東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

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グダッタ~!!

すいません、多分やらかしました。


二十八話 思いの他

Side妹紅

 

 

 

 お茶を啜りながら、一息吐く。乖離、輝夜、永琳が月で起こった事、その後にあった出来事を語り聞かせてくれた。戸惑いもあるし、ハッキリ言って話に付いて行くので私は手一杯だった。ツッコミたいところは多々あれど、そんな気も失せてしまう程に淡々としたものだった。

 色々とあったのは分かったし、乖離が宴会の時に話してくれた自身の過去についてのこともあの時よりは少し深く語ってくれた事で、大体の理解はできた。

 

 それでも、どういった経緯で乖離が月の赴いたのかは、頑なに語ってくれない。単純に仕事だったからと場を濁していたが、その真意が別にあるというのは私じゃなくても気付いていたと思う。

 でもやはり驚いたのは、乖離の強さはたった一人で月を征服できるほどのものだったということだ。異変の時も『クラスターカード』による規格外の強さを見せたというのに、まさかアレの更に上があったなんてね。自称人間様は凄いもんだと思ったよ。私の知っている中でも幻想郷の事実上最強は永琳だと思っていたけど、どうやらその認識は更新しておかないといけないらしいね。

 

 それでも疑問に思う事はある。……話を聞いていた時もそうだったけど、どうして乖離は月の民を一人として殺さなかったのだろう。忌み嫌い、憎んでさえいる月の民なのに乖離は誰一人として殺したとは言っていなかったし聞いていない。

 憎しみもある、嫌悪感もある。であれば殺してやりたいと思うのは必定ではないのか?私や輝夜がそうであるように………。その件に関して、聞いてみようかな。

 

「ねえ乖離、乖離は月の民を殺してやろうとは思わなかったの?」

 

 唐突な問。私の問に乖離は一瞬だけ目を見開いたけど、すぐさま冷静な目に戻った。

 

「どうしてそう思うんだ妹紅」

 

「私や輝夜がそうであるから……かな?」

 

 そう答え、私は一瞬だけ輝夜を横目で見た。その時の輝夜の表情はなんとも言えない感じだった。

 ふむ、と乖離は顎に手を添え考え込む姿勢を取った。その仕草は哲学者を思わせるようなものだった。

 

「……あるよ。殺してやりたいと思った事は、何度もね」

 

 ……そう、乖離は呟いた。辛そうに言った訳でもなく、申し訳なさそうに言った訳でもない。ただ淡々と真実を告げるように。

 

「乖離様……」

 

 輝夜は心配そうに乖離に声を掛ける。それでも乖離は輝夜に向き直る事はせず、ただじっと私の方を見続けていた。もちろんのことだが、私も同じように乖離に向いている。それに、乖離はまだ何か言いたげだし。

 

「それでも、俺は無益な殺生は嫌いでね。……どいつもこいつも根の歯も無い世迷言を揃えては雑言のように吠えまわる月の民といえど、俺には殺す理由は無いんだよ」

 

 こじ付ければ話は別だが、と付け加えて乖離は答えた。それはつまり、腹が立ったという理由で殺すみたいな低俗な考え方はしないってことなんだろうか……。

 

「俺は鬱陶しいとか、ムカついたからといった理由で命を奪えるほど完成していないんでね……自分が上等だと思い上がりはしないさ」

 

 そう言って乖離は私の心情を悟っていたような口ぶりで告げた。その際軽くウインクされたのはどうやら、完全に私が何を思っていたかを知っていたってことじゃないか……。覚り妖怪かよ!

 

 それでもやっぱり、乖離は優しいんだな。自分がどういう存在であるかを理解し、弁えている。その姿を考えただけで、何故か私自身と比較してしまうのは何故なんだろう……。自分が不老不死としてどうあるべきなのか理解していないからかな。

 なんて事を考えていると、今度は私ではなく優曇華が乖離に質問を投げかけた。

 

「乖離は、戦争とか怖くないの?」

 

「これはまた唐突だね」

 

 優曇華のしおらしい態度を見るからに、乖離の過去と月で結んだ条約を聞いていよいよ自分から踏み込む気になったみたいだ。その行動を見た他二人も少し固かった表情が緩んでいたしさ。

 

「戦争ねえ……俺は神でもなければ妖怪でもない。ただの人間だから怖いな」

 

 どうみたらただの人間なんだと……ツッコまない方が良さそうだな。私以外の二人は全力でツッコミたい衝動を必死で堪えてるみたいだし。

 

「逃げたいと思った事は無いの?」

 

「それは無いかなあ……。俺にとって戦争は確かに怖いものではあったけど、だからと言って逃げたいと思う程のものではなかったかな」

 

 そりゃそうだろうね……永琳を圧倒できるほどの強さがあるんだから、どの戦争でも無双しまくれたんじゃないかな。

 ん?でも確か話の中でサグメってのが『神話戦争』だのなんだの言ってた気がするんだけどなあ……。あれは一体どんな戦争なんだろうか。神や人間がどうこう言っていた気がする。

