東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

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三十四話 魔法使いの魔術知識

Side乖離

 

 

 

 こういう時は、なんと言うのが妥当なのだろうか……。唐突な告白、ほんのりと赤く染まった頬と潤んだ瞳。気にしない方がいいのだろうが若干口元に残っているキャラメルソース。

 なんというか、だ。唐突の告白には慣れている……。が、こうして初対面の女性に告白されたのは初めてだ。

 

「あのさ、すまないけどもう一度言ってくれない?」

 

 万が一という事も考えられる。俺は確認というのを理由に紫髪の少女、パチェさんとやらに再度問いかける。

 彼女は一つ咳払いをして、少々呆れ気味に先の言葉をもう一度告げる。

 

「あなたに興味があるのよ……だから私に付き合ってくれないかしら?」

 

 少し簡略化されたが、意味は同じだ。

 

 

 

 さてさて、困った事に俺は返してやるべき返答が思いつかない。こんな事は人生でも初めての事だし、いつも俺に告白紛いの行動をとってくるバカ共とは訳が違う。パチェさんとは今日会うのが初めてだから、無碍にも扱えない。これが紫か輝夜辺りなら無視するか正面切って断るかの二択の筈なんだがなあ。

 

「………」

 

「………」

 

 互いに沈黙が続く。パチェさんはまだかまだかと顔を赤くして俺の返答を待つ。そんな顔をされると余計に断り難くなるからやめて欲しいのだが……。

 チラリ横目で他の連中を見ると、各々反応が異なっている。魔理沙は面白い玩具でも見つけたかのように目を爛々とさせている。レミさんとメイドさんは非常に驚いた様子で口をパクパクと餌を待つ鯉のように開いたり閉じたりを繰り返している。………で、一番ヤバイのは紫だ。パチェさんは気付いていないのかもしれないが、恐ろしく冷めた笑顔と目付きで俺を見ている。アレはもう良い子の見て良い笑顔じゃないな。

 

「えっとさパチェさん?何で俺な訳なのかな?」

 

「魔理沙から聞いたわ。……あなた、魔術にもかなりの心得があるんでしょ?」

 

「そりゃ、まあ……」

 

 うん、伊達に固有結界なんて張ったりしないからね……。

 

「私も魔術の事に関して……それなりには知識がある方なんだけどね、まだまだ多くの知識を欲しているのよ。……だから、魔理沙曰く『自分よりも魔術に詳しい』らしいあなたに付き合って欲しいの……私と」

 

 如何にも魔法使いらしいね……。あの手の人種は揃いも揃って知識欲の塊だ。食う寝る勉強の三要素でしか構成されていないのかとさえ思える者だっている訳だし、彼女も彼女で例外ではないということかもしれない。ということはだ、パチェさんの告白はあくまでも知識の幅を広げる為のものであって、別段愛の告白という訳では無いのかも知れない。それならそれで俺は助かる………色々と。 

 

「まあ、俺としては別にどちらでもいいんだけどさ、パチェさんは何の魔術を知りたいの?」

 

「そうね……まずは、あなたの知る魔術や魔法について教えてくれないかしら?」

 

 俺の知っている魔術と来たか……。知っているというより、会得しているものが色々ある勢でどれを挙げればいいのか迷うなぁ。簡単に説明できるとしたら投影魔術くらいだが、これは流石に魔法使いであるパチェさんなら知っているだろう。……であれば。

 

「固有結界って知ってる?」

 

「ええ、知っているわよ。現実と幻想を入れ替える魔術の最奥にして忌まわしき大禁呪でしょ?」

 

 やっぱり知っていたか……。まあ、魔術の最奥と言われているだけあってその手の連中からしてみれば常識の範囲内ということだろう。……魔理沙が知らなかったからワンチャンいけると思ったが見通しが甘かったみたいだ。

 さて、俺の知る魔術で代表的なものが固有結界であったのだが、これ以外にパチェさんが知らない魔術といえば他に何かあっただろうか……。こんな大きな図書館を持っているのだからそんじゃそこらの魔術なんて挙げたところで意味無いだろう。

 

「仕方ない、アレ(・・)を聞いてみるかな……」

 

「アレ?」

 

 本来あの魔術は他人に教えていいものではないが、どうせアレは俺以外使えないしまあいいだろう。

 

