東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

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新年あけましておめでとうございます!!


三十二話 神様との出会い

Side乖離

 

 

 

 数日前に命蓮寺に遊びに行ってからというもの、俺の日常は変化を遂げた……。

 いつもと変わらぬ日常である筈なのに、とても何かが違う。送る日々は同じであってもその日に起こる出来事は俺が想像していたものとは違う。

 いつものように朝6時に起床して7時半までランニングをしていい汗を掻きそれを朝風呂でスッキリと流す。それが終われば朝食を摂りお昼になるまでゆっくりと読書に耽る。そしてお昼になればお昼御飯を食べてまた読書に耽る。晩方も同じように……。後は風呂に入ってゆっくり床に着いておやすみなさいだ。

 そんな感じの俺の日常は、とある者達によって崩壊を遂げつつある。しかもだ、俺の日常を崩壊させようとする者達はただただ暇だったという理由らしいじゃないか。

 まったくもって理不尽だと思う。ストレスが溜まって胃袋が崩壊したら笑って泣こう……。

 

 そしてその俺の日常を脅かす者達というのが……。

 

「王手なりーー!!」

 

「グワー」

 

「輝夜ァァァアアアッッ!!」

 

「妹紅ォォォオオオッッ!!」

 

「……………」

 

 卓袱台を挟んで将棋を嗜むぬえとこころちゃん。液晶テレビの画面にゲームをしながら吼え合う妹紅と輝夜。この状況に俺と同じように色々と絶望して言葉を失ってしまう掃除中の藍。

 以上の五人の勢で、俺の日常は崩壊を遂げてしまったのである。(尚藍は除くものとする)

 

「ハア~……」

 

 どうしようも無い状況にタメ息が出てしまう。本来この時間帯であれば自室で気ままに茶を啜りながら読書をしていたというのに……。まったく、何故こうなってしまったのだろうか……。

 こころちゃんはいつものことだとして、ぬえは俺が命蓮寺に遊びに行ってからというもの毎日のように来るようになった。輝夜はまあ……あれだ。妹紅は最初の方は料理を教えて欲しいということで来ていたが、輝夜が来るようになってからというもの我が家のテレビゲームにご執心となった。藍は完全に家政婦さんみたいな感じかな?多分週三回のペースで朝食を作りに来てくれているからありがたい。掃除もしてくれるし。

 

 とまあ、そんなこんな日々が続いている訳だが、俺のストレス発散兼至福の読書が奪われてしまったのでどうしたものかと考えている。いっそこの家を空け渡して俺は誰も居ないような場所に新居を創って細々と暮らしたほうがいいかもしれない。だとしても絶対この連中は追っかけて来そうなので却下かな……。

 

「くそ!もう一回だ!!」

 

「ぬえ弱いぞ~」

 

「妹紅オオオオォォォッッ!!」

 

「輝夜アアアアァァァッッ!!」

 

「人様の家だというのに少しは自重できないのかこのバカ共は……」

 

 平常運転でハッチャけた四人とは対照的に藍は呆れた様子で頭を抱えた。俺にしてみれば、こうして俺のことを気遣ってくれるだけでとてもありがたい事なんだよな。

 

「こうなったら……紫様に報告してこいつら全員スキマ送りに………」

 

 おっと、今藍からとんでもない言葉が発せられた気がする。俺の聞き間違いでなければ紫に報告して俺の家で暴走している四人をスキマ送りにするだのなんだの……。それは流石に可哀想だと思うんだが……。

 

「……どうしよう」

 

 特に名案が浮かんでくる訳でもないが……とりあえずこの状況をなんとかしたい。でなければ我が家が地獄絵図になりかねない。人里近隣の森で四人の有名人が同時失踪なんて洒落になんないからな。

 とはいえ、本当にどうしたものかな~、読書を奪われたのは痛いがそれでもこうして冷静な考えを巡らせていられるのだから当分は大丈夫なんじゃないだろうか。度が過ぎれば流石に俺もキレるだろうけどね。

 

「これ収集つけんの面倒だし釣りに行こうかね~」

 

「乖離殿、お出かけですか?」

 

「まあね、少し近くの川で釣りして来るよ」

 

