だ?」
「ああ、あれは命蓮寺ですね。ここ最近宗教戦争に勝利して、随分活気立っているみたいですが……」
「ふ~ん、この世界にも宗教云々があるんだな。流石は幻想郷だ!」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
「でも、やはりどの世界でも戦争ってのはあるんだな……」
幻想郷の全てを知っている訳ではないが、やはりこの世界も世の理という名の呪いを受けているのだろう。特に戦争なんてろくなものじゃない。あんなのはただ理不尽に、無意味に命が零れ落ちていくだけのものなんだから。そう思うと、脳裏でいままで見て来た戦争がフラッシュバックしていく。
泣き叫ぶ子供達や、罪もない人達を無情にも殺していく者達。私利私欲の為に人を、命を道具としてしか扱わない者達。
こんな事を考えている俺は今、一体どんな表情をしているのだろうか……
「乖離様、どうされましたか?どこか辛そうな表情をしておられるようですが……」
「ん?ああ、すまない。少し過去の事を思い出していてね……」
「そう…ですか」
どうやら紫は浮かない表情をしていた俺を心配してくれたようだ。全く、こんなところは昔となんら変わっていないんだな。
「おっと、こんな辛気臭い話はやめだ!ん~~、あっ!紫、あの大量に竹の生えている場所は何だ?」
「え?あ、ああ、あれは迷いの竹林という場所です。一度あの竹林で迷えば、二度と出て来られない様になっている場所ですよ」
迷いの竹林か……面白そうだな、今度行ってみようかな?でも、迷うのは勘弁したいし、やっぱりやめておこう。
「因みに、迷いの竹林には、永遠亭という一種の医療施設があり、そこには月の民達が住んでいるのですよ?」
前言撤回!死んでも行こう……そうしよう。
ある程度の場所は把握した。色々行ってみたい場所に目星は付けたし、そろそろここを離れるとしよう。
そう思った矢先、俺はある一件の建物が目に留まり、そこを見つめながら紫に問う。
「紫、あの神社みたい場所はなんだ?やたらとデカイ霊力を感じるぞ?」
「流石は乖離様、あの神社こそこれから私達が向かう場所……『博麗神社』ですわ」
博麗神社……確か、幻想郷を覆う博麗大結界を管理し、人と妖怪の抑止力たる博麗の巫女の住む場所だったか……知った被るようだが、その博麗の巫女とやらはそんな望んでもいない仕事を、使命だと感じて代々請け負っているのだろうか……。
そう思うと、自然と同情の念が込み上げてくる。失礼ではあるが……。
「さて、そろそろ参りましょうか」
「おう!」
俺は紫に呼ばれて、彼女の下に足を運ぼうとした瞬間、猛スピードで
一瞬の出来事だったので、アレがなんだったのかは判らなかったが、黒い翼を生やした生き物だという事は確かだろう。
「今のは……一体なんだったんだ?凄い速さだったな~」
「あれは、きっと彼女でしょうね…」
「彼女?」
「いずれ解りますわ……ええ、嫌でも…いずれ、ね?」
どういうこっちゃ?俺には全くもって理解できないんだが……ま、紫がいずれ嫌でもわかると言っているのだから、近い内にさっきの黒い翼の正体は解るだろう。
「乖離様、そろそろ参りませんと」
「あ、そっか!悪い悪い、今行くよ」
俺は走って紫の下までいくと、紫はスキマ開き俺と共に博麗神社へとワープした。
「到着です」
「………あの~紫さん、お一つ訪ねてもよろしいかね?」
「フフ、どうぞ?」
「なにこの無駄に長い階段はっ!」
なんなんですかねこの無駄に長い階段は?バカなんじゃないかと思うんだが?並の神社の階段の四、五倍はあるんですが?そして紫、その妙なドヤ顔はなんだ?凄いのは認めるけどさ、これを無駄なクオリティーだと思うのは俺だけですか?そうですか……。
