東方英雄章~【妖怪と人間と】   作:秦喜将

1 / 48
今回はイベント編になっております。
尚、こちらのイベント編では作中未登場のキャラが多数登場します。
加えて、多大なネタバレ等が含まれておりますので、ご注意ください。


それらが苦手という方は、ブラウザバック推奨です。

では、どうぞ!!


イベント
特別篇 サマー・メモリーズ①


Side乖離

 

 

 

 夏、それは一年の中で最も暑い季節。

 蝉が鳴き声がイライラする程にうるさく、蚊の大量発生と羽音で更にイライラさせられる季節。

 さらには毎年恒例の如く外の熱気にやられ、熱中症でダウンする人が後を絶たない。

 極めつけは、部屋のエアコンや扇風機が故障した時の絶望感だ。あれは冗談抜きで死ぬ!

 これだけ聞けば、夏とはただのクソ季節でしかない。

 

 

 だが夏にも良いところがある。

 例えばお祭りだ。一年に一度のみの夏祭りそして花火祭り。友達を誘って行く者も居れば、家族で行く者、恋人と行く者、皆それぞれだ。

 

 他にも川で泳ぐとか、スイカを食べるとか、アイスを食べるとか、旅行に行くとか。

 

 特に、現代の学生達にとっては夏休みといった約一か月以上の休日期間がある。その間に上記のものを楽しむ者達が多くいるのだろう。

 学生の本分である勉強から一時的に解放され、ハイになる者もチラホラと居る筈だ。しかし宿題と言う名の嫌がらせがあるのは解せぬ、まったくもって解せぬ!

 

 かく言う今の俺には宿題等は無いのだけどな?

 

 

 上記の前置きは無視して、俺も結局この蒸し暑い夏を満喫している者の一人である。

 

 

 現在の俺はというと、幻想郷を離れ紫と共にデート……もとい、現代世界に来て有名アイス屋さんの行列に並んでいた。

 もちろん並んでいるのは俺だけですがね?

 

「はいお待ち!」

 

 アイス屋さんのおじさんから、二人分のアイスを受け取りポケットからお金を渡す。

 

「まいどあり!次のお客さんどうぞ!」

 

 俺はさっさと行列を抜け、紫と待ち合わせているショッピングモールへと向かう。

 ショッピングモール入口で、数個の買い物袋を携えた金髪美人を発見する。言うまでもなく紫である。

 紫は俺に気付き、笑顔で手を振って来た。

 

「ごめん!待たせてしまったかな?」

 

「いえ、私も今買い物が終わったところですわ」

 

 俺は紫の下に駆け寄り、アイスを渡す。

 

「わざわざ買いに行って頂き、ありがとうございます」

 

「気にするな!これくらいどうということはないさ。あ、荷物持つよ」

 

 「ではお願いします」っと言った紫から荷物を受け取り、俺と紫は歩き出す。

 

 歩きながら俺は買った物について質問してみた。

 

「結構荷物あるけど、何を買ったんだ?」

 

「藍が新しいフライパンが欲しいと言っていましたので、そのフライパンと、橙用のマタタビや着替え等です。その他は全て私用品ですね」

 

「そっか~」

 

 アイスを食べながら、何処へ行くという訳でもなくただただ歩き続ける俺と紫。

 道中、紫の美しさと可憐さに魅了された者達の視線をすごく感じてならない。

 その殆どが男であり、アイスを食べている紫を見て『俺あのアイスになりたい』なんて呟く者が結構居た。

 俺の予想ではあるが、多分頼めば今食われているアイスの代わりになれるかもしれないぞ?

 紫は妖怪である訳だし……。ただ、そうなると地獄絵図に変わり果てるのみなのであまりオススメはしない。気持ちは分からんでもないがな。

 

 それにしても、今年の夏は非常に暑い。

 照り付ける太陽と、地面からの熱気で汗が止まらない。あまり汗を掻かない俺といえども、既に背中がグッショリになってしまっている。正直かなり気持ち悪い。

 それに引き替え、紫はまったく汗を掻いていない。こんな真夏日だというのに、こやつは暑くないのだろうか。

 

「お前さあ、この炎天下の中暑くないの?」

 

「私は境界を弄っていますので、暑くはないですよ?」

 

