東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

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テスト勉強嫌ですね~

それではどうぞ!!


八話 もう一つのカード

Side霊夢

 

 

 

紫と別れてからというもの、私はいまだに妹紅を探し続けていた。紫はそう遠くないって言っていたのに、まったく出会わないんだけど……。やっぱり夢想封印だけじゃ足りなかったかしら。

でもだんだん近づいている気はしていた。あの化け物たちの焼け焦げた死骸があちらこちらに散っているのを見る限り、本当に妹紅がこっちにいるのは間違いないはず。

 

 

そして見つけた。

 

探し当てるのに数十分掛かってしまったけど、確かに妹紅を発見した。

はずなんだけど―――

 

「なんであんた死んでんのよ?」

 

「うるさい……私だって好きで死んだんじゃないんだから。あ、でも本当に死ねるのならバッチ来いなんだけどね」

 

折角見つけたというのに、妹紅は胸に大きな穴を空けた状態で地面に仰向けで倒れていた。

どういう経緯かは知らないけど、本当に懲りないわねこの死にたがりは……。

 

「で?あんたは何でここにいるのさ霊夢」

 

「こころに聞いてあんたを探しに来たのよ!それと、この異変の主犯を伝えにね?」

 

「そっか……。でも、この異変の主犯は知っているよ。どうせ封獣ぬえなんでしょ?」

 

「知ってたの?」

 

「私を殺した犯人から聞いたのさ」

 

妹紅を殺した……?誰が?この幻想郷でもこの不老不死を殺せる者なんてそうはいないはず……。まあ、殺しても死なないんだけど。

それでも気になるわね……。妹紅も妹紅で、不意討ち程度に引っ掛かる程間抜けじゃない訳だし……。そうなると、妹紅を殺せる者なんてかなり絞られるはず。

でも、この辺りから感じる妖力は……まさか―――

 

「ねえ妹紅、あんたを殺したっていう奴って……まさか、フランじゃないでしょうね?」

 

「ご名答だよ。あの暴走吸血鬼さ!油断してこの様にされちゃったって訳なんだ」

 

やっぱり……。妹紅を殺したのはフランなのね。

でもおかしい……なんたってフランがこの異変に?

 

「どうなってんのよ~、この異変の首謀者はぬえと正邪じゃなかったの?あのスキマババァ、なんであんな面倒くさい奴の情報を先に話さないのよ!」

 

確定!紫にはこんど私から夢想封印の各バリエーション全てを叩きこんでやろう!

私が紫にお見舞いする夢想封印のバリエーションをどれから喰らわせようか考えていると、妹紅はある事を聞いてきた。

 

「正邪?正邪って言えばあの天邪鬼だろ?なんであいつまでいるんだよ」

 

「知らないわよそんなの!紫がぬえと正邪が主犯って言ってたのよ」

 

「あの賢者がね~……っと、そんな無駄話をしてる暇はない。霊夢、手が空いているのなら手伝って!早くキメラ共を一掃しないと人里が危ないんだ!」

 

妹紅はそう言って勢いよく立ち上がった。

気が付くと、既に妹紅の胸の穴は塞がっており、まるでそこには最初から穴など無かったかのように回復していた。本当に不老不死って凄いわね。それにキメラって何よ……あの化け物の事かしら。

 

「それはいいんだけど、あの三人(バカ共)はどうするのよ?紫が動いている訳でもないんだし、私かあんたのどっちかが主犯退治に向かわないと埒があかないじゃない?」

 

「ああ、それなら心配ないよ。相当強い……ある外来人が主犯退治に向かってくれているから」

 

相当強い外来人?もしかしして―――

私の頭には紫をして『最強』と言わしめた――三日前に幻想入りしてきた一人の外来人の少年が浮かんだ。

 

「妹紅、その外来人の名前って分かる?」

 

「え?確か……氷鉋乖離って名前のはずだけど……霊夢知ってるの?」

 

やっぱり、乖離さんが……それなら確かに安心かもしれないわね。本来なら博麗の巫女として私が異変解決に向かうのが当然なんだけど、乖離さんが異変解決に向かってくれているのなら私達は人里を守ることに専念するべきね。

 

「おい――おい霊夢!聞いてるのか?あんた乖離の事知っているのかって聞いてるんだけど!」

 

「え?ええ、知ってるわよ?乖離さんの事でしょ……。乖離さんは三日前に紫と一緒に私の所に来て、三万円お賽銭入れてくれた人だし」

 

あの時の事は私の生涯で忘れることは絶対にないと断言できるわ!

 

「へ~よかったじゃん。あんたの神社にお賽銭なんてする者はいないと思ってたけど、乖離も随分と酔狂なんだね!」

 

妹紅は私を馬鹿にするようにケラケラと笑う。喧嘩売ってるのこの死にたがりは?

