東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

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結構久しぶり?な乖離視点です


日常編
三十一話 命蓮寺にお出かけ


Side乖離

 

 

 

 とある晴れ日のお昼頃のことである。俺がいつものように自然を堪能しながら、涼しい風に吹かれ昼食を取りながら本を読んでいた時の事。

 いつもと変わらぬ日常を送っていると、ほぼ毎日のようにやって来る来客が現れる。無論のことだがこころちゃんである。

 

「乖離あそぼー」

 

 いつもと変わらぬ元気な声が耳に届き、本を少し下げこころちゃんを確認する。子供らしい足取りで近づいて来るその様はなんだか愛らしいとさえ思える。風に靡かれるピンク色の髪を揺らしながらこころちゃんは俺の下に来た。

 

「乖離、あーそーぼー」

 

 俺の後ろに立つやいなや、こころちゃんは肩を掴んで前後に揺さぶってくる。飲み物を持っていないからいいものの、食事中に揺さぶらないで欲しいのだが……。

 

「こころちゃんストップストップ!ちゃんと遊ぶから揺さぶらないでくれ」

 

 そう言うと、こころちゃんはピタリと俺を揺さぶるのを止めた。そのお陰で昼飯吐かなくて済みそうである。見た目は子供といえどやはり妖怪、腕力は人間の比ではない。

 さて、落ち着いたところでさっそくこころちゃんの希望を叶えてやりたいところだが、俺には生憎と片付けというものが残っている。

 

「少し待ってくれないか?昼食の片付けをしなければいけなくてね」

 

「そうなの?じゃあ待つ」

 

 こころちゃんは縁側にちょこんと座り込み、「早く片付けろ」と言わんばかりに見つめて来る。

 せっせと昼食を片付ける俺とは対照的に、こころちゃんは退屈そうに俺が片付け終わるのを待っている。時折奇妙なお面を取り出してはそれを被り、ジーっとこちらを見つめて来る姿はなんとも言えないものだ。

 

「ふう、片付いたっと」

 

 ようやく片付けが終了した。

 と、一息吐くのも束の間。突如背中に走る痛みと共に俺は数メートル先に吹っ飛んだ。

 

「痛い………」

 

 なんとなくではあるが、デジャヴだこの感じ。今回悲鳴は上げなかったものの、いつぞやの宴会でもこれに似た事があったな。あの時は背中にダイナミックタックルを喰らった。……さて、今回はというと。

 

「乖離、おーそーい」

 

 不満気に吹っ飛んだ俺を見下ろすこころちゃん。その表情は相変わらず無表情なのでよく分からないが、彼女の目がなんとなく不満を訴えてきているように感じる。

 まあそれはいいとしてだ、何故今回も俺は吹っ飛ばねばならないのか……。

 

「あんまり遅いから蹴っ飛ばしてみたよ♪」

 

 理不尽です。とても理不尽に思います。昼食と優雅な一時を奪われた挙げ句揺さぶられて吐きそうになったり、片付けが遅いという理由で蹴り飛ばされたり、踏んだり蹴ったりであるな!

 

「可愛く言ってもアウトです」

 

「もっかい蹴られたい?」

 

 何故そうなるのか……。というか俺に一体何の責があるというのか?待たせてしまったことはすまないと思うが、いくらなんでもそれだけの理由で蹴られる意味が分からない。こころちゃんってこんなに暴力的な娘だったかな~。

 

「それは流石に勘弁してほしい。てか、蹴られたら遊んであげられなくなるよ?」

 

「そっか!じゃあ蹴らない」

 

 単純思考の子供はチョロイぜ!なんて言う気は無いし思いもしない。とりあえず蹴られずに済むのであれば何でもアリだと思う。

 

「じゃあ早速遊ぼう!」

 

「いいけど、何して遊ぶの?」

 

「乖離は何して遊びたい?」

 

 そんな事を聞かれても困るのだが……。遊びたいのは俺では無くこころちゃんではないのだろうか?急に何して遊びたいとか聞かれても出て来ないしなあ。したいことがあるとすればさっさと部屋に籠って読書がしたい。

 なんて考えていても仕方ないな。遊びたい事がある訳ではないが、ここは無難に鬼ごっこと言っておこうかな。

 

「そうだな~、鬼ごっこなんてどう?」

 

