東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

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やっと出せました!

そして今回は結構長いです。

ではどうぞ!!


十四話 優しい僧侶さん

Side乖離

 

 

 

 紫のスキマを使って宴会場、博麗神社の境内に戻って来た。つい数十分前に居たはずなのに、どうしてこうも懐かしさを感じてしまうのか。俺はまだ若いはずなんだが、実は結構耄碌していたりなんてことがあったりしてね。まあ、考えすぎだろう。

 

 

 俺はこの宴会場で一際強い気配を発している場所へ向かう。何故ならそこには先程まで一緒に飲み食いしていたメンバーがいるからだ。だが、俺には一つだけ心配事がある。

 それは言わずもがな、フランの事だ。直ぐに戻ってくるとは言ったけど、数十分も待たせてしまったのだからきっと怒っているだろうと思う。さてさて一体どう謝ればよいのだろうか?

 

 俺がフランへの対処を考えていると、不意に肩を軽く叩かれ、振り向いてみるとどこかよそよそしい態度の紫がいた。

 

「あ、あの……乖離様」

 

「なに?」

 

「えっと……この本、魔導書の事なのですが……」

 

 そう言って紫はスキマから一冊の魔導書を取り出し、その魔導書で自分の顔を隠すように俺に見せて来た。そういえば、何故紫がこの魔導書を持っていたのか、まだ問い質していなかったな。

 

それ(魔導書)がどうかしたか?」

 

「はい。実は……乖離様の家から無断で私が持ち出しておりまして……」

 

 魔導書で紫の顔が見えないが、その声は弱々しかった。何故かは知らんけどね。というか、無断で持ち出していたのか。

 

「言い訳ですが、ちゃんと返すつもりだったのです……。でも、その~……つい見入っていしまってお返しするのを忘れていました。……申し訳ありませんでした」

 

 そう言って紫は深々と頭を下げた。俺は紫が急に頭を下げてきた勢で、面喰らってしまった。

 さらに、その光景がどれだけ異常なのかは、周りの妖怪達の天地でもひっくり返ったかのように驚いた顔を見れば理解できた。紫ほどの大妖怪が、どこにでもいそうな貧弱な人間(俺)に頭を下げていたのだから、無理もない事だろう。しかも紫って『幻想郷最強の大妖怪』なんて呼ばれていなかったか?

 

 そんなことはともかく、この状況は俺自身にもあまりよろしくないのだ。紫はこれといって悪い事をした訳でもないというのに、俺に頭を下げるなど間違っている。

 

「紫、頭を上げてくれ。俺は別にお前に対して怒っている訳でも、謝罪を欲している訳でもないから」

 

「しかし、私は……」

 

 紫はなかなか頭を上げてくれない。状況が状況なだけに、もしこんな様の紫を藍が見たりなどしたら、一体俺はどう藍に謝ればいいのだろう。そもそも謝って許してくれるのだろうか。

 

「頼むから頭を上げてくれよ紫……マジでさぁ」

 

 さっきから周りの妖怪達の目線だ痛い。忘れ物を取りに戻る前もそうだったが、今回のはまったくそれとは違う痛みだ。『何あいつ妖怪の賢者に頭下げさせとるぞ?』

『人間怖ッ!近寄らんとこ……』……みたいな目で先程から見られている。

 

 やめてよ~俺友達出来なくなるじゃないかー。

 

 だが、俺の願いは届いたようで、ようやく紫が頭を上げてくれた。これでなんとか妖怪達の誤解も解けるはずだ。確証はないが、まあいいだろう。

 

「さっさと皆の所に行こうぜ」

 

「乖離様……」

 

 紫はまだ罪悪感が抜けていないようで、なかなか動こうとしなかった。

 仕方がないので、今度は俺の番というように、俺は紫から魔導書を返してもらい紫の手を引いて皆のいる場所に向かう。こうして紫の手を握ったのは何時振りだっただろうか。昔は小さかった子供の手なのに、今は大人の綺麗な大人の手に成長している。

 なんていうか……その…下品なんですが…フフ………勃(キモイのでカット)

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 紫となんやかんやあったが、俺は無事(精神的)に皆の所に戻ることが出来た。

