東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

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さっそく姫様登場です。

そしてまたもテスト期間……
しかしそんなものは知らんな!

ではどうぞ!!


二十話 思い返す姫

Side輝夜

 

 

 幻想郷に来て、一体何年経っただろうか。

 数えた事はない。というか、数えるのも面倒くさい。大体千年とちょっとくらいかしらね。まあ、そんな事はどうでもいいのだけどね。

 最近は妹紅と殺し合いばかりしているから、なんだか時間が経つのが早く感じてしまう。不老不死の私にとって、もはやその時間すら、色あせたものでしかないのだけれどね。

 

 でも、―――何故かここ最近、『あの日の夢』を見る事が多くなった気がする。それこそ、既に数千年前―――まだ私と永琳が月の都に住んでいた時の事、数々の思い出が淡い夢となってよび覚まされる。

 

 そして――――愛しい……『あの方』と過ごした日々が。

 

 

 

 上記の夢を見る時というのは、決まった法則性があった。それは、私が地球儀を眺めた日と、時折永琳の部屋に忍び込んで彼女の閉まってある一枚の写真をくすね懐かしむ、この二つに限る。

 だというのに、何故かここ数週間はあの日の事ばかりが夢に現れる。

 最初は呪いかなにかかと思ったけれど、別段嫌という訳でもないし、そのまま放っておくことにしていた。

 

 それでもやはり、あの時の夢を見れば見る程にあの至福であった時間が戻っては来ないと思うと、胸にポッカリと穴が空いたような喪失感に苛まれていた。それはもう、身体中を業火で焼かれるよりも、ずっとずっと苦しいもの。

 この事を永琳に数百年前に一度話したことがあった。すると彼女は、私同様に悲痛な表情に顔を歪め涙を流したこともあった。あの時の顔は今でもハッキリと憶えている。

 

 それはともかくとして、あの方が居ない幻想郷で私は色々楽しく生きている。妹紅と殺し合ったり、イナバが実験台にされているのを茶を啜りながら見物したり、てゐのイタズラに付き合ったりと、なんだかんだで楽しい無限ライフを満喫している。

 時には人里に赴いて、脇巫女と弾幕ごっこしてみたりとかもある。その際スキマ妖怪にガミガミと説教されもしたのだけれどね。

 

 月の民である私にとって、この地上は穢れ多き不快の地、本来なら立ち入りたくもない世界だ。

 でもそれはあくまで以前の私。今の私はその穢れでさえも美しいと感じるようになった。きっとこれもあの方の影響なんでしょうけどね。

 あの方はよくこう仰っていた。

 

『命とは、汚れ穢れて初めてその本質の輝きを放つ。―――故に、俺は今を一生懸命に生きる地上の者たちが大好きなんだ。ここ(月の都)とは違ってな』

 

 最初はなんのこっちゃ?ってなってたけど、今でこそ、その言葉の意味を理解できる。『今を一生懸命に生きる者』が好き………今の私なら、その思いに共感できる。私も、今の地上が大好きなのだから。

 

 

 

 

 

 そして時たま思い出すのが、あの方との初めての出会いだった。あれはもう、なんというか………最悪の出会い方だったと思うわね。今でこそ言えるけど、当時の私って随分命知らずな事を言ったと思うわ。あの方が寛大でなければ今頃死んでいるわね絶対!!

 

 

 ――――初めてあの方と出会ったのが確か月の都、それも王宮にて会議が行われていた時だったわ。

 月の姫である私も、一応その会議に出席していた。まあ、いつもながらに面倒くさいものでしかなかったのだけれどね。

 

 そんな会議が行われている中、あの方は何の前触れもなく――――突如として会議室中央に青い粒子と共に現れた。あの時のは誰もが驚いていたわね、無口で殆ど感情を表情に出さないサグね……今のは無し!サグメでさえ目を見開き驚愕の表情をしていたくらいだし。

 それにもっというなら、その日は会議が開かれるので、月の結界もいつもより強化させ、王宮にもそれなりに強固な結界を張っていたのだから。

 しかしあの方は、その結界すらもすり抜けて会議室に現れた。後の報告では結界には何の異常も無かったのだとか。

 

 それはそうと、当時のあの方は黒い外套に身を包め、襟の部分には赤い布が付いていた筈。それと見た目は地上でいう十代後半といった感じで、若干の幼さの残る少年だったかしら。

 そして開口一番、あの方は小さなタメ息を吐き、

 

『みすぼらしい場所だな、(ここ)は。……息が詰まりそうだ』

 