「二人で出来るとか思ってるの?」

 

「やろうと思えば……」

 

「乖離はバカなの?」

 

 この言われようである……。折角案をだしてやったというのにこころちゃんは呆れたように息を吐く始末。こころちゃんなんか酷くないか俺の扱い……。

 

「ならこころちゃんは何かしたい事でもあるのか?」

 

「命蓮寺解体ショー」

 

 この娘ほんとどうしたの今日。いつもはこんな感じじゃないのにさ……。

 因みに言って、命蓮寺解体ショーは却下だ。そんな事したら俺が聖さんに殺されそうだし……。

 ん?でも少し待ってほしい。そういえば宴会時に聖さんと別れた時に遊びに行くって約束したんだっけな。よし、それで行こう!命蓮寺に遊びに行こう。

 

「こころちゃん、命蓮寺に行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 上記の思い付きで、こころちゃんの案内もあり来てみました。命蓮寺……。

 

「デカイのぉ~」

 

 第一印象がそれである。幻想郷に来た初日にあの高台で見た事はあったが、改めて見るとなかなかなサイズと規模だ。門にはしっかりと『命蓮寺』と書かれてあるし、立ち入りの際の注意事項などの看板もちゃっかりと用意されている。

 

「乖離、入らないの?」

 

 呆気に取られている俺を他所に、こころちゃんはさっさと門を潜り敷地内に入っていた。

 

「そいじゃ、お邪魔します」

 

 門を潜りいざ入門。

 したのはいいものの、辺りに見える者達は妖怪ばかりで人間がまるでいない。普通の寺ではないと思っていたけど、まさかここでとは思わなかったかな。幻想郷縁起で読んだことがあり、妖怪寺と呼ばれていたがまさにその通りとは驚いた。

 付け加えるのなら、この寺に来ている妖怪達は決して弱くない者達ばかりだ。皆がそれなりの実力を備えた者であるのは見たら分かる。……だがしかし、ここまで悪意や敵意を抑えている妖怪達がいるとは珍しいものだ。通常妖怪には表立って人間以上の悪意と敵意が出ているものであるからな。無論のことだがそれは紫を始めとした者達も例外ではない。

 

「ねえこころちゃん、ここにいる妖怪達は特別な修行でもしているのか?」

 

「うん、ここにいる妖怪達は皆聖の弟子みたいなものって聞いてる」

 

「ほうほうそれはそれは」

 

 妖怪が人間を師事するなんて中々珍しいものだ。逆ならいくらでもあったんだがな。流石は大魔法使いってとこかな?

 

「げ、何であんたがいんのさ……!」

 

 突如として聞こえた驚きを含んだ嫌々そうな声色。

 振り返ると、そこにはいつぞやの異変で出会った主犯格の少女が苦虫を潰したような表情で立っていた。

 

「久しぶりだなぬえ」

 

「おひさ~」

 

 俺の挨拶に続きこころちゃんは片手を挙げて軽く手を振った。それを見たぬえは目を逸らしながらタメ息混じりに近づいてきた。

 

「なんでいんのよ……」

 

 如何にも嫌そうな態度を隠そうともせずぬえは目を細め問いかけて来る。答えるべきことは単純に遊びに来たということぐらいしかないのだがなあ……。

 

「聖さんに遊びに来いって誘われてるからかな?」

 

「私は案内役」

 

「ふーん……」

 

 相変わらずの目付きで興味無さげに相槌を打つぬえ。そんなに俺が来たのが気に食わなかったのだろうか……。もしそうなら俺はとっととお暇して我が家でゆっくり読書に耽っていたいのだが。

 それも一つの手とは考えたが、やはり折角遊びに来たのだから聖さんの顔を見てからでも遅くはないだろう。

 

「それにしても、やっぱ妖怪の気配が多いなここは」

 

「伊達に妖怪寺だなんて呼ばれてないからな」

 

 そう呟きながらぬえは俺に背を向けて歩き出した。

 

「聖に会いたいんでしょ?ついてきなよ」

 

 俺とこころちゃんは一度目を合わせ意思確認を取る。

 こころちゃんはコクコクと首を縦に振るので、俺は一つ息を吐きぬえの後に続いた。

 

 

 