 

 出来たのだが、やはりフランは俺が帰ってくるのが遅いということにご立腹だったようで、鳩尾にタックルをもらってしまった。その威力は三十キロで車が突っ込んでくるのと同じくらいだろう。すんでの所で身体強化をしておいたので、骨折は免れた。

 その勢で、現在俺は小さなうめき声を上げて地面に膝を着いている状態だ。

 

「うぅぅ~~」

 

「大丈夫か乖離?」

 

「鳩尾は痛いわよね~」

 

 俺を心配するように魔理沙と霊夢が優しく俺の背中をさすってくれる。出来れば背中ではなく鳩尾のあたりをさすって欲しいところだが、我が儘は言うまい。

 

「あ、ああ大丈夫……」

 

 まだ鳩尾部は痛むが、時間が経てばこの痛みも引いていくだろう。俺はゆっくりと立ち上がり、深呼吸をして呼吸を整える。そして俺をこんなにまで追い込んだ主犯・フランの方に振り向く。

 

「悪かったよフラン、探し物をしてたんだ」

 

「……罰として頭を撫でて欲しいわ」

 

「あいよ」

 

 俺は優しく帽子の上からフランの頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細め不機嫌だったのが上機嫌に変わっていった。その証拠に先程まで萎れていた羽が元気になり、パタパタと動きはじめたのだから。子供は単純だが、そこがまたカワイイ所でもあると思う。

 

 そういえばだが、妹紅だけがこの場にはいないのだ。気配を探ってみたところ、まだ宴会場にはいるようだ。それだけではなく、感知できた気配の中には慧音さんの妖力や、異変があった日、寺子屋で見掛けた妖精の霊力とそーなのかーの妖力が一か所に集まっていたのだ。ということは、おそらく妹紅は慧音さん達の所に向かったのだろう。であれば心配なしでいいだろう。慧音さん達には後で挨拶に向かうとしよう。

 

 俺はフランの頭から一端手を放し、懐から魔導書を取り出す。

 

「魔理沙、これやるよ」

 

 俺はそう言って魔理沙に魔導書を投げ渡した。いきなりのことに魔理沙は慌てていたが、なんとか魔導書をキャッチ出来た。

 

「な、なんだぜこれ?魔導書か?」

 

「そう、その魔導書は魔術王ソロモンの所有物だったものさ」

 

「なにーーーッッッ!!!」

 

 魔理沙は目を見開き叫ぶさように驚きの声を上げた。その様子を見るに、やはり魔理沙も魔法使いの端くれ、流石にソロモンの事は知っていたか。

 

「ソロモンって言えば、あのソロモンか!伝説の……大魔術師の!!」

 

「だから、そのソロモンだって」

 

 よほど信じられないのか、魔理沙は再三本当なのか?と聞いて来る。本当に、魔理沙に渡したのは間違いなく魔術王ソロモンの所有していた魔道書だ。

 

「な、なあ……読んでいいか!読んでいいか!!」

 

「お、おう」

 

 俺が許可を出すと、魔理沙は嬉しそうに目を輝かせ、魔導書に目を走らせ始めた。魔理沙は魔法使いということもあるので、やはり魔道書などは読み慣れているようだ。その証拠に、十秒毎に一ページめくっていた。それだけを見れば、ただ流し読みしているようにしか見えないのは黙っておこう。

 俺もそれなりに読書家だが、こんなに早く読めるだろうか。……いや、無理だろうな。

 

 

 魔理沙は自分の世界に入ってしまった為、戻ってくるまで放置することにした。では俺は今なにをしているかというと、魔理沙を除いたメンバーで雑談を興じていた。雑談と言っても、他愛もない世間話だが。

 

「なるほどね、レミリアさん達も外来人なのか~。こりゃビックリ」

 

「顔がまったく驚いていないわよ?まあ、でもそうね。もう昔の話だけれど」

 

「昔って、つい半年前くらいじゃない」

 

「過去の事なら、昔って表現でもいいじゃない」

 

 霊夢のツッコミに、レミリアさんは少し恥ずかしいそうに答える。その間あまり表情を変えていなかった咲夜さんはクスクスと口に手を当てて笑っていた。

 