「それでは乖離様、私は博麗の巫女を呼んで社の前まで連れて来ますので、この階段を上がってきてください」
「理由求む」
「彼女を社前まで連れ出すのはなかなかにホネなんです。なので、乖離様を待たせるのもあれですし、せっかくですのでこの階段を上がってきて頂こうかと」
「ふ~ん………で、本音は?」
「私と彼女の痴話喧嘩ばりのやりとりを知られたくないです」
「素直でよろしい」
「それでは」と、そういって紫はスキマを開いて消えてしまった。
しかし、この階段を登るとなると、結構厳しいものがあるんだが……まあ、別に急いでいる訳でもないし、ゆっくりと上がっていく事にしよう。
なんやかんやで階段を進んでいると、なにやら後ろが騒がしいと思い振り返ると、近くの田んぼだろか?その場所付近で小さな子供達が遊んでいた。
一人は水色の髪の毛で、背中に似たような色の羽?らしきものを付けて「アタイったら最強ね!」っと叫んでいる。二人目は金色の髪の毛で頭に赤いリボンをくっ付けていて「そーなのか―」と言っている。いや寧ろそれしか言ってない気がする。三人目は薄緑色のロングヘア―を首元で結んでいて、『THE・妖精』って感じの羽が生えていて「あわわわわ」っと落ち着きのない表情で混乱していた。
こうして見ていると、なんだか平和だなぁと感じてしまう。
なんて思っている間に、どうやら俺は頂上まで上りつめていたようだ。
辺りを見渡していると、広い敷地に古参を思わせる年期の入った社があった。
社の入り口前には賽銭箱が置かれてあった。なので俺は一応神社である事を考慮して、財布を手に取り中身を確認する。
「えっと、万札が一、二、三、四、五か……ええい!二枚残して三枚飛んでしまえ!」
俺は半ばやけくそに賽銭箱に諭吉三枚をぶち込む。別に金に困っている訳ではないが、やはり財布が寂しくなってしまうのは気が引けるというものだ。まあいいけどね
すると、何処からかドタドタと地鳴りのような音を立てて、一人の少女が姿を見せた。
「今っ!お賽銭を入れたのはあなた!?」
息を荒くして走ってきた少女は、紅白の巫女装束を着ていて、頭に大きなリボンを付けていた。その恰好と少女から感じる霊力で、彼女がこの博麗神社の当主、博麗の巫女であることが分かった。
それより気になったのが、たかが賽銭程度でここまで必死な顔をしている事だった。
「あ、ああ、賽銭を入れたのは俺だが……」
「ぁ…ぁ……」
「ん?」
「ありっっがとォォォォっ!!」
突然大声で感謝を叫ばれたと思ったら、俺の手を握り上下にブンブンと上げ下げを繰り返してきた。察するに彼女の神社には参拝客はほぼ皆無と言っていいほど少ないのだろう。
それより、早く手を放してもらいたい。割と痛いのだが……。
「ま、まあ喜んでもらえてなによりだよ……ていうかもう放してくれないかな?」
「そんなことより、お賽銭は一体いくら入れてくれたの?いや、聞くまでもないわね!この目で確かめる!!」
そう言って彼女は俺の手を放し、賽銭箱の蓋を開け、顔を突っ込んだ。それよりも、俺の手をそんなこと扱いとは、なかなかに酷いのだが……。
「さ、三万円!!よっしゃー!今日は久しぶりの鍋にするわよ!!」
彼女は嬉しそうに叫び、そのまま後ろ向きに倒れ込んだ。
※そして現在に至る
紫に先程の出来事を説明すると、紫は苦笑いを浮かべて「まあ、そうでしょうね」っと呟くだけだった。
さて、この倒れている巫女さんはどうしようなどと考えていると、ハッと目を覚ました。
「ここは……確か私は、高級焼肉店でみんなと飲み食いしていた筈……」
さっき今日は鍋って言ってなかったかな?夢と現実は違うという事なんですかね?