「少々お待ちください、直ぐに釣り装備一式を準備いたしますので」

 

「いや、餌と竹竿でいいよ。別にそんな大物を狙っている訳じゃないし」

 

「そ、そうですか……」

 

 俺がそう断ると、藍はどこか残念そうに肩を落とした。ありがたいことだが、残念ながら俺は妖怪クラスの腕力を備えている訳では無いので片付けやら持ち運びなどが面倒なのだ。

 

 準備をして玄関を出ようとした時、不意に藍に呼び止められた。

 

「乖離殿、これをお持ちください」

 

 そういって藍から手渡されたのは風呂敷に包まれた何かだった。中から良い匂いがしてくるのでおそらく俺を気遣って弁当を拵えてくれたのかもしれない。

 

「藍、これは?」

 

「お弁当です。折角釣りに行かれるのですから、昼食も必要かと」

 

 予想通りだ。やっぱり弁当を作ってくれたのか……。本当にわざわざ申し訳ないな………。釣りの準備に加え弁当までとは。

 

「ありがとう藍、お昼にはありがたく頂くとするよ!それにしても、藍はいいお嫁さんになりそうだね」

 

「お、おおおおお嫁さん……ですか?////」

 

「ああ、きっと藍と結婚できる奴は幸せ者だろうよ!それじゃ、行ってきます」

 

「い、いってらっしゃいませ……////」

 

 顔を熟れたてのリンゴの様に赤くした藍に見送ってもらいながら、俺は玄関の扉を開け外に出た。

 

 

 

「くっそー!全然勝てない!!」

 

「ぬえ弱い」

 

「妹紅オォォォ!!」

 

「輝夜アァァァ!!」

 

「貴様ら少しは自重しろォォォッッ!!」

 

 なんて叫ぶ声が聞こえた気がする……。

 

 

 

 

 

※※※

 

 家から歩いて十五分といったところだろうか。俺は近場の川に辿り着き、現在釣りの準備をしていた。

 針に餌をくっ付け水深の深い場所に目掛けて投げる。するとポチャンと小気味よい音を立て餌を付けた針が川の中に沈んでいく。これで後は釣れるのを待つだけだな!

 

「やっぱ、釣りは男のロマンだよな~」

 

 こう、なんというのだろうな~。自然を堪能しながら魚がヒットするのを優雅に待つ。釣れなければ釣りなどただのマゾゲーなどと言う輩は多いが、俺はそうとは思わない。待つことも釣りだし、いつ釣れるのか期待を寄せて待つのは時間を忘れさせてくれる。それに期待を寄せて釣れた時の喜びは何にも代えがたい。

 と、そんな事を考えている間に早速ヒットしたようだ!

 

「お、これはなかなか引きが強いぞ?」

 

 先程までしなっていた糸が棒のように真っ直ぐ伸びる。ヒシヒシと手に伝わってくる綱引きのような感覚。

 川を覗いてみると立派は鮎が懸命に逃げようともがいている。

 ……これこれ!この感覚が釣りの醍醐味ってもんだ。魚と釣り人の我慢比べと動きに合わせた駆け引き!この手に汗握る真剣勝負が最高に楽しいんだよなぁ釣りって。

 

「よっと!」

 

 竹竿を振り上げ活きの良い鮎が綺麗な鱗を反射させ水面から飛び上がってくる。そこに上手く合わせて片手で糸を掴む。そうすると再度川に落ちることなく魚を上げる事が出来る。

 竹竿を置いて鮎に未だ掛かっている針を抜いてやり、用意しておいたクーラーボックスに収納する。

 

「はは、これだから釣りはやめられないよな!」

 

 早速一匹釣れた幸福感に浸りながら、俺は竹竿を拾い上げ再度針に餌を付ける。

 もう一度川に投げ込もうとした俺だが、不意にその手を止める。

 

「誰かそこに居るのか?」

 

 背後から感じる気配。今まで感じた事の無い気配に若干の警戒をしながら、俺は振り返ること無く問を投げかける。すると、草が揺れる音と共に俺の背後に立つ誰かが現れた。

 

「ごめんなさいね?見ていて少し面白かったものだから」

 

