東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

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二十九話 不死とは

Side妹紅

 

 

 

 乖離がキレて、クラスターカードを使用したせいで永遠亭の客間は大惨事になってしまった。床は切り裂かれ棚は吹き飛び、座っていたソファーはビリビリに破けている。ハッキリ言ってしまえば部屋は無茶苦茶になっている。

 

 やらかしたのは乖離である訳なんだけど、そうさせたのは他でもない。頭のネジが飛んだ二人組だ。

 因みにいうと完全に被害者となった私と優曇華は、今まさに乖離から説教を受けている二人のアホに代わって部屋を掃除中だ。まったくとばっちりもいいとこだよ……。

 まあそれでも良かったことがあるとすれば、ある種の拷問を受けている輝夜が見られたということかもね。

 

「俺は再三言ったよね?色仕掛け断固拒否と……」

 

「「はい……」」

 

「お前ら千年以上も経って一体何を学習したわけ?」

 

「「乖離(様)の愛し方……」

 

「………ふざけてんの?」

 

 二人の返答に対し、乖離の声のトーンが下がった。それだけじゃなく、アメジストに輝く瞳が何故かハイライトを消してるように見えるんだが……。うん、こっから見ててもかなり怖いな!

 

「「すいませんでした!」」

 

 そう言って、『私は淫らな真似をしました』という看板を首に掛けた二人が乖離に土下座をした。あんまりにも珍しいものなので、見ていてなんだか飽きないなあ~。

 

 それはともかくとして、そろそろ部屋の片付けも終わりそうな頃合いだ。基本部屋を汚したりしない私だから掃除はやったことが少ないけど、優曇華は永遠亭の下っ端な訳だし、手も早いし動きもテキパキとしているから存外スムーズに行きそうだ。

 しかし手は動くにせよ、やはり優曇華も主人二人が一人の人間相手に頭が上がらない姿をみるのが珍しいようで、ちょくちょく二人の様子をチラ見していた。

 

「そんなに気になる?」

 

 割れた瓶を拾いながら、私は上記の問を優曇華に投げかけた。

 

「そりゃうね……あのお二人が人間一人相手にあの態度よ?明日は槍が降りそう……」

 

 確かに、それは分からなくないかも。誰に対しても上から目線の二人が乖離相手にはまったく頭が上がっていない。見ている分には面白いんだけど、実際に私もされたらああなってしまうのかな……。

 なんて思っていると、輝夜が助けを求めるかのような目で私と優曇華を見て来た。

 

(妹紅助けてお願い!!)

 

(いや~、無理だろ)

 

(イナバ~……)

 

(申し訳ありません姫様無理です)

 

 そんな感じのアイコンタクトを取っていると、どんどん輝夜の目に涙が溜まってきているのが分かる。……おそらく相当怖いんだろうなあ~。

 こっちを向いて、今にも泣き出しそうな輝夜を見るのは気分がいい……筈なんだけど、何故かな?この上なく救出してやりたいと思ってしまう。ホント不思議だよ。

 

「どこを見ているんだ輝夜、説教中に余所見とは随分と偉くなったなぁ?」

 

「申し訳ありません乖離様!!」

 

 ……こわっ!!何あれ超怖いんだけど!?

 全く笑っていない笑顔で脅され、輝夜は瞬時に泣き泣き乖離に向き直る。……もうあれだね、不憫っていうか何と言うか……ドンマイだ。

 半ば諦め思考で作業を進めていると、ようやく片付けが終わった。それはどうやら私だけではなく、優曇華の方も掃除が終わったようで、二人して新たに用意したソファーに腰かけた。

 

 

 

「あの説教って、いつ終わると思う~?」

 

「乖離の気分次第じゃないかしら~」

 

 もはや他人事のように私達は棒読み感覚で上記の言葉を口にしつつ、二人だけでお茶を啜った。

 さてさて、片付けも掃除も終わった事だし私達は何をしようか……。特にやる事が無くなった身なれば、後はもう目の前で手ひどく絞られる二人の見物しかないようだ。とはいえ、殺気かと思わせられるほどにハイライトを無くした乖離の視線。それを一身に受け続けるともなれば、多少なりと……いや、結構良心が働きそうになるな。

 でもだからと言って乖離を止めたりなんてしない。因果応報、乖離を怒らせたのはあの二人な訳なんだし仕方がないよね。仮に止めたとしても、おかと違いもいいとこなので逆に私が乖離に怒られそう……。それだけは勘弁!