「霊夢、いい加減にしなさい。客人を前にしてその醜態、博麗の巫女として恥ずかしくないのかしら?」
「うるさいわね~、分かってるわよ……。えっと?私は
何故か面倒くさそうに自己紹介をされたが、そこは敢えてスルーしておこう。指摘するの面倒だし。なにより、その態度から察するによっぽど賽銭がうれしかったのだろう。
「俺は氷鉋乖離、外来人?ってのはよく解らないが、まあそんな感じかな?よろしく博麗さん」
「霊夢でいいわよ。見た感じあなたの方が年上でしょ?因みに私は十五歳よ」
「わかったよ霊夢。ってことは、霊夢と俺は三つ違う位になるのかな?」
「えっと、乖離さん?でいいわよね。乖離さんは十八ってこと?」
「さあね?俺は俺の年齢を憶えていないんだよ。ただ憶えているのは、体の成長は十八で止まっているって事ぐらいかな?だから、永遠の十八歳ってとこか」
「ふ~ん………どこかで聞いたことのあるキャッチフレーズね……ねえ紫?」
「あら、どうして私に振るのかしら?」
「あんた以外の誰に振るのよ!」
ふとこの二人のやり取りが、『あのバカ友等』に似ていた。まさか、こんな形で、俺の最も古い記憶の一部が再現されそうになり、自然と笑みが零れた。
「ん、どうしたのよ?」
「どうかされたのですか乖離様?」
「ん?いやね、二人のやり取りが面白かったものだからつい、ね……」
二人は「なんのこっちゃ?」っというような顔をしている。
俺が懐かしい思い出に浸っていると、霊夢が俺にある事を聞いてきた。
「そういえば、乖離さんって人間なの?」
「俺は純度100%の人間だが?」
そう、俺は人間だ。霊夢は俺を妖怪だとでも思ったのだろうか?
そして紫よ、その「あなたの何処が人間なのですか?」みたいな視線を送るのはやめてくださいとても痛いです。
「でも乖離さんは十八で身体の成長が止まっているって言ってなかった?」
「ああ、それはだな――「おーい、霊夢ー!」」
霊夢に俺の身体の成長が止まっている理由を話そうとした時、突然の声によって遮られてしまった。
「ん?あ、魔理沙!」
俺も声のした方へ振り向くと、箒に跨った魔法使いを思わせる服装の金髪少女が空から降りて来た。
「親方!空から女の子がっ!!」っと叫びそうになったのは秘密である。
「よう霊夢、遊びに来てやったぜ!」
「お賽銭は?」
「無いぜ!」
「ハァ、まったく……」
霊夢は面倒くさいと言わんばかりの態度を取るが、それすら意に返さないように笑う魔法使い風の少女。
「ん、霊夢に紫と……誰だぜ?外来人か?」
しかし、俺を見るなりなにやら奇妙なものでも見る様な目に変わった。そしてまた外来人と言う単語が出て来た。一体どういう意味なんだ?現代風に外国人ってところか?
「俺の名は氷鉋乖離、外来人?ってやつだな!よろしく」
「そうか!私は
「ああ、よろしく頼むよ霧雨さん」
「魔理沙でいいぜ!それより乖離は外来人だから、『弾幕ごっこ』は知らないのか?」
弾幕ごっこ?妙な名前だな。アレかな?マシンガンを両手に笑いながら相手に打ち込み合う……的なものだろうか?
「いや、知らないな」
「そうか!なら私が教えてやるぜ!」
「あんたがやりたいだけのクセに」
霊夢のツッコミに魔理沙は「まあまあ!」と答える。
しかし、せっかくだ!多分この世界での決闘のルール的なものだと思うし、教えてもらって損はないだろう。
「わかった、教えてくれ魔理沙!」
「おう!そうこなきゃだぜ!」
「ああ、もう!仕方ないわねぇ、うちの敷地内でやりなさい!」
霊夢からもお許しが出たようだし。
俺と魔理沙は広い境内で弾幕ごっこをすることにした。
そして、お互い所定の位置に付く。
「それじゃあ、準備はいいか?」
「いつでも始めてくれて構わないよ」
「行くぜ!弾幕は……パワーなんだぜ!」
ようやく一話(実質二話)完成です!
次回もよろしくお願いします!