Side乖離
「よっし!次は私の番だぜ!」
「…………」
「しっかり当てなさいよ魔理沙!」
「魔理沙いっけー!」
魔理沙は木刀を片手に、準備運動の如く肩を鳴らしている。
そんな魔理沙を奮い立たせるように、野次馬共が意気揚々とはしゃぎだす。
「…………」
俺はただひたすらこの光景に……いや、この理不尽に対して悟りを開いていた。
魔理沙は目隠しをして、ゆっくりと近寄って来て大きく木刀を構える。
「それー!!」
大きく振りかぶった木刀は、対象物から外れ砂浜に強く叩きつけられる。その際野次馬どもから「惜しい~」などの声が飛んでくる。
「クッソー!当てられなかったぜ」
「…………」
魔理沙は目隠しを外し、悔しそうに地団太を踏んでいた。しかし俺は尚も沈黙を貫く。
「次は私の番ね!」
そういって、魔理沙同様に肩を鳴らしてやる気満々の意を見せる霊夢。
魔理沙から目隠しと木刀を受け取った霊夢は、目隠しを着けて木刀を握り、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
さて、もうお気づきの方もいらっしゃるのではないだろうか?
そう、今俺は……スイカ割りのスイカ役を(強制的に)請け負っている。断ることすら許されずに………酷い!!
こうなった経緯は約五分前に遡る。
魚を焼いていた俺を魔理沙が呼びに来たのだ。『スイカ割りしようぜ!』と言って。
暇であったので了承したのだが、それが間違いだったとはその時は思わなかった。
魔理沙に連れられて、俺は霊夢達の待つ場所まで来たのだが、その場所に着いた瞬間魔理沙が地面に弾幕を数発撃ち込み穴を作ってしまった。
その穴は人間一人くらいなら余裕で入りそうなほど大きな穴だった。
俺は魔理沙の開けた穴を覗いていると、不意に霊夢に蹴り落とされてしまったのだ。結構痛かったよ。
するとそれを待っていたかのように、レミさんとフランがスコップを手にして俺を埋めてしまったのだ。もちろん首から下だけをね。
抜け出そうにも、砂が重すぎたのと、埋められ方が雑だった勢で身体に力がうまく入らず抜け出せなかった。
何故こんなことをしたのかと聞くと、四人とも口を揃えてこう言ったのだ。
『面白いから!!』
上記のセリフを聞いた瞬間、俺は大声で『理不尽じゃああぁぁぁ!!!』っと叫んでから、この状態を受け入れた。
そして現在に至る訳だが、霊夢は摺り足でゆっくりゆっくりと俺の方へ近づいてきている。博麗の巫女としての勘が働いているのか、正確に俺の方へ近づいている。
皆楽しんでいるようではあるが、やる側とやられる側では全く違うと理解しているのだろうか。やる側はヒットさせれば名声アップと称賛の嵐であり、やられる側はただ痛いだけ……この差である。やられる側には何のメリットもない、むしろ痛いだけのデメリットonlyだ!
そんな事を考えている間に、既に霊夢と俺の距離は五十センチ程で、今木刀を真っ直ぐに振り下ろせば間違いなく俺の頭上に落下し激突する。それだけはなんとしても回避せねばならない!でなければ俺が不幸な目に遭う。
霊夢は勢いよく木刀を俺に向けて振り下ろす。その瞬間、俺は魔理沙を転移させ身代わりにした。
「え、ちょっ!ふぎゃ!!」
霊夢の振り下ろした木刀は魔理沙の頭にクリティカルヒットし、バチン!という大きな音を醸し出した。
叩かれた魔理沙は頭を抱え呻き声を上げながらゴロゴロと転がっている。
「あれ?どうなったの?何で魔理沙の悲鳴が聞こえたの?」
霊夢は訳が分からないといった表情で目隠しを外し、現状を確認する。
「乖離の奴が私を転移させて身代わりにしたんだよ!!うおぉぉ痛いぜ~」
「自業自得だろ」
魔理沙はずっと頭を抱えて痛がっている。一方霊夢は少し困った顔で魔理沙に「ドンマイ!」と告げていた。確かにドンマイだな!