 

「ふう、少し外に出て来るよ」

 

「説教は?」

 

「帰ってから」

 

 ……まだ続くのこれ?どんだけ根に持ってるんだ乖離……。

 乖離は一度だけ正座させている二人を見て、客間から出て行った。

 

 ようやくというのかな?説教タイムは一時休憩に入った。

二人は正座を崩し太もも付近を擦っていた。どうやら相当痺れてしまったのだろうな。まだ三十分も経っていないのだけれどね。

 

「あ、足が……」

 

「キツイわね」

 

 こういう時、労いの言葉を掛けてやればいいのだろうか……それとも自業自得と嗤ってやるべきか……。う~ん、迷うなあ。どっちにしたって反感を買いそうだしな。

 

「う~む、やはりいきなり脱ぎ出すというのはアウトだったみたいね。やっぱりムードが大事かしら」

 

 ん?今この薬師なんて言った?

 

「やっぱりノリじゃダメみたいね……やっぱりこう、乖離様自身が望んでくるように工夫しないといけないわね」

 

 このバカ姫まで……。

 

 こいつら、あれだけ絞られて尚懲りぬか……。ここまでくればもはや執念だな。一種の尊敬の念を覚えそうになる。優曇華なんて『こいつら手遅れだ』みたいな顔して諦めてるしさ。

 

「お前ら懲りないのか?」

 

「「何によ?」」

 

 ダメだこいつらもう手遅れだ!乖離のあれほどの説教を喰らって何事も無いかのように立ち直ってる。もうあれだな、しつこい通り越して厄介だぞ。こんな奴らの相手をしなければならない乖離が哀れ過ぎて涙が出そうになる。

 まったく、揃いも揃って拍車が掛かり過ぎなんじゃないのかなあ……。それともこいつら一定の条件下ではマゾにでもなるのか?

 

「乖離が不憫すぎるだろ……」

 

 努力をしたって報われない。……特にこいつらに限ってはブレない折れない諦めない。どれだけ乖離が頑張って説教をしたところで意味はないみたいだ。

 

「もし乖離が不老不死のままだったら、こんなのとずっと居ないといけなくなるんだろうなあ~」

 

 私がそう口にすると、突如として輝夜の目が変わった。

 

「妹紅………それはどういう意味?」

 

 若干の焦りと緊張を含んだ声が耳に届く。輝夜は信じられないといった表情で私に詰め寄って来た。

 

「妹紅!どういう意味なのか答えなさい!!」

 

「い、いや……言葉通りなんだけど」

 

 あまりの気迫に圧されついつい引き気味になってしまう。というか、輝夜のこの急変振りは一体なんなんだろう……。妙に慌てているし。

 

「永琳は知ってた?」

 

「いえ、私も初耳よ……」

 

 どういうことだろう……。乖離は自分が元不老不死だってことをこの二人に開示していないのだろうか……。だとしたらこれってこの中では私しか知らなかった秘密って事になるんじゃ……?

 

「妹紅、少しいいかしら?」

 

「な、何?」

 

 先程とは打って変わって、真剣な表情で永琳が問いかけて来る。まだ看板ぶら提げた状態で……。

 

「乖離が不老不死だっていう事はいつから知っていたの?」

 

「先の異変後の宴会で教えてくれたよ……。それと、あくまでも乖離は『元』だからね?」

 

 二人は依然として何かを深く考え込んでいる。状況整理が間に合っていないのかな?私も初めて乖離が元不老不死だって聞いた時は驚いたし、泣いてしまったりもしたけど、この二人は私の時とは何かが違う気がする。

 私の予想ではあるんだが、もしかしたらこの二人は乖離を再度不老不死にするつもりではないだろうか……。

 輝夜も永琳も、どっちも乖離を愛している訳なんだし、最愛の人と永遠に居続けたいと思うのは当然の事なんだと思う。ひょっとしたら……私もそうするかもしれないし。

 

 

 

 もしも、私の予想通りこの二人が乖離を不老不死にしようとして、それを乖離が拒めば一体どうなるんだろう。……あまり考えたくはないが、戦いとかになるんだろうか。そうなればおそらく乖離に勝ち目はないだろう……。

 月での過去を聞いたから思ったが、乖離は当時よりかなり弱体化している。永琳すら上回る力を有しているにも関わらず、異変の際はその片鱗を全く見せていなかった。実際のとこは乖離しか分からないんだけどな……。

 