 そう言って、紫は得意げな表情を俺に見せつけて来る。……羨ましい限りだ。

 現代世界はきっと、地球温暖化が進んでいるからこんなに暑いのだろう、きっとそうだろう!でなければこの暑さに納得いかない。

 

 そんな事を思いつつ歩き続けていると、不意に紫が手を握ってきた。

 紫の手は冷たく、心地よいものだった。

 

「あの、どうしたの紫……?」

 

 俺が上記の問いかけを投げかけると、紫は顔を赤らめ小さく呟いた。

 

「せ、折角……二人きりですので……その、手を繋いでみたいなぁ……なんて……」

 

 なるほど、そう言う事ね。

 こうして手を繋いでみると、昔を思い出す。紫がまだ子供だった時も、こうして手を繋いだ事があったっけな。

 

「その………ご迷惑でしたか?」

 

 紫は半泣き寸前になりかけながら聞いて来る。

 

「いや、全然迷惑なんかじゃないよ」

 

 俺がそう言ってやると、紫の顔パアッ!と明るくなり、「それならよかったです♪」と言った。

 それより、俺達は一体どこへ向かって歩いているのでしょうなぁ~。

 

 

歩き続けて10分した位だろうか、不意に紫に念話が飛んできた。

 

『もしもし、紫様!』

 

「あら藍、どうしたのかしらそんなに焦って?」

 

 ひどく落ち着きのない藍の声色から察するに、何やら緊急事態の臭いがする。

 

『幻想郷に突然……海が幻想入りしました!!』

 

「「……は?」」

 

 まったくもって突然の事に、二人揃って素っ頓狂な声を出してしまった。 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 藍の報告を受け、幻想郷に戻って来てみました……海に。

 

 眼前に広がる広大な青い湖、ほのかに香る潮の臭い、月の引力に引き寄せられ行ったり来たりを繰り返す波……うん、まごう事なき海ですな!

 

「どうしてこうなった……」

 

 俺の真横でこの光景を信じられないといったように紫は呟く。

 この光景を信じられないのは分かる、実によく分かる。だがしかし、今この瞬間にもこうして見えている光景は幻想ではなく現実なので、受け入れるしか選択肢はない。

 ま、是非も無いよネ!

 なんてバカな事を考えつつ、俺は未だ放心状態の紫をおいて海の水を手で汲んで一口飲んでみた。

 うん、辛い!すごく塩辛い!海独特の塩水の辛みが俺の口の中で暴れまわる。

 だが一つ疑問に思うのは、この塩水は現代世界の海とは違って汚染物や薬物云々の影響を受けていない、純粋な塩水の辛みがあった。

 

「まさか……ね」

 

 これはあくまでも俺の見解だが、この海は現代世界の海ではなく、今よりも遥か昔の物、下手をすれば神代の海という可能性がある。でなければこの塩水の説明がつかないし、何よりこの海から感じる魚達の気配が異常すぎるのだ。

 感じる気配は今の時代の魚達よりも遥かに強く、活き活きとした物が多い。

 

 しかし、何故唐突に海なのだろうか……。この夏場に限って海は人間にとって最も忘れ去られる可能性が低いというのにだ。もしかしたら神代の産物っていうのが原因なのかもしれないな。

 

 俺が思案に耽っていると、ようやく我に返った紫が問いかけてきた。

 

「乖離様、何を考えているのですか?」

 

「この海についてだよ。どうやらこの海は現代の海とはまったくの別物らしい」

 

「と、言いますと?」

 

「つまり、この海は過去から幻想入りして来たってことになる……と思う!思いたい!!」

 

 最後何故か願望系になってしまったが、まあ気にしないでおこう。

 俺の雑な説明を受けた紫はというと、スキマを開き中をごそごそと漁っていた。

 

「何やってんのお前?」

 

「探し物です……。あら、あれをどこにやったかしら?」

 

 探し物をしているのは見れば分かるが、俺が聞いたのは何を探しているのかって意味だったんだけど、敢えてここは黙っておく。

 

「あ、あった」

 

 そう言うと紫はスキマを大きく開き、中から大きなテントを取り出した。

 そのテントの大きさは軽く十数人は入れるほどの大きさだった。バカ力……もとい、妖怪パワーって凄いなぁ~(棒)

 

 俺が紫の力に呆れていると、紫はせっせとテントを張り始めた。

 

 

「ふう、これで完了かしら?乖離様、どうでしょうか?」

 

「どうと聞かれましても……凄いねー、としか言えないのだが」

 

「お褒め頂き光栄です!」

 

 俺のほぼ棒読みに近い賛辞に紫は満面の笑みを浮かべた。何故そんなに喜ぶのかは知らないけれどもね。

 しかし凄いものだな、あの大きなテントを一人で張ってしまうだなんて。驚きを通り越して呆れるレベルだ。

 

 でもこの張ったテントって何に使うのだろうか?

