多分宴会で乖離の過去に触れると思います。
ではどうぞ!!
Side乖離
霊夢に誘われて、俺は異変のお疲れ様会こと、宴会に出席すべくこころちゃんと共に宴会料理をこさえて博麗神社に向かっていた。
約一週間振りに来た博麗神社は、前回と違って多くの気配を漂わせていた。感じる気配は妖怪、妖怪、妖怪のオンパレードだった。折角の異変解決の祝いなのに人間はこないのだろうか。しかし、よくよく感知してみると霊夢と魔理沙の霊力と魔力を感じ取れた。やはりあの二人はちゃんといるようだ。まあ当然だろうが。
だがしかし、俺は思うのだ。別に宴会って時に人間を取って食おうとする妖怪なんていないと思う。もしもそんな事をしようものなら、間違いなく霊夢か魔理沙に退治されてしまうだろう。紫あたりは別としてだが。
「それにしてもだが―――マジでふざけてんのこの階段?」
俺は久しぶりに見た異常に長い階段を前に苛立ちを覚えていた。
本当にどうなっているのか疑問に思うのだこの階段の長さは。別に空を飛べるのなら「なんのこれしき!」って感じなのだろうが、空を飛べない俺にとってこの階段の長さはもはやイジメの域なのだ。
この階段の製作者は絶対俺を筋肉痛にしたいに違いない。
「そう?私はそうは思わない」
俺より少し後ろを付いて来ていたこころちゃんは首を傾げていた。こころちゃんの言う事は分からなくはない。だとしても俺にはどうしてもこの階段の長さには異議を唱えずにはいられなかったのだ。
「まあいいや。それよりも、さっさと上って宴会に出ないとな」
「うんうん。早く行こー!置いてくぞ~」
こころちゃんは意気揚々と階段を足早に上り始めた。俺は小さくタメ息を吐きながらこころちゃんの後を追っていった。
ある程度上った後、俺は一度振り返り森の中へ沈んでいく夕陽を一人眺めていた。
それはとても綺麗な夕陽だった為、俺はついつい見惚れてしまっていた。
「幻想郷は本当に綺麗な所だな……。俺の居た世界とは段違いだよまったく」
夕陽の鑑賞に浸っていると、数十メートル先からこころちゃんの声が聞こえてきた。
「おーい!本当に置いていくぞー!」
「悪い!今行くよ」
俺は急いでこころちゃんを追って行った。道中右手だけで宴会料理を運んでいた為、追いつくのに思ったより時間が掛かってしまった。
ようやく頂上に到着した俺は、初めて来た宴会に驚きを隠せないでいた。境内の庭に広く敷かれたブルーシートの上に、沢山のテーブルが並べられており、そのテーブルの上に置かれている色とりどりの料理の数々。
そしてなんといっても、そのテーブルをギュウギュウで囲みワイワイと騒ぎ酒を飲み合う妖怪たちに俺は驚いていたのだ。
宴会料理絶対足りてないよな?
「あ、乖離さん!来てくれたのね」
俺が目の前の光景に呆気に取られていると、霊夢が声を掛けてきてくれた。
「よう霊夢……。凄いなこの妖怪の集まりは」
「そうでしょ?なんでも、紫がなにやらあの妖怪の集団に妙な事を吹き込んだらしいのよね」
紫、一体なにをしているのやら。しかしまあ、宴会は皆で集まってワイワイする方が楽しいし、ある意味グッジョブではあるが………流石に多すぎではないだろうか。
軽く数百人はいるんじゃないか?霊夢なんてしかめっ面で「これだから参拝客が増えないのよ!」なんて若干キレ気味だし……。
「なあ霊夢、そういえばこころちゃん見なかったか?途中まで一緒に来ていたんだが、頂上に近くなった辺りから先に行ってしまったんだけど……あ、これ宴会料理ね?」
「ありがとう乖離さん!こころなら向こうの方で踊ってるわよ?」
俺は霊夢に宴会料理を渡し、教えられた方向に目を向けると、遠くの方でこころちゃんが舞を踊っている姿が確認できた。しかもその舞はプロ級に上手いものだったので、ついつい見入ってしまっていた。宴会には踊りなどの余興は必須ということなのだろう。流石はこころちゃんだな!