 声色からして女性。それも今まで聞いた事の無い声だ。その声はどこかこころちゃんやテンションが高い時の輝夜のように楽し気な雰囲気を感じた。

 ずっと背を向けている訳にもいかないので、俺は背後に立つ女性を確認するために振り返る。

 

「!?」

 

 振り向いてビックリ、最初目に入ったのは艶やかな紅色の髪を靡かせ、真紅の瞳を爛々とさせている少女。そして何に驚いたかというと、その頭上に乗せた帽子?のような赤紫色の球体と奇抜な服装だ。黒いTシャツに太い白文字で『welcomehell』とデザインされている。

 

「あらん?どうしたの固まっちゃって?」

 

 幻想郷に常識は通用しないとは聞いた事があるのだが、ここまでとはな。十人十色、物好きの多い幻想郷でもあんな服装をする者がいるとは驚いた。

 長らく固まってしまった俺に痺れを切らしたのか、派手な服装の少女は俺に近寄って少し強めの口調で問いかけて来た。

 

「ねえ、聞いてる?」

 

「あ、ああすまない」

 

 我に返り首を二三回横にふる。

 失礼を働いてしまった事に謝罪をすると、少女は微笑みを浮かべていた。

 

「あなた、ここで何をしているの?」

 

「ああ、えっと……釣りかな?」

 

「フ~ン……」

 

 面白いものでも見ているかのように、少女は軽く口角を吊り上げる。なんだかその笑い方は妙な事を考えている時の永琳に似ているような、似てないような……。

 しっかし、よくよく観察してみると彼女から感じる力が人間の物ではないというのが分かる。霊力でもなければ妖力でもない。ましてや魔力という訳でもないな……。この感じは間違いなく神の気配――――神力に他ならない。それもかなり高位に位置する神様だ。

 

「君は……人ではないね?感じる気配から察するに神様とみた」

 

「ご名答!私はこう見えて立派な神様よん♪」

 

 自慢げに、かつ楽し気に神様アピールをし始める少女。なるほど、神様故にその奇抜な服装なのだなと、俺は一人勝手に解釈をした。

 一応なんだか長くなりそうな気がしてきたので、俺は竹竿を引っ張り針を川から引き上げて仕舞っておいた。

 

「ところで、あなたお名前は?」

 

「俺は氷鉋乖離」

 

「そう……私はヘカーティア、ヘカーティア・ラピスラズリよ」

 

 ヘカーティア・ラピスラズリ……どこかで聞いた事のある名だった気がするのだが……はて、どこだっただろうか。

 なんてことを考えていると、ヘカーティアという名の神様は興味深そうに俺の顔をマジマジと見つめていた。恥ずかしいですはい………。

 

「えっと、何か俺の顔にでも付いてる?」

 

「あなた……ただの人間ではないわね?尋常ではない程の『エーテル』を感じるんだけど」

 

 またしても驚いたな……通常神と言えど自然エネルギーを感知できる者は土着神や豊穣の神、または創造神か太陽神辺りの筈だが、彼女はそのどれともタイプが違うというのに、俺の中の自然エネルギーを感知したというのか。因みに西洋辺りでは自然エネルギーをエーテルと呼ぶらしい。

 

「君は、一体どこの神様だ?自然エネルギーを感知できる神なんて相当限られてくる筈だが……」

 

「私は地獄の女神様であり、月・地球・異界の総てを統べる神様よん」

 

 そう得意げに、何の臆面も無く至極当然かの様に彼女は笑う。……ハッキリ言って冗談じゃないぞ?月・地球・異界を統べる神様?そんなの神話上のどの神よりも高位な存在じゃないか……。神話戦争で幾多の神々と出会い戦ってきたが、ここまで高位の神に出くわすなんて凄いな幻想郷!!

 しかし、彼女は地獄の女神様と言った筈だ……であれば、あの映姫様とも知り合いだったりするのかな?