 周りの反応などまったく無視し、上記のセリフをさぞ不愉快そうな表情で呟いたのだ。 

 しかし月の民、会議に出席していた重鎮達はすぐさま兵を呼びあの方に対し汚物でも見るかのような視線を浴びせた。穢れを嫌う月の民なら仕方ないことだけれどね。

 兵が会議室に到着してあの方を取り囲むように隊列を組んでいたけど、あの方はそれすら意に返さず、ジッと私を含めた月の重鎮達を見ていた。

 

 そこで最も驚いたのが、あの方はこともあろうに帝に目を移し『おい、この中にかぐや姫とやらはいるのか?……答えろ』と、いきなり不敬を働いたのだ。もしそれが帝ではなくツクヨミ様ならどうなっていた事か………。考えただけでもゾッとする。

 

 それはともかくとして、そんな無礼を帝と重鎮達が赦す筈もなく、あーだこーだと喚いていたがそれをあの方は鬱陶しそうに『うるさい黙れ。俺はかぐや姫とやらはここにいるのかと聞いただけだ、それ以外の回答など求めていない』

 そう言い放ったのだ。そこで私も少しカチンときて、立ち上がって名乗ってあげたわ!

 

『私がかぐや姫よ!それと、失せなさい、私はあなたのような底辺の人間を相手にしている暇はないの』

 

 と、言ってやったわ!でも、それを聞いたあの方は―――突如として私の目の前に現れた。

 先程まで会議室中央に居た筈なのに、まるで瞬間移動の如く私の前に現れたのだ。それには流石に驚いて尻餅を着いてしまったわ。

 兵たちも困惑している中、あの方は私を見下ろしながらアメジストのように輝く瞳で、冷たく言い放った。

 

『かぐや姫、絶世の美貌を持つとは聞いていたが………なるほど、確かに美しいものだな。――――下らん、これではただただ美しいだけだ、中身がまるで空っぽだ。こんな美しさになど価値は無い。……言うなればまるで、はりぼてだな

 

 心底興味無さげに、それでいてまるで私を見てもいないその目と、突き立てて来た言葉に、私は言い返すことが出来なかった。

 怖かった……ハッキリ言ってしまうと、ただただあの時向けられて視線が怖かった。今までに感じた事のない何かが、私の胸を射貫き絶対的な恐怖心を植え付けられた感覚があった。

 あの時程死のイメージを強く抱いた事は無いと断言できるわねホント……殺気とも違う威圧感って感じね。

 

 そこからは殆ど放心状態だったから深くは憶えていないんだけれど、あの後あの方と永琳を始めとした月の討伐隊が衝突して、一度月の都は滅んだのだったわね。

 戦況は圧倒的――――月の守護神総出で戦ったらしいけど、永琳以外皆一撃で沈められたのだとか。圧倒的過ぎるわよね~(白目)

 

 そこからは大体憶えている、あの後永琳とあの方は一騎打ちをしていた。

 永琳は本気を出して戦っていた。月の都最強と評される永琳の本気は、もはや災害なのではないかと思う程のものだった。空を縦横無尽に覆う無数の矢、その一つ一つが当たれば即死は免れぬ威力を持ったものばかり。

 

 月の民の誰もが永琳の勝利を疑わなかった。月の頭脳と評され、稀代の天才とまで謳われた永琳の強さに、誰もが勝利を確信していた。実際に圧していたのは永琳だったし、永琳も自身の勝利を疑っていなかったと言っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――でも、永琳は敗北した。

 方法は分からないけど、あの方と永琳が戦っている最中二人は突如としてその戦場から姿を消した。

 感知班からも永琳の霊力の感知が出来ないと、騒ぎになっていた。

 

二人が月の都から姿を消してからというもの、月の医療班は総出で傷ついた守護神達の治療に入った。皆、意識不明の重体となってしまっていた。確か全治数か月な者も居た筈ね。

 

 それらから数時間が経った頃、感知班がようやく永琳の霊力を探知できたという情報が入った。私は永琳の下までわき目も振らず急行した。

 

 ようやく永琳の下までたどり着いた私は、驚愕と同時に深い絶望感を目の当たりにした。

 ――――身体じゅう血まみれで意識の無い永琳が、あの方に抱えられてたのだから。

 言葉は何も出て来なかった、否―――何も言えなかった。口を開こうにも、目の前の光景が信じられず、ただただ愕然としてしまっていた。

 

 

 

 

 

 あの後は、確かあの方の持っていた秘薬で永琳の傷は全快したんだったわね。

 永琳が意識を取り戻してから、あの方は月の民を一度広場に集めるように言って来たから、渋々帝は了承していたわ。敗者に拒否権は無いってやつね!