「ところで乖離さん、お酒は飲めるわよね?」
俺がこころちゃんの舞を鑑賞していると、霊夢がそんなことを問いかけてきた。
「酒か~、飲めなくはないけど……なんで?」
「折角の宴会なんだし、たまには羽目を外さないとでしょ?」
「そうだな~……でもアレだぞ?俺酒癖悪いから酔って宴会が血祭りになりかねなくなるぞ?血祭られるの俺だけど」
「そ、そうなのね。なら無理にとは言わないわ」
霊夢は苦笑を浮かべながら「それじゃまた後でね」と言って俺の手渡した宴会料理を持ってどこかへ行ってしまった。
霊夢がいなくなって俺は一人になってしまったが、直ぐにまた別の人が俺に話しかけてきた。
その人物は一週間と三日振りの魔理沙だった。
「お、乖離!久しぶりだぜ!来てたんだな」
「やあ魔理沙、久しぶりだな。元気だったか?」
魔理沙は「もちろんだぜ!」っと胸を張って元気一杯に答えた。本当に久しぶりに会ったが、正直見違えた。以前会った時より魔力の質が上がっていたからだ。あれから特訓でもしたのだろうか?
「聞いたぜ乖離。お前今回の異変を一人で解決したんだって?凄いな!」
「そうでもないさ。霊夢や妹紅、それに魔理沙やこころちゃんに慧音さんが頑張ってくれたおかげだよ」
「ん?私はあの時は乖離には会ってないはずだぞ?」
「感知したのさ。皆の霊力や妖力、そして魔理沙の魔力をな?」
「え?」
魔理沙は鳩が豆鉄砲でも喰らったみたいな顔になり、キョトンとしていた。
まあ突然そんなことを言われても理解できないかもしれないが、事実であることには変わりない。正直あの時霊夢と魔理沙が来てくれていなければ、結構厳しいものがあったと思う。でなければ、あの三人と遊んでなんていられなかっただろうし。
そういえば、あの時感じた
そんな事を考えていると、魔理沙が俺の使い物にならなくなった左腕を痛々しそうに眺めていた。
「なあ乖離、この左腕って……」
「ん?ああ、これは先の異変で悪化してしまっていてね、もう感覚すらないんだ」
「だ、大丈夫なのか?」
「生活していく上では問題ないよ。ただ、少し邪魔だから今度斬り落とそうと思っている」
俺は陽気に笑って答えると、魔理沙は突然表情を険しくして俺の肩を掴んできた。
「だ、ダメだぜそんな事したら!私がいい医者を紹介してやるから、斬り落としたりなんてしたらダメだぜ!」
「お、おお」
魔理沙が突然鬼気迫るような顔で俺の肩を掴んできたものだから、つい勢いに負けて頷いてしまった。
「本当だな?」
「ほ、本当だ……」
ならばよし!と魔理沙は俺の肩を放して小さくタメ息を一つ吐いた。
正直こんな左腕なんてどうでもいいけど、折角魔理沙みたいな美少女が俺を心配してくれているのだから、ここは敢えて魔理沙に従っておくことにした。
「そうだ!乖離も宴会を楽しめよ?今回の主役はお前なんだぜ?」
「ああ、ありがとさん。それと、霊夢に俺の持ってきた宴会料理を渡してあるから、よければ食べてみてくれ」
「わかったぜ!それじゃ、また後でな~!」
魔理沙はそう言って霊夢の居る方へ去って行った。
再度俺は一人になってしまった。折角の宴会でボッチなんて、ここまで惨めなものはあるだろうか……。
「さて、どうすっかな~。あ、お茶貰ってこようかな?その後に考えよう」
俺はお茶を貰いに妖怪たちの集団に紛れようとした時、またもや知人の声が俺の足を止めた。
「乖離様……探しましたわ。一体何処に居られたのですか?」
声の主からして紫だろう。
俺は紫の声のした方へ振り返ると、そこにはやはり紫が立っていた。
しかし、俺の目に映った紫はいつも着ている紫のフリル付きのドレスではなく、中華をイメージさせる紫の導師服を着ており、長かったあの金色の髪も纏め上げていた。
その姿に俺はどこか神秘的なものを感じ、だらしなく見惚れてしまっていた。
「乖離様、あの……どうかなさいましたか?」
「あ、いやすまん。ついつい見惚れてしまっていた。久しぶりに会った時もだが、本当に紫は綺麗になったな~っとね?」
「え?」
紫は目を見開いて驚いた顔をしてた。そしてすぐに顔を赤くして俯いてしまった。何故紫が俯くかは分からないが、お世辞でもなんでもなく本当に紫は綺麗な大人の女性になったと思う。多分だが、俺が今まで出会ってきた大人の女性の中ではダントツで紫が美人と言える。どこの世に出してもまず恥ずかしくないだろう。
