東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

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安定のお二人の登場です。

いやあ、こころに加えてこんなポンポンキャラ出して収集つくかな?


四話 寺子屋教師と蓬莱人

Side乖離

 

 

 

こころちゃんに連れられて、俺は人里に足を運んでいた。この幻想郷に来た時から一度は行こうと思っていた場所である。紫曰く、主に人間主体の里なのだとか……そりゃそうか、人里って呼ばれているんだからな。

しかしこころちゃんの話によると、割と頻繁に妖怪も出入りをしているらしい。

 

「つってもあれだな……案外人里って所は遠いんだな」

 

俺とこころちゃんが俺の家を出て早三十分が経とうとしているのに、今だに人里に着かないのである。

 

「そうだね、でもいつもならもっと早くいけるんだけどな~」

 

そう言ってこころちゃんは無表情のまま隣から返事を返してくれる。多分ではあるが、それは俺が空を飛べない事への嫌味だと思う。

 

「いつもならどのくらいで着くんだ?」

 

「空を飛べばすぐに着く。今は徒歩だからそれなりに時間が掛かっているんだと思う」

 

「さいですか……」

 

互いの間にどこか気まずい空気が流れた。そりゃ俺だって空を飛べたら随分と楽なんだろうが、生憎と俺は空を飛ぶことは出来ない。加えて、俺は純粋に高所恐怖症である為、高い場所が苦手なのだ。(ただし特定の一部は例外)

 

「……………………」

 

「……………………」

 

そろそろこの空気はマズいと思う。俺の精神的に。しかもこのなんとも言えない空気のまま人里なんかに入ったら、絶対勘違いされてしまうだろう。結構ダメな方向性の……。

 

「う~む、どうしたものかねぇ」

 

「何の考え事?」

 

「いや、ちょっとね………このまま人里に着くのかなぁ?っと」

 

「道はこっちでちゃんと合ってるよ?」

 

「ん~、そう言う問題ではないんだけどな~」

 

やはりダメだ。今の俺のコミュ力ではこの空気は変えられない。

そんな事を考えていると、唐突にこころが叫び出した。

 

「あ!見えて来たよ、人里!」

 

「む?おお、アレが人里かぁ」

 

どうやら目的地到着と言ったところだろうか。目の前には、大きな門があり、そこを守るように立っている二人の武装をした人間と思わしき男。多分門番かなにかだろうと俺は解釈する。

俺とこころちゃんはそのまま門に近づいたところ、二人の門番に引き留められた。

 

「そこの者、止まれ!何者だ?ここらでは見ない顔だな?」

 

「俺は外来人って奴さ。つい最近この幻想郷に来たばかりでね、人里で少し買い物をしようと思って来たんだけど」

 

「外来人か……ん?貴様、その腕の包帯はなんだ?」

 

「ああ、これか?ちょいとバカをしてこうなった」

 

門番の一人が聞いて来るものだから、俺は包帯でグルグル巻きにされている左腕を門番に見せつけるように前へ出す。

 

「そ、そうか……では通れ!くれぐれも問題を起こすなよ?」

 

「はいよ」

 

そう言って門番は俺とこころちゃんを通してくれた。疑問なのは完全にこころちゃんがスルーされた事なんだが……その辺どうなんですかね門番さん?俺はともかく彼女は妖怪なんですが……。

 

あの後俺はこころちゃんの案内を得て、人里の中にある寺子屋まで赴いていた。理由としては、「人里の事ならまずは寺子屋へ」との事らしい。

道中すれ違う人達は、もの珍しそうに俺に視線を向けていた。しかし人里という事もあって、なかなかの賑わいであった。色んな店や家が建っており、その中でも一番俺の目を引いたのが、中央広場を過ぎった際に見えた『龍神像』と記された大きな石像だった。