「はいはーい!次は私の番!」
そう言ってフランは元気よく手を挙げる。まだやる気なのか……。
しかし、俺としてもこれ以上は御免被りたいので、取り敢えず出る事にした。
砂の中に埋められていたということもあって、変な所にまで砂が入っていたので払い落としていると、フランが不満気に叫んでいた。
「私もスイカ割りしたいわ!ねえねえお兄様、やらせてよう」
「嫌だ」
「ブーー……」
俺がスイカ役を断ると、フランは頬を膨らませ拗ねてしまうが、俺だって魔理沙の二の舞は勘弁だ。しかも次はフランがするというのなら、吸血鬼の腕力で俺の頭が崩壊するのは目に見えている。
「男らしくないわねぇ~」
レミさんはやれやれといった感じで首を左右に振る。しかし、言われっぱなしも癪なので反撃してみる。
「ならレミさんがスイカ役やりなよ。お姉様だろ?あ、それとも高貴な吸血鬼様にはスイカ役も出来ませんか?」
「なんですって……」
乗って来た。てかチョロ過ぎだろどんだけ無駄なプライド持ってるんだこの人。まあ面白いからもう少し煽ってみることにする。
「何か間違った事でも言ったか?俺は進んでという訳じゃないが、スイカ役はやったぞ?まさかとは思うが、下市民に出来て貴族には出来ない……なんて言わないよね?」
「言わせておけば好き勝手に言って………いいわよ上等よ!やってやろうじゃないスイカ役!!」
チョロイ……マジチョロイ。相変わらずレミさんは適当な揺さぶりを掛ければ簡単に乗ってくれる。だからチェスでもオセロでも俺に勝てないんだよ。
「ホント?お姉様やってくれるの!?」
「ええ、もちろんよ」
レミさんには悪いが、これで俺が標的にされる事はもうなくなっただろう。これで一安心……なんて安堵していると、後ろから急激な魔力の上昇を感知した。
嫌な予感がしたので、後ろを振り返ってみると額に青筋を浮かべた魔理沙が八卦炉をこちらに向けていた。
「さっきはよくもやってくれたな乖離!」
「…………」
瞬間、俺は全力ダッシュで逃げた。足場が悪いとかどうでもいい、取り敢えずその場から逃げなければという本能の警告に従い全力で逃げた。
当然そんな簡単に魔理沙が俺を逃がす筈もなく―――
「待て乖離ー!【恋符・マスタースパーク】」
八卦炉から放たれた強力な魔力砲はまっすぐに俺の方へ接近してきた。
背中を向けている状態での迎撃はほぼ不可能だ。火力が火力なだけに、今更身体強化を行っても遅いのは明確。
万事休すの状況で、不意に俺とすれ違う形である少女が魔理沙のマスパに向かって駆けだしていった。
「引き裂け!【リバース・オン・クラレント】」
少女の手にしている白銀の剣は黒み掛かった赤に変色し、一撃の下マスパを一刀両断してしまった。
二つに別たれたマスパは近くの岩に激突して爆発した。
「なんで邪魔するんだ正邪!」
そう、先程俺を助けてくれた少女とは、天邪鬼でうちの定食屋の副店長こと鬼人正邪その人だった。
魔理沙の問いかけに対し、正邪は不敵な笑みを浮かべ答えた。
「邪魔だぁ?!お前のマスパが私のテリトリーに入ったから叩き斬ったんだよ」
相変わらずのメチャクチャな理由だが、今回はそのメチャクチャな理由に助けられたな。
しかし魔理沙の方は納得できていないようで、再度八卦炉に魔力を集め始めた。まだ撃つ気かよあいつ!
「邪魔するならお前ごとブッ飛ばすぞ正邪!」
「ハッ!やれるものならやってみろ!!……てのは嘘で、来い乖離!」
急に正邪は俺の手を掴み、全力疾走し始めた。その勢いに負けて俺は完全に引っ張られる形となった。
「あー!ちょっと待て、まだ魔力溜まりきってないんだ!」
「知るかよそんなもん!残念だが乖離は私が貰っていくぞ!」
正邪は挑発気味にそれだけ言うと、振り返らず俺を連れて走り続けた。
※※※
正邪のおかげでなんとか魔理沙を撒いた。そしてその間ずっと正邪は俺の手を握って放そうとしなかった。
そうこうしている内に、俺と正邪は少し大きめの岩場に身を隠していた。
「もう追ってきてはいないな」
「助かったか~……。それとありがとな正邪、おかげで命拾いしたよ」
「礼には及ばねえよ」
そう言って正邪は少し顔を赤くして答えた。可愛いね♪
さてこれからどうしたものか、俺は特にやることがある訳でもないしこのまま海で泳ぐというのもいい。でも俺まだジャージだから水着に着替えなければならない。
俺がそんな思案に耽っていると、正邪がクラレントを俺の首元に突然突き付けて来た。
「あの、何のマネですか正邪さん……」
「他に何か言うことはないのか?」
「……と、言いますと?」
「………死ね!」
正邪は上記のセリフを吐き捨てると、突然クラレントで斬りかかってきた。
寸でのところで回避したが、危うく首と胴体がおさらばするところだった。