胡散臭いのが魂にキズではあるが。
「どうした紫?」
「い、いえなんでもありませんわ///」
顔を俯かせたままそう答えた紫はゆっくり俺の方へ近づいてきて、そっと俺の右手の袖を掴んだ。
「せ、折角の宴会ですし、席を準備しておりますわ……ど、どうぞこちらへ」
そう言って紫は俺の袖を引いて準備した席とやらに案内してくれた。別に袖を引く必要はないとは思うが、折角なので為されるがままでいることにする。俺としても別に嫌という訳ではないしな。
それにしてもさっきから他の妖怪達からの視線が妙な気がする。まあ無理もないとは思うが。なんといっても紫ほどの大妖怪に、なんの力も感じないどこにでもいる平凡な人間がどこかへ連れていかれているのだ、仕方ない。
妖怪たちの視線はみるみる内に哀れな人間をみる目に変わっていた。
中には『あんなに若いのにかわいそうによぅ』だとか『宴会で食われる人間……面白い』とか『妖怪の賢者も酔狂よなぁ』と呟く者たちもいた。
なんですかね?俺紫に食われるんですかね?絶世の美女に食われるのなら男としては本望だが、出来ればもう少し生きていたいのですが……。
「着きましたわ乖離様」
「乖離殿、お久しぶりです」
紫に連れられて来た場所には既に藍が座っており、俺が来たのを合図にわざわざ立ち上がってまで藍は挨拶をしてくれた。今日の藍は帽子を被っていないようだ。
しかし、もっと楽にしてくれてもいい気がする。折角の宴会で堅苦しいのはアウトだと思うし。
「久しぶり藍、元気してたか?」
「はい、いつも通りです。それより、乖離殿……左腕はまだ痛みますか?」
藍は少し申し訳なさそうに聞いてきた。大して心配することではないと思うが、彼女にもなにか思うところがあるようだ。もしかするとだが、初めて会った時の弾幕ごっこの事だろうか。
「ああ、痛みは大分引いて来てるよ。それよりさ、そんなに畏まらなくてもいいぞ?折角の宴会なんだからさ、楽しもうぜ」
「は、はい……乖離殿がそう仰るのであれば」
「よしよし、それでいいんだよ」
俺は笑いながら藍の頭を優しく撫でる。帽子を被っていなかったので、とても撫でやすかった。サラサラと触り心地の良い綺麗な髪がなんとも気持ち良い。
撫でられる側の藍は顔を赤くして黙っているだけだった。一方紫はどこか羨ましそうな目で俺を見ていた。
撫でて欲しいのならそう言えばいいのに。
「お、乖離じゃん!久しぶり」
俺が藍の頭を撫で続けていると、またしても誰かに声を掛けられた。
俺は一度藍の頭を撫でるのを止め、声のした方へ振り向くと、赤いモンペが特徴的な少女……妹紅が手を振りながら近づいてきた。
「やあ妹紅、久しぶり!元気だったか?」
「不老不死の私が元気な訳ないでしょ?」
妹紅は皮肉交じりに返すが、俺が聞いた元気ってのはそういう事じゃないのだが……。
「そうかい……。って、妹紅は一人なのか?」
「まあね……あ、でも後で慧音が寺子屋の生徒達を連れてくるから、今は一人かな」
「そうか、ならここで一緒に飯でも食おうぜ!折角だからさ」
「……いいのか?」
「もちろんだ。いいよな?紫、藍」
「乖離様がよろしいのでしたら、私は何も言いませんわ」
「私も紫様と同じです」
紫と藍はそう言っていたが、その顔にはどこか不満が見て取れた。
俺は少し席をずらし、隣に妹紅を座らせた。近くにあった皿に料理をよそい、妹紅に渡した。
「ありがとう」
「礼には及ばんさ。あ、紫もしよかったら霊夢と魔理沙も呼んできてくれないか?折角だから、皆で食べよ?」
「そうですわね……分かりました。すぐに二人を呼んで来ます」
「ありだとな!」
「礼には及びませんわ。乖離様はごゆるりと宴会をお楽しみください。藍、乖離様に料理を運んであげなさい」
「はい、直ぐに!」
紫は霊夢と魔理沙を求めて…藍は宴会料理を求めて二手に別れて行った。
俺は二人が去った後、近くにあった麦茶を手に取り一息に飲み干した。そんな俺を妹紅は可笑しそうに笑っていたので、俺もそれに釣られて小さく笑った。
「なんていうか……宴会って新鮮だな~~」
俺はすっかり暗くなり、綺麗な星々が輝く空を眺めながら、黄昏るように呟いた。
多分ですが、宴会は異変以上に長くなります。
そして最近深秘録を買ってみました。
こころの扱いやすさたるや……。
次回もお楽しみに!!