 ぬえに案内されながら、俺とこころちゃんは寺の中を徘徊していた。あちこちに見える仏像や、廊下に支え柱はきちんと掃除が行き届いており清潔感が出ている。それでいてどこか不思議と気分が落ち着く感じがする。こんなとこで読書なんてしたら最高なんだろうなあ……。

 歩いてどのくらいしただろうか、階段を四つか五つほど上がった先に見える一際変わった襖が見えた。それを確認すると、道中一度も振り返らなかったぬえがこちらに振り向き、先に見える襖に指を指した。

 

「あこに聖がいるから」

 

「案内ありがとうなぬえ」

 

「別に……」

 

 ぶっきらぼうに答えたぬえは来た道を戻り始めた。

 

「乖離、私はぬえといるね?」

 

「はいよ」

 

 ぬえを追うように、こころちゃんも来た道を戻っていった。

 さて、一人になってしまった俺ではあるがどうしたものだろうか……。目前に見える襖に手を掛けるべきだろうか迷う。中には数人の妖怪と人間(?)がいるようだが、一切話し声が聞こえてこないということは何らかの業務でもしているのだろうか……。

 ここで油を売っている訳にもいかないので、失礼を承知で声だけでも掛けてみるとしようか……。

 襖の前まで移動した俺は、深呼吸をして声を一つ掛けてみる事にする。

 

「すいません、聖さんはいらっしゃいますか?」

 

 襖越しに声を掛けて数秒、中からこちらに歩いて来る足音が聞こえる。少しの間と共に襖が開かれた。

 中から出て来たのは、ネズミような耳をした灰色の髪の毛が特徴的な少女だった。

 

「おや客人かい?すまないね、聖は今精神統一の最中でね、もう少し待ってもらえるかい?」

 

「そ、そうですか……」

 

 どうやらお取込み中だったようだ。しかし精神統一とはまた風情のあることをするんだな。流石は宗教家というとこなんだろう。

 それはそうと、精神統一がいつまでかかるかは分からないが、しばしの間待たねばならなくなった。さてさてどうしたものかねぇ~。

 と、思っていたところ。

 

「どうだろう?聖が精神統一を終えるまで中で見物でもしながら待たれるかい?」

 

「じゃあそうします。けど、いいんですか?」

 

「心配ないさ、ここには悪い奴なんていないからね」

 

 そういう問題ではなく、部外者にそういった神聖な義を晒してもよいものだろうかという問いだったのだがな。まあ折角入る許可を得たのだし、お言葉に甘えておくべきだろう。

 

「そうそう、名を聞いてもいいかい?私はナズーリンだ。見ての通り妖怪さ」

 

「俺は氷鉋乖離です。まあ、言うまでも無く人間です」

 

 簡単な自己紹介を済ませ、襖を潜り部屋の中に入れてもらうとそこには沢山の巻物や御経が綺麗に並べられており、部屋の中心には宴会の夜に出会った住職こと聖さんが大きな大仏と向かい合うように座っていた。

 精神統一とは先程ナズーリンさんから聞いたが、正直驚いた。あれは精神統一なんてレベルじゃない。最早無我夢想の領域ではなかろうか……。俺がこの部屋に入ってきたというのに、聖さんは全く微動だにしていない。自分の世界に入っているとい言葉があるが、彼女の場合は自分の世界を意図的に創り出し外部を遮断しているのだろう。そんな真似が出来る者はこの幻想郷にもそう居ないだろうな。

 精神統一に耽っている聖さんから少しばかり目を放し、俺は周りを見渡しながら用意してもらった座布団の上に膝を下ろす。

 この部屋には聖さんとナズーリンさん以外にも、数人の変わった者達がいた。一人はセーラー服を着て室内だというのに帽子を被った少女。何故に船長帽なのかは知らない。

 二人目は如何にも虎を思わせる恰好をした女性。見る限り危険な感じはしないが、内に秘めている妖力が彼女の実力の高さを物語っている。……不用意に手を出さない方がいいだろう。そもそも出さないけど。

 三人目は……何だろう、見た瞬間に紫が浮かんだのは……。俺と目が合った瞬間口元を怪しく歪ませる女性。大きな狸のような尻尾を持ったこの女性は、なんとなくではあるが妙な事を企んでる時の紫に似ている……胡散臭さそうなとこが特に……。

 