こころちゃん曰く、幻想郷の創造神でもあり、天界と呼ばれる世界の最高神なのだとか。

あれ?幻想郷の創造者は紫なのではなかっただろうか……。

色々と考え事をしていると、どうやら寺子屋とやらに到着したらしい。

目も前には『寺子屋』と書かれた看板があり、人里入口程ではないにしろ、大きな門が建っていた。

 

「着いたー!」

 

「着いたな」

 

こころちゃんは嬉しそうに無表情ではしゃぐ。やはり子供という事なんだろう。

そんな事を思いながら、俺は寺子屋の門を軽く叩いてみた。

コンコンと耳当たりの良い音がした。しかし反応無し。

少し時間を空けて、再度門を叩く。今度は先程より少し強めに。しかしまたも反応無し。

 

「ありゃ?居ないのか?」

 

「う~ん、この時間帯だと慧音は中でみんなに勉学を教えている頃かも?」

 

「ふ~ん」

 

慧音とこころちゃんの口から出た人物の名前、その人がこの寺子屋の主人なのだろう。それも勉学を教えているとなると、この寺子屋は外の世界で言えば塾といったところだろう。

 

「仕方ないな、人に勉学を教えているとなると、邪魔をする訳にもいかないし、出直すか……」

 

「ん、誰だ?この寺子屋に何か用か?」

 

一度出直そうとした時、不意に後ろから誰かに声を掛けられた。声色からして女性だとわかる。俺は声のした方へ振り返ると、そこには白いカッターシャツに紅いモンペを着た銀髪の女性が腕に数本のタケノコを抱えて立っていた。

しかし、この気配は………。

 

「で、まったく見ない顔だけど、この寺子屋に何の用な訳?」

 

銀髪の女性は少し威圧的に聞いてきた。

 

「俺は氷鉋乖離、外来人です。最近幻想郷に来たばかりで、知らないことが多いのでここに来れば色々と教えてもらえると、この子から聞いたものですから」

 

そう言って俺は隣にいたこころちゃんへと視線を移した。

当のこころちゃんはと言うと……。

 

「あ、妹紅!」

 

「ん?こころか、久しぶりだね。元気にしてた?」

 

「うん!」

 

妹紅と呼ばれた女性と、こころちゃんは知り合いだったらしく、二人共嬉しそうにしていた。

 

「おっと、自己紹介が遅れたね!私は藤原妹紅、ここの寺子屋に住んでいる慧音の友人さ。さっきは威圧的にしてしまって悪かったね」

 

「いえいえ、見ず知らずの男がこんなところに突っ立っていると、警戒するのは当然ですから」

 

完全に社交辞令のようになってしまっている。藤原さんは少し困ったように笑いながら「敬語なんていいよ、堅苦しいから」っと言ってくれた。

 

「そうだ!慧音に用があるんだろ?付いてきなよ、案内するからさ」

 

そう言って藤原さんは寺子屋の門を開けて入っていった。俺とこころちゃんも藤原さんに付いて行く事にして、彼女の後を追った。

門を越えた先には、綺麗に手入れされた庭が広がっており、大きな屋敷のような物が建っていた。

藤原さんに付いて行っていると、ふと彼女が俺に言ってきた。

 

「そうか、乖離は外来人なんだね……この幻想郷で何か困った事があったら何でも相談してくれよ?力になるからさ」

 

「ありがとう藤原さん」

 

「妹紅でいいよ。苗字で呼ばれるのはなんだか変な感じがするんだよ」

 

「わかったよ妹紅、何かあったら遠慮なく頼らせてもらう」

 

思うのだが、この幻想郷にはフレンドリーな人が多いのだろうか?俺の出会った人は自分の苗字ではなく、名を呼ばせようとする。と言っても、まだ数人しか出会ってないんだけどね……。

 

「そういえば、乖離はその左腕はどうしたんだ?随分重症のようだけど…」

 

「これは、バカやって自分で付けた傷だよ……」

 

「ふ~ん、いい医者を知っているから、紹介しようか?」

 

「大丈夫さ、こんな傷一週間もすれば直ぐに治るから」

 

「そうか……」と言ってそれ以上妹紅は何も聞いてこなかった。

妹紅と話をしていると、俺達はようやく屋敷の玄関に着いた。

紫の家もそうだったが、ここもここでかなりの大きさだ。ざっと博麗神社の社六つ分だろうか。

俺が呆気にとられている間、妹紅とこころちゃんは平然と玄関のドアを開けて中に入っていった。

いやいやいや、不法侵入も甚だしいのだが?