 それでもやはりこれはあくまでも私の予想に過ぎない。当たるかどうかは別としてだが、こいつらに限って乖離と戦うなんて事は無いと思う……。

 

「乖離様が元不老不死………蓬莱人とは違うまた別の不死ってことになるのかしら?」

 

「まあそうなるな。蓬莱人とは、永琳の作った蓬莱の薬を服用した不老不死の事を指すのだろう?」

 

「そうですね……。では、乖離様の不死とは一体……………ん?」

 

 ……何事も無いように会話に参加し、何事も無いように椅子の上に腰を掛ける。そんなスムーズな動きに私達は何も対応できなかった。何の違和感も感じられず、誰もが平然としてしまったのだから……。

 私は帰って来た乖離の鮮やかな入室に内心拍手を送りながらも、その実肝が冷えるほどに冷や汗を掻いていた。なにせ、乖離の目と表情がこれでもかってくらいに怒りの感情……もはやオーラが滲み出ていたのだから。

 

「「……………」」

 

 二人はそんな乖離を見て無言で震え始める。尋常ではない程の恐怖心を抱いているのか、輝夜は歯をカチカチと鳴らせながら青ざめ震えている。

 一方の永琳は……もう、なんかよく分からん。とりあえず表現できるのは、あまりの恐怖の勢か顔が死んでいる。

 

「いつ誰が正座を崩していいと言ったんだ………ん?」

 

 怖い……とりあえず怖いよ乖離。こっちまで震えて来そうなほどに怖い!

 

「お前ら二人……そのまま一生正座して生きていくかい?」

 

 清々しい程の笑顔で、なんとも残酷な事を口にする乖離。容赦とか情けとか、そんなものが一切感じないんだけど……。い、いつもの優しい乖離は何処へ行ったのか。

 そんな乖離の言葉を聞いた優曇華が、そっと乖離の肩を掴んだ。

 

「乖離、もうその辺で許してあげて?お二人もきっと反省しているから……ね?」

 

 ナイス優曇華!と叫びたくなる衝動を必死に抑える。今そんなこと言ったら絶対殺されるから……。

 それは置いておいて、流石の乖離も小さく一つ息を吐き目を閉じた。

 

「分かったよ優曇華ちゃん。今回は君に免じてこの場は収めるとしよう」

 

 ようやく、アホ二人は乖離の拷問(説教)から解放された。

 今にも泣きそうだった二人は深く、深く乖離に懺悔した。とはいえ、懲りてない様子ではあったけどね……。

 

「さてと、俺は帰るとするよ」

 

「え!?もうお帰りになられるのですか乖離様」

 

「いやだって、こころちゃんがさっさと戻ってこいって言うからさ」

 

 ん?何でそこでこころが出て来るんだ?

 

「さっき俺が外に出たのはさ、こころちゃんから電話が来てたからなんだよ。それに、こころちゃん関係無しにくだらない説教も終わらせて帰ろうと思ってたし」

 

 電話って言えば、あの受話器の事だろう?乖離そんなの持ってきてなかったと思うんだけどなあ。それとくだらないって……あれだけ輝夜と永琳を絞っていたのに最後の感想がそれとは……。

 

「だって、こいつらどれだけ説教しても直さないし……もう俺面倒だし」

 

 その気持ちは何か分かるんだけど……だからと言ってその言いようはあんまりなような気がすんだけどなあ……。あとやっぱり乖離は覚り妖怪なんじゃないかな……?

 そんな事を思っていると、乖離はさっさと帰る準備を済ませていた。

 

「ありがとう、助かったよ。左腕が治ったのはあんたのおかげだよ永琳」

 

「気にしなくてもいいわよ?怪我した時はいつでもいらっしゃい!というか毎日来てもいいわよ?」

 

「毎日は遠慮しておく。流石に俺の精神が持たんから!」

 

「ではせめて、送らせてください乖離様」

 

 まあそれだけなら、と言って乖離はポケットから財布を取り出した。

 

「因みに治療費っておいくら?」

 

「無料よ」

 

「……そ、そう?」

 

 戸惑いながらも、乖離は財布をポケットに仕舞い込む。

 それはそうと、乖離が帰るなら私も送って行かないとな。一応連れて来たのは私な訳なんだし、送り届けるのもちゃんとこなさないとな。

 

 

 

 

※※※

 

 何故か優曇華だけを留守番に残し、私を含めた不老不死三人と乖離は揃って竹林の中を歩いていた。

 

「しっかし、ほんとここは案内が無いと迷いそうだな」

 