「パチェさんは、『降霊術』を知っているかな?」

 

「もちろん」

 

「なら……『星天覇将術』は知っている?」

 

「星天覇将術?……聞いた事もないわ」

 

 だろうね……。なんせアレは俺独自のオリジナルみたいなもんだし、ぶっちゃけ魔術と呼んでいいものか分からないもんだったりもするしな。言ってしまえば分類不明の術だ。発動に魔力が必要だから俺が勝手に魔術とカテゴライズしているだけだし。

 

「私も初めて聞きました……一体それはどういった魔術なのですか?」

 

 どこか興味ありげに疑問符を浮かべ問いかけて来る紫……。紫は知らないというがお前は一度体感している筈だ。だって、言ってしまえば。

 

「星天覇将術って、『クラスターカード』をカッコよく日本語にしてみただけだけど?」

 

「……マジですか?」

 

「マジ」

 

 紫はそうきたか~、と言いたげな表情で頭を抱えた。クラスターカードの起動には確かに魔力は必要だが、そんなもん俺の自然エネルギーを能力で一部魔力に変換してしまえばいいだけだからな。意外と発動は簡単だけどコスパの問題で乱用が効かないのが残念なんだよなあ。まああんなもん乱用したら幻想郷の危機だけど。

 

「クラスターカードって何なの?」

 

「私も知りたいぜ!」

 

「俺の切り札の一つだよ……。とはいえ、あんまし使っていいものじゃないけどね」

 

「そのクラスターカードって言ったかしら。それ、魔術ならどうやって会得するのか教えて欲しいのだけど」

 

「私にも教えてくれ乖離!」

 

 魔理沙とパチェさんは目を輝かせグイグイと俺に近寄ってくる。そんなに迫られても困るのだが……。アレは星の守護者であった俺だから使えるものであって、星に関連性のある者でなければ神であっても使えない。

 

「悪いが教えることは出来ても使用は出来ないと思うよ?」

 

「「何故?」」

 

「何故って、アレは星の力を呼び出す為のもんだし」

 

 事実上は神降ろしや降霊術に似ているものだが、アレは根本から規模が違う。神や幽霊の類では無く星そのものをその身に宿すようなものだから、『器』の小さい人間や魔法使い程度では扱いきれない以前に圧倒的情報量に脳が耐えきれず星の力を宿す前に死ぬ。俺が死なないのは一概に星の守護者であり星からのバックアップを受けているからである。

 したがって、クラスターカードの使用が可能なのは俺だけである。まあ永琳や輝夜、妹紅のような不老不死なら可能性は無きにしも非ずといったとこだが、まあ無理だろうね。

 だが、尚も納得がいかないといった表情の二人に気負けした俺は、渋々ではあるが使用方法のみ教えてやることにした。

 

「あ~、まあ使い方くらいなら教えてあげられるよ」

 

「「是非!!」」

 

 更に目を輝かせた二人に呆れながらも、この図書館の中でもそれなりにスペースの空いた場所に移動した。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 ある程度広い場所に移動した俺達は、早速クラスターカードの使用教授の為に結界を張っていた。尚クラスターカードの使用方法を教えると言った時紫は大層反対していたが、そこは何とか説得した。

 

「さてと、こんなもんでいいかな」

 

「そうね、これくらい結界を張れば大丈夫じゃないかしら」

 

「でも、張り過ぎじゃないか?」

 

 魔理沙の疑問も御尤もだが、厳重に結界を張っていないとエネルギーの暴走が起きた時の対処が面倒なのだ。伊達に星の力を借りたりしないからね。

 因みに、厳重に張った結界内には俺と魔理沙にパチェさん、監視役に紫の四人である。レミさんとメイドさんは結界外から観賞するといっていた。見せ物じゃないんだけどなぁ。

 

 一応準備は整ったので、いよいよ開始するとしよう。

 

「さてと、ほんじゃまあそこに座ってくれ二人共」

 

 俺の指示に従い、二人は疑問符こそ浮かべど潔く床に座り込んだ。

 俺は懐からクラスターカードを取り出し、二人が座った向かい側にカードを落とす。するとどうだ、クラスターカードから紅い光が放たれ、それは線を描くように二人に近づいていく。描かれた紅い線はまるで樹のように枝分かれを始め二人を通り越していく。……さていよいよここからだ。

