タイトルで察しはつくでしょうけど……
Side乖離
「乖離殿、朝食の用意が出来ました。降りてきてください!」
「分かった、今行く!」
俺は藍に呼ばれ、自室のある二階からキッチンのある一階へと足を運ぶ。
紫と藍によって幻想郷に持ってきてもらった二階建ての家。俺は階段を下り、一度洗面所に向かい
道中からすでに美味しそうな味噌汁と香ばしい焼き魚の匂いがしてきた。
俺はドアノブを捻りキッチンへ入る。
「おはよう藍、今日も美味しそうだな!」
「おはようございます乖離殿、今日の味噌汁はカツオ出汁を使ってみました。御口に合うと幸いです」
そう言って藍は俺に一礼をして、朝食が用意された机の前に座る。俺は藍の向かい側へ座りお互い「頂きます」と言って料理に手をつける。
「うむ、流石は藍!カツオ出汁の味噌汁もまた美味だな!それにこの焼き魚も絶妙な焼き加減だ!俺も多少料理に理解はあるけど、ここまで美味しくは出来ないな!」
「お褒めに預かり光栄です」
藍は俺に柔らかい微笑みを向けた。しかし本当に藍の料理は美味い!俺もそれなりには出来るんだが……さすが藍!俺に出来ない事を平然やってのけるそこにシビれるあこがれるゥ!
なんて、訳の分からないテンションになってないでさっさと食べてしまおう。
「それより乖離殿……
藍は心配そうに、包帯で巻かれた俺の左腕を見ていた。
「ん?ああ、それなぁ……多分あと一週間くらいで完治すると思うよ?俺は存外傷の治りは早いし」
「そう………ですか」
藍と俺の間に気まずい空気が流れた。どうやら藍はまだあの時の事を引きずっているようだ。
まったく、気にする必要はないというのにな。
ことの顛末は三日前の弾幕ごっこまで遡る
※※※
Side藍
突然の事だった………。
私は紫様の命により、乖離殿の家を幻想郷への輸送を完了させ、その報告をしに紫様の妖力を辿った。どうやら紫様は博麗神社におられるらしい。そこで私はスキマを広げ、博麗神社に繋げた。私は仕事の報告の為スキマから出た。
「紫様、乖離殿、家の輸送が完了―――え?」
突如感じた膨大な魔力。そちらに振り向くと、一直線に私の方へ向かってきていた。
感じた魔力から察するに、魔理沙の放ったものと分かったが、当の本人に視線を向けると驚きと焦りの表情をしていた。
私は何がなんだか全く解らず、思考が追い付いていなかった。
瞬間的にスキマを開こうとしたが、絶対に間に合わないと悟った。
アレを喰らえばいくら私といえどもタダではすまない。下手をすれば死ぬだろう。
思考が停止しかかったその時―――私の頭に金色の布のような物が被せられた。
もうダメかと思ったその時、一瞬だが乖離殿が私の目の前に立っていたのだ。
「乖離殿っ!!」
私の叫びと同時に目の前が一瞬真っ白に染まりその直後、耳の鼓膜が破かれそうな程の爆発音が聞こえ、とてつもない衝撃波が生じた。しかし、私にはその衝撃波は届いておらず、むしろ衝撃波は私を避けるように消えてしまった。
砂煙が上がり、視界を遮られてしまっていた。感じ取れるのは紫様の妖力、霊夢の霊力、魔理沙の魔力だけだった。が、しかし―――砂煙が消えていくと、私の前に一人の男性の姿が見てとれた。
「乖離殿っ!」
「ん?藍か……無事でなによりだ」
乖離殿は私が無傷であった事を確認して安堵の笑みを向けてくれた。
「藍!無事?!」
紫様は真っ先に私に飛びつき私の安否の確認をしてくださった。
「大丈夫です」と私が返すと、紫様は安心したように息を吐いた。そして直ぐに紫様は乖離殿へ視線を移す。
「乖離様、お怪我はございま……せ………ん……ッ!!」
「……大丈夫さ、咄嗟に結界を張ったし。けど、左腕はイカレちまったけどな」
私は乖離殿の左腕を見て絶句した。乖離殿の左腕は肘の部分から真っ赤に変色しており、血管が切れたように、至る所から出血していたのだから。
「藍!乖離さん大丈―――ッ!!」
「藍、乖離!大丈夫かぜ……なっ!!」
遅れてやって来た二人も乖離殿の左腕を見るなり絶句を禁じえなかった。
「ん?ああ、これなものは掠り傷みたいなものだから、大丈夫だ!」
「どこが掠り傷なんだ!」っと思ったのは私だけではないようで、三人とも今の私と同じ事を思ったに違いない表情をしていた。
「も、申し訳ございません乖離殿……私が未熟なばっかりにお手を煩わせてしまって……」
「なんで藍が謝るんだ?これは俺のエゴでやった事だぞ?」
「しかし、私がもっと強ければこんな事に―――あうっ!」
突然頭に衝撃が走った。どうやら私は乖離殿に手刀と頭に喰らったようだ。
私の頭から手を放した乖離殿は呆れたように私に言った。
「あのなぁ藍、俺なんかの心配より自分の心配をしろよ!仮にも女の子だろ?男が女を守るのは当然、それをいちいち女が口出しすんじゃないの!オーケー?」