 

 広場に集められた全ての月の民、そして傷ついた守護神達に向かって、あの方はたった一言だけ……告げられた。

 

『俺はここが嫌いだ!』

 

 このたった一言のみを告げて、あの方はその場を去ってしまった。

 

 本当に、今思えば中々に最悪な出会い方だったと思う。あの後何度か月の都に現れては、何かを探すようにふらふらと彷徨って突然消える。そんなよく分からない行動をとられていた。

 それに、最初の頃こそ大嫌いで、二度と顔も見たくないくらい憎んでいたけれど……一度だけ、あの方が一匹の玉兎に見せた柔らかな笑み、それを見た瞬間私の中で何かが弾けたのだった。

 

 それはきっと、私の初恋の引き金だった筈。

 くれぐれも誤解の無いように言っておくけれど、決してその玉兎があの方にとって特別だった訳では無いらしい。ただ、事実上月の都を崩壊させた張本人であるあの方に、玉兎の一匹はブルブルと恐怖で身体を震わせながらも、あの方を気遣って桃を渡した、その勇気に対する敬意と感謝の意を込めて微笑んだらしいのよ。

 

 なんか、ひと昔前のヤンキーが捨て猫を拾っているのを見て感動するっていうあれに似てるけど、実際にそれを目の当たりにすれば案外女ってちょろいもんなのね。私の事なんだけれどね?

 

 それ以上に、あの方が向ける生命への愛情が、月の民にはないものであったから、そこにも惹かれたのかもしれない。命の尊さ、そして儚さを誰よりも知っているからこそ、あの方はそれらの物が無い月が嫌いなんだと思う。実際はまだ教えてもらった事が無いんだけれどね。

 

 なんにせよ、私はあの時の笑みがきっかけとなり、あの方に興味を抱くようになった。名も……訊いてみた。

 

 氷鉋乖離―――あの方はそう名乗った。

 乖離様と、私はそう呼ぶことを許してもらった。

 

 

 詳細を長々と語ると手に負えないから、簡潔に言ってしまうとね?月を滅ぼした乖離様は重鎮達となんやかんやあったらしく、色々あって月の滞在を赦されたわ。

 確か教育係担当は永琳とサグ姉……コホン!サグメだった。

 その後、丁度遠征から帰ってきた綿月姉妹、確か依姫の先生として剣術を教えていたとかなんとか。依姫涙目になってたわね~。

 そういえば、永琳やサグメも乖離様に対して強い興味を抱いていた筈。サグメに至ってはもはや私と同じ恋愛感情なんじゃないってレベルで。あれ?それを言ってしまったら永琳も同類になりそうなんだけど?夜な夜な夜這いをかけようと乖離様の寝室に侵入しようとしていたのを何度か見たし。もちろん是が非でも止めたけどね!

 

 

 

 月での思い出は、私にとってもう二度と戻ることは無いであろう泡沫の夢のようなもの。あれほどまでに幸せを感じていた日はなかった。

 

 毎日乖離様と会い、他愛もない雑談をして、得意の料理を振舞ってもらって、仕事の見学をさせてもらって、寝る時間まで傍に居ていただいて……もう戻らない至福の思い出たち。

 

 

 

 

 この永遠の罪を背負いながら、私は来る日の夜を無限に数え続けながら夜空に輝く星々を見上げる。

 本当は月の方が好きなんだけれど、眩い儚き星っていうのも悪くない。

 

『俺は月より星の方が好きだ』

 

 乖離様はそう仰っていた。……分からなくもないと思うわ。私も……今はこの穢れたる美しき世界が好き。

 

 願わくば――――

 

 

 

 

「もう一度、お会いしたいです……乖離様」

 

 私は空に掛かる星々を眺めながら、叶う事のない願望を呟くのだった。

 

 

 

 

※※※

 

 

「へ、へっくしっ!!」

 

「大丈夫乖離?風邪でも引いたか?」

 

「そんな事は無いと思うんだけどな~」

 

「それならいいけどさ」

 

「お、そろそろ我が家だ!飯食って行くか?」

 

「ありがたくね~」

 

 

 

 

 

 

 こうして、物語はちゃくちゃくと進み続ける……………のかな?

 

 

 

「ただいま~!」

 

「ふざけんじゃないわよ紫イイー!」

 

 

「何故怒鳴り声??」




≪余談≫
永琳「乖離にあっえる~♪」
鈴仙「…………」




遅くなり申し訳ございません。何分テストが面倒なもので………。

次回はもう少し早めに投稿したいと思ってます。
そして文章無茶苦茶な気がするぞ~………

次回もお楽しみに!!

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