 

「あのさ、四季映姫様って知ってたりする?」

 

「映姫ちゃん?知ってるも何も、私の一番部下兼妹みたいなもんよ」

 

 まあ、地獄の女神様だから当然と言えば当然か。しかし、あの堅物閻魔の上司はユーモア女神様とはな……どうやったらあんな規則or規則が誕生するのやら……不思議だ。

 俺が思考に耽っていると、女神様は俺の肩を軽く叩き、質問を投げかけて来る。

 

「今度は私から訊くけど、あなたは本当に人間なのかしら?どうにもそんな感じには見えないのよね」

 

「俺は人間だよ。他とは少し変わっているだけの……普通の人間さ」

 

 こんな事紫に言ったら、『どこが?』なんて聞き返されそうだな。

 俺の返答に女神様も紫よろしく『どこが?』みたいな表情で固まってしまっている。そんなに俺は人間らしくないのかね~。こればっかりは流石にショックでしかない。

 

「ま、まあいいわ。ところで、あなた今暇かしら?」

 

「いや、釣りの最中ですが……」

 

「私と弾幕ごっこで遊びましょ?」

 

 人の話聞けよ……。俺は男のロマンを楽しむことで手一杯だってのに。やはり幻想郷住人に常識というものは通じないしそもそもそんなもの存在していないようだ。

 

 ただまあ、女神様のお誘いとあらば乗ってやってもいい気もする。何より……強者との闘いほど心躍るものはないからな。

 

「弾幕俺は撃てないけど、それでもいいかな?」

 

「撃てないの?」

 

「うん」

 

「う~ん、じゃあ回避だけに専念して私を興じさせてねん?」

 

 空気が変わる。完全に臨戦態勢に入った女神様は口元をニィ~っと、三日月状に吊り上げ宙に飛び上がっていく。

 そして放たれる紅い弾幕の数々。球体状の物からレーザーのような弾幕がさんざめく降り注がれる。回避にのみ専念して興じさせろとは言われたものの、これは流石に逃がす気が無いとみえる。

 迫りくる弾幕の嵐を前に、高鳴る衝動が抑えられないのが分かる……。ある意味では絶望的な状況だが、この程度の危機など飽きる程体験している。そしてそのどれもを突破して来た。

 ……………魚釣りはやめだ。ここからは単純な戦いでストレスを発散しようか。

 

 右腕に自然エネルギーを集約させ、紫色に輝く愛刀を顕現させる。

 一閃の構えをとり、刀に自然エネルギーを注ぎ込む。すると先程まで光り輝いていた刀は紫色の波打つオーラを放ち始める。

 既に俺と女神様が放った弾幕との距離は初弾接触一メートルあるか無いかの距離まで接近している。だがそれでも、力を開放した俺には酷くその弾幕が遅く見えた。

 迫りくる弾幕を切り裂くのにわざわざ全力を使う必要性などない。たった一振りあれば十分だ。

 一閃、至極単純な一閃を放つ。振られた刀の剣先は、弾幕を易々と空気を切り裂くかのように両断した。ソレは連鎖的に迫りくる無数の弾幕を巻き込み、人の目では到底負えない速度で空へと駆け上がった。

 切り裂かれた弾幕は爆発四散していくなか、弾幕を放っている張本人たる女神様はさぞ楽しそうに笑っていた。俺の耳にもハッキリ聞こえるように……。

 

「凄い凄い!私の弾幕を意図も容易く斬っちゃうなんて。フフン、合格よん?私もちょっとだけ力上げちゃおうかしら」

 

「ちょっとと言わず全力を出せばいいじゃないかな?」

 

「自惚れてるのかしら?人間風情を相手に神様が全力を出しちゃその時点で私の敗北よ?」

 

「そうかい……なら精々後悔しないようにな」

 

 再度刀に自然エネルギーを籠める。先程に比べれば少し弱いが、これで少しは弾幕ごっこ風に出来るかもしれない。しかし、この技を使うのはいつ以来だったかな……。

 

「深奥抜刀【夢限乱舞】」

 

 刀から放つ斬撃が幾つもの層に別れ、列を乱すかのように空へと散っていく。一刀より放たれる派生した斬撃が数十存在する中、一秒に約十二回斬撃を飛ばしているので、もはやそれは弾幕と言っても過言ではない量の斬撃が女神様へと放たれる。

 

「なんだ、弾幕撃てるじゃない!」

 

「生憎とこれは弾幕ではないんだよ……。実戦用に編み出した剣技の一つさ」

 