 ある程度この部屋にいる者達は把握した。一人俺の苦手なタイプの女性が居るがそこはまあ気にしないでおこう。このまま聖さんが精神統一が終わるまで待つのはいいとして、特にすることの無い俺はどうしたものか……。一緒に精神統一をして時間を潰すのもやぶさかではないが、多分寝てしまいそうになるだろう……と思う、多分。

 

 なんて事を考えている間に、どうやら聖さんの精神統一が終わったようだ。

 

「お疲れ様です聖」

 

「ありがとうございます星」

 

 星と呼ばれた虎を思わす女性はタオルを聖さんに手渡し、それを受け取った聖さんは顔を拭いている。そんなに汗でも掻いたのだろうだろうか。だとするならば流石の集中力だ。

 

「お疲れ聖」

 

「ありがとうございますナズーリン」

 

「終わって早々だが、聖に客人だよ」

 

「あら、今日は客人の予定は入っていない筈ですが……」

 

 聖さんは不思議そうな表情で後ろに居る俺の方に振り向いた。

 すると、驚きを含んだ嬉しそうな表情に変わり急激に接近して来た。……近い近い。

 

「乖離さん!お久しぶりです!遊びに来てくださったのですか?」

 

「え、ええまあ……」

 

 突然の空気の変わりように、思わず苦笑いが出てしまう。さっきまで神聖な義を行っていたとは思えないなあ……。

 聖さんの急変に驚いたのは俺だけではなく、どうやら周りの方々まで困惑している様子だ。まあ急にテンションが跳ね上がった人を見れば誰だって驚くよな……俺だって驚いたし。

 

「聖、知り合いだったのかい?」

 

「ええ、この方は氷鉋乖離さんと言って先の異変でぬえを止めてくれた方ですよ」

 

「ほほう、君がぬえの言っていた……」

 

 ぬえが何を言っていたのかなんとなく察しがついた。なんせナズーリンさんのなんとも言えない表情を見ればな。おそらくいらんことでも吹き込んだんだろう……。

 それはまあいいとして、向こうは向こうで何やら話し合いをしているようだ。

 

「聖、そこの方は先の異変でぬえを止めて頂いた恩人なのですよね?でしたら出来るだけこの命蓮寺を気に入って頂けるようおもてなしをして、あわよくば入信していただきましょう」

 

「それがいいね。見たところ妖怪に対する差別意識もないようだし、彼が命蓮寺に加われば大きな核心となる筈」

 

「それにさ、意外とイケメンじゃん?私結構好みかも」

 

「よいではないか、入信させてはどうかの聖殿?」

 

 などと言った事を五人こぞって耳打つし合っているようだが、まったくの丸聞こえだという事に気付いていないのだろうかこの宗教家達は……。俺は宗教間で存在する物事の捉え方や解釈は好きだが、だからと言って入信などする気はないのだが……。

 四人に言い寄られる聖さんはというと、以前俺が勧誘を断っているのでなんとも微妙な表情だ。おそらく無理に入信を勧めて俺の機嫌を損ないたくないようである。まあそんなもの豊聡耳の勧誘ラッシュで慣れているのでどうとも思わないのが本音だ。

 

「と、とにかく今日は折角ですので楽しんで行ってください乖離さん」

 

 あ、逃げた。四人からの圧力に耐えきれずか、聖さんは顔を赤くし上記の言葉を俺に投げかけて来た。その一方で不服そうな四人は親指を下に向けて「ブーブー」とブーイングを飛ばす。

 それを聞いた聖さんは魔力を開放し、

 

「南無三!!」

 

 という掛け声とともに四人にキツイ拳骨を叩きこんだ。クリーンヒット、一発K,О。自業自得だな。

 唸り声を上げ頭を抱える四人を無視し、聖さんは部屋を後にしようとし。

 

「部屋を変えましょうか?客間でしたら将棋や囲碁くらいなら置いていますよ」

 

 と気を遣ってくれた。勿論乗らないわけがない。

 

「ええ、是非」

 

 俺は聖さんに続くように部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 その後はこころちゃんやぬえを交えて将棋や囲碁を楽しんだ。………無論の事だが俺の一人勝ちで終わったがね。

 




今年もいよいよ終わりですね……早いものです。

新作は来年になりそうです。

次回もお楽しみに!!

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