 来た時と同じことを口にしながら乖離は辺りを眺めている。そんなに珍しいものでもないだろうに、そんなにキョロキョロする必要はないんじゃないだろうか……。

 

「あ、そうそう。輝夜、これ返しておくよ」

 

 そう言って乖離は輝夜に左腕を突き出した。すると、乖離の左腕に金色の粒子が集まり、瞬く間に見目麗しい黄金の羽衣が顕現した。

 驚くほどに美しい羽衣だ。私が今まで見て来た財宝宝石の中で何よりも美しいと断言できる。まるでこの世の美を集約させたみたいだ。

 

「憶えていてくださったのですか?」

 

「当然だろ?そもそもこれは借り物だからな……。だいたい、再会の約定にと俺に渡したのはお前だろ?」

 

 私がその羽衣に見惚れている中、輝夜は乖離から羽衣を受け取りそれを今着ている着物の上から羽織った。

 

「うん、やっぱりそれはお前が一番似合うな!」

 

 綺麗……なんて言葉では足りない。美しいとか、神々しいとか、そんなチャチなもんじゃない。あれはもう……美の権化ではないのかと思う程に、今の輝夜はくしくも美しく見えた。女である私でさえも強く気を保っていないと膝を着いて拝顔しそうだ。

 でも、そんな輝夜を見ても尚乖離は何事もないように立っている。見慣れているのか、それとも美しさとかには興味がないのかな?……いや、そんな筈はないか。

 

「『天の羽衣』……随分と乖離様のお役に立てたみたいね」

 

「それには幾度となく助けられたからね~」

 

「お役に立てたのなら私は嬉しいです……。それに、乖離様の臭いもムンムンに……グヘへ///」

 

「ちょっと輝夜それ私にも嗅がせなさい!」

 

 折角いいムードだったのに、ホントブレないなこの二人は……。もう乖離もツッコまなくなっている辺り放置かな?

 

「やれやれだね」

 

「やれやれだよ」

 

 アホ二人を他所に、乖離は近く竹に背を任せ座り込んだ。歩き続けていたから疲れてしまったのだろうか。

 

「ねえ乖離、一つ聞いていい?」

 

「ん?」

 

 乖離は不思議そうな表情で私を見て来る。

 聞く事は一つだけだ。突拍子もない話だけど、乖離がこころとの電話で外に出ていた時にしていた話。……乖離の不死性についてだ。

 

「乖離ってさ、元不老不死だったんだろ?ならその不老不死って蓬莱人とどう違うんだ?」

 

 私がそう聞くと、乖離は目線だけを未だ尚天の羽衣とやらに鼻先突っ込んでいるアホ二人に向けて話してくれた。

 

「蓬莱人とは永琳作りだした蓬莱の薬を服用した人間が成る不老不死だ。それに対して俺の不老不死ってのは……星より与えられた純度100%の天然物。人の手によって作られた紛い物の不死とは違い、如何なる矛盾も通用しない究極系のものだったと思う」

 

「つまりどういうこと?」

 

「つまり、この世のあらゆる法則を無視し、人や妖怪・神によって鍛えられた不死殺しでは届かない代物だってこと」

 

 つまりは、月の連中が所持する不死殺しの魔弾や、神話に聞く不死殺しの魔槍をもってしても太刀打ちできない存在ってことになるのかな……?不老不死にも序列が存在しているんだろうか。

 だとしたらだ、乖離は蓬莱人やあのミミズクヘッドとは違い如何なる手段を用いても絶対に倒せないという事になるのではないだろうか……。

 

「この世のあらゆる理は星に還る。万物万象人妖神と、星によって派生した者ではその真域には届かない。だからこそ星々の集約性、絶対の不死は殺せない」

 

 そんな難しいことを言われても分かんないんだけど……。要するに、人や妖怪、又は神では乖離の持っていた不死を殺せないということかな?そもそも不死殺しなんてバカバカしい程の皮肉なんだけどな……。

 

「まあそれでも、星断剣を用いれば絶対の不死も関係無く消し去られるんだけどね」

 

「チート武器……」

 

「ハハ、違いないな。アレには星の理とか関係無いし」

 

 乖離はそう言いながらケラケラと笑っている。私にしてみれば話の中でしか理解できていないが、永琳の全力をいとも容易く葬り去った物だったと思う。永琳の強さをしっているからこそ、最初は信じられないものなんだけどな。

 それと、結局のところ乖離の不死性と蓬莱人の不死性ってどこがどう違うんだろうか……。

 

「なあ、結局のとこ乖離の不死性ってなんな訳よ?」

 

「妹紅達蓬莱人の不死性は肉体の再構築と魂の固定化ってのに対して、俺の持っていた不死性は情報のリセット。要は初期化ってとこさ」

 

「ハ?」

 

 言っている意味がよく分からず間抜けた反応をしてしまった……。情報のリセットって何?