 

「ま、そんな事は置いておいてだな……そろそろ周りの連中(・・)を一掃しない?」

 

「そんな事ってなによ……。でもまあ、それには賛成ね」

 

妹紅と無駄話をしている間にどうやら、キメラだったかしら?が集まってきていた。

 

「私としては、さっさと乖離の手助けに行きたいんだよね?フランドールへの仕返しもあるしさ!」

 

「あんたって結構根に持つタイプなのね……」

 

やっぱり妹紅とはなんらかの因縁であっても作らない方がいいわね……。ふとした事で社を燃やされでもしたら堪ったものではないし。

 

「まあ、それはともかくさ……まずは」

 

「ええ、まずは」

 

「「この雑魚を蹴散らさないとね(な)」」

 

私はお祓い棒をキメラ達に向け一枚のスペルカードを宣言する。

 

「【神技・八方龍殺陣】」

 

私のスペルカードに続いて、妹紅もスペルカードを宣言する。

 

「【蓬莱・凱風快晴‐フジヤマヴォルケイノ】」

 

私と妹紅の放った二つのスペルカードが、キメラの群れを一掃していく。方や八方を囲み、敵を蹂躙していく結界。方や大地を焼き尽くす鳳凰の爆撃。この二つのスペルカードによって、殆どのキメラが有無をいわさず蹴散らされていった。

 

 

 

「ふう、あらかた片付いたみたいね」

 

「ちょっとやり過ぎたかもしれないけどね」

 

「そんなもん無視よ無視。たとえ誰かにこの風景を指摘されても、紫の勢にしておけば万事解決なんだから」

 

「ハハ、確かに」

 

私達はただこの異変で発生したキメラ達を退治していただけなんだし、きっと誰も怒ったり嘆いたりしないはずよね!

例えそこにあったはずの森が―――草木一本残らず消し飛んでいたとしても。

もちろん悪いとも思っていないし、反省する気もない。

 

「キメラ共はさっきので最後みたいだな!よし、乖離の応援……もとい、フランドールへの仕返しに行こうか」

 

「本当にブレないわねあんた……」

 

私は妹紅の復讐心に呆れて溜息が出た。けどまあ、乖離さんの応援っていうのには賛成ではあるんだけどね。

ふとそんな事を思っていると―――ここから一キロ程離れた別の森から、紅い光の柱が見えた。

その紅い光の柱は、どこか見覚えのある稲妻を放っていた。あれほどの物を造っておきながら、一切その力を観測出来ない事から、アレ(・・)を造り出した者が誰なのか直ぐに分かった。

 

「な、なんだ今の光の柱は!?」

 

「おそらくアレは乖離さんの造り出したものよ!急ぐわよ妹紅!」

 

「あ、ああ!」

 

私と妹紅はさっきの光の柱が上がった場所に猛スピードで飛んで行った。

 

 

 

 

私と妹紅はようやく紅い光の柱が上がったと思われる場所までたどり着いた。

そこには四人の人影があり、その三つはやはりこの異変の主犯と思われているぬえと正邪とフランがいた。私は今すぐこの異変を終わらせるように三人に叫ぼうとして―――やめた。

四人目は―――私の知っている人物ではなかったのだから……。妹紅も驚きを隠せないようで、目を見開いて固まっていた。

そこに居たのは、白い外套を着ていて、白髪のロングヘア―を首元で結んでおり、綺麗な赤い瞳を持っている。そして両頬に縦状に赤い線のようなものがある少年が立っていた。さらにその少年から溢れ出ている紅いオーラは、紅魔の吸血鬼の持つ禍々しいものではなく、それに少し似てはいるが圧倒的に質が違っていた。そのオーラはどこか優しくて、見ているだけで心が安らぐかのような感じがあった。

でも、それだと役者が合わない。あの光の柱を造り出した張本人と思われる乖離さんの姿が見えない。

あれ?でもあの顔は何処かで見た気がするのよね……。髪の色も長さも、瞳の色も何もかも違うはずなのに、顔立ちだけは乖離さんそっくり………。

あれ?もしかして……アレが乖離さんなの?

 

 

 

 

 

 

 

※※※

Side乖離

 

霊夢と妹紅が駆けつけて来る十数分程前―――――

 

 

 

さてさてどうしたものでしょう。俺の目の前には紫ほどではないにしろ、相当の妖力持ちが三人……。ついでにキメラが一匹。

能力を使うにしても、アレは半端なく燃費が悪く、残りの自然エネルギーから精々転移一回あたりが限度とみた。

逃げるにせよ、あの三人から逃れるのは至難の業だ。万全の俺なら可能性が無い訳ではないが、どう考えても今の状態では不可能だ。

 

「仕方ないな、こいつ(・・・)を使うとするか……」

 

俺は服の内ポケットから一枚のカードを取り出した。そのカードには紅い線が枝分かれしたように刻まれていた。

 

「一応聞いておくけどさ、お前らの目的って一体なんなのさ?こんな訳分かんない事件を起こして、何がしたいんだ?」

 

俺の問いかけに三人は不敵な笑みを浮かべて次々に返答を投げかけた。

 

