東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

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二十一話 再会、月の二人と星の一人

Side妹紅

 

 

 

 今日は乖離を永遠亭に連れて行く日だ。昨日家を教えてもらったから現在その家の玄関前で待機中だ。

 昨日は晩御飯をご馳走してもらった時に、私の方から迎えに行くと伝えておいたから、家の前まで来ている訳なんだが……正直結構恥ずかしかったりする。ぶっちゃけ迎えに行くと告げておいた時刻より多分一時間以上早いと思う。

 

「………髪整ってるかな?」

 

 私は不安と何となくの気恥ずかしさで、自分の白髪に手櫛をする。かれこれ千年以上は生きて来たけど、異性の家に行って出て来るのを待つなんていう行為は初めての経験だから、年甲斐もなく生娘感が出てしまう。……何でかな~?

 

 それはそうと、何もこんな早くに来る必要は無かったかもしれないな。いくらなんでも早すぎるよね、一時間以上も前から待つなんて……。我が事ながら、バカバカしく思えてしまう。慧音を待つときは、こんなに早く来たりしないのにな~。

 

 私が上記の事を思い耽っていると、不意に玄関の扉が開き家主である乖離が出て来た。………え、早くない?!

 

「おはよう妹紅、随分と早くないか?」

 

 乖離は不思議そうな表情で、挨拶を告げた後そんな事を聞いてきた。

 

「お、おはようございます!」

 

 乖離が急に現れた事に色々とテンパってしまい、妙に礼儀正しい挨拶が口から飛び出してしまった。おかしいな、どうしてこうなってしまうのか………。それになんだか顔が熱い気がするし、何か恥ずかしいぞ。

 

「あ、いやおはよう!………今日はいい天気だね」

 

「今日曇ってるよ?」

 

「………………」

 

 うわあああ何やってんだ私イィィィ!!絶対おかしい奴って思われちゃうじゃんかあ!どうしようどうしようどうしよう最悪だよぉぉ!

 私は盛大にミスってしまった事に恥ずかしさと焦りのあまり、乖離に背を向けて頭を抱えてしまう。………うぅ~半端なく恥ずかしい////

 

「大丈夫か妹紅?」

 

 急に気が動転してしまった私に、乖離は心配そうに問いかけてきてくれる。その優しい気遣いに、私の顔が更に熱くなってしまっているなんて乖離は知らないんだろうな。何か今日の私おかしくない?昨日はこんな事無かったのにさ。

 でも、いつまでもこんな事している暇はない。乖離に迷惑を掛ける訳にもいかないから、私は気恥ずかしさを堪えながらもゆっくりと乖離の方を向いた。

 

「ごめん、急に取り乱しちゃって……もう大丈夫だから」

 

「そうか?ならいいんだけどさ」

 

「そ、それよりさ、ちょっと早いけどそろそろ行く?」

 

「ちょっとって言うか二時間くらい早いけどな。ま、どうせだし行こうか」

 

 ……二時間も早かったなんて、私は初デートに舞い上がる乙女かっ!うっ……は、初デート……か。何か顔だけじゃなく胸が苦しくなった気がする。

 

「い、行こっか///!」

 

 羞恥心を必死に堪え、私はいつも以上の足取りの速さで先を歩いき、そこに続くように乖離も私の背を追ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 人里と博麗神社の境にある森を抜け、私と乖離は現在迷いの竹林を歩いていた。

 乖離は道中物珍しそうな表情で辺り一面を見渡している。そんなに珍しいものでもないと思うんだけど、乖離からしてみれば珍しいものなのかも。

 

「どの竹も俺が今まで見て来たもののどれよりも大きいなぁ~」

 

「そうか?普通だと思うけど」

 

「普通こんな大きくはならないぞ?多分」

 

 思うに、乖離にとってこの迷いの竹林は観光名所みたいなものなんじゃないだろうか。でなきゃあんなにも目を輝かせたりしないと思うし、上記のような反応は無いだろうから。

 

「しっかし面白い場所だよね~迷いの竹林。辺り一面に生えている竹だけじゃなく、入った者を惑わす結界まで張られている。しかも結構高等の」

 

 驚いた……!まだ竹林に入って数分しか経っていないというのに、乖離は既に竹林の構造を把握してしまっている。普通の人間や妖怪にはまず解けないというのに。実際、私でもこの竹林の構造を理解するのに五百年近く掛かったと思うのに。

 

「凄いね乖離、早くもこの迷いの竹林の構造を理解しているなんてさ」

 

「理解はしていても多分、案内無しじゃ迷っちゃうだろうけどな」

 

 そう言って乖離はケラケラと子供っぽく笑った。それに釣られて私も小さく鼻で笑った。

 教えるべきかは分からないけど、この結界はあのマッドサイエンティストが張った特別な結界だったりする。自然に溶け込んでいる勢で、結界が張られていることにすら気付けないという仕組みらしい。

 それを速攻看破した乖離マジリスペクだな!これも『世界の抑止力』であった経験と知識からくるものだったりするのかな。

 

 そういえば、少し気になっている事があったから訊いてみようと思う。せっかくの機会だからな!