「何すんだよ急に!」
「黙れバカ!私を前に言う事があるだろうが!」
「いや、意味わかんねぇよ」
「だったら早く死ねィ!」
急に怒り出した正邪はクラレントで俺を斬り殺さんと襲いい掛かってくる。
なんとか躱しているが、このままではいずれ斬られてしまう。折角の海で殺傷沙汰とかマジシャレにならない。ん、でも待てよ……海→正邪→怒る。
「もしかして、その水着褒めて欲しかったのか?」
「なっ!!違えーし!!全然褒めて欲しくなんかねえよ!!」
図星だ、正邪は顔を真っ赤にして攻撃の手を止めた辺り、本当に水着を褒めて欲しかったようだ。
因みに、正邪が着ている水着は赤、白、黒のシマシマ模様だ。
「似合ってるぞ?うん、結構可愛いと思う」
「…………」
正邪は無言のまま顔を赤くさせ俯いてしまう。その際クラレントは粒子化して消えていった為、おそらく照れているようだ。
「もっと早く言えよ……バカ///」
それだけ言って正邪はそっぽを向いてしまう。照れ隠しにしては随分と可愛らしいな。
なんて思った瞬間、もの凄い形相で睨まれた。
「お前今何思った……!」
「いえ……何も思ってないです」
相変わらず怖いなこいつは……今のは照れ隠しでもなく本気で怒っている時の顔だったな。確か前にぬえが正邪をからかった時にあんな顔で睨んでいたっけな。(その日ぬえは正邪にボコられた)
なんやかんやしている間に俺は正邪と一度別れ、一人浜辺を歩いていた。
程よい冷たさの波が行ったり来たりを繰り返し、足を冷やしてくれてなんとも気持ち良かった。
俺が一人浜辺を歩いていると、道中でこころちゃんを発見した。
声を掛けようと近づいてみると、なにやらこころちゃんはカニをジーっと眺めていた。
「こころちゃん、何してんの?」
「あ、乖離!……今この変な生き物の観察をしているの」
「それはカニっていう海とか川に生息する生き物だよ」
「カニ………我々の仲間か」
そう言ってこころちゃんは更にカニを見つめていた。
おそらくさきほど仲間と言ったのはカニの甲羅が表情のように見えているからだろう。カニの甲羅には人が笑っているように見える模様が付いているからな。
「我々に……似ているなお前は」
実際カニに表情も何もないなんて、今の彼女を前には口が裂けても言えないよ……だってこんなに目を輝かせているのだから。
そんな事を考えていると、こころちゃんはお面で顔を隠して問いかけて来た。
「乖離、私の水着似合ってる?」
こころちゃんの水着は薄いピンクにフリルの着いたなんとも可愛らしい水着だ。どうでもいい事だが、結構俺好みのチョイスだな!
「うん、似合ってるよ。結構可愛いと思うぞ?」
「そう……ありがとう」
顔がお面で見えないが、声色から察するに嬉しがっている反面、少々恥ずかしいのかもしれない。
「そういえばさこころちゃん、豊聡耳達と一緒じゃなかったか?」
「あ、そういえば神子ならさっき乖離を探しに行ったよ?」
「マジか、じゃあすれ違いになった………いや、無いな。俺浜辺歩いてたし」
「神子達に会いに行く?」
「う~む、どっちでもいいけどまあ……会いに行ってみますかねえ」
少し面倒ではあるが、あいつらが俺を探しているというのなら、こちらから会いにいってやるとしよう。別段俺に予定がある訳でもないしね。
「じゃあ、私も行く!」
そう言ってこころちゃんは俺の手を繋いでくる。最近はこころちゃんのこういった行動が多いネ!でも嬉しいから許す。
「んじゃ行こうか」
「オー!」
俺とこころちゃんは豊聡耳達を探しに行くことになったのであった。
それにしても、な~にか嫌な予感がするんだけど……何でだろうな。
こころちゃんと共に豊聡耳を探している最中―――突然俺の本能が大音量で『この場から離れろ!!』と警告音を発し始めた。
すると、空から何やら俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「乖離クーン!遊びに来たわよ~ん♪」
「あばばばばば!!!」
なるほど、先程の嫌な予感と大音量の警告音はこの事だったのかと、上空を見上げて理解した。
赤い髪をなびかせ満面の笑顔で急行落下してくるおバカちゃんに、そのおバカちゃんに連れられて涙目で悲鳴を上げている緑髪の少女。
まさか、夏の海だからと言ってわざわざロリ閻魔まで連れて来る事もないだろうに……まったく。
まったくもって、ハチャメチャな夏だよね~。
「乖離、空から女の子が!!(×2)」
ナイスボケだねこころちゃん……。
最後は多分皆さんご察しの……あの人(神)です。
本来はもう少し後に出そうと思ってたのですが、早めに出すことにしました。
そして次回は結構未登場キャラが出てきます!頑張らないとね!!
次回もお楽しみに!!