「さっきも言ったけどさ、私は妖怪を中心とした世界が欲しいんだよ!別に人間に絶滅して欲しいって訳じゃないんだ。ただ、私は人間なんかが私達妖怪の上に立っているのが我慢ならないんだ!だからこの異変を私達三人で起こして、調子に乗っている人間達に妖怪の本当の恐ろしさってやつを教えてやるのさ!」

 

「私はある意味ぬえと同じさ。私は自分で自分の事を強いと思い、弱者を虐げる連中への反逆の為にこの異変に手を貸したんだ。人間も妖怪も、どいつもこいつもに、虐げられてきた者の痛みってやつを体験させてやりたいんだよ。奪われる苦しみを…失くしてしまう辛さを…圧倒的理不尽に抗えない自分の弱さへの憤りをな!」

 

「私はね……ずっと退屈だったの………お姉様も咲夜もパチェも美鈴も霊夢も魔理沙も全然遊んでくれなかったわ……。だからね、ぬえちゃんと正邪ちゃんの異変に協力すれば、また皆が遊んでくれると思ったの……。怒られてもいいから、誰かに遊んで欲しかったの」

 

ぬえは妖怪のプライドと誇りの為に……。当然だな、彼女は平安時代最も恐れられてきた大妖怪…鵺。ある意味では妖怪の象徴とされる彼女が、現状の人間の圧政に目を瞑るはずがない。

 

正邪だったか?彼女の妖力からしておそらく天邪鬼だろう。基本的に思ったことの反対の事しか言わない、動かない妖怪だ。その存在は古くから討伐難易度が他の妖怪に比べてそこまで高くない。だが、彼女は違うのだろう……その本質は強者に対する憎しみと反逆の精神・弱者に対する愛情と共存の心がある。

 

フランは、ずっと寂しかったとみえる。彼女は言った。『怒られてもいいから、誰かに遊んで欲しかったの』と……。妖怪とは元来、人間以上に精神に依存した存在達だ。人間以上の力と引き換えに、心が脆く貧弱だ。そんな妖怪が……もう誰にも見てもらえなくなったら?もう誰にもその存在を認識してもらえなくなったら?答えは簡単だろう。

 

 

その妖怪は消えてなくなる(・・・・・・・・・・・・)―――

 

「ふむ、各々の事情は理解した。………そうだ!お前達の名を聞いていなかったよ!俺は氷鉋乖離……お前らは?」

 

「私はさっき教えたからパス」

 

「私は鬼人正邪だ」

 

「私はフランドール・スカーレットよ」

 

「オーケー、封獣ぬえ、鬼人正邪、フランドール・スカーレットね?憶えたよ」

 

「ふ~ん、そんな事はどうでもいいけど、ねえぬえちゃん正邪ちゃん。もうあの人間は壊してもいいの?」

 

あれ?折角親身になって色々と考慮して、どうするか考えていたのに酷くないですか?

 

「いいんじゃない?ていうか、さっさとしないと!あの八雲紫まで動いているらしいしさ!」

 

紫も動いていてくれているのか?でもまったくあいつの妖力を感じないのだが……寝てるのかな?まさかね!………嘘だと言えよ紫。

 

「まあいいか……。さてと~、色々と言いたい事は言ったし、これからは説教の時間だ!」

 

俺は手に持っていたカードを地面に落とした。その行動に、理解できないといった顔で三人は首を傾げていた。

 

「なんでスペルカードを捨てるの?」

 

「残念だが、これはスペルカードじゃないんだよ。似ているかもしれないが、俺はこれを―――クラスターカードと呼んでいる」

 

「クラスターカード?」

 

「ああ、これは俺の秘密兵器でな?ぶっちゃけ、紫か霊夢相手ぐらいじゃないと使わないかなって思ってたけど、お前ら三人を相手にするにはこれを使わないと厳しいんだよね!」

 

俺は地面に落としたクラスターカードを踏む。その瞬間、クラスターカードから紅い枝分かれした線が発光し、俺の身体中に刻まれはじめた。

 

「お前らがもっと弱ければ、霊夢に任せようと思ってたけどやっぱり止めたよ。お前らは俺直々に説教をくれてやる」

 

俺の周り半径十メートルは紅い稲妻を発生させ、魔方陣のようなものを展開していた。

三人は何も言わなかった。ただ今起きている状況に目を細め、臨戦態勢に移行していた。

 

「幻想郷のルール……スペルカード風に言うのなら、こう名付けよう―――【冠位・夢想顕現(インストール)】」

 

その宣言と同時に辺り一面に紅い光が充満し、大きな光の柱を造りあげた。

その光の柱は、まだ昼過ぎの幻想郷を紅く照らした。

 

 

 

その光の柱を目撃した幻想郷のパワーバランスを担う者達は―――

 

『美しい……』

 

と、同時に思ったのだった。




やっと中二病の台詞が出せました。

次回で多分決着付きます。
相変わらず戦闘描写が難しい……


次回もお楽しみに!!

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