 

「あのさ乖離、月の民って知ってる?」

 

「月の民か………知ってるよ。懐かしいなぁ」

 

 なんだ、知っていたのか。なら、面倒なのは抜きで訊けるかもしれない。それにこの質問は、これから向かう永遠亭において大事な事だから。

 

「乖離は月の民の事どう思ってる?」

 

 それを訪ねた瞬間――――ほんの一瞬、一秒にも満たない僅かな時間だけど、乖離の表情はとてつもない程の憎悪に染まっていた。その表情を見た私は、冷や汗と同時に息を呑んだ。

 

「月の民、ねえ………個人差はあれど、あまり好感は持てないかな。彼等の考え方を否定する気は無いが、肯定する気も無いなぁ」

 

 その回答は、思っていたものより遥かに強くそして重いものだった。だって、まるでこの回答は月の民に直接会ったみたいな言い方だったから。

 昨日久しぶりに会った優曇華も然り、私の知る月の民はあくまで脱走者だから、あまり多くは知らない。でも乖離は月の民の大半を知っているようだった。

 

「乖離は、月の民に会ったことがあるのか?」

 

「会ったも何も、俺は一度月に赴いてそこで暮らしたことがあるからな」

 

「マジで!?」

 

 予想外の答えだ。よもや月に赴いて暮らしたことがある地上人がいようなんて……。あの閉鎖的思考の持ち主共が乖離を受け入れたのか?あいつらの言う『穢れ』はどうしたんだろう。

 

「まあ、もう行かなくても良いってんなら………俺は二度とあんなクソみたいなとこ行かないけどね」

 

「そ、そっかぁ」

 

 困ったなあ……乖離も乖離で、なにやら通常の地上人以上に月を嫌っている節がある。月で暮らした事があるって言ってたけど、一体何があったんだろう。よほどの事がなければこんな嫌悪感は出さないと思うんだけど……。

 そろそろ永遠亭に着くかもしれないけど、引き返した方が良かったりするか?万が一乖離があのバカ姫に遭って、癇に障ることを言われて大喧嘩になったらどうしようか。そん時はあの薬師がなんとかしてくれるのを期待するしかないかもな。

 

 私が若干の諦めムードになっていると、乖離は何かを察したように気を遣ってくれた。

 

「安心しなよ妹紅、俺は月の連中が嫌いだがそれはあくまでも有象無象の奴等だけだから。好感が持てた者だって月には何人かいたよ」

 

「そ、そうなんだ」

 

 それはつまり大人の対応をしてくれるって意味で捉えていいんだよな?いいんだよな!喧嘩にはならないよな乖離?!……おっと、乖離の前に私が喧嘩吹っ掛けそうだな、ハハハハ。

 

 そんな淡い期待と自身の殺傷本能を笑いながら、私と乖離は永遠亭に向けてまだまだ歩き続けた。ていうか、空飛んだ方が早いのにね~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それなりに長い距離を歩いただろうか、ようやく見慣れた和風の屋根が見えて来た。歩き続けて数時間かな?やっと永遠亭に到着した。

 

「あれが永遠亭か?随分と和風染みてるねぇ」

 

「まあね、でもこれでその左腕が治せると思うぞ?」

 

「そうだといいんだけどね~」

 

 永遠亭の門前に到着して、私は軽く二回ほど門を叩いた。

 すると門はゆっくりと重低音を上げながら開いた。そして開いた先にはいつものようなブレザー?姿の優曇華がいた。

 

「いらっしゃい二人共、治療の準備は出来てるわよ」

 

「悪いねいきなり」

 

「いいのよ別に」

 

 いつも通りの挨拶と会話をしながら、私は門を潜った。対して乖離は、目を細めなにやブツブツと数字を数えていた。

 

「5………いや、6かな?」

 

「何をブツブツ言ってんのあなた」

 

「え?ああ、この永遠亭だっけか、その庭に作られている落とし穴を数えてたんだよ」

 

「え、嘘っ!落とし穴あるの?てゐの奴、昨日あれだけ埋めておけって言ったのにぃ~」

 

 なるほどね、それでさっきからブツブツと数字を数えていたのか。それにしてもあのバカ兎、また余計な事を………。永琳に叱られても文句は言えないだろうな。

 

「そいじゃあ、お邪魔しま――――ッ!!」

 

 乖離は突如、門を潜った瞬間驚愕の表情に染まった。

 視線は真っ直ぐ、永遠亭の中に向けられている。その位置は間違いなくあのバカ姫と永琳の部屋だ。

 ただただ驚きと呆気に取られた表情で固まってしまった乖離を、私と優曇華は不思議そうに見つめた。どうしてそこまで驚いた表情をするのだろうか。

 

 そんな事を思っていると、乖離は未だ晴れぬ驚愕の表情で呟いた。

 

「まさか………この霊力、『八意××』なのか……?!それと、もう一つはっ!?」

 

 八意までは聞こえた……。でも、そこから先の名が何故かノイズ混じりに聞こえ、よく聞き取れなかった。対する優曇華は、乖離の呟いたノイズ混じりの名に驚き半分納得半分といった表情をしていた。私は何故か完全に置いてきぼりになってしまっている。