「ですが―――」
「え?何?藍さんもう一発喰らいたいの?」
「も、申し訳ありません………」
流石にマズいと思った。なにせ先程までと違い、乖離殿の目からハイライトが消えていたのだから……。
「分かればよし!大体、女の子なんだからもっと自分の身体に気を遣えよ!傷ついていいのはこの世で男だけで充分だわ!」
そういって乖離殿は博麗神社を後にした。紫様は私にニッコリと微笑み、乖離殿の後の追って行った。
「なんか……凄い人だったわね、色々と」
「あ、ああ……」
「そうだな……。それより、私もお二人の後を追わねばな!」
「あ、ちょっと待って藍!」
急いで飛び立とうとしたところ、突然霊夢に呼び止められてしまった。
「む、なんだ?私は急いでいるのだが?」
「その天の羽衣を少し貸して欲しいのよね。調べたい事があるから」
「……これか?」
私は未だに被せられていた金色の布……着物を手に取った。
しかしこれは天の羽衣というのか……綺麗だ!
「そう、それ!こっちに渡してくれない?」
「残念だがそうはいかない。これは乖離殿の所有物だからな、私が判断して良いものではない」
「ふ~ん……そう。なら今度本人に直接聞いてみようかしら?」
「そうするといい。ではな!二人とも」
私はそう言って急いでお二人の後を追った。
数秒でお二人に追いつき、そのまま乖離殿の家まで案内をした。
「そうそう藍、今乖離様は左手が使えないから、代わりにあなたが乖離様の身の周りのお世話をしなさい」
「はい、心得ました」
「いや、別に一人でも大丈夫なんだけど?でもまあ、やってくれるって言うなら、お言葉に甘えようかな?」
「任せてください乖離殿、これでも家事スキルなら幻想郷一であることを自負していますので!」
「おお!それは頼もしいな!」
「あ、もちろん下の世話もするのよ?藍」
紫様の爆弾発言に、私と乖離殿が同時に噴き出したのは言うまでもないだろう。
※※※
再度乖離
なんて事があった三日前。そして現在に至る訳だが、俺は超絶暇を持て余していた。
藍はどうしても外せない仕事が出来たと言って紫の所に行ってしまったし、ぶっちゃけ今の俺はやる事がなくてとても退屈なのだ…。
そこでふと、俺は天の羽衣を取り出した。
「………傷はついてない……でも、何故だろう?こころなしかこの幻想郷に来て、日に日に天の羽衣の霊力が強くなっている気がするんだよな」
こんな事は前には一度も無かった為、俺は少し不安なのである。
「これがもし壊れでもしたら、
天の羽衣を見つめながら過去の事を思い出していると、突然玄関のドアを叩く音が聞こえた。
「誰だ?客人か?こんな場所に?」
そう、俺の家は博麗神社から約三キロ離れた外れにあるのだ。しかもここは紫が言うには、俺の家が建ってる所は中級妖怪の巣窟らしいから、滅多に人など立ち入らない場所との事だが、こんなところに来る奴なんているのだろうか。
「はいはい今出ますね~」
そう言って俺は玄関まで足を運び、ドアを開けた。
「どちら様ですか?」
「こんにちは」
玄関のドアを開けると、そこには不思議なお面を被ったピンク色のロングヘアーとチェック柄の服に大きくふんわりとしたスカートが印象的な少女が立っていた。
「……こ、こんにちは?」
「……………」
「えーっと?俺の家に何か用かな?」
「あなたは誰?どうしてこんな危険とこにいるの?」
「俺は氷鉋乖離……外来人って奴だよ。それと、壮大なブーメランになってない?」
「私は強いから、大丈夫!」
「そ、そうなんだ………」
お面の少女は拳を俺に突き出して強いアピールをしているが、表情がずっと無表情な為、とてもシュールな光景だ。
「えっと、君は?」
「私?私は秦こころ!お面の付喪神で面霊気」
「へ~、君は付喪神なんだね」
確かに、よくよく観察してみれば彼女の中には妖力が流れていた。しかもその妖力も決して弱くない。かなり自分の妖力操作に慣れているようだ。
「それで、こころちゃん?君こそどうしてここにいるんだ?」
「私は人里に向かう時はいつもこの道を使っている。だからこんなところに人が居ると分かって、少し心配になったから注意してあげようと思ったの」
「そうか、優しいんだな君は……でも心配はいらないぞ?俺は強いからな!」
「そうなの?なら安心!でも長居は禁物!たまにこの辺りに上級妖怪が出没するから」
「ご忠告ありがとう。気を付けるよ!あ、そうだ、こころちゃん折角だしお茶でも飲んでいかない?これも何かの縁だし、この幻想郷の事を色々教えてくれるとありがたいな?」
「わかった!」
そう言ってこころちゃんは足早に家の客間に入って行った。
話していて思ったが、あの子は根っからの子供なのでは?