 

「二人共、そこから一歩として動くなよ……。下手に動けば魔力回路を破壊されて二度と魔法が使えなくなるぞ」

 

「マジかよ……」

 

「マジだよ」

 

 引きつった笑みで笑う魔理沙だが、その笑みには全くの余裕を感じない。まあ二度と魔法が使えなくなるなんて言えば当然だろうけど。

 二人を通り越した紅い線は一定の長さまで伸びた後、一瞬にして消え去った。どうやら、第一行程はクリアしたようだ。

 

「もう立っていいよ二人共」

 

「今ので終わりか?」

 

「アレが使い方なの?」

 

 味気ないと不満を漏らす二人ではあるが勘違いである。これはあくまでも適正検査みたいなものなので、本番はここからだ。

 

「さてと、本番行こうか」

 

「「え?」」

 

 やっぱりさっきので終わりだと思ってたようだ。もしそうっだったとしたら、わざわざこんな厳重な結界なんて張りはしない。

 

「次は発動条件なんだけど……う~ん、実際に見せた方が早いよね。―――――『冠位・夢想顕現』」

 

 クラスターカードの起動。それによる膨大な自然エネルギーが全身を駆け巡り、まるで体に強烈な電気でも奔ったような感覚に襲われる。それだけじゃない、圧倒的なエネルギーは暴風を生み出し結界内にいる魔理沙やパチェさんはその暴風に抗うように床を強く踏みしめている。

 ……何故だろうなあ、幻想郷に来てクラスターカードの使用順度が増えている気がするのだが……。まあ特に何をするという訳でもないし、大丈夫だろうけど。

 とか思っていると、バリン!と、まるでガラスでも砕けたような音が結界内で響く。おそらく高濃度の自然エネルギーとその量に耐えきれず結界の一枚が壊れたのだろう。……やっぱクラスターカードは使用だけでもかなり周りに影響を与えかねないな。

 かつて俺が永琳やサグメを相手取った時に使用した際は月全土に紅い波動を放っていたというのに、今ではたった一枚の結界を破壊する程度……言わずもがなかなり弱体化しているな。それに、やはり高濃度とはいえ自然エネルギーの質も落ちている。―――――まあそれでも、全力を出し切れば紫相手に相打ちまでは持っていけるだろう。

 

「二人共大丈夫か?」

 

 自然エネルギーの放出を一定まで制限し、放たれる暴風も止み辺りは静かになった。気張り床に足を踏みしめていた二人に俺は上記の問を投げかける。しかし二人は糸の切れた人形のようにペタリと床に座り込み苦笑いを浮かべていた。

 

「アハハ、びっくりしたぁ~」

 

「とんでもない威圧感ね、今のは……」

 

 初見とはいえ、かなり弱体化していたとはいえ、緊張が一気に解れて座り込む程度であればこの二人はそれなりに見込みはありそうだ。かつての紫なんて俺が全盛期一歩手前だったとはいえクラスターカードを発動したショックで気絶したくらいだからなあ。――――――だが今の紫は、顔色一つ変えずに立っている。なかなかやるようになっちゃってまあ~。

 紫の成長具合に関心していると、まだぎこちないが魔理沙は足を手で支えながらゆっくりと立ち上がった。

 

「急な暴風にも驚いたけど、乖離がまるで別人みたいに変わっちまったのにも驚いたぜ」

 

「ああ、これか?これはまあ……ちょっとしたイメチェンだと思ってくれ」

 

 白い髪の毛に結界越しで映る紅い瞳。私服でいた筈の装いもクラスターカードの発動により礼装へと変化させられている。こればっかりは俺の意思でもどうこうできるもんじゃないから仕方ない。

 

「それで、見た目だけの変化じゃないんだろ?何か見せてくれよ!」

 

「その状態で魔術や魔法を使うとどうなるの?」

 

 弱々しい足取りとは裏腹に意外とテンション高めな魔理沙。そんな魔理沙に釣られるようにパチェさんもゆっくりと立ち上がり目を輝かせながら魔理沙と同じことを言ってくる。

 

「そうだね~、んじゃ参考ついでに魔理沙のマスパでも真似てみようか」

 

