ではどうぞ!!
Side乖離
今日も快晴、絶好のお散歩日和。キラキラと輝く太陽よ、こんにちは!
あの事件……異変とやらが終結して早一週間が過ぎた。
あの日を境に、俺は一度も家を離れていない。特に出掛ける必要があった訳ではないが、兎に角もう一週間と家の半径五メートル以上から外へ出ていないのだ。
普通に考えればおかしい事なのだろう。一週間も家から離れないなんて、よっぽどの事でもない限りありえない。
とはいえ、俺は別に引き籠りという訳ではない。それどころか、寧ろこんな天気の良い日は散歩に出掛けて、川で
ならそうすればいいだって?――――出来ることならね。
あの日から毎日毎日、一人の来客が来ているのだ。別に鬱陶しい訳じゃない。
その来客というのが、異変の日に最初に出会った面霊気・お面の付喪神の秦こころちゃんだ。
こころちゃん曰く『寄り道ついでに遊びに来た』との事だ。―――最初はな?
俺はこころちゃんの遊び相手として、毎日あることで遊んでいた。
それは将棋である。古くからある日本の伝統的な遊びだ。発祥の地は古代インドなのだとか……。
そして彼女はどうしても勝ちたい相手がいるのだとか。
そもそも寄り道ついでに遊びに来たとか言っていたが、それがどうだろう?俺が左腕が使い物にならないのと、将棋を打てると知った次の日から、完全に俺の家に入り浸ってしまった。
そんなこんなで、俺は今日もお昼時に将棋盤を囲んでこころちゃんと向かい合っていた。
「むむむ、ここだ!」
「へ~、はい詰みね?」
「ぐわぁぁぁ」
こころちゃんは無表情のまま悲鳴を上げ、後ろに倒れ込む。和室で打ち合っているから怪我の心配はない。座布団もあるし。
盤上には玉を囲む形で金が三枚、銀が四枚、飛車角二枚ずつもちろん裏返っている状態。
因みに俺が王将ね?
先程の勝負は誰もが圧倒的と呼ぶだろう。人によってはイジメなんて言う奴もいるんじゃなかろうか?
だが勘違いはしないでもらいたい。俺はこころちゃんに充分過ぎるハンデを与えた上でこの結果になっているのだ。
こころちゃんは二歩アリ、開始歩全て【と】に変換、更には俺の金銀全てこころちゃんにくれてやった。
それでも五十手以内に終わらせたがな。
「これで二十戦二十勝だね」
「ぐぬぬ、もう一回!」
「まあいいけどさ、いい加減罠敷かれてるのに気付こうかこころちゃん」
「乖離のはどれが罠でどれが罠じゃないか見分けがつかない……」
こころちゃんは無表情で頬を膨らまし、不満を吐き出す。
普通に見れば、こころちゃんは下手くそのようにしか見えないかもしれない。だがしかし、彼女も彼女で相当のやりてだ。多分今時の大人じゃ相手にもならないかもな。
「それじゃあ盤上を戻そうか。ハンデはもっと増やすか?」
「ううん。今度はもう一回ノーマルでやりたい」
「玉以外全て消されたいの?」
「あれは地獄だった」
こころちゃんは顔を青くしながら俯いた。
初見でこころちゃんと打ち合った時、俺はこころちゃんの玉以外全てを食い尽くし、完全に遊んでいたのだ。あの後泣かせてしまったのは秘密だ……。
「でも、そんな乖離を超えられたのならきっと私もあの人に勝てると思う」
「前にも言ってたねそんな事。こころちゃんが勝ちたい人って誰なのさ?」
俺は将棋の駒を所定の位置に戻しながら、こころちゃんに問いかけてみた。
「私を造ってくれた人……とっても強くて、カッコイイ……私の神様」
「ほうほう、神様か。それは凄い」
「でも今は私の方が強い。将棋ではなく、単純な実力なら」
「そっかそっか。それで、その神様って人の名前は?俺も少し気になるんだよな」
「確か、ととさと……違った。
瞬間―――俺の駒を戻そうとしていた手が止まった。
豊聡耳神子……だと?
その名は確か―――
「こころちゃん、その豊聡耳神子ってさ…もしかして聖徳太子なんて呼ばれてなかった?」
「ん?聖徳までは知らないけど、太子様ってあいつを慕う連中が呼んでいた気がする」
やっぱりか。まさか、この幻想郷でその名を聞くとは思わなかった。
あの無駄に偉そうな箱入り娘が、こころちゃんの創造主だったとは……てかあいつ呼ばわりされたな今。しかも実力はこころちゃんより下って……。
一体どれだけ前だったかは憶えていないが、俺は一度豊聡耳に会っていた時のことを思い出す。
第一印象は、大人しそうな博学の少女
ところがどっこい!化けの皮を剥がすとまあ凄い!