俺は一度キッチンへ向かい、お茶を用意してこころちゃんの居る客間へと向かった。
「お待たせ、お茶と茶菓子を持ってきたよ」
俺が客間に入ると、こころちゃんは先程片付け忘れていた天の羽衣をジッと見ていた。
「綺麗……」
「気になるのか?」
「うん……。これは乖離の物なの?」
「今はね」
「今は?」
「そうさ……それはあるお姫様からの預かり物なんだよ」
「お姫様?!どんな人なの?」
どうやらお姫様という単語を聞き、先程以上に食いついてきた。やはり妖怪は妖怪でも、女の子という事なのだろう。
「とんでもない美人さんだよ!長い黒髪で、和服がこれでもかってくらい似合う……ね」
「優しいお姫様なの?」
「いや、断じてそれは無いな!俺なんて出会い頭早々『失せなさい、私はあなたのような底辺の人間を相手にしている暇はないの』って言われたからな」
「なら酷いお姫様?」
「いや、それも少し違うかな?確かにいい性格をしているけど、自分が認めた相手には礼儀を怠らない。そんなお姫様だったよ」
脳裏に甦る別れ際のあの言葉。
『どうか……どうかこれを持って行ってください。あなたと私を繋ぐ大切な物ですから…………いえ、私の心配は無用です。私には彼女が付いてますから。それに私は不老不死……死を持たぬ者……………そう、ですか……でしたら、いつの日かこれを私に返しに来てください。いつかまた会えるその日まで、私はいつまででもあなたをお待ちしております』
「いり――かい―――乖離!聞いてる?」
「ん!ああ、ごめんなんの話だっけ?」
いかんいかん……客人が居るというのに自分だけの世界に入るとは……後でちゃんと謝っておこう。
それよりこころちゃん、顔近くないですかね?
「お茶とお茶菓子がなくなった。補充を要求する」
「あ~、もう無くなっちゃったか……君に出したので最後だったんだけどね」
「それは残念……」
そう言ってこころちゃんは無表情のまま悲しそうに下を向いた。心なしかお面まで変わってない?
「ん?そう言えば、どうして乖離は左腕に包帯を巻いているの?」
あ、今更なんですねその質問。
「これはちょっと、ヤンチャしてしまってね……」
「そうなの?ヤンチャしてる子なら、私の友達にもいるよ?」
「そうなんだね~」
「あっ、そうだ!そろそろ人里に行かないと!」
こころちゃんはバッと顔を上げて立ち上がり、俺の手を掴む。
ん?なんで俺は手を掴まれたのだろう……。
「急がないと!ほら、乖離も早く早く!」
こころちゃんは急かすように俺の手をグイグイと引っ張る。
「あのさ、俺も行かないとダメなの?」
「?どうして当然の事を聞くの?」
あ、当然なんですね俺に拒否権なんて無いパターンなんですねわかりました。
「それじゃ、玄関で待っててくれない?財布取って来るからさ!」
「分かった!直ぐに来てね?」
そういうやいなやこころちゃんはまたしても足早に駆けていった。俺はとりあえず、食器云々を片付けて一端二階の自室へ財布を取りに行く。
財布を持った俺は、玄関まで行き、ドアを開けた。既にこころちゃんは準備万端の如く、空中で待機していた。
いやいや、俺は空飛べませんよ?
こうして俺はこころちゃんと共に(彼女は飛行で)人里に向かったのだった。
はい、ごめんなさい………Sideと再度を掛けました。
今回はこころが登場しましたね。
それと、お姫様と言えばあの方以外ありえませんよね?
そうです。あの方ですよ!
次回もお楽しみに!!