 

「乖離は強いのね………」

 

 優曇華は少しだけ顔を俯かせ、そう呟いた。その声色は明らかに自分を卑下しているものだった。その証拠に優曇華は悔しそうに……それでいてどうしようもないやるせなさに体を震わせていた。

 私も聞いた事はあるけど、確か優曇華は月から逃げて来た脱走兵だって聞いた。戦争が怖くて、どうしようもなくて逃げ出したのだとか……。私も詳しくは知らない。

 ただ、そんな優曇華を見ても乖離はこれといったアクションを取らない。先程まであれほど優曇華を問い詰めていた姿が嘘のように、乖離は腕を組んだまま動かない。

 

 

 

 

「震えるほど怖いのなら……その震えすら笑えるほどの恐怖をその身に刻み付けるといい」

 

 不意に、若干いままでよりもトーンの落ちた声で乖離が言葉を紡いだ。それは強く、圧の効いた声で。

 

「どういうこと?」

 

 おそるおそると、私は隣に座る乖離に問いかける。視線が一瞬こちらに向くが、すぐさま優曇華の方に戻った。

 

「戦うのが怖いならば逃げるといい……死にたくないのなら這いつくばって震えるといい。――――その果てに何もかもを失う事になったとしても逃げ続けるといい」

 

 アメジストの瞳は鋭利に、冷たく優曇華に突き刺さる。誰が止める訳でもないその眼光は私でさえも冷や汗を掻くほどに恐ろしかった。私でもこんなんだから、それを全身に浴びている優曇華はさぞ恐怖に顔を染めている事だろう。

 

 と、思ったけど案外そうでもないらしい。

 実際のとこ優曇華は呆気に取られたような表情をして固まっていた。

 再度乖離の方を向いてみると、その表情はさっきの冷たい眼光とは裏腹に心安らぐような笑みを浮かべていた。

 

「とはいえ、今の優曇華ちゃんはそうじゃないよね。君にも君なりの覚悟と決意があるんだろうし」

 

「え?」

 

 完全に呆気に取られている優曇華と、その状況を隣で楽しむ主人二人。

 もしかすると、乖離は全て理解した上でああいう言い方をしたのかな……。強い恐怖を取り除くためには、それを上回る恐怖が必要だ。そしてそれを克服することであらゆる苦難も乗り越えられる……的な?

 兎にも角にも、乖離は優曇華のやるせなさを上手い感じに取り除こうとしているんじゃないだろうか。乖離が言っていた月での約定の規定を確認するため。

 

 とはいえ乖離の事だろうから既に察しはついているんだろうけどね。

 

「戦争というワードと、その恐怖心から察するに君は脱走兵だろ?」

 

「……うん」

 

 優曇華は弱々しく答える。一方の乖離はやはりという顔で笑みを浮かべていた。

 

「そうか……。なら大丈夫そうだ」

 

 安心したように乖離はお茶を啜る。

 結局のところ、乖離にとって優曇華が脱走兵だというのはどうだっていいものだったのかもしれない。一番の要は優曇華が月の都の意思でこの幻想郷に来ているかどうかということだったんだろうな。

 

「あの~乖離、それだけなの?」

 

 未だに納得できていない優曇華は神妙な表情で乖離に問いかけるが、たった一言「うん」……というお気楽な返事で流されてしまった。ドンマイ優曇華。

 それでも、さっきのお気楽な返事の勢か、優曇華の表情が明るくなったと思う。

 

「それはそうと乖離様!忘れていましたがあのスキマ妖怪も乖離様の過去を知っているのだとか!」

 

「ん?ああ、うん」

 

 輝夜の今更焦ったような態度にも、乖離は依然として動じずに返答を返した。そもそもの話、輝夜はどうしてあそこまで焦っているんだろうか……。乖離の過去って言うんだから、何か知られてはマズイことでもあるのかな?

 

「うんじゃありませんよ乖離様!あのスキマ妖怪に乖離様の過去が知られているという事は、確実に乖離様の命が狙われるという事じゃないですか!」

 

「何故に?」

 

「う~ん、おそらく俺が元星の守護者兼執行者だったからじゃないか?」

 

 なるほど………ん?どういうこと?

 

「乖離様は元々世界を正しい方向へ廻す為に動かれていた星の執行者なのよ?歪みを断ち、その修正を施して忽然と姿を消す正真正銘の蜃気楼」

 

 うん、それは宴会の時に聞いたな。世界の歪みを断ち、本来のあるべき姿へと戻すのが執行者であった乖離の務めであったと聞いた。けどそれが何の問題があるんだろうか……分からん!

 

「それは知ってるけど、結局何が問題な訳?」

 

「ハア~、妹紅ここはどこ?」

 

「幻想郷」

 

「妖怪や神は外の世界ではどうなった?」

 

「神話になったな」

 

「そうよね?」

 

 結局輝夜は何が言いたいのか……。ここは幻想郷だろ?忘れ去られた者、本来外の世界で消える筈だった者達を招き入れ、存続させる最後の理想郷。

 神も妖怪もここでひっそりと暮らしている。(一部は例外)

 

 

 

 

 

 ん?待てよ?『忘れ去られた者』『本来世界から消える筈だった者達』………。世界の歪みを排除し、本来あるべき姿に戻す………。あっ!