 俺の放つ無数の斬撃を女神様は避けることなく、自身が放つ弾幕で相殺しつつ上記のように会話を愉しむ。

 

「へ~、人間技も捨てた物じゃないのね」

 

「人間技を舐めてもらっちゃ困るねえ、一神話において人の技は神をも撃ち落とすほどに至るんだし」

 

「そうなの?じゃあもう一つ驚かしてちょうだいな♪」

 

 満面の笑みでそう言うやいなや、女神様は一枚のカードを取りだす。間違いなくスペルカードだろう。それも何故だかは分からないが、随分と危険な気配を感じる。

 女神様から湧き上がる膨大な神力は更に一層出力を上げ、一枚のスペルカードに集約していく。おそらく俺も相応な対処をしなければ死を見るかもしれない。

 

「それじゃいくわよん?精々死なないようにね♪」

 

 彼女の持つスペルカードが色彩を放ち始める。感じた事も無い純粋なまでに強力な神力、これはもしかしなくともサグメ以上だ。それに加えに先程までに紅かった髪の色が黄色に変わり始めている。帽子の上に乗せていた赤紫色の球体も髪の色と同じく黄色に変わりつつある。

 

「月【ルナティックインパクト】」

 

 スペルカードから顕現する月と思わしき巨大な飛来物。どう考えてもあれは弾幕ではないのだが……。

 なんて考えている暇はない。あれは明らかに拙いな……おそらく直撃すれば間違いなく命はないだろう。迎撃するにせよ、並の攻撃では突破することは不可能だろう……。

 

 俺は一歩足を後ろに下げ、懐から一枚のカードを取り出す。

 

「クラスターカード……」

 

 クラスターカードを使い、『壊山剣・イガリマ』を用いればあれを迎撃する事は可能だろうが、問題はその後被害だ。イガリマはあまりにも威力が強すぎる勢で力加減を間違えば博麗大結界を破壊し兼ねない。

 正に絶望的な状況だ。このまま回避をするにしても最早逃げ切れないだろう。クラスターカードを使わず、かつ博麗大結界に支障をきたさないようにアレを迎撃する方法は……。

 

「悪いが……少しパーツ()を借りるよ」

 

 久しぶりに行う自身からではなく、周りの動植物から自然エネルギーを供給してもらう行為。これは本来生命の基盤たる精気(オド)から自然エネルギーを精製しているのを無理やり俺に供給させるものだ。なので俺はこの方法はあまり好きではない。

 が、今はそんな事言ってる場合じゃないので拘りは捨てるとしましょう。

 体に流れ込んでくる膨大な自然エネルギー。回路の蓋は既に開けてある、故に貯蔵も十分に行える。これだけの自然エネルギーを集められるのは、幻想郷が豊かな自然で溢れているからだろう。

 

 迫りくる巨大な飛来物を前に、俺は刀を掲げその真名を開放する。

 

「神無き世界……人の理をもって真なる業に果てよ!【人理の輪/人王隠華(ゼル・キシュラ)】」

 

 放つは極大の斬撃。迫りくる月を撃ち落とす人の集業。

 放たれた必殺の斬撃は、女神様の放ったスペルカードと衝突し紙を破く音に近い音を大音量で発生させ、粉塵の如く両者の技は消えていった。

 

「ハアハア、疲れた」

 

 久しぶりにノーマル状態でここまで力を使った気がする。神様相手だったからかな……?永琳相手でもノーマルでここまでやったことないと思うぞ。

 刀を地面に突き刺し、そこにもたれ掛かって上を見上げてみると、女神様は案外余裕そうな表情でこちらを眺めている。……正直これまで出会って来たどの神よりも強いんじゃないこの神様?いつぞやの破壊神なんて目じゃないぞマジで……。

 

「あらら?もうバテちゃったかしら?」

 

 全く息も乱れておらず、余裕綽々な声が耳に届く。少しイラつきながら、俺は女神様の問に応じる。

 

「まあね……あんた超強いな。ひょっとしたら過去一かも」

 

「当然よん?地獄の女神様……舐めないでね?」

 

 舐めたつもりはないがな……。と、心で呟きながら呼吸を整えて再度立ち上がる。

 