「何笑ってるのよ咲夜!」

 

「も、申し訳ありませんお嬢様……」

 

 おっと、笑っているのがレミリアさんにバレてしまったようで、咲夜さんはレミリアさんからお叱りを受けてしまった。叱られている時でも、咲夜さんはやはり引きつった表情のままだった。それほどまでにさっきのレミリアさんは咲夜さんのツボにハマったようだ。

 主従による微笑ましい光景を眺めていると、突然背中に誰かが抱き着いてきた。十中八九フランだろうけど。

 

「どうしたフラン?」

 

「ん~?お兄様に抱き着いてみただけよ?」

 

「何故?」

 

「そうしたかったから!」

 

 フランは輝くような笑顔で返答をくれた。男としては実に嬉しいことだが、流石にそれだけの理由で抱き着いていいものだろうか……。あ、もちろん嬉しいですよ?

 

「あ、そうそう霊夢、トイレってどこにある?」

 

「玄関入って廊下の右奥にあるわよ?」

 

「ありがと」

 

 俺は抱き着いていたフランに放してもらい、立ち上がって社の方へ向かおうとして、腰に再度フランが抱き着いてきた。

 

「フラン?」

 

「私も一緒に行くわ!」

 

「フランもトイレか?」

 

「ううん、お兄様と一緒がいいだけ」

 

 嬉しい事を言ってくれる。がしかし、流石にトイレまで一緒ってのはアウトな気がする。倫理的にね。

 なんとかフランを説得しようとしても、フランは全て首を横に振るだけだった。仕方ないので、フランも一緒に連れて行く事にした。流石にトイレの扉の外にはいてもらうけどね。でないと、俺がトイレに少女を連れ込んだ鬼畜外道となってしまうからだ。 

 

 

 

※※※

 

 

 トイレを済ました俺は、玄関でションボリと座っているフランが目に入った。玄関で待っているようにと言ったのは俺だが、あんなにも寂しそうにされては心が痛む。だからと言って、トイレも一緒という訳にもいかないのだが…。

 

「フラン」

 

 俺が声を掛けると、フランは俺の方を向き勢いよく立ち上がり、俺の元にダッシュで駆けて来た。

 

「お兄様!」

 

 そう言ってフランは俺に飛びついてきた。一瞬避けようとも考えたが、それは流石に酷なので、受け止めてやることにした。

 

 それでも勢いがあった為、俺はフランを抱いたまま後ろに倒れてしまった。俺が下になったおかげで、フランには傷一つ無かった。まあ転んだ程度で吸血鬼が傷つくとは思えないが。ただ、人間である俺は結構痛かったがな。

 

「いててて、フラン…大丈夫か?」

 

「お兄様が受け止めてくれたから大丈夫よ!」

 

「そりゃようござんした。それと、退いてくれる?」

 

 俺がそう言うと、フランは渋々といった感じで退いてくれた。俺はゆっくりと立ち上がり、フランの頭を優しく撫でて待っていてくれた事に礼を言って一緒に社を出た。

 

 

 俺はフランと手を繋いだ状態で皆の所に戻っていた。その道中何度かフランがあっとに行きたいこっちに行きたいとせがんでくるので、それに付き合っていて俺はヘロヘロ状態だ。

 

 運動音痴?うるせーよ。

 

 そんなこんなで皆の所に戻っていると、不意に一週間前に感じた強い気配がこちらに近づいてきいた。それは一つではなく、もう一つ存在していた。

 感じるのは魔力・それも魔理沙の数倍はあるのではないかと思わせるほどに強大なものだった。どうやらその気配を感じ取ったのは俺だけではなく、フランも目を少し細め気配のする方向を睨んでいた。

 

 少しその場で留まっていると、二つの強い気配の持ち主がようやく現れた。一人はやはり先の異変の首謀者の一人、封獣ぬえ(アホの子w)だった。顔を合わせると同時に一瞬驚いた表情になったが、直ぐにグッと睨みつけてきた。

 ぬえの睨みなどそっちのけで、俺はもう一人の人に意識を向けた。紫がかった膝までとどきそうな長い金髪に、ゴスロリ風の白黒いドレスを着た女性が金色の瞳でじっと俺を品定めするように見てきた。