そして第二印象は、大人を正論と余計な煽りでキレさせる事が趣味のいい性格した腹黒娘。
上記のを見れば兎に角ロクな奴じゃなかったが、以外な弱点としては独りボッチになると年相応に泣きまくるちょっと面白い奴。
しかしながら世界というものは分からないものだ。
あんなクソガキが後に聖徳太子と呼ばれ、十人の話しを同時に聞くことが出来たといわれる日本有数の聖人の一人となったのだから。
彼女の定めた法、成し遂げて来た実績は現代でも広く語り継がれている程である。
まったく、何故あんなのが聖人に成れたのかまったくもって理解不能だ。
だがしかしおかしい事がある。あいつはあくまでも人間のはずなのだ。こころちゃんの話しがでっち上げの嘘でないのなら、何故まだ生きているというのか?あいつが生きていた時代は、今より遥か1400年以上も前だというのに。
「あのクソガキが……何やってんだよ」
「どうしたの乖離?」
「え?あ、いやすまん。ちょっと考え事をだな?」
俺は苦虫を噛み潰したように顔を引きつらせ、淡々と駒を戻す作業を進めた。
そして駒を所定の位置に戻し終わり、再度こころちゃんとの打ち合いを始めた。
「なあこころちゃん。その豊聡耳神子はこの幻想郷にいるのか?」
こころちゃんは首を横に振った。こころちゃんが言うには、どうやら豊聡耳は『神霊廟』と呼ばれる幻想郷とは違がった、仙人達の住まう世界にいるそうだ。
「じゃあどうやったらその神霊廟ってとこに行けるんだ?」
「行き方は色々あるけど、ちょっと面倒くさいかも」
面倒ならあまり行きたくはないが、もし豊聡耳が仙人となっているのなら、この時代まで生きていることは頷ける。
まああいつに限ってそれはないだろう…………多分……そうであってほしい。
「分からないもんだな、世界ってやつはさ」
「急にどうした、悟りでも開いた?」
「ハハハ、残念だが俺にはこれといって悟るようなものはないんだ……。あ、王手ね?」
こころちゃんと雑談を交えていると、既に俺の駒はこころちゃんの玉を捉えていた。喋りながら打っていた勢か、こころちゃんは今までよりも注意散漫になっていたので簡単に王手を打つことが出来た。さてさて、後何手で玉以外全て絞りつくせるかな?
「そういえば、乖離は私以外と将棋を打ったことはあるの?」
こころちゃんは玉を動かし、王手を回避しながらそんな事を俺に問いかけてきた。
「三日程前に、紫と打ったかな。あれはヤバかったよ?勝ったのは俺だったけど、一瞬でも気を抜いたら一方的にやられていたかもな」
「妖怪の賢者は強いの?」
「あれは強いってもんじゃないよ。多分今の時代の将棋師、階位でいう竜王クラスが束になってかかっていっても軽くあしらわれるんじゃないかな?」
そう、本当に紫は強かった。多分俺が今まで打って来た将棋師達の中では文句なしの最強だ。
まさか勝負を着けるのに百手以上使ったのは紫が初めてだったと思う。
俺がいくら策を労してもことごとく見破られてしまったし、紫の守りも全然崩せずにいたから、俺は結構焦っていたと思う。
しかし紫には一瞬のミスがあったから、そこを突いて勝負を着けさせてもらった。
あの後頭がキリキリといって痛かった。
当の紫はというと、涙を流しながら『無敗だったのに~!』と泣き叫びながらスキマを開いて帰っていった。『ガキかっ!』とツッコミたくなった。
俺と紫の対局を見ていた藍も『紫様が負けたとこなんて初めて見ました』と言って驚いていたっけ。
そんな回想をしていると、もう既にこころちゃんの駒が歩と玉の二枚しかなくなっていた。
流石のこころちゃんも心が折れたのか、無表情なうえに目からハイライトが消えボーっとしていた。
ごめんねこころちゃん。俺手加減出来ないんだわ!