 そんな私を見て、乖離はため息混じりに詳細を説明してくれた。

 

「つまりだな?その人物を一個体の情報体として、傷を負う=新情報の追加っていう解釈をする。んで、追加された情報は元あるデータには余分なのでこれをリセット・消去して初期値に戻す。Didyouunderstand?」

 

「なるほど……。ていうか、何気に私をディスっただろ?」

 

「爆炎頭脳にはこれくらいが分かりやすいかと」

 

「あ!またディスったな!!」

 

 流石の私も怒った!こいつ一度ならず二度までも私を馬鹿にした。よし、輝夜よろしく燃やしてやる!

 そう考えた私は炎を纏い、一足たに乖離に蹴りかかった。

 

「喰らえ乖離!」

 

「危なっ!」

 

 乖離はすかさず回避行動に移り私の蹴りは紙一重で躱された。しかし炎を纏っていたことで多少なりと乖離の慌てた姿が見えた。

 

「何すんだ妹紅!」

 

「私を馬鹿にした罰だ!燃やして灰にしてやる!!」

 

 私がそう言い放つと乖離は「逃げるが勝ち!」と叫んで走りだした。勿論逃がす訳はない。追いかけてとっ捕まえて燃やす!でも乖離走るの速すぎないか?人間離れした速度なんだが……。

 しかし追いつけない速度という訳では無い。故に、私は乖離に出来ない飛行を駆使して乖離を追跡する。

 

「逃がすか!乖離!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局のところ私や輝夜、永琳と言った不老不死は乖離をして完全ではない紛い物ということらしい。それがどこまでの完成形であるのかは私には分からないが、私達の知らない不死の領域があるということは理解した。

 不老不死となって千年以上生きて来た。嬉しい事や楽しいこと以上に、悲しい事や苦しい事が多かった。もう何度も死にたいと考え、あらゆる死に方を試みても全てが失敗に終わった。生きる事に絶望し、死ぬことだけを渇望し、その合間に憎き怨敵と殺し合った。

 永遠に続くこの命尽きる事は無く、幾星霜と時が経とうとこの身が変わる事は絶対に無い。

 

 

 だけど最近、生き続けて良かったと思うことが出来た。友人である慧音に言えば泣いて喜ばれるかもしれない。

 それはとある外来人との出会いだ。……彼は元不老不死で、数多の戦場を乗り越えその地に立つ。その立ち振る舞いは歴戦の猛者を思わせない程に優しく、傍にいると心安らぐ気分だ。

 しかし彼には優しさと同じく、人間ではありえないほどの非情感を備えているように見える。まるで機械の様に物事を全て割り切っているようにだ。

 私の想い過ごしであればいいのだが、過去の話を聞くとそのイメージがより鮮明になってくる。

 それでもだ、彼は私とは違って自身がどうあるべきなのかよく理解している。行き着く果ての無い私とは対照的に真っ暗な世界に自らの意思で進んでいる。その姿は私には眩しく、お手本みたな存在に見えて来る。

 だからこそなのかな……。彼の前に立っているだけで動機が激しくなったり、名を呼ばれるだけで幸福感を感じてしまうのは。

 

 

 私もバカじゃないからね、もうこの感情には察しはついている。きっと私は……強く、儚く、全てを受け入れてくれそうな彼に………氷鉋乖離に恋をしているんだと思う。

 でないと、こんなにも笑顔で追いかけたりなんてしないから。

 

「待て乖離ぃぃ!!」

 

「ぬおおおおお!いつまで追ってくるんだよお前!?」

 

「永遠にだ!」

 

「永遠に?!」

 

 そっ、永遠に♡

 




≪余談≫

輝夜「乖離様が消えた!」
永琳「あらホント」
輝夜「……最後に別れのキスしたかったのに……」



よし!次回でこの章も完結です。長すぎですね~

次回は月視点となります。

それと新作ですが、ただいま構成中です。何度か書いては消しての繰り返しでなかなか納得いくものが作れません。
申し訳ありませんが、新作は完成し次第投稿することにします。

それでは、次回もお楽しみに!!

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