 敵意や悪意は感じない。が、内包する魔力が魔力なだけに、俺も警戒せずにはいられなかった。

 

 しばしの沈黙の後、先に口を開いたのは白黒ドレスを着た女性だった。

 

「突然申し訳ありません、私は命蓮寺で住職をしている聖白蓮と申します。失礼ですが、あなたが氷鉋乖離さんで間違いありませんか?」

 

この挨拶のされ方、今日で二度目な気がする。

 

「ええ、俺が氷鉋乖離です」

 

 聖白蓮と名乗った女性……それに、今命蓮寺で住職をしていると言っていた。命蓮寺と言えば、幻想郷に来た初日、幻想郷を一望できる丘の上から見えた人里付近にあった大きな寺だったはず。紫曰く、妖怪寺だとか。どうして妖怪寺なのかは少し興味がある。

 

「それで、俺に何か用でしょうか……」

 

「先の異変……ぬえを止めていただきありがとうございました」

 

 そう言って住職さんは俺に頭を下げてきた。

 まただよ……今日で三度目だよ。一体一日に何度俺は女性陣に頭を下げられなければならないのだろう。

 

「頭を上げてください。俺はぬえ達と遊んでただけなので、礼を言われるような事はしてませんよ」

 

「経緯はどうあれ、あなたがぬえを止めてくれた事には代わりありません。ですので、大事なぬえの家族として私はあなたにお礼を言わなければなりません」

 

 そのセリフも今日で二度目だ。レミリアさんもだが、何故この住職さんも俺にお礼などするのだろうか。俺は本当にぬえ達と遊んでいただけだというのに。それに、ぶっちゃけ遊んでいたのは俺だけだったと思う。だってワンサイドゲームだったしさぁ……。

 

「とにかく、本当に頭を上げてください。それに、寺の住職さんが簡単に頭なんか下げちゃダメですよ」

 

「そうそう聖、そいつに下げる頭なんかないよ!」

 

「そうですとも。俺なんかに頭を下げちゃダメですよ」

 

 ぬえの言葉に便乗するように、俺は住職さんに再度頭を上げてもらうように懇願する。一方ぬえは嫌味を言ったつもりだったのか、それに便乗した俺を悔しそうに睨んで来た。俺はどんだけこいつに嫌われているのだろうか。

 紫同様に、俺の願いが届いたのか住職さんはようやく頭を上げてくた。

 

「あなたは心が広いお方なのですね」

 

「そうでもないですよ。ただ単にアホなだけです」

 

「フフ、面白い方ですね。まだ数度しか言の葉を交わしていませんが、ぬえが気に入るのも分かります」

 

「ちょっ!聖何言ってんのよー!」

 

 おっと、今何やら面白いカミングアウトが聞こえた気がする。ぬえが俺の事を気に入っているとかなんとか。つっけんどんな態度を取ってはいるが、実は心の中ではなんとやら、みたいな?俗にいうツンデレか………うむ、嫌いじゃない。

 

「あんた、今何考えた!」

 

「いえ何も……」

 

 危ない危ない、ぬえはなかなかに鋭いようだ。その勘の良さはやはり妖怪故なのかもしれないな。

 俺とぬえが他愛もないじゃれ合いをしていると、今度はほぼ毎日感じている妖力が俺の方へ猛スピードで接近してきた。この妖力は間違いなくこころちゃんだろう。しかし、何故そんな猛スピードで走―――

 

「乖離見つけた!」

 

「へぶしっ!」

 

 何か意味不明な悲鳴が出たがどうでもいい……。考え事もつかの間、俺は猛スピードで接近してきたこころちゃんのタックルをノーガードで背中に喰らってしまった。その痛みたるや、フランの鳩尾タックル以上だった。

 こころちゃんのタックルで数メートル程吹き飛ばされ、背中の痛みで起き上がれない状態の中、こころちゃんは俺の背中に乗った状態で話しかけてきた。

 

「乖離遅い……私が折角舞を披露してやろうというのに………って、どうして倒れてるの?」

 