「さてさて、俺の勝ちだね!あ、お昼ご飯ラーメン作るけど食べる?」
「うう、食べる……」
こころちゃんは目に涙を浮かべながら俺の問いに俯きながら答える。
流石に大人げなかっただろうか。
俺が台所に向かおうとした時、インターホンが家中に鳴り響いた。俺は誰だろうと思い、一度玄関へ向かった。
玄関の扉を開け、誰が来たのかを確認すると、そこには紅白巫女こと博麗霊夢が立っていた。
Side霊夢
紫に教えてもらって、今日私は異変解決者である外来人、乖離さんの家に来ていた。
その家は人里と博麗神社の丁度中間地点に存在する森の中に堂々と建っていた。この辺は低級妖怪が多いし、たまに中級妖怪が現れる常人にはかなり危険な場所だ
でも、乖離さんの実力ならそんなもの問題にすらならないはず。。
乖離さんの家には初めて来たけど、和風というより洋風に近いイメージの家で、一人で住むには少しばかり大きな家だった。
私はインターホン?とやらがあると紫から聞いていたからそれを探していたが、以外と早く見つかった。
玄関のすぐ右の壁に押しボタンのようについていたものを一回押してみた。
するとピンポーンと奇妙な音が家の中から聞こえてきた。
インターホンを押してから数秒すると、家の中から足音が聞こえてきた。その音は次第に大きくなり、こちらに近づいているという事がわかる。
そして目の前の扉が開き、中から先の異変で悪化してしまった左腕を包帯で巻いて固定している乖離さんが出て来た。
「おや?霊夢じゃないか。久しぶり~。今日はどうした?」
「久しぶりね乖離さん。今日は少し話があって来たのよ。それより、その腕大丈夫なの?」
「少し邪魔だけど、生活には問題ないよ。出来れば斬り落としたいけどな」
ハハハと、愉快そうに笑いながらさりげなくえげつない事を口走る乖離さん。常識的に考えて、そんなこと普通は言わないと思うんだけど……。
あ、ここは常識に囚われてはいけない世界・幻想郷だったわ。
「そうだ霊夢、昼飯食った?」
「え?いえ、まだだけど……」
「そうか、なら俺達今からラーメン食うんだけど、霊夢も食べるか?」
「いいの?」
「もちろん」
ありがたい。そういえば今日はお昼御飯まだ食べていないんだった。話だけ済ませてさっさと帰ろうと思ってたところにこんな幸運が舞い降りるなんて、やっぱり日々の行いがいいおかげよね、絶対そうよね?でも今俺達って……。
「俺達って、誰か居るの?」
「こころちゃんが遊びに来ているんだよ」
「こころが?」
乖離さんは若干はにかみ笑いを浮かべながら、軽く首を縦に振った。それよりこころも乖離さんと面識があったのは以外だ。妹紅もだけど。
「お昼を頂くのはいいんだけど、誰が作るの?もしかしてこころ?」
「いや、俺だけど?」
「その腕で?」
「何か問題でも?」
問題しかないと思うんだけど……。まあ、せっかく御馳走してくれるというのだから、ありがたく頂いておくとしようかしら。
私は乖離さんに家の中に入れてもらい、和室に案内された。乖離さんはラーメンを作りにそのまま台所へ向かった。
そしてその和室には意気消沈したこころが座布団四枚を縦に並べてうつ伏せ状態で倒れていた。
一体何があったのよ。
「こころ、あんたどうしてそんな状態になっているのよ?」
「乖離と将棋して負けた……コテンパンに」
こころはそう言ってある方向を指さす。そこには大きな将棋盤があり、沢山の駒が四方八方に散っていた。見たところこころと乖離さんが勝負をし終わってまだ片づけていない感じだった。
でもこの将棋盤はおかしいと思うのは私だけかしら?盤上には、一方に玉と歩が一枚ずつの計二枚。もう一方にはその二つの駒をまるでリンチでもかけているかのように配置された数十の駒達……。
「なにこれ?」
「私が玉で、乖離が王将。一方的に遊ばれた。乖離の考え事の片手間に……」
何それ怖い。普通どんなに上手い将棋師でも相手の持ち駒をほぼ全て奪い取るなんてやろうとしても出来ない芸当だ。もしもそんな頭のおかしい芸当が出来るとしたら、それこそ紫ぐらいじゃないと不可能なはず。
「乖離さんって将棋とんでもなく強いのね……紫といい勝負ね」
「残念だが乖離曰く、その妖怪の賢者も三日前に撃破済みとのことらしい」
「嘘でしょ?!あの紫に!」
これには流石の私も驚きを隠せず、ついつい大きな声で叫んでしまった。