 

「ん?どうした、来ないのか?」

 

「いや、これって完全に不法侵入だろ!」

 

「何を言っているんだよ?……いいから入れって」

 

そう言って妹紅は俺の手を掴み無理やり屋敷の中に入れた。

妹紅はこの屋敷に何度も来た事があるのか、迷う事なく慣れた足取りで進んでいく。俺とこころちゃんはその後を追っていった。すると、人の声が聞こえて来た。耳を澄ますと、それは子供の声と大人の女性の声だった。

どんどんその声が大きくなり、俺達はその声の発生源と思われる一室の前まで来た。

 

「慧音、入るぞ!」

 

妹紅はそう言うや否や、扉を開けそのまま部屋に入っていった。

俺とこころちゃんも妹紅に続き、部屋の中に入った。

 

「妹紅、来るなら来ると先に連絡をしてくれといつも言っているだろう?」

 

「まあまあ、あ!これ差し入れね?」

 

妹紅は腕に抱えていたタケノコを慧音と呼んだ青み掛かった銀髪の女性に手渡した。

 

「おおー!ありがとう妹紅!……ではなくてだな?毎度毎度、お前は何度言えば分かるんだ!」

 

「ハハハ」と妹紅は笑って受け流す。

 

「ハア、まったく……ん?ところで妹紅、そちらの二人は客人か?いや、一人はこころか」

 

「はじめまして、俺は氷鉋乖離。外来人です」

 

「はじめましてだな、私は上白沢慧音。ここ寺子屋で教師をしている。よろしく頼む」

 

「ええ、こちらこそ」

 

俺は上白沢さんに一礼をして、教室の周りを見渡した。

最初に目に入ったのは、いつぞや見掛けた三人組だった。

右の寝ている水色、真ん中の慌てている緑、左のそーなのかー。その他は知らん。

 

「えっと、乖離でいいか?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

「では、どうして乖離はここに来たんだ?」

 

「こころちゃんから、ここに幻想郷の事を良く知る人物がいると聞いたんです。それは上白沢さんで間違いありませんよね?」

 

「慧音で構わないぞ?いかにも、私はこの人里と幻想郷の歴史などを沢山知っているからな!」

 

そう言って慧音さんは得意げに胸を張る。

 

「しかし、アレですね。今のこの場はかなり異質だ!なんせ、人間一人と妖怪妖精多数、それに加えて半妖と不老不死まで居るんだから、これは珍しい」

 

「「なっ!!」」

 

「?」

 

妹紅と慧音さんは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして驚いており、こころちゃんは何の事かわからないといった顔(無表情)で首を傾げていた。

 

「君は今私を半妖と言ったのか?それだけじゃない、妹紅のことも不老不死と……」

 

「いつから気付いていたんだ!?」

 

「まず妹紅は出会った時に気付いたよ……俺の知り合いに不老不死が二人いてさ?その二人と同じ気配を感じたからね!慧音さんは、今さっき気付いたよ……なにせ霊力と妖力を同時に感じたからさ」

 

妹紅と慧音さんは信じられないといった顔で固まっていた。すると、寺子屋の門を潜ってから一切喋らなかったこころちゃんが口を開いた。

 

「そういえば、乖離からは霊力も妖力も何も感じないけど、本当に人間なの?」

 

「あ、確かに……」

 

「言われてみれば、そうだな……乖離、君は一体……」

 