「じ、自分の心に聞いてみな……」

 

「ん~、分からないから教えて~~」

 

 嘘だ!この子絶対分かってて聞いてるだろ!無表情だが俺の無様な姿を見て楽しんでる。そんな気がする。

 

「ていうか、俺から降りてくれない?さっきから背中痛いんですけど……」

 

「あれ、こころじゃん。何してんのこんな所で」

 

「あ、ぬえ!それと聖も。ん……あなたは誰?」

 

「私はフランドール・スカーレットよ!」

 

 話聞いてませんねこの子。ていうか、マジで退いてほしい。こころちゃんが俺の背中に乗っているおかげで、さっきから背中の痛みがどんどん悪化していっているような気がするのは俺の気のせいですか?そうですか……。

 大体、ぬえはともかくとして、フランや住職さんまで俺の事スルーですか?

 

「久しぶりですねこころ。元気でしたか?」

 

「うん」

 

「そうですか、それは良かった。……それより、そろそろ降りてあげた方が良いのでは?」

 

「あ、そうだった。乖離ゴメンゴメン」

 

「わざとだろこころちゃん……」

 

 そう言ってこころちゃんはようやく俺の背中から離れてくれた。がしかし、それでもまだ背中の痛みの勢で俺は立ち上がれずにいた。いやマジで……。

 

「お兄様大丈夫?」

 

「大丈夫あんた」(クスクス)

 

 フランよ、その心配はもう少し早くして欲しかったな。それとぬえ、人の不幸を笑うんじゃないよ。

 

「大丈夫ですか?少し待っててくださいね、今治癒魔法をかけますので」

 

 そう言うと、住職さんの両手が黄緑色に輝き始めた。感じる魔力は癒しや潤いといった、回復専用の魔力だとすぐに分かった。本当にこの人は俺の背中に治癒魔法をかけてくれるようだ。

 

 住職さんの手が服越しではあるが、俺の背中に触れると少しづつではあるが、背中の痛みが引いてきた。そして十数秒も経てばまったく痛みを感じなくなり、普通に動けるようになった。

 

「ありがとうございます。おかげで助かりました」

 

「いえ、私にはこの程度しかできませんでした。その左腕(・・)も治そうしたのですが、私の治癒魔法があまり効果を発揮しませんでした。お力になれず申し訳ありません」

 

「いえいえ、背中の痛みを消してもらっただけで十分ですよ。その上この左腕まで治してもらおうだなんて、望み過ぎですよ」

 

「それならいいのですが……」っと住職さんは渋々ではあるが納得してくれた。本当にこの左腕まで治してくれようとしてくれただなんて、とても優しい方なんだな。それに、寺の住職といえば、宗教勧誘でうるさいと聞いていたが、そんな素振りを見せないあたり、やはりあの情報はただの偏見紛いのものだったようだ。

 

「あ、そういえば、乖離さんはぬえやその他の妖怪の事などどう思っていますか?」

 

「え?ああ、面白い奴等だと思ってますよ?」

 

「……彼女等はあなたとは違う……。『妖怪』なのですよ?」

 

 急に住職さんの顔と口調が真剣なものに変わった。それと同時に強い威圧感すら感じる。どうやら俺は今試されているらしい。

 ああ、やはりこの人は彼女(・・)に少し似ている。姿形ではなく、その風格と物の見方が。

 俺は近くでじゃれ合っているこころちゃん達を少し遠い目で見ながら、口を開く。

 

「そうですね……確かに彼女等は俺達とは違う妖怪だ。力も、物の考え方も、捉え方も、価値観もまったく違う」

 

 住職さんは何も言わず、黙って俺の話しを静聴してくれる。そのおかげで、俺自身も話を進めやすいというものだ。

 

「しかしだからといって、彼女等妖怪が悪い訳じゃない。俺達人間にも色々な価値観や基準があるように、彼女等にもまたそれがある。そして、その善し悪しを決めるのはその者の育った環境に大きく依存する。……極端な例えですが、人殺しの家庭で育った子供が親の背中のみ見て育った場合、どうなると思います?」

 

「その子は人殺しが正しいものだと信じ込むでしょうね……」

 