 

 

 

 

 

 

※※※

Side乖離

 

 

 

 妹紅に連れられて来た永遠亭。

 紫が言っていた、この永遠亭には月の民が住んでいると………。

 おおよそ月の使節団か何かと思っていた……。――――だが、今確信した。この永遠亭にいるのは使節団なんかでは断じてない。月の脱走者であり、いつかの日に別れた儚き友二人。

 

 間違いない、霊夢を圧倒的に凌ぐ霊力と神格、かつて月の頭脳とまで謳われていた彼女に相違ない。

 そして、その彼女を従者におく月の姫―――かぐや姫!何故こんなところに、なんて問い質す気は無い。そうか、彼女等はこの幻想郷にて生きていたのか。

 俺の感覚でいうなら早数年、こちらでは数千年といったところか?いやはや、時間が経つってのは随分と早いものだな。

 

 

 

 

 

「真意は問わない。が………今は、この再会を喜ぶとしよう」

 

 瞼を閉じ、そしてもう一度、ゆっくりと瞼を開く。――――最初に目に入ったのは、今にも泣き出しそうな表情で口元を抑えている輝夜だった。そしてその傍らに、既に我先にと涙を流す××が居た。

 

 さてさて、こういう場合俺はどういう反応を示せば良いのだろう。恰好良く『俺の胸に飛び込んでおいで二人とも!』と言うべきか……。いや無いな、ホントに飛んできそうで怖い。なら『フッ、久しいな二人とも!』と、クールに振舞うべきか………いや、これも無いな、どの道とんでくる………矢が。

 

 こういう場合は、そう――――普通に……。

 

「久しぶりだな、二人とも。元気、してた?」

 

 俺は親しみを込めて、上記の言葉を口にする。すると、輝夜は俯きながら身体を震わせていた。対する××は、俺と目を合わせて少し気恥ずかしそうに、頬を赤らめ涙の笑顔を見せてくれた。

 

「本当に……久しぶりね乖離。あなたがもう一度私達の前に現れる時を……今日この時をずっと待ち焦がれていたわ」

 

 そう言った××は、ゆっくりと輝夜を連れて俺の前に立った。輝夜は今も尚、俺と顔を合わせようとせず、俯いたままの状態だった。こんなしおらしい態度は、今も昔も変わらないらしい。

 しばらくの間黙っていると、輝夜はオズオズといった態度で俺の使い物にならなくなった左腕に触れた。痛みはないが、少し妙な感覚が左腕に走った。

 

「本当に……乖離様なのですか………?」

 

「……さあね、それはお前自身で確かめてみるといいよ。俺は俺のつもりだけどな」

 

 少し含みのあるように告げてみるが、どうやらそんなものの必要は無かったらしい。輝夜は大粒の涙を流し、綺麗で整った顔もクシャクシャにして俺に抱き着いてきた。

 勢いが激しかった勢か、俺は輝夜を抱きかかえたまま後ろに尻餅をついてしまう。うん、結構痛いよ今の!

 

「本当に、本当に乖離様なんですね?嘘でも幻でもない。……本物の!」

 

「だからさ、それはお前自身で確かめてみればいいんじゃない?」

 

 俺は宥めるように、泣きついてきた輝夜の頭を優しく撫でる。

 

「夢なら……幻想なら………どうか、どうか覚めないで……この幸せを奪わないで!!」

 

 輝夜の悲痛の願いと叫びが、これまでの彼女の苦しみと孤独感を物語っているように、俺は聞こえた。そんなにも、苦しんでいたなんて、俺は知る由も無かった。

 仕方ないと言えば仕方ないが、これも、彼女等の背負った罪と罰だったのかもしれない。まったく、ままならないねぇ。

 

「輝夜、これは夢でも幻想でもない、現実だよ……。俺は、ここに居るよ」

 

「う、うぅ……ふえぇぇぇぇ~ん乖離様ぁぁぁ!!ずっとお会いしたかったです~!!」

 

「よしよし、鬱陶しいからあと十秒だけこのまま居てやるよ」

 

「酷いです乖離様ぁぁぁ!!うわーーん!!!」

 

 泣きじゃくる輝夜を強く抱きしめ、夢でも幻想でも無いということを、輝夜に優しく教えてやるのだった。

 輝夜と俺を微笑ましそうに見つめる××に、俺は悪戯っぽく手を伸ばした。

 

「あんたも来るか?××」

 

「その名は月を抜け出した時に捨てているのよ?今は永琳と名乗っているわ。………そうね、私も少しだけ」

 

 そういって、永琳は俺の後ろに回り背中に抱き着いてきた。その際背中に感じる柔らかな感覚に驚きながらも、それが表に出ないように強く気張った。

 

 

 

「本当に………久しぶりだね、二人とも」

 

 今だけは神よ、この時を邪魔してくれるなよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ優曇華」

 

「何妹紅?」

 

「今日ってドラマの撮影だったのか?」

 

「シッ!今は黙っときなさい」




う~ん、これで良かったのでしょうか……。
若干違和感が残ります。


テストはまだまだ続く!

次回もお楽しみに!!

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