なにやら妙に警戒されているようなので、俺はこころちゃんの問に正直に答えた。

 

「俺は少し特殊な存在でね……人間ではあるのだが、生まれついて霊力も何も無かったんだよ」

 

「しかし、それでは生まれた瞬間から死んでいる事にならないか?人なら霊力、妖怪なら妖力、そして神なら神力と、生きとし生ける者たちにとってこれらは生きる上で絶対になくてはならないものの筈だが?」

 

「その通りです慧音さん。しかし、俺は本当に霊力も妖力も、ましてや神力すら持ち合わせていない。ならそんな俺が何故生きているのか?答えは簡単!俺は世界のどこにでも溢れている自然エネルギーを糧に生きているからですよ!」

 

「自然エネルギーって何?」

 

どうやらこころちゃんは自然エネルギーを知らない様だ。仕方ない、ここは一から教えておくか……。

 

 

少年説明中~☆

 

 

「なるほど~、乖離は妖精の類だったのか!」

 

「うん、全然違うな!」

 

こころちゃんに一から自然エネルギーに関して説明をしたが、どうやらおかしな方向へ理解が進んでしまったらしい。まあ、あながち間違いではない気もするんだが……。

 

「しかし驚いたな……人の身で自然エネルギーを糧にしている者がいるなんて………そりゃ霊力も何も感じない筈だ」

 

「ん?ちょっと待ってくれる?自然エネルギーってそもそもなんな訳?」

 

「…………」

 

さっきこころちゃんに話したばかりなのに、まだ理解できてないのか?

仕方ないので妹紅にも簡単に説明してやるとしよう。

 

「自然エネルギーってのは、要するにだ!世界に満ち溢れている空気や酸素、太陽の光みたいなものだよ!あ、因みに自然エネルギーだから生命からあふれ出す『穢れ』もその一つに挙げられるかな?」

 

「穢れ………か」

 

穢れという単語を聞いて、妹紅その単語だけを呟いて黙りこんでしまった。

 

「妖精も、元を辿れば自然エネルギーが生み出した意思を持つ概念生命でもあるからな!」

 

「がい……なんだっけ?」

 

「こころちゃんにはちょっと早かったかな?」

 

俺は苦笑いを浮かべていると、突然真横から大きな声が聞こえて来た。

 

「ああー!こころがいる!それに何だ?アタイ達と同じ感じの奴までいるぞ!」

 

どうやら先程まで寝ていた水色妖精が目を覚ましたらしい。起きて早々このテンションとは、恐れ入るな。

 

「初めましてだな!俺は氷鉋乖離、君は?」

 

「アタイはチルノ!げんそーきょー最強の妖精だ!」

 

幻想郷最強の妖精……これまたビックなのが出て来たな。

 

「チルノか……君は幻想郷最強なのか?」

 

「当然!アタイったら誰もが知ってる最強の妖精だもん!」

 

「この前私と弾幕ごっこして完敗してたけど?」

 

後ろからこころちゃんの手厳しい発言が聞こえた。空気を読んで最強って事にしておこうと思ったのに、子供の純粋さは恐ろしいな。

 

「う、うるさい!あの時はアタイ本気出してないからノーカンなのよっ!」

 

「ならもう一回勝負する?」

 

売り言葉に買い言葉ってことわざがあるけど、こころちゃんもなかなか大人げないな。いや、そもそも子供だったわ。

そんな一触即発の二人を静止しようとした時――突然外で大きな爆発音が聞こえた。

 

「なんだ今のはっ!」

 

「爆発!」

 

俺と妹紅と慧音さんは部屋の扉を開けて急いで外に出たのだった。

そしてこれが、俺にとって初めての『異変』であった事に、まだその時は気付いていなかった。

 




ようやく異変突入です!

因みに、今更ですが乖離の能力と元ネタは、ある某アニメやソシャゲをやっている方がいるのなら大体分かると思います。

それでは次回もお楽しみに!!

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