「そう。だから、俺には妖怪も人間もそれほど大した差などないと思うんですよ。妖怪も、生まれた時から常に人間と触れ合っていれば愛を持つだろうし、人間もまた妖怪と生まれた時から触れ合っていれば愛を持つことが出来る。まあ、結局何が言いたいのかというとですね、人間も妖怪も環境によって左右されるだけってことですよ」

 

 そう、つまり妖怪が人間を襲って食おうとするのも、その妖怪が育った環境でもあり、それが彼等妖怪の生きようとする本能でもある。それは人間が牛や豚を食うのと何ら変わらない。妖怪にとって人間は家畜同然……ならば、その価値観でいいじゃないか。それがおかしい訳でも、間違っている訳でもないのだから、それを咎める権利は例え神であっても持ち合わせていない。

 それでも、妖怪が人間に対する見方が、時には餌から友へと変わる事がある。でなきゃああして紫や藍にこころちゃん、フランにレミリアさんとぬえといった妖怪達と仲良くできるはずがない。

 

 俺の話を静聴していた住職さんは、何を思ったのか、ずっと顎に手を当てて考え込んでいた。そしてなにやら思いついたのか、ようやく口を開いた。

 

「つまり、乖離さんは妖怪が好きなのですか?」

 

 おおぅ、ずっと真剣に考え込んでいたと思ったら……そんな事か。そんなもの、問われるまでもなく―――

 

「ええ、好きですよ。妖怪も、人間も……。どちらもね?」

 

 俺の返答を聞いた住職さんは、クスクスと笑っていた。俺はなのか笑われるような事を言っただろうか。まったく身に憶えがないのだが。

 

「ごめんなさい……笑うつもりはなかったのですが、予想外の答えに驚いてしまって、気を詰め過ぎた自分が浅はかだと思うと……つい」

 

「は、はぁ…」

 

 なんだ、そういうことだったのか。てっきり俺の返答が頭のおかしい奴と思われたのではないかと心配になったのだが、それならまあ良いだろう。自分の事だし。

 

「住職さんも、妖怪が好きなんですか?」

 

「聖で構いませんよ?白蓮でもいいですね、好きな方で呼んでください。それと、私も妖怪の事は好きですよ?彼等は我々人間とはまた違う、希望び満ちておりますので」

 

『その希望に導くのが私の仕事でもありますので』っと付け足して答えてくれた。なるほど、この人もこの人でやはり宗教家ということなのだろう。妖怪を好きであるが故、平等な存在として人と同じように接しているのかもしれない。であれば、あのぬえの態度が納得いかんからな。さっきまでも同じだが、聖さんはやはり宗教勧誘などはしない主義なのだろうか。まったくそんな素振りを見せない辺り、結構好感が持てるな。

 

「そうそう、乖離さんは仏教にご興味はおありですか?」

 

「…………」

 

 前言撤回、この人もバリバリ宗教家だ。まったく、あの豊聡耳といい何故こうも宗教家の連中は俺を勧誘したがるのか。まったくもって理解に苦しむ。

 

「興味はありますが、入信する気はありませんよ?」

 

「うっ、残念です。あなたほどの方が入信なさってくだされば、妖怪達の希望となられるでしょうに」

 

 そのセリフは人生で二度目だ。一度目は豊聡耳からだった。あいつもあいつでかなり諦めが悪かったのは一種のトラウマものだ。欲だのなんだのとうるせーし。

 

「あ、でもいずれ命蓮寺に遊びに来てください。ぬえのこともありますし、お礼も兼ねて歓迎致しますよ」

 

「ええ、近い内にお邪魔させていただきます。その時は色々とよろしくお願いします」

 

「はい、喜んで!」

 

 聖さんは嬉しそうに笑顔で返事をしてくれた。俺はその向けられた笑顔に癒されながら、まだじゃれ合い(弾幕ごっこ一歩手前)をしている三人の少女達の元へ向かったのだった。

 




文字数9001………詰め込み過ぎました。
頭がパンクしそうです。そして、ようやく後二話で宴会終了となります。

マジで長かったですが、この先のストーリーを考えれば短くも感じてしまいます……。

では、次回もお楽しみに!!

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