 

 

 

 

※※※

 

 あれから数時間後の出来事。

 幻想入りした海は、完全に幻想郷住民の海水浴場と成り果ててしまった。

 紫同様、気付けば俺は死んだ魚のような目で、

 

「どうしてこうなった………」

 

 と呟いていた。

 

 

 

 事の顚末だけ説明すると、あの後紫のスキマで家に帰り昼飯を済まそうとしていたところ、突然幻想放送で『海が幻想入りしたからみんな~、泳ぐわよ~♪』

 と、上記のノリで紫が幻想郷全土に発信してしまったのだ。

 無論無視も出来たのだが、その放送から数分した後、下記の方々が必死こいた目で俺を誘いに来たのだ。

 

 一つ・霊魔理コンビ

 二つ・スカーレット姉妹

 三つ・信仰が欲しい宗教の皆様

 四つ・蓬莱人のお三方

 五つ・ノリで来ちゃった妖精二人と妖怪三人

 六つ・うちの定食屋で働く娘達

 七つ・面倒くさいからその他諸々

 

 総勢20人以上、この数で押し寄せられて、断れる者がいるだろうか?少なくとも俺には断れないしおそらく断れる者などいないと思う。

 

 とにかく、上記の面々が来た時の俺の心情は『帰れお前ら!』であった。

 

 

 

 そして現在に至る訳だが、俺は相変わらず死んだ魚の目で海を眺めてつつ、家から持って来た大きなバーベキューセットで魚を焼いていた。

 

「死んだ魚の目で魚焼いてる……魚可哀想に」

 

 先程からこうしてぬえは俺に嫌味を飛ばしてくる。別に迷惑というわけではないが、ちょっとうるさい。

 

「てか、ぬえは泳がないのか?皆気持ち良さそうに泳いでるぞ」

 

 俺は海から視線を外さずぬえに問いかける。

 するとぬえは、ゆっくりと立ち上がり俺の問に答えた。

 

「私はもう少し後に泳ぐ!今はこうして乖離を弄るのが楽しいからね~」

 

「そうかい……」

 

 俺はそう呟き、焼いていた魚を一口食べてみる。

 うん、美味い。パリパリとした皮の触感と、脂身たっぷりの柔らかい魚肉がなんとも言えない。

 しかしこれだけでは勿体無いので、家から持ってきた特製のタレを掛けてもう一度食べてみる。

 うまし!先程とは違い特製のタレが効いていてより深い味わいになった。今度店でも出してみようかな。

 俺が一人美味しく焼き魚を食べていると、それを羨ましそうにぬえが見ていた。

 

「乖離だけずるい!私にもちょうだい!」

 

「ほれ」

 

 食べ掛けではあるが、焼き魚をぬえに手渡すと目を輝かせて一気にかぶりついた。

 

「ん~おいしい~♪」

 

 ぬえはご機嫌に魚を食べていく中、不意に俺を呼ぶ声がした。

 

「乖離くーん!」

 

 声のした方へ視線を向けると、白い水着を着た東風谷先輩が笑顔で走って来ており、豊かに育った胸が上下に弾んでいた。

 グ、刺激が強すぎる!