私も将棋なら幻想郷の中でもかなり強い自信はあるけど、それでも一度として紫には勝ったことがない。弾幕ごっこならともかく、私をして紫には将棋では絶対に誰も勝てないと言わしめた程なのに、その紫を乖離さんは既に撃破済みだなんて……。
「驚きを通り越してもはや笑うレベルね。全然笑えないのがなんとも恐ろしいけど……」
「脳の構造がどうなっているのか知りたい」
私もそれには少し同感。
それと、今度乖離さんを永遠亭に連れていこうかしら?左腕の事もあるし。
その後少しこころと色々話していると、おいしそうな匂いが部屋に充満し、乖離さんがトレイに三つの器を載せて部屋に入ってきた。
「二人共出来たぞ~。さ、将棋盤を隅っこに寄せてそっちのちゃぶ台を持ってきてくれ」
「「は~い」」
私とこころは乖離さんに言われた通り将棋盤を部屋の端に寄せて、近くにあった少し大きなちゃぶ台を部屋の中央に寄せた。
乖離さんは寄せられてきたちゃぶ台の上にトレイを置いて、私とこころの分の器を先に寄せてくれた。
私とこころはありがたく器を手に取り、三人向かい合うようにちゃぶ台の前に座った。こころは器を持った時「あちちち」と言って零しそうになっていたけど、大丈夫だった。
私達三人は用意された箸を取り、両手を合わせた。
「「「頂きます」」」
そう言って私はラーメンを口に運んだ。
瞬間―――私の中であるものが弾けた。
「うっま!!なにこれ超美味しいんだけど!!」
初めて食べたラーメンは、今まで味わったことのない味が口いっぱいに広がった。
のど腰のいい麺、辛過ぎず甘すぎずの醤油ベースのスープ。なにやら醤油だけがベースじゃないようでもあるけど。
私はこれまでこんなにおいしい食べ物を口にしたことがない。とても幸せな気分だった。それはどうやら私だけではなく、こころも同じようだった。
しかし気付けばあっという間に食べ終わり、スープまで完食していた。
正直お代わりが欲しいけど今は我慢することにした。
本題を忘れかねないし。
「「ごちそうさま。ふ~美味しかった!」」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「あ、そうだ乖離さん!大事な話があるんだけど」
乖離さんは「どうした?」と聞き返しながら、私達が食べ終わった器と箸をトレイに戻し片付けをしている。
「今日の晩方博麗神社で宴会があるんだけど、是非乖離さんにも出席してもらおうと思ってるんだけど、大丈夫よね?」
「宴会?なにそれ?」
「宴会っていうのは、異変後に行われる……要はお疲れ様会みたいなものなのよ。まあ、それに出席する連中は適当に理由をこじ付けて酒を飲みたいって奴らの集まりみたいなものなんだけど」
私の説明を聞いて乖離さんは悩むように首を右へ左へと動かしている。
万が一にでも断られたりでもしたらどうしようかしら。今回の宴会は異変解決の祝いと、乖離さんの歓迎会でもある訳だし、なんとしても出席してもらいたいのよね。
なんて考えていると、乖離さんが私に聞いてきた。
「えっとさ、その宴会ってのには酒飲めないとダメ…なんてことはないよな?」
「も、もちろん大丈夫よ。お酒飲めない奴も来たりするから、気にする必要はないわよ!それに、きっと紫たちも来るから喜ぶはずよ?」
「そうか、それなら行ってみてもいいかな?あ、そうだ!どうせだし、宴会料理でもこさえていくか!」
そう言って乖離さんはトレイを持って部屋を出て行った。
多分また台所に向かったみたいね。宴会でも乖離さんの料理が食べられると思うと、なんだか舞い上がってしまいそうね。それに乖離さんが結構乗り気になってくれたのは嬉しい。これで紫に小遣い抜かれずに済むわね!
「宴会なら私も行く!場を盛り上げる能楽も必要でしょ?」
「そうね。それにこころも今回の異変では活躍してくれたし、いいわよ」
「やったー!」
こころはいつもながら無表情のままでピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ねている。
宴会に参加できることがそんなに嬉しいようね。
私は乖離さんにお礼を言って博麗神社へ帰ることにした。
一刻も早く宴会準備を済ませないといけないから。
そして、宴会の時間がやってきた。
今回は結構長くなりました。
描写云々を考えていると、自然と手が動いていたのです。
それでは次回もお楽しみに!!