「さてと、第二ラウンドと行くかい?」

 

「そのヘロヘロな身体でかしらん?」

 

「人間、追い込まれた時が一番強いんでね……」

 

 正直結構キツイ……これ以上続けるとなると、俺もマジで覚悟を決めなければならないかもしれない……。クラスターカード……果ては『星断剣』を抜くことも視野に入れておくべきかもしれない。だがそうなると、幻想郷が滅んでしまうから大分気が引ける……。

 

 敵意はなく、純粋な闘志のみを燃やし空の上で余裕を振りまく女神様を睨みつける。

 睨んだ波いいものの、大して彼女には効果はない。寧ろ俺に睨まれている状況を楽しんでいる様子だ。弱者が必死に強者に噛みつこうとしているソレに近い感覚……屈辱では無いがなんとも言えない。

 見上げている内に、女神様の髪の色は少しづつ元の紅色に戻り始め、空の上で待機していた彼女はゆっくりとこちらに降りて来た。

 

「お誘いはありがたいのだけれど、これ以上するとなると色々とマズイんじゃないかしら?」

 

「まあ確かにね」

 

 俺がそう答えると、女神様は再度興味深そうに俺の顔を覗きこんで来た。

 数秒ほど見つめ合った後、女神様はクスリと小さく笑い顔を放した。

 

「うんうん、やっぱり君は面白いわねん!さっきの斬撃……アレは全力とは程遠いのでしょ?」

 

「あれ?バレたか」

 

「そりゃそうよ……私だって全力なんて出してないんだもの!」

 

「君には敵わないねぇ……」

 

今のあなたなら(・・・・・・・)?」

 

「……まあ、ね」

 

 どっちにせよ、おそらくクラスターカードを使っても勝てない気がする。この女神様は俺が出会って来た者の中ではダントツで強いかもしれない。真面目に実力は永琳以上と認識した方がいいだろう。

 だが、何故かな……この女神様、妙に嬉しそうな表情をしているのは……。嫌な予感がしてくる。

 

「次にやる時は……お互い全力をぶつけ合いましょう?」

 

「おや?人間相手に全力は出さないのじゃなかったか?」

 

「本来はね……でも楽しい事を前に面倒な拘りは捨てるわ」

 

「さいですか」

 

 刀を仕舞い、俺は大きく深呼吸をして立ち上がる。

 

「そうだ、あなた私の友達にならない?あなたといると暇しそうにないのよねん♪」

 

「別にそれは構わないが……」

 

「やった!じゃあ、乖離クンね!私の事はなんて呼んでくれる?」

 

「………ヘカちゃん、とか?」

 

「いいわねいいわね♪ヘカちゃん!友達同士の呼び方って感じがして」

 

 無邪気に喜ぶ地獄の女神様を尻目に、俺はさっさと釣りの続きを始める事にした。

 頭を掻きながら、竹竿に新しい針を付けていると不意に抱き着かれたような感覚を背中に覚えた。

 

「おっと!何すんの?」

 

 そう訊いた瞬間、耳元に生暖かい息遣いの感覚が襲う。慌てて振り向こうとすると、ヘカちゃんは囁くように言った。

 

「また、会いましょうね……乖離クン♪」

 

 その言葉が聞こえ、振り返った先にヘカちゃんの姿は無かった。それと同時に、抱き着かれた感触も一緒に消えていた。

 

「何だったんだあの女神様は……」

 

 それだけ小さく呟いて、俺は未だ耳元に残る生暖かい感触を紛らわせるために、釣りに専念する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

「映姫ちゃん映姫ちゃん!私新しいお友達ができたわよん♪」

 

「ほう……どのような方なのですか?」

 

「氷鉋乖離クンっていう、人間にしては随分と強い人よ?」

 

「ブフォーッッ!!」

 

 その日、閻魔の休憩室で温かいコーヒーを地獄の女神の顔面にぶちまけた閻魔がいたとかいないとか………。 

 

 

 




今回も長い!というか最近やたら長い気がします。
しかし、ヘカーティア難しいですね~。情報が少ないだけあって実力ってのが計り辛いです。

次回もお楽しみに!!

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