 

「乖離って幻想郷の敵じゃん!!」

 

 ようやく思い至った。何故輝夜があの八雲を強く危険視していたのか、そして必要以上に乖離を案じていたのか。本当に今更なことなんだけど……。

 対する乖離は言わずもがな、相変わらず落ち着いた様子で笑っていた。

 

「気付くのが遅いわよ……」

 

「いや、普通気付かないだろ」

 

 幻想郷は本来の理から外れた異界の地でもある訳なんだし、確かに乖離は幻想郷の敵になるやもしれない。本人がどうかは知らないけど。

 

「兎に角、乖離様をあのスキマババアから守らなければ!」

 

「その必要は無いぞ輝夜」

 

「え?」

 

 乖離絶対守るウーマンに変身しかけた輝夜は乖離の言葉で停止を受けた。輝夜は意味が分からないといった表情でキョトンとしている中、乖離は涼しい笑顔で事情を説明していた。

 

 乖離の説明を受けた輝夜はというと、納得したのも然りという感じだったが、すぐさまさっきまでと同じ雰囲気に戻ってしまった。その訳はというと……。

 

「なんですかそれ!それなら尚更乖離様を守らなければ!あんな胡散臭い奴に乖離様を近づける訳にはいきませんよ!!」

 

「大げさだな~」

 

 乖離はやれやれと首を左右に振ってタメ息を一つ吐く。一方輝夜は相も変わらず「乖離様絶対守る!!」と叫んでいる。これには流石の乖離も面倒くさそうな表情になっていた。確かにあれは色々と面倒くさそうだな。

 叫び続ける輝夜を他所に乖離は何かを思い当たったのか、一つ大きく息を吐き立ち上がった。

 

「永琳、少し付き合ってもらえるか?」

 

「ん?ああ、いいわよ」

 

 そう言って永琳承諾をする。一体何に付き合うのかは分からないが、なんだか緊張して来た。一体何が起きるのか!

 そんな事を思っていた矢先、唐突に永琳が服を脱ぎ始めた。…………ハッ!?

 

「て、おいぃぃぃ!何脱ぎ出してんだあんたっ!!」

 

 これには流石の乖離も平静を失い、顔を真っ赤にして永琳から目を逸らした。対する永琳は何の躊躇いもなくさらに脱衣を進めていく。

 

「付き合ってほしいんでしょ?ならさっさとしましょう?」

 

「何をだよっ!」

 

「SEX」

 

「あったまおかしいだろあんた!どうしてそういう解釈になるんだよ!」

 

 とんでもないセリフが永琳の口から放たれ、それを耳にした乖離は更に顔を真っ赤に染めツッコミを強く入れた。だというのに依然として永琳は脱衣をやめない。というか誰も永琳を止めない……。私は完全に傍観者になってるし、優曇華は乖離に似て顔を真っ赤にさせ口をパクパクと動かしているだけ。輝夜は……なんか永琳よろしく脱ぎ始めているのだが……!?

 

「そして何故お前まで脱ぐのか輝夜!」

 

「ノリで!」

 

「ノルなし!!」

 

 ナイスツッコミだね乖離。なんて言っていいものだろうか……。ていうかこの状況は止めるべきなんだろうか、それとも私も参加すべきかな?ん~でも恥ずかしいしなあ……。

 なんて考えていると、ほぼ全裸に近い輝夜と永琳が乖離にすり寄って行っている。なんというか、男冥利に尽きる光景だな。すり寄られる乖離は必死に目を瞑って対抗しているが、後どのくらいで折れるのか見ものだ。

 

 

 

 

 なんて思った私が愚かだった。この状況を早い内に止めるべきだったんだ。そうしていれば、こんな事にならずに済んだのに……。

 

 突如として、私達の目の前に豪風と共に紅い光の柱が顕現する。それは前回の異変で見たものと同じで、圧倒的な威圧感が招来する。

 その光をみるなり乖離にすり寄って行った二人はこの光景とは逆に、紅い光の中でもハッキリと分かるほどに青ざめていった。

 

 紅い光の柱から以前と変わらぬ恰好、透き通った紅い瞳・白と赤が混ざったような礼装が見える。一概に言ってしまえば何とも美しい。だがしかし、当の本人は怒りの表情に加え、手に大きな大剣を構え振り上げた。

 

「いい加減にしろよ、アホ共!!」

 

 そう言い放ち、乖離は神秘に輝く大剣を振り下ろした。

 強烈な波動が永遠亭の結界を大きく揺るがせたのは言うまでも無いだろう。

 




遅れて申し訳ありません。
過去編を長くしすぎて、何が何だか分からなくなってました。

それでは、次回もお楽しみに!!

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