 俺は斜め上に手を翳し、翳した手に溢れんばかりの自然エネルギーを集中させる。

 

「術式開放・『アナライズ・マスタースパーク』」

 

 翳した手に魔法陣が浮かび上がり、その魔法陣に集約していく極大の自然エネルギー。ビリビリと稲妻を放ちながらバスケットボールサイズまで大きくなった自然エネルギーの塊はその内部で数百から数千に渡る反射運動を繰り返す。

 臨界に達した膨大な自然エネルギーの塊は今か今かと放出されるのを待ちわびる。

 

「【壊砲・エレメンタル・バースト】」

 

 バスケットボールサイズに大きくなった自然エネルギーの塊は俺の掛け声と共に一瞬にしてビー玉サイズに収縮し―――――――――突如強烈なエネルギーは霧散し消えていった。

 

「「アレ??」」

 

 いよいよ見せ所というところで霧散した魔法を前に、二人はどうしてそうなったのかを理解できぬといった表情で目を点にしている。二人にはどうしてこうなったのかは理解できていないのだろうが、俺には理解できている。

 翳した腕を降ろし、落胆の表情を浮かべる二人を見て、俺はこの現状を引き起こした張本人に視線を移した。

 

「この結界内のエネルギーの境界を弄らせていただきました……」

 

 いつになく真剣な表情の紫は、目を細めスキマを開いた状態でそう語った。

 周りを見渡せば結界内に多くのスキマが開きそのスキマから覗く無数の瞳は俺一点に注いでいた。

 

「恐れながら乖離様……この紅魔館ごと私達を皆殺しにするおつもりですか?」

 

「随分と穏やかじゃないねぇ~、別に俺は妙な気をはらんでないが」

 

「でしたら何故、あれだけのエネルギーを収集なさったのですか……?」

 

 より一層声色に重みをかけ、半ば睨む形で紫は俺に問を投げかける。ここまで必死になるとは、よほどさっきのを俺に撃たせたくなかったのだろう。だが、俺も被害を考慮していなかった訳ではない。それとも紫には俺がそこまで愚かな者にでも映ったのだろうか。

 

「エネルギーの調整はしていたし、お前がそこまで心配する程の被害が出るほど集めたつもりはないが……?」

 

「………」

 

 ……未だにスキマを閉じようとしない紫を他所に、俺は二人に再度視線を移すと思った通りというべきか、二人は若干の困惑状態にあるようだ。まあ俺と紫が二人して物騒なこと話してたらそうなるよね。仕方ない、これ以上二人に迷惑を掛ける訳にもいかないね。

 一つ息を吐き、俺はクラスターカードを解除する。その際訪れる全身を駆け巡る苦痛を顔に出さないように紫に両手を挙げて降参のポーズを取る。

 

「ハア……俺が悪かったよ紫。だからそんな怖い顔しないでくれるとありがたい」

 

 俺がそう謝ると、紫は若干申し訳なさそうな顔をした。

 

「私の方こそ出しゃばった真似をして申し訳ありません」

 

 そう言って紫は深々と頭を下げた。俺としては紫のとった行動はまあ是非もない事だから謝る必要はないと思うのだがね。それに、俺も俺とて配慮が足りなかったと反省しておくとしよう……。

 

「さてお二人さん、必殺魔法は発動できなかったけどクラスターカードはあんな感じだよ。発動条件は掛け声アリ無しでもどちらでも可だ!必要なのは資格と発動に充分なエネルギーだけ」

 

「その資格ってのがイマイチ分かんないぜ」

 

「右に同じく」

 

「それはまあ、星の力云々だね」

 

 

 

 

 

 

 

 まあこの後、遊びから帰って来たフランも交えて皆で色んな魔術や魔法の事を話し合った。その際パチェさんと読書家という趣味に意気投合しいつでもこの大図書館を使用しても良いと許可をもらった。無論俺も家に保管してある魔術書は魔導書、研究資料の提供を約束した。

 




遅い……明らかに投稿順度が遅いですね………。
もう少し続くであろう日常編、それが終われば新章開幕ということで宗教メインとなるでしょう!そうすれば必然的に奇跡を起こせる新参巫女さんと彼の聖徳太子が出せますね!

次回もお楽しみに!!

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