 

「乖離君、何をしているんですか?」

 

「魚焼いてます……」

 

 「美味しそうですね~」と言いながら焼けている魚を覗き込む東風谷先輩。

 その際見えてしまう谷間に視線が釘付けになりそうなのを必死に堪え、出来るだけ空を見ようと頑張る。

 

「な~にデレデレしてんのよ」

 

 ぬえは不満気に呟く。

 仕方ないじゃないか、俺だって男なんだからね?美少女の水着姿、それも巨乳の東風谷先輩ともなれば、その大きな胸に自然と視線が行ってしまうのは当然のことだろ、男の子なんだから俺。

 そもそもの話、責められるべきは俺ではなく無防備な東風谷先輩ではなかろうかぬえさん。

 

 なんて言い訳を考えていると、東風谷先輩が焼き魚を持って聞いてきた。

 

「乖離君、これ頂いてもいいですか?」

 

「どうぞ……」

 

「ありがとうございます!」

 

 そう言って東風谷先輩はぬえ同様焼き魚にかぶりつく。

 

「このお魚さんとっても美味しいですね!」

 

 喜んでもらえたのなら焼き甲斐がある。

 俺が次の魚を焼く準備をしていると、ぬえはどこかへ歩いて行こうとしていたので、聞いてみる事に。

 

「どこ行ってんだぬえ?」

 

「水着に着替えてくる♪」

 

 そういえば、ぬえはまだ普段着でしたね。

 ぬえはさっさと着替えに行ってしまい、今度はぬえに変わって東風谷先輩と二人きりになってしまった。

 

「ごちそうさまでした~♪」

 

 もう食べ終わってしまったのか、東風谷先輩は合掌のポーズを取って骨だけになった魚をゴミ袋に入れた。

 

「そう言えば乖離君、この水着……どうですか?」

 

 東風谷先輩は顔を赤らめ水着の評価を求めてくる。

 

「ごちそうさまです」

 

「はい?」

 

 俺には上記の言葉しか言えない。きっと分かる者には分かる、東風谷先輩のスタイルの良さを知っている男共(バカ)にならな。

 しかし俺の言葉が理解できていないのか、東風谷先輩は不満気に何度も聞いて来る。

 

「あの、どうだったんですか?それに『ごちそうさま』って何なんですか?乖離君ってば~!」

 

 申し訳ないが東風谷先輩、男の俺からその意味を言うのはとても恥ずかしいので諦めて頂きたいですね。それとちょっと近いです豊満な胸が直に当たりそうですマズイです俺の精神がおかしくなりそうですなので離れてくださいお願いします。

 

 っと、心の中で思いながら俺は東風谷先輩に揺さぶられている。

 

「まあ、似合ってると思いますよ?俺的には」

 

「本当ですか?!ありがとうございます!!」

 

 褒めたら褒めたで、今度は勢いよく抱き着いてきた。

 抱き着かれた際感じる柔らかな胸の感触、大きいだけでなく形も良いため硬過ぎず柔らか過ぎずのバランスのとれた感覚が俺の胸部に当たる。

 

 マジ、勘弁……これ以上は……理性が!

 

 ギリギリのところで東風谷先輩に離れてもらい、俺は急いで紙コップにお茶を注いで一気の飲み干した。

 

 クソ、この先輩に恥じらいはないのか!……嬉しかったけどネ!

 

 

 

「そうそう、乖離君は泳がないのですか?」

 

「俺は後から泳ぎますよ、今はまだ魚を焼いていたいので(精神維持の為にもね)」

 

 俺の答えに、東風谷先輩は残念そうに肩を落とした。

 

「そうですか、残念です。あ、でも泳ぐ時は誘ってくださいね?」

 

「了解です」

 

 そう言って東風谷先輩は海の方へ行ってしまった。

 そして今度の俺はボッチでございます。悲しくはない、慣れてるから!

 

 俺は一人魚を焼きながら海を眺める。

 皆楽しそうにはしゃいでいる。

 海で泳ぐ者達も居れば、砂浜でお城を創る者達もいたり、ビーチバレーを楽しむ者達、釣りをする者達もいる。

 

 そんな中、俺はとある一人の女性に注目していた。

 その人物とは藍であり、その藍は黄色い水着を着て黒いグラサンを掛けてサーフィンを楽しんでいた。

 大きな波を自在に乗り回すその姿はもう格好いいとかそんなレベルではなく、最早シブいまである。流石は藍だな。

 

 

 俺が先程同様、魚を焼きながら海を眺めていると、再度誰かから大きな声で呼ばれた。

 

 

 だが俺はまだこの時は知らなかった。

 この後、俺がとんでもない地獄を味合わされる事など俺はまだ知らないのであった。

 

 




夏イベはまだまだ続く。

次回は乖離があれの代わりになりますね!
夏の海と言えば、やっぱり欠かせないあのイベント!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。